228.夕食前の歓談
アイリーンにサプライズイベントを仕掛けた張本人のアシュラは満足した表情でナチュラルエリアに来ている。
ロースとフレアホース、それとアルファ星から応援のために連れてきていた妖精さんと地球人合わせて50人がここで快適に生活できているか確認するのが目的。
B99乗員の中にいる地球人も入れ替わり立ち代わりここを訪れ祈りを捧げたり生気を分け与えたりしているのでロースからその様子を聞いていた。
「うふふ、アイリーンは目覚めた石井光一さんに会って今頃はいちゃついている頃でしょうね」
何も知らないアシュラが一人妄想を膨らませ独り言を言う。
「アイリーンがどうかしたのか」
傍に来ていたロースが聞いてくる。
ロースはだいたい扉付近で出入りする人を監視していた。
ナチュラルエリアは誰でも自由に出入りできるのだけど妖精が生活するエリアへの立ち入りは地球人に限られている。
それを知らずに立ち入って来る人が後を絶たないので見つけては注意していた。
そのことより大切なのは妖精が地球人と一緒に外に出ていかないように目を光らせていなければいけない。
人間側にその気がなくても生気を貰った妖精が好意を抱き付きまとうという話は良くあることだから。
普通だったら不審者の侵入を防止するのもあるのだろうけどB99の艦内にそんな人はいないはず。
そして見掛けが不審者そのものといった宇宙人は数多く居るので外見だけで判別するのは非常に難しい。
「昔の想い人に会えたかなと思ったのですよ」
ロースの問い掛けにアシュラが返事した。
「それは誰のことなのか?」
「石井光一さんよ知りませんでしたか」
「石井光一なら知っている、その人の魂を人として蘇らせるためにアケルナルまで行った」
「あなたは結果をまだ知らなかったのではなくて」
「そう、途中で引き返してからずっとここに居る。そのあとどうなったのか?」
「無事クローンに入り復活してリハビリ中だと聞いて……そうだった、『記憶が安定するまではアイリーンと会わせないようにしよう』とダイムが言っていたのを今まで忘れていましたですね、あの二人は大丈夫だったでしょうか」
「復活できたのならそれでいいのではないか、問題はないはず」
「そうですね、良いほうに考えましょう」
「それより我々は元居た場所に返らなくて良くなったのか? 心構えが必要だから教えてほしい」
「それもあったですね、今晩にでもアイリーンに聞きます。返事はその後になりますけど良いですか」
「ここでの居心地に満足しているので希望者だけ帰れるようにして欲しい」
「わかりました、ご希望に添えるよう話してみます」
アシュラはC2から連れてきた妖精さんと地球人の殆んどがこのままここに住みたいと願っているのではないかと思う。
実質上妖精さんたちを取りまとめているロースがそう言っているので間違いはないはず。
その日の夕方、ホームのリビングに皆が集まったタイミングでアシュラが最初にその事を話し始めた。
夕食前のひと時に共同生活している人それぞれが自分自身でその日の出来事を共有する暗黙のしきたりは今も昔も変わっていない。
ただ全員といってもクローンの体に入ったばかりの石井光一は参加できるはずもないしダイムとセントはどちらかが時々顔を見せる程度になっていた。
「あっ、そうだったわね、エントリーさんへ帰還の挨拶をした時に無茶苦茶驚かれてそれを説明するだけで疲れ果てて通信終わらせちゃったのよね~、だから妖精さん達のことはまだ話していないかしら」
アシュラの話を聞いたアイリーンが舌を出して言う。
(それから直ぐにレヴィを追い掛けちゃったから忘れてしまっていたのよね)
「それではこれから希望者だけをC2へ送り届けるとロースさんに返事して宜しいでしょうか」
アシュラがロースとの約束を果たせたことに胸を撫で下ろす。
「その前にC2のエントリーさんにもう一度連絡を取って何時でも受け入れてもらえるのかとあそこの責任者シュタイン統括支配人の意向と合わせて聞いてもらわないといけないよね」
昴くんは忘れていたわけではないけど新たな予定に先取りされて後回しになってしまったことにばつの悪さを感じながら補足した。
「それとだな、ここからC2まではまだ結構な距離があると思うのだがどのくらいで到着するのか教えてもらえないかな」
ピエロがルビーに質問する。
ルビーはスターキッドAIとダイレクトリンクできる能力を持たせて生み出されたイノマンクローンの一人だからこういったことを聞くのには最適な存在と言っていい。
「昴くんお願いですからルビーに僕とのリンクをブロックしないように言ってくださいよ~、プライベートだからとか言ってほとんど切りっぱなしなんですよー」
ルビーの口からルビーの声でスターキッドAIが男らしく? 言う。
「わかった注意しておくよ、それでC2までってまだ遠いのかなあ」
(イノマンもどういう訳あってこんなことをしたのか今度会った時に問い詰めてみないといけないな)
「頼みましたよ、それで質問がありましたC2までの距離なら5千万Kmで星系内巡航速度秒速100Kmで飛んで約6日です。まあ僕だったら30分足らずで到着しますけどね」
「うん、わかったありがとう後はこっちでどうするか考えるよ」
「ふう、やはり男性の思考をされている方に体を明け渡すのは嫌な感じですわね」
ルビーが嫌そうに表情をゆがめた。
「そうよね、聞いてるこっちもちょっと違和感があったかしらね、今度からお喋りする時はうちが持ってる通信機を使うかしら」
「それでさあ、スターキッドAIとのリンクを頻繁に切らないで欲しいのだけど、お願いしてもいいかなあ」
「…… 昴さんからお願いされたのでは仕方ないですとしか返事できませんわね、但しこちらからも条件をひとつお願いして宜しいでしょうか」
「どんな条件かなあ」
「私とリンクしている間は見てるだけという条件です、お喋りをしたい時はアイリーンさんの通信機か艦内スピーカーでお話し願いますわ」
「Aちゃんがあなたの体を使わなければいいのかしら」
アイリーンが話しに入ってきた。
「そうです、スターキッドAIは男性思考をされていますでしょう、その方が私の中にいると思っただけで不快感がするのですよ」
「あなたの目を共有するのは大丈夫なのかしら」
「男性の意識を感じることがなければ私は気になりませんですから」
「Aちゃんそういうことで分かったかしら」
「わかりました、色々思うことはありますけど今更性転換というのも何ですし妥協しますよ、そうなったらアイリーンあなたも僕の端末を肌身離さず持っていてくださいよ、最近はベッドの棚に置いたまま忘れてますよね」
いまスターキッドAIはリビングのスピーカーを使って喋っている。
イノマンが新しく作ってくれたネックレスタイプの通信機はレヴィに渡したのでそれまで使っていたロボちゃんを再び引っ張り出したのだけど一緒に連れて行くのをよく忘れてしまう。
「じゃあルビーさんとスターキッドAIの問題はひとまずこれで良しとしますね」
(スターキッドAIが性転換するって言ったのに誰も突っ込まないのは何故なんだろう)
昴くんは唇の端を引くつかせながら指摘したいのを我慢した。
「それでさあ、話しを戻すけどナチュラルエリアに居る妖精さんと地球人をどのタイミングでC2へ送り届ければいいのか皆の意見を聞かせてもらいたいのだけど、それでアシュラさんが聞いてきたようにここに来てもらってる人の多くがこのままナチュラルエリアに住みたいと言っているみたいなんだ、だから希望者だけを帰そうと思っているんだけどそれでいいよね」
昴くんが話しを進める。
「それは私たちだけで決めていい話ではなかろう、まず艦長とあっちの責任者へ説明してそれで良いのか悪いのか判断を仰ぐ必要があると思うぞ」
今ここに居るメンバーの中で一番一般世間常識を持ち合わせているピエロが言う。
「う~っ、この船はうちのだからさあ、うちが勝手に決めても良いんじゃないかしら」
「ダメだよ、以前にも言ったよね持ち主は愛鈴でも運用しているのは艦長なんだってだから何をするにも艦長の許可がいるんだよ」
(わかってるわよ、艦長に会いに行くには艦橋へ行かなくてはいけないのよ、そこには艦橋主任のゴートさんが居るかしら、迂闊なことを言ってしまってまた勉強漬けにされるのは嫌よね、そうなるのだけは絶対避けなければいけないわ……)
「ここはひとつサブキャプテンの昴くんにお願いできないかしらね」
昴くんを縋るように見て言う。
(最近の愛鈴は頑張ってるから弱音を吐きたいのかも知れないな)
「そうだね何でもかんでも君に任せるのも悪いからね、僕にできることはできるだけ手伝うよ」
「ありがとう、じゃあ妖精さんたちの件は全てお願いするわね」
(僕は手伝うって言ったんだけどなあ、まあ良いかな楽しそうだし)
昴くんはイノマンのポーズで了解した。
「それじゃあ次はピエロさんかな何か気づいたことはありませんか」
「まあ色々あったがな、一言で纏めると妖精が住む惑星に様子を見に行ったかな」
「惑星bまで行ったっていうのかしら一体どうやったのか知りたいわね」
「説明すると長くなるけどいいのかな」
「じゃあやめておくわ、ただ一言だけで良いからあっちの人達が皆無事なのかだけは教えてほしいかしら」
「昨日今日見た感じでは変わった様子はなかったな、ただ往復するだけで半日以上掛かるので効率が悪すぎるから外泊しても良いか」
「わかったわ『旅館あづまや』を予約してあげるわ」
「それはいいかな、連絡シャトルで寝た方が落着きそうだからな」
「そうなのねじゃあ、シャトルのベッドを豪華にしてもらわないといけないかしらね」
それから昴くんがアイリーンと一緒にレヴィに会いに行った顛末を簡潔に話し終えたところでルビーがダイニングテーブルに夕食を並び始める。




