224.レヴィの宝玉1
昴くんが言ったエビフライ艦長とはプローンのことで見た目は怖いけど中身が伴ってなくスカスカなんじゃないかと揶揄した表現だったみたい。
まあちょっと考えただけでも族長の娘レヴィ姫の夫候補になっただけなのに艦隊を率いてはるばる140光年の彼方までやって来たことに関しても本当にその身を案じてのことなのかそれとも単に逃がしたくないという野望で動いただけなのかは大いに疑問符が付くところではあった。
そして惑星連盟の支配権が及ぶ宙域に戻った直後、誰にも挨拶しないで自分達が支配する星域へ戻るのは傍若無人で狭量な人物と言われても仕方がないだろう。
ただ、遥か彼方まで迎えに来た事と一連の戦闘と後処理までを協力的に行ったことに対しては評価がされる。
もし彼らが来なかったら惑星bの人達は解放されなかっただろうから。
何はともわれアイリーンはレヴィに借りていた宝玉を戻すという大義名分を持って海王族艦隊を追い掛けている。
「しまったことをしてしまったわね」
アイリーンが失敗した時みたいにぶつぶつ言う。
「どうしたのかなあ」
「勢いよく飛び出してきたのは良いのだけど晩ごはんをBちゃん食堂で食べてきても十分余裕があったんじゃないかしらと思ったのよ」
「今から引き返すかい?」
「あはは、ごはんを食べるのを忘れてましたって言うのかしら……うちには無理だわ」
「そうだよね」
「お腹が空いたのであればお好きなものを作りますよ」
通信席からアシュラが立ち上がって聞く。
環境管理席を見るとルビーが座っている。
(レヴィがいなくなっちゃったからアシュラが気を遣ってくれてるのかしらね)
そしてコクピットの後方扉横ではピエロが気だるそうな表情をして壁にもたれかかっていた。
「あとどれくらいで追いつくのかしら」
仲間達を見渡してアイリーンが誰ともなしに聞く。
「今すぐにでも追いつけますけどやめたほうが良いと思いますよ」
アシュラが返事した。
「光速スターキッドだからね、いくら海王族艦隊が速いって言っても常識の範囲内のことだよね」
昴くんの補足が入る。
「それは僕が非常識な存在だって聞こえるので訂正……言い換えを要求します」
スターキッドAIが久しぶりに話し掛けてきた。
「悪かったよ、あっちが秒速1000Kmで10時間進んだ3千6百万Kmの距離をスターキッドが光速の10%速度になる秒速3万Kmで追い掛けたとしたら20分で追いついてしまうんだよね」
「やっぱりどう考えても非常識かしらね~」
アイリーンがとどめを刺した。
「そうだな、あっちのプローン艦長へ20分後に到着するから受け入れろって言うのは非常識だと思うぞ」
背伸びしながらあくび混じりに言うのはピエロ。
「そうかしらね、別に宴会の準備をしろって言ってる訳じゃないんだから問題ないんじゃないかしら」
「お風呂に入ってるかもしれないからね」
「それもそうかしら、うち達に顔色が悪いって思われたくないからお化粧もするでしょうしね、わかったわ1時間後に到着するってのはどうかしら……あっ、コスモホールなんかはまだ近くにないわよね」
「現在のところ時空間航路の存在は認められません」
ルビーが慣れない端末を操作しながら言う。
仮に間違えた発言をしたとしてもそこのところはスターキッドAIがフォローするはず。
「それじゃあ、1時間後に面会希望って連絡してくれるかしら」
「ねえ愛鈴、レヴィに渡した君の通信機でも直接連絡しておこうよ前みたいにならないようにさ」
「そうね、その方がエビの尻尾を捕まえやすいかしらね……天丼を食べて出掛けるなんてのはどうかしら」
「これから会う人に失礼だと思うよ」
「わかりはしないわよ、それに勝負事の前にはゲン担ぎでカツ丼を食べるって聞いたことがあるわそれと同じじゃないかしら」
「わかったよ、それじゃあ僕はエビフライ定食にしようかな」
「お食事の用意でしたら私がします。お部屋でもそうしてましたから私にさせて下さい」
二人の会話を聞いたルビーが勢いよく立ち上がり自分の存在意義はここにありと言いたげにしている。
(ルビーさんも早く馴れるために頑張っているようだからね)
「じゃあ、ルビーさんにお願いするよ」
昴くんがフォローした。
「ありがとうございます」
ルビーは力強く言いみんなのリクエストを再度聞いて休憩室へ向かう。
それからしばらくもしないうちに休憩室に五人が揃い食事を始めた。
だからコクピットには誰もいないのだけとそれはアイリーンの主義によりスターキッドAIに運行の全権を預けている。
「いただきます」
食事の挨拶をする人もしない人もそれぞれがアイリーンの発言を合図として食べ始める。
「昴くんのエビフライをごはんの上に乗せたら天丼になるのよね」
(エビフライも食べ始めるとごはんの上に置くわよね、だったら最初からごはんの上に乗せていたほうが洗い物も少なくなって合理的じゃないのかしら)
アイリーンはそう思いどうしても聞かずにはいられなかった。
「愛鈴それは違うよ、フライと天ぷらは別物でエビフライ定食は洋食天丼は和食なんだよ、そもそも今はどちらも宇宙食だけどね」
「作り方も違いますよ、簡単に言えば天ぷらを揚げる時にパン粉を追加するとフライになりますね」
「見た目も違うだろう、白い飯をそのまま汚さずに食べるのを美食としている集団も居るらしいからな」
珍しくピエロまでが雑談に加わった。
「懐石料理では丼物を出しませんよ」
「すごいなぁルビーさんは懐石料理のレシピも持っているんだね」
いくらオートレンジと言えど新メニューはレシピ無しで作ることはできない。
「フ~ン、うちは庶民の出だからねそんな高尚な料理の食べ方をする必要はないかしら」
「まあ、美味しければ何だっていいんじゃないかなあ、ここには食事のマナーをうるさく注意する人は誰も居ないんだからね」
「そうね、それは大変良いことかしらね」
「ダメですよアイリーンさん、レヴィさんの所で会食に招かれたりしたらそこでは正式な所作が求められます、それこそレヴィさんの沽券に関わりますから大事ですよ」
「ルビーはそんな知識をどこで仕入れてくるのかって……Aちゃんと繋がっていたかしらね」
(いつもおっとりしているから忘れていたわ)
昴くんはアイリーンに『食事中の私語は慎みなさい』と言っていたのを思い出してからは口をつぐんでいる。
「あっ、1時間後に行くってレヴィには通じたけどプローン艦長からの返事ってあったのかしら」
「それが信号受信はされたのですけど返事はまだ来てません」
アシュラの返事。
「じゃあ、コクピットに戻ったら催促しましょうね」
四人掛けのテーブルに五人が座っているけど小柄なアイリーンと昴くんが横並びになっているので結構ゆとりはあった。
それからの食事は静かに進行していく。
コクピットに戻ってからファーストドラゴンへ何度か通信を送ったけど返事はない。
「Aちゃんの常套手段をパクられたかしらね」
アイリーンが言う。
「僕は命令に従っただけですからキャプテンの作戦ですからね」
「本当の通信障害かもしれないよ」
「通信障害を起こすような外部要因は見あたりません」
「そうよ、絶対居留守かしら、聞こえないふりをしてるのよ」
「仕方がないからレヴィにお願いしようか、でも通信機を持っているって知られないようにしないといけないよ」
「わかったわ」
レヴィが自室の窓から外を眺めていてスターキッドが見えたからと言って艦橋へ乗り込んで行ったのはそれから直ぐのこと。
通信があったのではないかとか野暮なことは聞かず自ら通信士の所へ行き通信機をぶんどり直接アイリーンと話をした。
痩せても枯れても王族のレヴィを止められる者はまだここにいない。
ただプローンが正式にレヴィの夫となった時は王を継承するので海王族の最高権力者となる。
レヴィがアイリーンと会話している最中『それは認められない』とかプローンが指図してくるのでいつの間にか三者協議みたいになってしまう。
そんなやり取りが終わってから1時間が経過した頃スターキッドに迎えのシャトルが来てアイリーンと昴くんをレヴィの元へと連れていく。
「会いに来てくれて嬉しいわ」
レヴィはファーストドラゴンの小型艇溜まりでシャトルの到着を待っていた。
「別れたのは今朝だったかしら」
アイリーンとレヴィが抱擁する姿を昴くんが微笑ましく見ている。
「もう石井さんとは再開できまして」
「まだなのよ、お兄ちゃんの魂は無事にクローンに入って目覚めはしたのだけどリハビリとかに3日は掛かるそうなの、だからレヴィに宝……」
そこまで言うとレヴィに口を押さえられる。
「こんな場所での立ち話は良くありませんわ、私の部屋でお話ししましょう」
「レヴィ姫どんなに親しい間柄であろうと、その方が例え女性友達の伴侶であっても男の方を私室へ招くことはお控え下さいませ」
レヴィの後方で最初から控えていた女性が昴くんの前に立ちはだかって言う。




