221.アケルナルの妖精11
アイリーンがここへ来た目的は昴くんの中に溶け込んでいるお兄ちゃんの魂を取り出してくれる妖精を探しだしB99へ連れて帰ることにあった。
だけどその妖精はこの場所から出ていくと霧になってしまうと言う。
この場所は邪気払いを行う聖域になっているので空間移動を行うことは憚られる。
今の機会を逃すと次があるかどうか分からないので強行することにしたのだけど魂を入れる器が無い。
どうしようかとレヴィに相談したところポケットから大変貴重なものだけどと言いながら真珠みたいな宝玉を取り出す。
アイリーンがレヴィを拝み倒してそれを使わせてもらうようにした。
「新品とか中古品とかいわれる前にこれは売り物ではございませんし、その価値が上がったり下がったりするものでもございませんことよ」
レヴィはこれを使うのにかなりの抵抗を覚えている。
「ごめんよ愛鈴が無茶なことを言って、石井光一さんの魂を直接この手の中に取り出してもらう様にすれば良いんじゃないかなあ」
昴くんが両手のひらを合わせておにぎりを握る格好をして言う。
「駄目よ、そんなことをしてもし消えてしまったりしたら今までの苦労が全て空気の泡になってしまうわ」
「それを言うなら水の泡だよ、手のひらに包んだままで次の停車場まで戻ってスターキッドへテレポートしようよ」
「そうねわかったわ、それで闇の妖精クロちゃんにお願いするわよ」
「いいえ待って下さい、もう出してしまったのですからこれを使って頂いても大丈夫です、それにもし昴くんがつまずいたりしたらと心配するよりずっと安心安全ですわ」
レヴィが手にしていた玉を昴くんに手渡す。
「本当に良いのですか」
「レヴィが良いって言ってるのだからありがたく使わせてもらいましょう、直ぐには無理でも将来この借りをそれ以上のもので返せばいいかしら」
「わかったよ愛鈴、レヴィさんありがたく使わせてもらうよ、ありがとう」
『その中に移せば良いのか』
「お願いします」
闇の妖精が昴くんに抱きつき体の中に入って戻ってくる。
でもアイリーンの目には昴くんをギュット抱擁している様に見えた。
それはあまりにも現実離れした光景を脳が拒否したからに違いない。
『終わった』
昴くんから離れた闇の妖精が言う。
「もう済んだわけ? お兄ちゃんの魂はどこかしら」
昴くんに変化は見られないけど手にしていた半透明の玉から乳白色の輝きが漏れている。
『魂はもうほとんど消えかかっていた、別の器へ移すなら少しでも早い方がいい』
「そうわかったわありがとう、じゃあ帰るね」
アイリーンがお礼を言うと闇の妖精はパッといった感じで消えた。
「消えちゃったわね」
アイリーンは消えていった方をひと目見渡すと名残惜しそうに踵を返す。
「消滅した訳ではないと思うけどなあ」
アイリーンから悲しみの気配が発散されている様な気がした昴くんが慰めようとする。
「おそらくですけど、もと居た場所へ戻られたのではないでしょうか、あとそれは私がポケットに仕舞いましょうね」
(あの妖精さんはもっとずっと奥の方に棲んでると思いますの)
レヴィはそう思いながらアイリーンの後を歩こうとした昴くんを引き止め魂の欠片が入った玉を指差す。
(そうだよね僕が転んだりしたら大変なことになりそうだから安全第一っと)
昴くんは素直にレヴィへ玉を渡す。
「あれは本物の影だったかしら」
アイリーンが歩きながら疑問を口にした。
「そうなんだよ何で影の妖精じゃなくて闇の妖精なんだろうね」
「光が届かない所には影はできませんでしょう、それは存在できないということではないでしょうか、単独で存在しているのであればそれは闇と呼ばなくてはいけないのではありませんか」
「よく分からないけどわかったわ」
(レヴィの話はいつ聞いても難しいかしら、でもゴートさんみたいに理解するまで叩き込まれないだけましかしらね)
エレベーターで地下に降りてそのまま露店のお菓子なんかに脇目も降らずウォータージェット乗り場へ足早に歩くつもりでいたのだけど。
「ねえ昴くん、そろそろお昼時ではなくて」
アイリーンがスピードダウンした。
(ああ、恐れていたことが起きそうな予感がするよ)
「帰りにお菓子は買わないって約束したでしょう」
(何で僕が愛鈴の母親みたいなことを言わなくっちゃあいけないんだろう)
昴くんの後ろでレヴィが堪えていた笑いを吹き出している。
「アイリーンさんの体内時計は正確なのですね」
「確かにもうすぐお昼だけどさあ、ここで食べる時間は惜しいしそれにスターキッドに戻ってからお昼ご飯を食べても良いんじゃないかなあ、そのくらい我慢できるよね」
「そ、そうかしらね……あっ、そうだスターキッドでお留守番しているアシュラにお土産を買うの忘れていたじゃない、あの南極名物たこ焼きなんか丁度良くないかしら」
「わかったよ、アシュラだけにお土産ってはダメだろうから留守番してるみんなの分を買ってくるよ」
昴くんが意外と簡単に諦めたのはここで駄々をこねるアイリーンを宥める時間が惜しかったからに違いない。
『うちも半分持つかしら』と言うアイリーンの申し出を軽く断り昴くんは13パック詰め込んだショルダーバックを大事に抱えてエッグに似た乗り物へ乗り込む。
エッグの中ではあまり会話が弾まず外側を勢いよく流れていく水の中にも精霊が居るんじゃないかなと目を凝らしている内に次の停車場に到着して地上に出た。
「ここには雷の精霊が居たかしら」
「そうだね見つかるとヤバいかもしれないから早目にテレポートしようよ」
「わかったわ、集中するから手を出して」
アイリーンを真ん中にして昴くんとレヴィが手を繋ぐ。
ピカッ、ゴロゴロ。
遠くで雷鳴が聞こえた。
アイリーンがビクッとして手を離してしまう。
「ふう、もうちょっとだったのに気が散ってしまったかしら」
「愛鈴ここはダメだよ場所を変えようよ」
「そうよね、ここはライちゃんのテリトリーでうち達は最初から嫌われていたかしら」
「僕に直撃した雷精霊は仲間になってくれたけどね」
「昴くんがもう2、3回直撃を受けてくれたら仲間が増えるのかしらね」
「そういう軽率なことを言うと」
ゴロゴロ、ピカッ!
「ほら、こういう目に遭ってしまうから気を付けようね」
アイリーン達三人は早々に引き上げ次の停車場へ行く。
「ここには風の精霊が居たのよね」
「愛鈴大丈夫、テレポートできそうかなあ」
(風が昨日より強く吹いているみたいに思うのは気のせいかなあ)
時折砂混じりの風も吹いている。
遠くの空が砂嵐にでも遭っているかの様に暗い。
「アイリーンさん風の精霊が荒ぶられているみたいですので早目にテレポートしたほうが良いと思われます」
「昨日はこんなに酷く吹いてなかったですよね」
「そうですね、私も迂闊でしたけど途中の停車場には売店とか何もありませんでしたし人の姿も見かけなかったでしょう、この惑星自体どちらかといえば軍事基地なのでしょうね、だから私たちが縄張りを奪いに来た者と思われたのかも知れません、おまけに今日は昴くんが雷の精霊と私が闇の気配を持ってきていますからいっそう警戒なさっているのだと思います」
「じゃあ手っ取り早くテレポートするかしら、あなたには風避けになってもらうわ」
アイリーンが昴くんの背中にへばり付き意識を集中する。
レヴィは置いていかれないようにアイリーンの背中に抱きついていた。
風は相変わらず三人の周囲を吹き抜けていく。
テレポートは一瞬、視界に閃光が弾けた様に感じた時には違う場所に立っている。
そこが目的地なのかどうかは周囲を確認するまではわからない。
特にアイリーンが行うテレポートでは普通に味わうことができないスリルのおまけが付き纏う。
「良かったわね、無事に着いたわよ」
アイリーン達三人はスターキッドのコクピット後方に立っていた。
「お帰りなさい……」
「大変だったのよ・・・」
アシュラがねぎらいの言葉をどう掛けようかと悩んでいたらアイリーンが捲し立てるように今までの経緯を話す。
「Bちゃんには行かないのかしら」
スターキッドがいつまでも停止したままでいる事をアイリーンは疑問に思う。
「アイリーン達が帰ってきたらこの惑星をシュー・ウォッシュナビさせる事になっているのですよ」
アシュラが何事もなかったのかのように話す。
「惑星をシュー・ウォッシュナビさせる?!」
昴くんの悲鳴じみた声。
アイリーン達三人にとっては寝耳に水の話。
「いつ?」
アイリーンが聞く。
「明日の朝には段取りが完了する予定ですからそれから決行ですね」
「どこで……はここでかしら?」
「わかりました説明しますわ、誰がについては惑星と私たちの艦隊に居る全ての妖精さんと精霊獣が中央管制塔広場に集まって妖精さんの意識が1つに纏まるように念を込めています、倉庫へ移動しますわよ」
倉庫に移動するとフレア族妖精ロースさんと精霊獣のフレアホースさんが待っていた。
昴くんとレヴィが軽く挨拶したのに対しアイリーンは抱き付いて頬擦りしている。
その様子を横目で見ながらアシュラが二重ハッチの扉を開けようとした。
「アシュラさん気は確かですか宇宙へ放り出されてしまいますよ」
それに気付いた昴くんがアシュラに飛び付いて抱き締める。
「今は地上300mの大気中ですから大丈夫ですよ」
アシュラが笑顔になって言う。
(僕を驚かそうとしてわざとやったんじゃあないだろうな、なんかそんな気がするよ)
昴くんの顔が赤く染まっていった。




