214.アケルナルの妖精4
人の魂を扱える妖精を探しに惑星bの恒星側シャフトで地上に降り立ちウォータージェットという乗り物で南極を目指すことになる。
その加速度がとんでもなく強烈であったため昴くんは耐えきれず弱音を漏らしていた。
「宇宙服を着てれば良かったかしらね」
「そう、だ、よ」
昴くんはもう言葉もでない。
「宇宙服の上からこの布袋を被っても良かったんじゃないかな」
「後の祭りじゃないかしら」
後ろの席からアイリーンが声を掛ける。
「もう少し我慢されていれば体が慣れると思いますわよ」
その後からレヴィが励ます。
(普通の地球人には耐えきれないのかもしれませんわね)
レヴィはこの二人なら地球人に貼られた悪い意味のレッテルを引き剥がす希望になるのではないかと思っている。
「あ、い、り、キミは平気、なのかい」
昴くんは喋るのさえやっとみたい。
「こんなの人が乗る物じゃないんじゃない」
アイリーンと昴くんが我慢の限界を越えようとしたとき一気に減速が始まった。
昴くんはアイリーンの泣き言を聞いて直ぐ緊急停止ボタンを押している。
「トイレ休憩にしては早すぎたかしらね」
アイリーンが安堵の吐息を漏らす。
「1時間は乗ってたみたいだしさまあまあなんじゃないかなあ」
昴くんは負け惜しみみたいに言う。
上部のスライドカバーを開けて外に出ようとするけど二人とも体に力が入らない。
何とかキャノピーに手を掛けて立ち上がった。
レヴィは既にプラットホームの端まで行ってこっちを見ている。
「ここはさっきの乗り場と全く同じですわね」
乗り場にあるエレベーター扉を開けて言う。
「全く進んでないってんじゃないでしょうね」
アイリーンが昴くんの肩に手を掛け不安げに意見を求めた。
そこは目的地へ向かう最初の停車場なのだけどあまりにも出発地点と同じ作りなので動いてはないのではないかと三人を不安にさせた。
「このプラットホームには何も無いんだからまずは地上へ出ようよ」
「そうね、それから考えましょうね」
肉体的に回復した昴くんは精神的にダメージを受けたアイリーンの手を引いてエレベーターへ導く。
上昇時の加速はそれほど感じなかった。
扉が開いて現れた風景に三人とも唖然とする。
「凄い変わりようね」
目の前には果てしない砂漠があった。
「これは酷いですわ、こんな場所で休憩なんて私には無理、直ぐに肌が乾燥してパリパリになってしまいそう」
「ウソは良くないかしらね、レヴィは宇宙空間でも平気なんだから何ともないはずよね」
「イメージの問題ですわ」
そう言って白衣の裾をめくり鱗の足を見せる。
レヴィは纏っていたシーツの前をピンで止め白衣と言い張っていた。
「目的のトイレはありそうかなあ」
「あっちにユニットが見えるわ、うちが先に入るわよ」
「じゃあ次はレヴィだね」
「私は構いませんわ、お先にどうぞ」
「わかったよ無理強いはしないけどさ、出せる時に出しておいたほうが良いと思うよ」
レヴィはその言葉には反応せず風が舞う砂の地平を眺めている。
昴くんがトイレで絞り出して扉を開けるとレヴィが立っていたので驚き横に避けようとして柱の角でしたたかに頭を打った。
「大丈夫ですか」
「うう痛い、でもごめんよ鈍臭くて」
「私も悪かったですわごめんなさい、アイリーンさんから聞いて我慢できなくなったんですもの」
「ああ急に催したんだね直ぐに離れるから待って」
「そうではなくてここにシャワーがあるというのは本当なんでしょうか」
「はい? ユニット型トイレだからシャワーは標準装備になってますけど……」
「スターキッドでさえトイレとシャワールームは別々でしたでしょう一体型があるなんて知りませんでしたわ」
(そうだったレヴィはお姫様だったんだよ、もしかしたら僕が知らない彼女の常識が他にもたくさんあるかも知れないから気を付けないといけないな)
「スターキッドは愛鈴が後から1つずつ追加で改造したみたいで特別なんですよね、もう最後だからゆっくり浴びて良いですよ」
昴くんはまさかレヴィが時間を忘れて浴び続けるとは夢にも思わないでいた。
「アイリーンさんは気づきませんか、ここには砂の精霊が居ましてよ、でも私とは相性が悪いのであまりお近づきにはなりたくありませんの」
アイリーンに引きずり出されるようにして出てきたレヴィが砂丘を指差して言う。
「う~ん、良く見えないわね目が悪くなったのかしら」
「砂の精霊に纏わり付かれると水分が抜けてミイラみたいになるらしいですわよ、そして水分を吸った砂の精霊はサラサラに乾くまでは動けなくなるそうです」
「動けなくなるんだったらそこで捕まえられるんじゃないかと思うのだけど、その時にこっちもミイラになってるんじゃ相討ちかしらね」
「ミイラになるというのは大袈裟な話だと思いますわ、子供が砂漠みたいな危険な場所へ自分達だけで行かないように大人達で作った怖い話だと思いますの、実際には皮膚の表面がパサつく程度ではないでしょうか、それでも砂の精霊は動けなくなるでしょうね」
「だったら今度こそ捕まえられるわね」
「そこは保護と言い換えましょうね、それだと悪人のイメージが大きいですわ」
「わかったわ、あっ、でも見えないんじゃ捕ま、保護できないよね」
「精霊が見えないのでしたらお互い何の影響も受けませんのよ」
「へえ~、幽霊みたいなものなのかしらね」
「精霊が妖精へ進化しますと実体を伴うようになりますから見えますわね、妖精なら抱きつかれても心配なさることは何もないですわ」
「ここには砂の精霊さんが居るのね、わかったわ昴くんの所へ戻るわよ」
ウォータージェット乗り場に着くと昴くんが出迎えてきた。
「ごめんよ愛鈴、待ってる間に説明書をよく読んでたらスピード調整ができたみたいなんだよ」
「良いんじゃないかしら、最速で5時間なんでしょう」
「それは休憩なしでの時間だからね途中途中で休憩していたらかえって遅くなると思うんだよなあ」
「それなのよ、ちょっと確かめたいことができたので次の停車場でも止まるわよ」
アイリーンがここに砂の精霊が居ることと次の停車場でも他の精霊が居ないか確認したいことを伝える。
「もう一度聞くけど最大速度で良いんだよね」
「あなたが大丈夫ならそうしましょう」
「大丈夫じゃあないけど足を引っ張るわけにはいかないからね頑張るよ」
「男の子らしいじゃない、それじゃ出発よ」
昴くんはスターとボタンを押すと加速が最大になるかなり手前で緊急停止ボタンを押す。
(次の停車場まで1時間の辛抱)
そして後はひたすら耐えた。
「さっきよりだいぶ楽だったよ」
先に降りた昴くんがアイリーンに手を差し伸べる。
「良かったんじゃない、レヴィが言ったように特訓が必要なのよ」
(レヴィさんは慣れるって言ってたよな、体が加速に対して順応するってことだよな)
三人がエレベーターで地上に出るとそこは下草が生い茂ったすり鉢状の斜面になっていて底に泉が見えた。
「まるで火口湖かしら」
アイリーンが教育資料で見た映像を思い出す。
「見た目はそうだけど火山独特の硫黄臭はしないよね」
三人は動かず周囲を見渡している。
ずっと奥には砂漠が続いていた。
だからここは砂漠の真ん中にあるオアシスみたいに思えた。
「これから先はまだ砂漠が続いているみたいだね」
「でもここはそれほど乾燥してないかしらね」
「泉から吹き上げてくる風が気持ち良いですわ」
「そうね気持ちいい、川の土手を思い出すわ」
アイリーンとレヴィが風に髪をなびかせながら佇んでいる。
「水分を持っていかれたりしないんですね」
「そうですわね理屈を並べると爽快な気分が台無しになってしまいますわよ」
「そうよ気持ちいいものは気持ちいいで終わらせていいんじゃないかしら」
「うん悪かったよ僕が水を差してしまったんだね」
昴くんは反省した。
アイリーンが滑らないよう足元に気を付けて坂を歩き始める。
その横をレヴィはすり足で歩いているのだけどどちらかといえば滑っているのに近くて結構速い。
「おいていかないでよー」
「そんなに急ぐと危ないよー」
アイリーンが大声を出して駆けだしたので昴くんが注意した。
かなり先へ進んでいたレヴィが不意に立ち止まり振り向いて屈み込む。
「しーっー」
口に指を当てて『静かに』ってジェスチャーをしている。
「何よ、レヴィったらおしっこでもしたいわけ」
アイリーンが軽いジョークを言って緊迫感を追い払う。
彼女の側まで近づくと同じ姿勢を取り聞き耳を立てる。
「精霊があそこ、泉の中に居ますわ」
指をさして教えようとするけどアイリーンと昴くんには遠過ぎてよく見えない。




