217.アケルナルの妖精7
アイリーン達三人はアケルナル惑星bの恒星側半球で南極を目指している。
昴くんの中で眠る石井光一の魂を取り出すことができる妖精がそこに棲んでいるだろうという情報を元に動く。
地下道をエッグに似た乗り物で移動するのだけど途中4ヵ所ある止まらなくてもいい停車場には全て止まって地上を探索していた。
これまでの3ヵ所でそれぞれ異なる精霊に出会い2ヵ所目で出会った水の精霊を仲間にしたくてスターキッドに持ち帰っている。
最後の停車場で地上に出た時そこに現れた精霊による雷撃からアイリーンとレヴィを守るため昴くんが前に立ちはだかり直撃を受け倒れたのだけどレヴィの助けを得て回復していた。
無事に立ち上がった昴くんを見て安心したアイリーンは彼の髪の毛が逆立っていると言って笑ってしまう。
しかしそこには雷撃を放ったあと消滅したはずの精霊が宿っているとレヴィが告げた。
「す、昴くんは精霊から雷撃を受けたんでしょうそれがなんでそうなるのよー」
さっきまで大口を開けて笑っていたアイリーンが神妙な顔つきになっている。
「あのあと精霊が消えましたでしょう、あれは消えたのではなくて取り憑いたのですわ」
レヴィの説明。
「わあー、僕は呪われてしまったんだあー」
昴くんが冗談めかしく大袈裟に言う。
「いいえその逆だと思いますわよ体はなんともないでしょう、それに気配がするのは頭髪だけのようです」
「それは本当なのかしら、それにもっと詳しく裸に剥いて調べなくていいのかしらね」
アイリーンは昴くんの冗談を逆手に取った。
「アイリーンさんがそれをお望みならやぶさかではありませんけどそうですね昴くんの意識がはっきりしていますでしょう、だから大丈夫だと思いますわよ」
「僕はなんともないから大丈夫だからただ髪の毛に精霊が宿ってるだけなんですよね無害なんですよね」
「あら大変、昴くんが混乱してるみたいだわ精霊を宿して無害なんてことはないかしら、ここはやっぱり……」
「愛鈴もういいからやめてよね」
昴くんが本気で怒りだす。
「ごめんなさい調子にのり過ぎてしまったわ」
だから本気で謝った。
「それでこの精霊はどうにかならないのですか」
「少しお待ちになってください聞いてみますわね」
「本当に昴くんはバリバリくんになってしまって可哀想かしら」
アイリーンは舌の根の乾かぬうちにみたいなことを言う。
「人をあだ名で呼んではいけませんって新月先生から言われてるよね」
「大丈夫よここには新月先生もゴート教官も居ないんだからねうちの天下かしら」
そう言いながら昴くんの手から茶色の小瓶を取り上げて中を覗き込んでいる。
「その瓶をくれるなら仲間になってあげても良いって言ってらっしゃいますわね、もしかしたら生気の残り香でも効果があるのかもしれませんわね」
「この空瓶1つでうち達の仲間になってくれるってんなら喜んで差し上げるって伝えてくれるかしら、それにしても昴くんはまるで電気あんまかしらね」
「それはひどい言われようかなでも雷精霊が仲間にできて良かったんじゃあないかなあ、それで僕からは離れてくれるんだよね」
「そうですわね瓶の中に入ると言ってましてよ、ただ肌身離さず持っていて欲しいとも言ってますわ」
「わかったよ取りあえず今はベルトにでも挟んでおくよ」
そう言っている間に昴くんの逆立っていた髪の毛が元に戻っていく。
瓶を腰ベルトに挟み込むとそれを見たアイリーンがニヤケ顔をした。
「そうね、お腰に付けた吉備団子ってきっとキビの代わりに生気をまぶしていたんじゃないかと思うのよね」
「昔ばなしの桃太郎だね」
「あの仲間になったイヌとサルとキジはきっとそれぞれの精霊獣だったはずよ」
(愛鈴の妄想はいつ聞いても面白いなあ)
「うちはね桃太郎と浦島太郎は同一人物じゃないかと思っているのよね」
「どうしたらそんな突拍子もない話になるのかなあ」
昴くんが虚を突かれアイリーンの顔を伺う。
「だってさ、桃太郎って赤ちゃんをコールドスリープさせていたカプセルが地震か何かの影響で川へ流れだしたのを洗濯しに来てたおばあちゃんが拾うの、それを家に持ち帰って出てきた赤ちゃんをおじいちゃんと二人で大切に育てたんだよ、それから強い青年にまで育った桃太郎は世間で悪さをしている宇宙人をやっつけるために鬼ヶ島へ行くの、そして悪い奴らをやっつけて閉じ込められていた宇宙人を助けだしそこにあった宇宙船で竜宮城へ行きご褒美と宴会をしてもらうんだ。ここまではいいよね」
「まあそうだね、設定は無茶苦茶だけど話の筋は通ってると思うよ」
アイリーンは大きく深呼吸をして続きを話し始める。
「しゅちにくりんを繰り返した後で鬼ヶ島へ送り届けてもらった時には光速時差で未来になっていたの、そこには知らない人達が大勢住んでいて『自分はここに棲んでいた鬼を退治して竜宮城に招かれ帰ってきた桃太郎だ』と言ったら変なおじさんが現れたってことになって浦島太郎と呼ばれるようになったって話じゃないかと思うのよ」
「でも何で桃太郎が浦島太郎になったんだろうね」
「それはうちにもわからないわ、でも桃太郎ってそこでは英雄になってたんじゃないかしら、だれも信じてくれなかったのよ、何て可哀想なお話かしら」
「そうだねもしかしたらそこが浦島って地名に変わっていたのかも知れないね、自分達が住んでる所が鬼ヶ島なんて嫌だものね地名とか名前なんて届出義務もないどうにでもなった時代だろうしね、まあ確かに面白い改竄昔ばなしだったよ」
(僕たちもここで水の精霊と雷の精霊を仲間にしたのだけど鬼退治は嫌だなあ)
「さあ今日中に最後の目的地南極まで行きますわよ」
レヴィにはアイリーンが語ったおとぎ話の意味がまるでわからなかったから触れないでいた。
(まるで強行軍だよな)
昴くんは心の中でそう呟いた。
終着駅南極に着いたのは夜の時間帯になってからだった。
そこは今までの停車場より広く売店や宿泊施設の看板が目に付く。
もちろん人も妖精も居るみたい。
「さすがに最終ステーションになりますといままでとは違って賑やかですわね」
「野宿の覚悟をしていたけど旅館に泊まれそうだね」
「先に食事よね、ほらあそこ食堂みたいな看板が出てるわ行くのよね、ね、良いでしょう、ね」
アイリーンが駄々をこねる子供みたいになっている。
「わかったよ行くけどさ僕たちお金なんて持ってきてないよ無銭飲食はダメだからね」
「そうよね~、だったら可哀想だけどそのお腰につけたライちゃんを差し出すってのはどうよ」
「それって質の悪い冗談にしか聞こえないのだけど、それにどこかの人さらいみたいな真似事はしてはダメだよ」
「ここではツケというものができないのでしょうか」
「カードくらい持ってくれば良かったのかなあ、そういえば僕たち身分を証明できるものって何にもないね」
「まさかここにお店があるって思いもしなかったわよね、そうだその空瓶は換金できる筈よ、以前Aちゃんが高く売れるかも知れないって言ってた覚えがあるわ」
アイリーンが昴くんが腰ベルトに挟んでる生気が入っていた空瓶を指差す。
だがしかし今は雷精霊の所有物になっていた。
「換金できるものでしたらこのウロコなんていかがでしょうか」
レヴィがしおらしく言い腰のポケットからウロコを1枚取り出した。
「それは最後の手段に取っておこうよ」
昴くんがウロコを持つレヴィの手を押し引っ込める。
昴くんが先頭に立ち食堂へ入って店主を呼ぶ。
出てきたのは火属性の妖精サラマンダーだと言う。
名前の由来は清算時に「皿何枚だ」と言っていたらサラマンダーと呼ばれるようになったとのこと。
あの有名人と同一視されては困るらしい。
「僕たち現金を持ち合わせていないのですけど後日払いは可能でしょうか」
(こういうデリケートな折衝は後ろの二人には無理だよなあ)
昴くんは自分がしっかりやらないといけないという重圧から早く逃れるために単刀直入に言う。
「ああ、あんた達はこの前まで上で騒ぎを起こしていた人なんだろう、それだったら管制局へ請求書を回すからサインだけしておくれでないかい」
三人はポカンとした。
(僕たちそんなに有名になっていたのか)
(支払いが請求書でできるのでしたら海王族艦隊宛てにしてもらえないか聞いてみなければいけませんわね)
(えっ、サインひとつで食べ放題やりたい放題できるのならここは桃源郷より天国に近い場所なのかしら)
三人三様の思いが馳せる。
「旅館に素泊まりなんて初めての事でワクワクしますわね」
食事を終えた三人に怖いものなんかは何もなくなっていた。
ゲームセンターのコイン代から銭湯の入浴券、おみやげ代に至るまで全て請求書にサインして管制局へ回してもらっている。
(残金の心配をしないで使えるってのが一番笑顔になるんじゃないのかなあ)
昴くんの思いであった。
ただ可哀想なことに人生経験が少ない昴くんはまだ『タダより高いものはない』という格言が実際に起きることを知らない。
そんな中レヴィはさすがに個人的に買った高価な品はクレームがつくだろうと思い管制局経由で海王族艦隊司令官宛てにしてもらっている。
浪費の限りを尽くし満足した三人は癖になる前に理性を働かせセーブしていた。
ただ日頃から贅沢とは縁遠い生活をしていたので実際に使った費用はそんなに多額にはなっていない。
レヴィが買った私物だけは本当に高価なブラックオパールのブローチで70万クレジットだったのだけど王族としては質素な買い物だろう。
この買い物は昴くんの企みでもあった。
レヴィが店内でどれを買おうかやめようかと悩んでいたのでブローチを薦める。
『ブローチは服に付ける物だからね』と心の中で思い、そうなることを期待した。




