226.レヴィの宝玉3
昴くんはB99のハンガー付属のキャビンで一泊することを皆に提案していた。
「私はホームへ戻りますわ」
ルビーが言う。
豪華な客室と言っていたアイリーンとその仲間達の住居をダイムとセントがホームに変更したいと提案して今ではそう呼んでいる。
「私は何回かここを利用したことがあるからな今日は遠慮させてもらう」
ピエロも手を振ってルビーの側へ行く。
「二人共お泊まりしないのですね、でしたら残念ですけど私も戻ります」
アシュラが残念そうに言うけどアイリーンと昴くんを二人だけにしてあげたいと思う気遣いが表情に表れている。
「アシュラまで戻っちゃうのかしら」
「別に大したことではありませんですのよ、ゆっくりお風呂に浸かって自分のベッドで寝るのも良いのではないかと思っただけですわ」
急いで理由をこじつけたので言葉遣いが変になった。
そしてアシュラ達三人は手を振ってエッグ乗り場へ向う。
一部屋分のキャンセルを入れた昴くんがアイリーンと一緒にキャビンに入ると本当に何も無い。
玄関入ると直ぐ右側壁に二段ベッド左側壁にテーブルが作り付けてある。
ベッドには寝具がテーブルには通信用だろうと思われる端末機器が備わっていた。
「本当に何もないや」
「トイレもシャワーも無いかしら一体どうしろっていうのかしらね」
「トイレはハンガーのを使えってことだろうね、シャワーは我慢かな」
「ルビーは最初からここに泊まる気はなかったかしらね、ピエロが知ってたのは分かるわでもアシュラもこの状況を知っていたとしたら一言くらい教えてくれても良かったんじゃないかしらね」
「そうだねアシュラもあちこちのメインコンピューターと繋がっているから知っていたと思うけど守秘義務かあるからね」
「いくら守秘義務があると言っても少しくらいはヒントをくれても良いかしらね」
「聞けば教えてくれたと思うよ」
「何も知らないんじゃ聞くこともできないかしらね」
「それもそうだよね、こうなってしまったからにはもう寝るしかないね」
「そうね、自分の部屋へ戻るのが嫌になるくらい疲れてる人が寝泊まりするんだったらここも天国かしらね」
「まあ僕たちは興味本位で入ったんだから我慢するしかないよね」
アイリーンはここには二度と来ないだろうと思いながら二段ベッドの下に座る。
「上でなくていいのかい?」
「あなたも下がいいなら一緒に寝ましょうか、赤ちゃんもできたことだし……」
「アハハ、面白い冗談を言うんだね、一緒に寝ようってのはいつもの事だけど赤ちゃんができたってのは初めて聞いたよ、一体誰に赤ちゃんができたって言うんだい」
昴くんは膝を叩いて大笑いした。
それを冷ややかな目で見つめたアイリーンが胸元からレヴィの宝玉を取り出す。
「あれ、返さなかったのかいレヴィの大切なものって言ってたよね」
「そうよ、海王族お姫様の卵だって言ったわ」
「え~っ、そんなに大切なものだと知っていたら借りたりしなかったのに悪いことをしてしまったんじゃないかなあ」
昴くんの顔色がサアーッと青ざめていく。
「そうよ、最悪かしらねほらよく見てごらんなさい動いてるのが分かるかしら」
「うん、虹色が渦巻いてるね」
「細胞分裂が始まって赤ちゃんが生まれるってレヴィが言ってたわ」
「うわあ~、どうしたらいいんだいレヴィはまだ独身だよね取り返しがつかないことになってしまってるよ」
「あなたは偉いわね」
「何がだよー」
「『誰の子供だ!』って言わなかったじゃないかしら」
「そんなの石井さんの魂を入れたんだから石井さんとの子供に決まっているんだろう」
「レヴィはね、あなたとの子供って言ったわ」
「ど、どうしたらそうなるんだい」
「あら、認めようとしないあなたには失望したかしら」
「いや、その理由を教えて欲しいって言ってるんだよ」
「卵を孵すのには何が必要かしら」
「だから石井光一さんの魂が入った……そんなバカな?!」
「そうよ、それだけなら魂が入った卵で終わってしまうわ、それが孵化するのにはアレが必要になるのかしらね……最低よね幻滅ものかしら」
「愛鈴待ってよ、誤解、じゃなくて良く考えようよ、ほら、魂を移す時に僕の細胞、DNAも一緒に入ってしまったんだと思うよ、絶対に、そう神様に誓って、ア、アレじゃないからね」
「まあ、そういうことにしといてあげてもいいかしらね、確かにあなたがエロエロ大魔人じゃないことだけは認めてあげるわ」
「よかった~、ありがとう愛鈴、助かったよ」
昴くんは息も途切れ途切れに言う。
「それでもあなたの子供には間違いないかしらね」
「わかったよ、認めるよでもレヴィが持ってても良かったんじゃないかなあ」
「あなたレヴィは王族のお姫様で今はプローン男爵が求婚しているのを覚えてるかしら」
「そうだよね、もし全てが明るみになったら僕は奴に微塵切りにされてしまうかもしれないよね」
「ちゃんと理解しているじゃないかしら」
「じゃあ、僕とあ、あいあい……」
「何かしら、あいあい傘を書くのは簡単だけど入るのは難しいかしら」
「愛鈴と僕の子供ってことにできないかなあ」
「うちはカモメの奥さんになるつもりはないわよ」
(また言い間違えてるよ、でも今は『やもめ』だよって言える雰囲気ではないよな)
「そんなことを言わないでよ~、卵が孵ったら僕もちゃんと面倒見るからさあ」
「あら、あなた何か勘違いしてるんじゃないかしら、卵を暖め続け孵った後の育児をするのは男性の仕事だそうよ、確かシーホースに準ずるとか言ってたわ」
そう言って虹色の宝玉を昴くんに渡す。
「確かに竜の落し子はオスが産卵するけどさぁ僕たちは人間だよね」
受け取った宝玉を大事そうに宇宙服の内ポケットへ仕舞う。
「そうよ、うちも人間かしら、だから卵は生まないし育て方も知らないわ」
「レヴィが教えてくれなかったのかい」
「レヴィは聞いたことがない出来事で見当もつかないって言ってたわ」
「どれくらいで生まれるのかなあ」
「わからないわよ、それに海王族以外の血筋では生まれないはずだって言ってたわ、もしかしてあなた海王族の血が混じっているとかは言わないかしら」
「そんなぁ~、実はお婆ちゃんが外国人でしたなんてことはないよ……たぶんね」
「こうなってしまったからには、うちにも少しくらいは責任があるのを認めてもいいかしら、お兄ちゃんの魂を取り出して生き返らせたいって言い出したのはうちだし、あの時レヴィが差し出した宝玉を軽い気持ちで受け取ったのもうちだしね」
(ほとんど君のせいって言ってもいいんじゃないのかなあ)
「何も分からないんじゃ危ないからせめてダイムとセントに相談しようよ」
「ダメようちとあなたの二人だけの秘密にしたいのよ、その意味わかるでしょう」
「そうだよね~、海王族王位継承順位第一位の子供になるんだよなぁ~、レヴィはその事について何も言わなかったんだよね~」
昴くんは頭を抱えて悶えだす。
「はっきり言わなかったけどこのまま生まれるまで育たないかも知れないって感じだったかしら」
「うわあ~、それこそ一大事だよ~」
「でも、宇宙大怪獣ドラゴンなんてのが生まれてくるよりはましかしらね」
「マイナス思考はやめようよ、人類を救う救世主が生まれてくるって願うんだ、だから大切に育てようね」
「それはあの56億7千万年後に降臨されて人類を救済するという弥勒さまのことかしら、うちはそんなに長くは生きてないかしらね」
(56億7千万年ってのは修行されている期間のことなんだよなー、だから今は僕たちと同じ世界に居るんだよね)
「そうだね、だから今は全てを忘れて寝ようよ」
「目が覚めたら56億7千万年後の世界かも知れないわね」
「アハハこれまた面白いジョークだね、今晩はよく眠れそうだよ」
「今晩もかしらね、おやすみなさい」
「ああ、お休み良い夢をご覧あれ」
翌朝はアイリーンの『お腹が空いたわ』の声で目覚めた。
レヴィの宝玉はあれからずっと昴くんが持っている。
二人してB99のハンガートイレで手と顔を洗った。
遠目にスターキッドが見えてはいたけど踵を返して食堂へ向かう。
ここはまだケンタウルス座アルファ星域、妖精さん達の新しい故郷になるはず。
アイリーンはエリダヌス座アケルナル星域からシュー・ウォッシュナビで跳んで来た惑星bの人達が無事であることを見届けてから太陽系にある東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地で待つイノマンとその仲間達の元へ帰る予定となっている。
その前にB99の中にあるアイリーンに与えられたホームでイノマンのクローンに入って新しく生まれ変わった石井光一、お兄ちゃんとの再会を済ませなくてはいけない。
自分のことをどう思っているのか不安で仕方がないアイリーンは二の足を踏んでいた。
僕たち双子だよ




