223.お兄ちゃん
アイリーンが昴くんの中で眠るお兄ちゃんと慕っていた石井光一の魂を取り出しイノマンのクローンへ移すために向かったエリダヌス座アルファ星連星系アケルナルBにあった惑星bは時空間移動するために必要な妖精を育てている場所になっていた。
純粋な気を持つ多くの地球人が長い年月を掛けて1つの物を祈り続け生気を与えることでそこにスピリッツが宿りやがて精霊へと進化していく。
そこで人間との信頼関係が結ばれることにより妖精へと変身できた。
だから惑星bには多くの妖精と地球人が生活している。
アイリーンと行動を共にする炎族妖精ロースはこの星で最初に生まれた妖精でその後に水、土、木、風、雷、光、闇といった妖精が誕生した。
彼ら妖精族は北方星域星人の支配から逃れるため惑星のシュー・ウォッシュナビを行い東域宇宙和平維持連盟地球人保護派が管轄するケンタウルス座アルファ星プロキシマ・ケンタウリ宙域に現出している。
レヴィ姫を迎えに来ていた海王族艦隊は別れの挨拶もそこそこに太陽系目指して帰路に就いていた。
もたもたしていると自由気ままなレヴィ姫が再び何処かへ行ってしまうのではないかと彼らは恐れていたから。
「レヴィさんは帰っちゃったね」
昴くんがぽっかり空いた席を見て寂しそうに言う。
「また直ぐに会えるわよ」
「そうだねこの宝玉を返しに行かなくてはいけないからね」
昴くんはそう言うと宇宙服の胸元を広げて石井光一の魂を入れた玉を取り出して見せた。
「それより今はBちゃんに早く戻りましょう」
「バトルシップナインティナインより入電、艦橋下のハッチにドッキングするようにビーコン誘導すると言ってきてます」
通信席からアシュラの報告。
「ちっ、先手を打たれたかしら了解って返事するしかないわね」
「戻って来たら一番最初に艦橋へ顔を出せって言ってるんだよ、もしかしたらゴートさんが言っているのかも知れないね」
「少しでも早くお兄ちゃんの魂をクローンへ移したいんだけど、どうにかならないかしら」
「それをそのまま帰還の挨拶にして報告は後からまた来るって言えばいいんじゃないかい」
「私が報告しましょうか」
「あっ! その手があったわねお願いするわ」
「貸しひとつですわよ」
「わかったかしら、アシュラは甘くないチョコレートで良かったのよね」
「愛鈴そこはお菓子ではなくて恩を貸したんだから恩で返してって意味なんだよ」
「そうかしら、だったらお菓子で返してもおかしくないかしら」
「わあこっちまで混乱してきたよ、まあアシュラがそれで良いってんならいいんじゃないかなあ」
「じゃあ、アシュラは艦橋へうちらは部屋に戻るわよ」
「私たちはどうすればいいのか」
ロースさんが不安な表情をして問いかけてきた。
皆の視線がアイリーンに集中し彼女は身震いした。
「わかったかしら、アシュラがナチュラルエリアまで引率してくれるわね、昴くんは宝玉をダイムに渡してお兄ちゃんの復活を手伝って、うちは……」
今にも泣き出しそうに言う。
結局、皆で艦橋へ帰還の挨拶に行く。
アイリーンはそのまま残って報告を行い矢継早の質問に答える。
昴くんがクローンが居る部屋へ行きダイムに宝玉を渡す時、違和感を覚えたのだけど気にしないようにした。
アシュラから寄り道して帰るので遅くなると部屋で待つルビーに連絡が入る。
「ただいまー、お兄ちゃんは無事に復活したかしら」
アイリーンが部屋へ戻ってきたのは午後も遅い時間になってから。
当然お昼とおやつは石橋艦長に奢らせていた。
「お帰り愛鈴、君の帰りを待っていたんだよ」
「あらまだ終わってなかったのかしら」
「そうだよ、色々聞かなくてはいけなかったからね」
「まだ何も始まってないのかしら」
アイリーンが不満そうに聞く。
「石井さんの魂は無事に移せているよ」
「今は安定するのを待っているの」
「それでこれから入れる記憶をどうしようかってことになって止まっているんだよ」
ダイム、セント、昴くんが順番に返事する。
「ちょっと待つかしら、魂を移したら記憶も一緒に甦る筈よ」
「死にたてというか亡くなって直ぐの人は魂と幽体が揃っているから記憶も復元できます」
「石井さんは魂だけ、それもかなり薄くなっていました」
「魂をコピーしている間に消えてしまうのではないかとハラハラしていたのよ」
「移すんじゃなくてコピーなのね」
「ピエロさんの時に説明を受けたでしょう。もう一度聞きますか」
「大丈夫だよ、あの頃はごたごたしてたからね僕が思い出させてあげるよ」
昴くんはダイムのくどくて長い説明から逃れるために誤魔化した。
「それならいいね移動よりコピーの方が断然確実で安全安心なのは間違いないのよ、それでも今回は過去に類を見ないほど難しかったんだからね、私たち二人で試行錯誤の末ここまでは完璧にできているのですから少しくらいは感謝の気持ちがあっても良いのですよ」
(なんかこの二人があまり人前に出てこない理由が見えた気がするなあ)
昴くんは心の中でそう思った。
「それでうちを待っていた理由ってのをまだ教えてもらっていないのだけど」
(愛鈴は感謝の気持ちより苛立ちが募ってきてるみたいなんだけど大丈夫かなあ)
「愛鈴、眉間にシワがよってるよ光一さんが目覚めた時に見せるのは笑顔でなくっちゃダメだよね」
「あら嫌だわ落ち着いてリラックスしなくっちゃだわね」
そう言うと深呼吸を始めた。
「これからどういった記憶を入れるか決めてもらいたいのです」
「どういう意味かしら」
アイリーンの肩に昴くんが手を掛け落ち着かそうとする。
彼女も昴くんの気持ちを理解したみたいで緊張を解く。
ダイムが人差し指を立てて話し出す。
「ひとつ、過去の事実に基づいた記録を補完してこれまでの記憶を作りインプットする」
「ふたつ、生活するのに必要最低限な知識だけを与えて過去の記憶は覚醒した後でアイリーンさんから伝える」
「みっつ、全く別の物語を作り記憶させる」
「そのうちのどれを望むのかアイリーンさんに選んで欲しいのですよ」
最後の締めくくりはセントが言う。
「愛鈴の気持ち次第なんだけどね、でもみっつ目は過去の記憶がフラッシュバックすると良くないだろうから無しにしようね」
「うちも作り物の記憶は嫌かしら」
「じゃあ、残りふたつで嫌だと思うのはどっちかな」
(そうだよね消去法で考えたほうが良いかもしれないね)
「そうねぇ~、お兄ちゃんに始めて会った頃はもう既にイノマンクローンだと言ってたわ、その時うちはオリジナルのお兄ちゃんは死んでしまったのって言ったのよね、上手く言えないのだけどうちが過去の出来事を教えていくってのは違うんじゃないかしら」
昴くんをじっと見ながら言う。
「そうだよね愛鈴が美化した思うがままの情報を与えるのはどうかと思うよ」
「それはどういう意味かしら」
「ふ、深い意味はないよ光一さんが矛盾に気付いても追求しなければ問題ない筈だからね」
「お兄ちゃんから嫌われるのだけは避けなければいけないわ、ふ、ふたつめも無しね」
「分かりました、最初の過去データーを元にして記憶を作ります」
「アイリーンさんの石井さんに関する記憶もコピーさせて頂きますけど良いですね」
「うちの記憶って」
「最後はアイリーンさんと一緒だったのでしょう一番大事なところですから鮮明にしたいのです」
「そのまま移すんじゃないのよね」
「石井さんからの視点に置き換えますので安心して下さい、もちろんアイリーンさんのプライベート部分は削除しますよ」
「わかったわ、それでお兄ちゃんとはいつお話ができるのかしら」
アイリーンは覚悟を決めた。
「全ての検査とリハビリがある程度終わってからと考えていますので3日後でどうでしょうか」
「わかったわ、じゃあ3日後に会いに来るからね」
(愛鈴はもっと喜んでここに寝泊まりするって言い出すのかと思ったけど意外とあっさりしてたよな)
「愛鈴、ずっ~と待ち望んでいたお兄ちゃんに会える日が来たんだよね、でもあまり嬉しくない様に見えるのは僕の気のせいなのかなあ、それともどうかしてしまったのかな」
「お兄ちゃんに会うのが急に怖くなったのよ、新しく生まれ変わったお兄ちゃんはうちのことをどう思ってるのかしらね、昴くんの中からずっと見ていたのよね、もう嫌われてしまってるんじゃないかって不安なのよ、ねえ昴くんあなたにはわかるんじゃないかしら」
「無理だよー、僕の中の光一さんと話したことはないんだからね、時々初めて経験する事なんかを懐かしく感じたり愛鈴を見ていて微笑ましく思ったりはするけどそういう時に光一さんの意識なんだなと思ったくらいだよ、でも愛鈴に対して一度も嫌悪感を感じなかったのも確かだよ」
「少しは安心したかしら昔のお兄ちゃんと一緒で良いのよね」
「愛鈴が言う昔のお兄ちゃんには会ったことがないからどんな人かわからないけど君のことを大切に思っているのは昔も今も変わっていないと断言できるよ」
「3日かぁ~」
「3日なんて直ぐだよ、あっ、レヴィの宝玉を帰しに行っても良いんじゃないかなあ」
「そうよね……あの艦隊は足が速かったわコスモホールに入ってしまわないうちに追いつかないといけないかしらね」
「コスモホールは星星の潮汐力によって発生するって教えてもらったアレのことだよね、この辺でも発生するんだね」
「そうよ、太陽系の外縁部では他で作られたコスモトンネルが延びてきたりワームホールが現れたりするんだってアンバ隊長が言ってたわ、コスモホールはそれ以上に発生しやすいってのもね……あっ、あいつグラビデ弾を隠し持っていたりしてないでしょうね」
「もしまだ持っていたら既に使っていると思うなあー、あのエビフライ艦長は一刻も早く海王星へ帰りたいだろうしね」
(エビフライ艦長って誰だったかしらね)
アイリーンはキョトンとして昴くんを見た。




