216.アケルナルの妖精6
アイリーンが惑星の衛星軌道上で待機しているスターキッドまでテレポートで行って無事に帰ってきた。
「水の精霊さんはスターキッドに置いてこれたんだよね」
「そうよ留守番してるアシュラに頼んだわ泉の水を入れた宇宙服ごとシャワールームに掛けているから時々様子を見てってお願いしたのよ」
アイリーンは予備の宇宙服に着替えランチボックスを抱えている。
「おみやげも持ってきてくれたんだね」
「そうよかなり遅くなったけどお昼ごはんにしましょう、晩ごはんの分もあるわ」
「そうだねこの近くにレストランなんて見当たらないからね」
昴くんとレヴィは地下へ降りるエレベーター前でテレポートして行ったアイリーンを見送った後は別々に行動していた。
レヴィは最初から帰る前にもう一度だけ泉に入りたいと言っていたし昴くんは周辺探索する必要があるのではないかと考えていたから。
だから『じっと待っていたら時間の浪費になるから1時間後にここに戻って来てよ』と昴くんがアイリーンに提案している。
(テレポートで跳んでいったアイリーンがすぐに『終わったわよ』と言って現れることがないようにしないといけないからね、二重存在によるパラレルワールドの発生は否定できないって説明してくれたのはテレポートを教えてくれてた時のピエロさんだったと思うんだけどもしかしたらイノマン博士だったかな、まあどっちが言ったとしても同じ事だよな)
最近の昴くんは彼女がテレポートするたびに『本物なんだよな』と心の奥底で不安を抱くようになっていた。
「お弁当はエッグの中で移動しながら食べませんか」
テレポートにはこれっぽっちの興味もないレヴィがウォータージェットのことをエッグと言う。
「エッグの中でエッグを食べるのも良いかも知れないわね」
(確かにあれは水中を突っ走るエッグだよなあ)
昴くんも心の中で同意した。
「ゆで玉子も入っているのかい」
「中はサンドイッチだけかしらアシュラが用意してくれていたわ、もちろんタマゴサンドもあるわよ」
「君は何をしてたのかなあ」
「光妖精のコウちゃんに水精霊のスイちゃんを紹介してそのままシャワーを浴びて食事をしてきたわ」
(また君は君らしく勝手に名付けをしてきたんだね、まあいいけどさ)
「じゃあこのサンドイッチは僕とレヴィの分なんだね」
「なんてひどいことを言うのよ、うちの分もあるに決まってるじゃないかしら」
「君はいま食べてきたって言ったばかりじゃなかったかい」
「皆と一緒に食べるのが美味しいんじゃないかしら、だから1枚はうちの分なのよね」
(ああ、本当に君らしくて良かったよ)
昴くんは一抹の不安が消し飛んだ気がする。
宇宙服を着込んだ二人はエッグのGもさほど気にならない。
レヴィは元々地球人ではないので色々と対象外になっている。
次の停車場で地上に出た。
「ここも素晴らしいかしら、見渡す限り芝生よ」
アイリーンが腕を広げて気持ち良さそうに深呼吸している。
「こういった草原のことをステップって言うんだよ、だいたい砂漠の周辺に広がっているらしいね」
(まあここも人工的に作られている場所なんだろうから芝生と言っても間違いではないだろうけどさ広さがねえー、半端じゃないよなあ)
昴くんは見渡す限りの芝生という表現に抵抗を感じている。
「砂漠もここで終わりでしょうか、でも残念なことにどこにも水場が見あたりませんわ、それにさっきとは微妙に違う風の精霊が飛び回っていますわね」
「レヴィは凄いねちょっと見ただけでわかるんだ、僕たちには到底無理な話なのかなあ」
「そんなことはありませんわよ、もっと自然の中に身を置くと次第に見えてくると思いますわ」
「ダメですよ、それって僕たちを裸族に誘い込もうとしているのが見え見えですよ、愛鈴も惑わされてはいけませんからね」
「えっ、!?」
アイリーンは既に宇宙服を脱ぎ掛けていた。
「うちも見えるようになりたいわ~」
「心穏やかにしていれば見えなくても感じるはずですけどね」
「本当だ、感じると思えば感じるかもしれないな」
昴くんは目を閉じて瞑想の真似事みたいなことをしている。
「フン、それは思い過ごしって言うものじゃないかしら」
「気のせいなんかじゃないからさ愛鈴もやってみるといいんじゃない、ほら目を瞑ってごらんよ風が頬を撫でていくみたいに感じるでしょう」
「そうね気持ち良いわー、もう寝てしまおうかしら」
アイリーンはそう言うと草原に腰を下ろす。
「では、次に行きますわよ」
レヴィが無情な声を掛けてきた。
「まだ早いよ、もう少しここに居ても良いんじゃないかなあ風の精霊も連れていけるといいんだけど」
「風の精霊は仲間になることはあっても連れていくことはできませんわよ、吹き抜けてこその風ですわよ止め置くことは叶いませんの」
「そうよねじっとしていたらそれはもう風とは呼べないただの空気と同じかしらね」
「ご理解頂けて安心しましたわ、それに急ぎませんと夜の時間になりましてよ」
レヴィが言っているのはこの惑星が同期自転をしていてここは常時昼間のエリアだという事実。
そのためアケルナルの強力な恒星光から地表を守るために上空をバリアで覆っている。
それ以前に日差しによる昼夜の区別はないのでここでは自分たちの生活時間を計って行動する必要があるということ。
「それは一大事、晩ごはんがお夜食になってしまわないうちに南極へ着きたいかしらね」
アイリーンの腹時計は正確さに置いて無類なき定評があったのだけどここへ来てからというもの富士の樹海なみに狂いが生じていた。
「次の停車場で最後だったよね、そこでも降りて確認するのかなあ」
昴くんが最後の1駅くらい素通りしても良いんじゃないかと暗に持ちかけている。
「もちろんかしら、ここまでの停車場全てで砂、水、風の精霊が居たわ、なぜだかは知らないけど人間と妖精さんは居なかったわね次もきっと居ると思うのよね昴くんは何の精霊だと思う?」
「そ、そうだよね砂、水、風の次だから木じゃないかなあ」
(やっぱり止まるんだね、僕はもう疲れたよ)
そう言いながらも次の停車場では律儀に女性二人をエスコートして地上に出ていく昴くんだった。
「荒野に風が吹いていますけど精霊の気配はありませんわね」
視界に収まっている範囲は草木が1本も生えていない荒れ地になっている。
そこを歩きながらレヴィが精霊が居ないか周辺探知能力を働かす。
精霊が居たら妖精も居ておかしくないはずなのだけど今までの所では出会っていない。
昴くんはレヴィを守るように前に立ちアイリーンが後ろを気にしながら荒野を進む。
「風が強すぎないかしら」
アイリーンが一番後ろで大声を出す。
昴くんはそう言うアイリーンの表情が暗いなあと思って見ていたら周囲一面が黄昏時みたいに薄暗くなっていっているのに気付く。
「暗雲立ち込めてくるってこんな感じかなあ」
ボソリと言う。
ピカッ!
上空で電気がはじけたみたいな光が走りそれがそのまま地上に落ちてくる。
「伏せて!」
レヴィが短く言葉を発し身を伏せた。
辺りは何も無い荒野がひたすら広がっている。
落雷の中ボーッと突っ立っていたんじゃあ危険極まりないこと間違いなし。
「あれは何? トラの姿をしているみたいに見えるのだけど透けてるわね」
「あれは雷の精霊が集まり獣の姿を取って私たちを威嚇しているのよ、私とは砂以上に相性が最悪ですわ」
「僕たちを敵だと思っているのでしょうか」
「違わないにしても私たちをここから排除しようとしているのは確かな事だと思いますわ」
レヴィの手が小刻みに震えていた。
「後戻りしないと電気分解されるってことなのかしらね」
アイリーンはそれほど脅威な存在だとは思っていないみたい。
「そんな恐ろしいことを軽々しく言わないで下さるかしら」
レヴィが昴くんにしがみつく。
「僕たちも雷の直撃を受けたらショック死する事もあるんだから甘くみてはダメだからね」
バリバリー
そう言っている最中に雷撃が走ってくる。
昴くんがレヴィを引き剥がし体で止めた。
「昴くん大丈夫ですか」
レヴィは直撃を受けて倒れた昴くんを抱き起こす。
「宇宙服のお陰で何とか無事だよ」
気を失っていたのは僅かな時間で直ぐに目を覚まし立ち上がろうとするけど力が入らない。
アイリーンはそんな二人の前に出て仁王立ちになる。
前方に居たはずのトラの姿は消えていた。
(雷撃を放って気が済んだのかしら、助かったって言っても大丈夫よね)
「栄養剤よ飲みなさい!」
真っ赤な顔をした昴くんを心配そうに見下ろしてアイリーンが茶色の小瓶を差し出してきた。
「これ何も入っていませんわよ」
まだ動けない昴くんの代わりに受け取ったレヴィが瓶の蓋を開け頬を膨らませている。
「これって生気が入っていた瓶じゃないかな」
昴くんは瓶に貼ってあるレッテルに見覚えがあった。
「休憩室の棚にあったやつを持ってきたんだけど、テヘッ、間違えちゃったみたいかしらごめんなさい」
「もう大丈夫だよ」
昴くんが何とかレヴィの膝から立ち上がろうと踠く。
レヴィの助けを得ながら一緒に立ち上がり瓶を受け取り中を覗き込む。
「本当に空だけどまだ少しは残っていそうな気がするよ」
「良かったわ顔色が元に戻ってるわね」
(うわー、やばいやばい薄着のレヴィに抱かれて赤面してたって気付かれたらどんな仕打ちを受けるかわかったもんじゃないよな)
「昴くんはまだ帯電されてませんか」
レヴィが手を離そうとするとパチパチと静電気みたいな音がした。
「あなたその髪の毛、逆立ってるのかしら」
アイリーンが今度は笑いだしそうにしている。
パリパリパリ
昴くんが自分の頭に手を持っていこうとすると髪と指の間で放電現象みたいな電気が走る。
「す、昴くんの髪から精霊の気配がしますわ」
「何だって?!」
レヴィの発言に二人は飛び上がった。




