222.アケルナルの妖精12
アケルナル惑星bの上空300mでスターキッドは空中停止していた。
「凄い眺めだね」
昴くんが開け放たれた昇降口から下を見て言う。
中央管制塔広場に人々がうじゃうじゃと集まって来ている。
「この惑星で生まれ育った妖精と精霊獣それに人間すべての種族が集まって来ていますからね」
アシュラの説明。
「いま何人ぐらい居るんだろうね」
昴くんが数えようとして諦めた。
「7千人を越えたところです、まだ増え続けますよ」
「増え続けるってどういうことなのかしら」
「惑星全域で生活している全ての人々にここへ集まるよう呼び掛けが昨日の朝されたのですけど遠くに住んでる人はここまで来るのに時間が掛かりますからね」
「昨日の朝? うち達には何の連絡もなかったかしら」
「すみません、アイリーンさんには知らせないように言われていたのです、無事にテレポートして帰ってきてから伝えるようにと」
「気を遣ってくれたのかしらそれにしても水の精霊を連れ戻った時にくらい教えてくれても良かったかしらねぇ」
「ここへ来た目的を優先させようとなったのですよ、準備にも時間が掛かりそうでしたから」
(まあそうだよね、惑星のシュー・ウォッシュナビなんて一生に一度あるかないかの一大イベントの事を教えて愛鈴が首を突っ込まないなんてあり得ないからね、振り回されないためにも愛鈴には準備が終わるまで地上に居て欲しかったんだと思うよ)
昴くんは石橋艦長の真意を悟った気がする。
「ありがとうかしら、うちが妖精さんを探すのに専念できるように気を遣ってくれたのね」
アイリーンはまだ相手の言葉には裏があるという思考は悲しい程にできていなかった。
「お尋ねしても宜しいでしょうか、それでB99にはいつ戻るご予定ですの」
レヴィはスターキッドへ戻ってからキョロキョロして何かに怯えている様子。
「母船へ戻るのはこの惑星シュー・ウォッシュナビが終わってからなのよ、だけどレヴィには迎えのシャトルが来てますの」
「やっぱりですわよね、あの海王族艦隊旗艦ファーストドラゴンに行かなくてはいけないのですね」
レヴィの表情が市場へ売られて行く子牛の様になっていく。
「そんなの認められない従わない、帰るまではうち達と一緒に行動するって約束してたはずよ」
「当然私もそう言って突っぱねようとしましたが通信の相手がプローン艦長だったのであまり失礼な言葉が使えなかったのです。それに『帰途に就くまでの約束だ、今から帰るのだから王族直轄艦隊に乗船義務がある事を思い出して欲しい、バカンスはここで終わりこれからは王族としての務めを果たすようにプローン男爵としてお願いする』と伝言を頼まれましたの後はレヴィ……姫が判断するだろうとも言ってました」
「そんなの詭弁かしらレヴィ聞く必要はないわよムシよ無視、エビが口から泡を吹いてるって思えばいいかしら」
「そうだよ契約違反だよ、あの時口頭での約束で終わらせておくべきではなかったんだ何でもいいから『海王星に帰り着くまで』って文書で残しておくべきだったんだ」
「そうですわね皆さんの気持ちはありがたく頂いてこれからの希望の光になってもらいますわ」
「えっ、まさか帰っちゃうなんて言わないよね」
「お手上げですわ確かにあちらの艦隊は王族のもの、それに艦長ではなくて男爵として王族の責務を求められてきましたの、私が王姫である以上逃れることが許されない義務ですのよ」
アイリーンと昴くんが泣き顔になって何も言えなくなっているのに対してレヴィは毅然とした態度になっている。
見方を変えれば全てを諦め自暴自棄になっている様にも見えた。
「シャトルがドッキングの許可を求めてきましたからOKしましたよ」
スターキッドAIがアイリーンの持つ通信機へ告げてくる。
「もう、どうしようもないかしらね」
「ではこれをお預け致しますわ、大切なものですので必ずお返しくださいね」
「あっ、忘れてたわ」
アイリーンが言いレヴィから宝玉を受け取った手に首から外した通信機を渡す。
「もし、気が変わったりあっちでイジメられるようなことがあったら直ぐ連絡するのよ」
こそっと耳打ちした。
「では皆様ごきげんよう」
ワンピースの裾を広げて深々と頭を下げる。
「宝玉は必ず返しに行くから待っててよね」
「帰っている途中で追い付くと思うよ」
アイリーンと昴くんも涙を拭いて笑顔を見せ別れの挨拶をする。
アシュラはシャトルとの連絡を交わすため早々にコクピットへ行っていた。
昴くんは昇降口が閉じた後も倉庫内に風が吹いているのを感じる。
(風? どこかで気圧の変化でも起きたのかなあ、それともどこからか流れてきてるんだろうか)
「アシュラさん昇降口ハッチは完全に閉じてますよね」
集音スピーカーに向かって言う。
「まあ昴くんは私がボケた様に見えまして」
直ぐに返事が返ってくる。
「いえ決してそんなことではないのですけど、愛鈴、君は風を感じないかい」
昴くんはアイリーンから罵られる事を予想して先に質問した。
「風は感じるけどアシュラが何かしたんじゃなくて、せっかく大気中に居るんだから空気の入れ換えとかしているんでしょう」
「私は何もしてませんですけど」
「Aちゃん、さっさと白状したら気が楽になるかしら」
「いきなり容疑者扱いなんて酷すぎませんか、僕が引きこもったら責任取って下さいよ」
「わかったわAちゃんじゃないのならもう少し引きこもってて良いわよ」
「うわ~ん! もっと構ってくださいよ~」
スターキッドAIは泣き真似を始めた。
「あっ、そういえば愛鈴あっちでテレポートしようとした時に風の精霊が僕たちの回りを吹き抜けていたよね一緒に来ちゃったんじゃあないのかなあ」
「えっ、風の精霊って言ったら捕まえると精霊でなくなってしまうから連れて帰るのは無理だって言ってたわよね」
アイリーンが昴くんに詰め寄っていく。
「あぅ、僕が言ったんじゃないんだけどなあ~ でもまあわかるよテレポートって瞬間移動なんだからね止まっているように見えても刹那の時間で見ると動いているんだよ」
「へえ~ そうなのね良く分からないけどわかったわ、Aちゃんもそう言う訳だから気を付けてあげてよね」
「わあ、何に気を付けろって言うのかなあ精霊が見えない僕には無理だよー」
「うちにも見えないわよ、風が流れたらそこに精霊が居ると思えば良いのかしらね」
「吹き流しをあちこちに付けておくよ、そうしたら分かりやすいと思うよ」
「昴くんに感謝します」
「どういたしまして」
「まあ、あれかしらねこういう場合は濡れ手で粟って言っても良いのかしらね」
いつも誤りを指摘してくる昴くんを上目遣いに見る。
「うんそれで良いよ、よく『濡れ手に栗』って言わなかったもんだって感心したよ、だけどさ僕は『棚からぼた餅』って言うと思って期待していたんだけどね」
「デリカシーの欠片もないかしらね、昴くんのせいでお腹が空いたわ休憩室で何か食べるわよ」
「じゃあアシュラも呼ばなくっちゃね」
「そうね、そう言うわけだからAちゃん後は任せたから頑張ってね」
「了解です」
「石橋艦長が居ないと愛鈴の天下だね」
「何を言ってるのかしら石橋……艦長が固すぎるのよ」
「その心は石橋だからって言いたいんだろう、その気持ちわかるよ」
(さすがの愛鈴でも石橋艦長を呼び捨てにはできなかったみたいだなぁ、オビス司令官のことは『おっちゃん』って呼んでたくせにさ、やっぱりあれかなあ出会いが子供の頃か大人になってからかで違うんだろうなあ)
「なにボーッとしているのかしら早く休憩所に行ってぼた餅食べるわよ」
(オートレンジにそんなレシピあったかなぁ、もち米をつぶ餡で包むでいいんだよな? あっ、もしかしてこし餡かな)
休憩室に入ると既にアシュラがお茶の用意を始めていた。
何にせよ妖精が住まう星に来て20日目の夜は過ぎていく。
「どうしても僕がトリガーしなくてはいけないんですよね」
翌日の早朝、スターキッド倉庫で開け放たれた昇降口ハッチから下を見ながら昴くんが怯えたように言う。
「昴くんがいつもやってる通りにすれば良いのかしらね」
アイリーンが元気付けようとしている。
「次は君がするって言ってなかったかい」
状況が変わったんだからそれを言うのには無理があるとはわかっていても言わないことには気が済まない。
「うちが決めたことではないかしらね、上のお年寄さんたちの希望なんだからそれを叶えてあげるのもうち達若者の使命かしらねぇ~」
(君はこんな時に限ってお利口さんぶるんだね本当にひどい子だよ)
「あなたはケンタウルス座アルファ星というよりは妖精さんと裸の人たちが一緒に生活している人工惑星C2をイメージした方がいいんじゃないかしら」
「愛鈴、僕はいま集中しなくてはいけないんだから心を掻き乱すようなことは言わないで欲しいなあ」
いまここにアイリーンと昴くん、フレア族妖精ロースと精霊獣のフレアホースがいていつでもシュー・ウォッシュナビが起動できるようにスタンバイしている。
「アルファ星はどっちの方角だったかな」
昴くんは全方位監視モニターを見ながら言う。
そこに写し出される画像の上の方で海王族艦隊とB99合わせて13隻が中央管制塔から伸びる軌道エレベーターの最下層に係留しているのが見えた。
「あなたがイメージした場所に跳ぶのだから気にしないほうがいいんじゃないかしら」
「準備はいいですかぁー」
スピーカからアシュラの声がする。
「おっけー」
アイリーンが返事した。
「3、2、1、GOー!」
アシュラは全ての艦船に伝えるために通信回路をフルオープンにして叫ぶ。
昴くんがロースに気を送りそれを増幅させてフレアホースへ飛ばす。
いつもならフレアホースの体から光が溢れてその場を覆っていくのだけど今回は下に集まっている妖精達に向かって飛んでいった。
その光が妖精達を包み込みながら拡散膨張していきやがて目の前全てが無彩色に包まれていく。
「着いたのかしら」
アイリーンは世界が色づき始めたのを感じ取ってから口を開いた。




