220.アケルナルの妖精10
『あなたは誰?』
頭の中に直接響く。
「あなたはテレパシーでお話しするのかしら」
アイリーンは口頭で答えになっていない返事をする。
『管理局の人間?』
「もう少し近づいてくれないかしら、顔が見えないと話しづらいわ」
周囲が明るくなって現れたのか暗いうちからそこに居たのかは分からないけどその黒い人影は真っ直ぐ進み10mの距離を開けて止まった。
『瓶の中に封じられている小さな雷精霊と半妖精の人魚は人質か』
「瓶の栓は開けているから自由に出入りできるしレヴィ、人魚姫は僕たちの大切な仲間だから誤解しないで下さい」
黒い影とアイリーンでは話がいつまで経っても噛み合わなさそうな気がした昴くんが割って入る。
『仲間? 三人は仲間、僕は一人仲間はいない』
「僕たちと仲良しになろうよ、そしたら君を含めて四人の仲間になれるんだよ」
「昴くんお気をつけになって下さい、この方は今までに感じたことがない気配をしていますわよ」
レヴィがこそっと言う。
『僕はインヒビター、君も身体の中に別人を宿している特殊な人間、それとも妖精?』
「僕は何の取り柄もない普通の人間だよ」
「あの人昴くんの中に居るお兄ちゃんに気付いたみたいよ、きっとあの人が探している妖精さんなのよ、だから一緒に来てもらって昴くんの中からお兄ちゃんの魂を取り出してもらいましょうよ」
アイリーンが舞い上がっている。
「愛鈴全部喋っちゃったりしたらダメだょ~」
(「一緒に来て」『はいわかりました』ってなるわけないよね)
昴くんは脱力感に見舞われた。
『僕はここから離れられない』
「少しの間だけでも付き合ってもらえませんか」
覚悟を決め単刀直入にお願いする。
『僕が霧になってしまう、と思う』
「あなたがここへ集まってくる邪気を浄化されているのでしょう」
レヴィは『誰かが浄化しないと邪気が溢れてしまう』という考えを元に仮定した。
『そう、長い間浄化し続けた』
「あなた最初からその姿ではなかったのよね」
『そう、最近この姿になった』
「あなたも可哀想な存在なのですわ、でもその姿を得ることによって自我が生まれ会話が可能になったはずです」
『ここには誰も居ない僕はひとりだから会話必要ない』
「ねえ可哀想ってどういう意味かしら、それに話の内容がほとんどわからないのよ教えてくれないかしら」
アイリーンは字幕が出ていない洋画を観ているようで苛立しい思いを募らせている。
「わかりましたわ、彼はここへ集まってくる邪気を浄化するため最初に置かれた清浄な気なのですよ」
「えっ、清浄な気って何なのよ~」
「オアシスの泉は清澄な雰囲気に包まれていましたでしょう、そういう中へ邪気が入りますと浄化されるのです、ただし一度に多量の邪気が入ると逆に飲み込まれてしまいますから注意が必要ですわね」
「オアシスの泉にあった空気をここへ持ってきたって言うのかしら」
「アイリーンさんにはそう思って下さっても構いませんわね」
「わかったわ、空気が長い年月を掛けて人形になったのね」
「そこに人の祈りがなければ何も起きることはありません、浄化する度に邪気が発する悲鳴や叫びを祈りの代用として澱みが生まれ1ヵ所に溜まり続けていったのでしょう、その蓄積されて膨大になった澱みが意思を持つようになって最後に人形となったのですわ」
「邪気のよどみが蓄積されて人形になったのなら邪鬼ってことでいいのかしら」
「いいえそうとは限りません、この方からは邪な気配が一切感じられないのです、もっと清浄な気……もし居るとすれば闇の妖精なのかも知れませんわ」
レヴィはあまり長い間目の前に居る存在を無視したら何処かへ行ってしまいそうな気がしてならない。
「あなたは闇の妖精さんなのかしら」
アイリーンはこのややこしい会話を早く終わらせたいとの思いから単刀直入に聞く。
『わからない、だけど全てを浄化する力なら持っている』
「変ねぇ~、昴くんの中に眠るお兄ちゃんの魂を取り出せる妖精さんじゃなかったのかしら」
アイリーンは目的が果たせなかったことに失望の表情を現す。
『あなた達がここを浄化してくれて僕の仕事が減った』
「あら、ごめんなさいね別に悪気があってやったわけではないのよ」
「邪気が必要ならいつでも彼女が必要な分だけ振り撒くことができるから協力するよ」
「ど、どういう意味かしら、あなたそれこそ親しき仲にも礼儀ありって言われるんじゃなくて」
「いやいやごめんよ悪気があっての事ではないんだからこの場を和ませようとしたんだよ」
(実は君も分かっているんだろう本当に素直じゃないんだから)
『昴くんと呼ばせてもらっても良いか』
「わあ、こちらからお願いします、僕たちもう友達だよね仲間になったんだよ」
『仲間、友達、もうひとりではない?』
「そうだよ僕たち四人の仲間になったんだよ」
『それ以上近くに来てはいけない、昴くんが浄化されてしまう』
昴くんは話をしながら少しづつ近寄っていたのでもう少しで握手ができる距離まで近づいていた。
「僕たちは人間だから大丈夫だよ消えたりしない、もし仮に浄化されたとしても赤ちゃんみたいなピュアな心の持ち主になれるのだから嬉しいんじゃないかなあ」
『そうなのか、人間とは話をしたことがないのでよくわからない』
「ホップ、ステップ、ジャ~ンプ!」
アイリーンが掛け声と共に昴くんの横を跳ねて黒い人影の直前で着地する。
「初めまして、うちがアイリーンよ仲間になったんなら握手で挨拶なのよ」
(薄々思ってはいたけど本当に影なのね実体はあるのかしら)
そう言うと有無を言わさず手を取り強引に握手した。
「愛鈴、いきなりやっちゃあ失礼だよ」
「闇の妖精さんが仲間になってくれたのよこんなに嬉しいことはないかしら、でももしあなたが不快な思いをしたんだったら謝るかしら、ごめんなさい」
『アイリーンさんは浄化の気と同じ生気をお持ちです、危うく僕が浄化されそうになりましたよ』
「ほうら昴くん聞きまして、うちの心には邪気の欠片もありませんでしたでしょう」
「危ないことをするなあ~、寿命が縮んだじゃない、本当にもし君が赤ちゃん返りしたらどうしようかと真剣に思ってしまったよ」
昴くんも握手を求める手を差し出す。
黒い人は少し躊躇った仕草を見せた後応じてくれた。
「昴くん、昴くん、あなたはいつもの昴くんかしら」
アイリーンが期待に瞳を輝かせて覗き込んでくる。
「君の期待を裏切ってしまうのは忍びないけどね、僕にも邪気はなかったみたいだよ」
「それは詰まらないけど良かったのかしらね」
アイリーンが昴くんの手を取って優しく撫でた。
「レヴィあなたも握手をしなさいな」
レヴィは最初の場所に立ったまま動いてないので10mの彼方にいる。
そこでイノマンのポーズをした。
「いつも純真を振り撒いてるあなたが実は一番邪気にまみれていたのかしらね、世の中の真実を垣間見た気がするかしら」
「愛鈴それは失礼だと思うよ、レヴィは準妖精だからさ僕たちよりもっとお互いに影響を受けやすいんじゃないかと思うんだよ、だからいきなりのスキンシップは遠慮してるんだよ」
「そうなのかしらねぇ~」
「残念だけどここに目的の妖精さんは居なかったね、まあ最初から居るかもしれないという話だったから仕方がないね」
「そうね残念だけど今回は帰りましょうね、カラスの代わりにクロちゃんが見送ってくれてるのよね」
(もうクロちゃんって名前を付けたんだね)
『クロちゃん?』
「うちが付けたあなたの名前よ、最近その体になってまだ人間に出会っていないんだったら名無しよね、嫌なら忘れてもらっても構わないかしら」
アイリーンはそう言うと昴くんの手を引いてレヴィの方へ歩きだす。
『お礼に何かいらないか』
その背中にクロちゃんが声を掛けた。
「そうよお土産かしら、うちとしたことがどうしていまの今まで失念していたのかしら」
アイリーンが振り向き期待に目を輝かせる。
『昴くんの中に居るもう一人の魂を取り出すのが願いと言わなかったか』
「えっ、できるの?!」
アイリーンがクロちゃんの手を取りその場で跳び跳ねた。
『大丈夫、浄化のやり方とだいたい同じ、だけど器がない、どうする?」
「やるわよ!』
「愛鈴ダメだよ魂の入れ物が無いんじゃあ取り出して霧散してしまったら大変だよ」
「クロちゃんもここから出たら霧になってしまうんでしょう、だったらうちが手に包んで守るわよ」
「アポーツでクローンを引き寄せられないかなあ」
「クローンだけ持ってきても誰がどうやって魂を入れるのかご存知なのでしょうか、ダイムさんとセントさんそれに装置までとなると大掛かりになりますし、それ以前に浄化を行っている聖域とも呼べるこの特殊な場所で安易に空間転移を行ってはいけないと思いますわ」
「そうよね、ねえレヴィ何かいいアイディアを持ってないかしら」
懇願の眼差しで彼女を見る。
「魂を入れる器として最も相応しいものを持っていないことはないのですけど大変貴重なものなのでできればご辞退して頂きたいのですけど」
そう言いながらいつものポケットから真珠色した玉を取り出す。
「そのポケットには色々な物が入っているのですね、この間はとても収まるとは思えない竪琴を出していましたよね、とても興味が沸くのですけどそれはもしかしたら竜玉じゃないのですか」
「竜玉ではありませんけど同じかそれ以上の価値がありますわ」
「わかった、借りは必ず返すからさ少しの間だけ貸してくれないかしら」
「愛鈴、新品と中古品ではその価値に雲泥の差が出ると思うんだけど大丈夫なのかい」
「新古品扱いにしてもらえると嬉しいのだけど」
アイリーンは両手を合わせてレヴィを拝んだ。




