213.アケルナルの妖精3
エリダヌス座アルファ星アケルナルB星域にスターキッドの母艦となった戦艦B99と海王族レヴィ姫を追いかけてきた艦隊11隻が現れてから3日目の朝アイリーン、昴くん、レヴィ、ロース、フレアホースは惑星bの恒星側シャフトで地上に下りている。
恒星側シャフトだけは高熱による損傷防止のためドッキングしたシャトル毎シールド内まで降下してそこからラウンジだけ地上に下ろす。
上空からは一切調べられなかった場所。
「暑いわ、それにムシムシするわね」
ラウンジから外に出たアイリーンが抱いた最初の感想。
「ここには建物が無いんだね、回りは全部ジャングルかなあ凄いね」
昴くんが少し歩いて振り返ると熱帯雨林ジャングルの大木に白磁色したラウンジがまるで巨大なキノコが生えている様に見えていた。
そのまま視線を上へ動かしていくと大木の繁った葉の上でシールドが閉じている。
「ここには長く居られない、感じがする」
「湿度が高いですわ、フレア族のロースさんには厳しい環境かも知れません」
レヴィが心配そうに寄り添っていく。
「体力がどんどん削られてる、感じがする」
「わかったわ、ロースさんはフレアホースさんと一緒にBちゃんのナチュラルエリアまでシュー・ウォッシュできるかしら」
「すまない、今ならまだ間に合うから帰りたい」
「いいわよ、でもその前にねえ皆と変わった特別な力を持つ妖精さんの気配を近くに感じないかしらね」
「近くには感じない、でもあっちのずーっと奥の方に他と違って何の気配もない場所があるみたいに感じる、一緒に行けなくてすまない」
「わかった、大丈夫よあなた達こそBちゃんまで無事に帰ってよね」
「愛鈴、今日は一度戻っても良いんじゃあないかなあ、ここがこんな状況だって全く分からなかったんだしさ、もしかしたら猛獣が居るかも知れないから武器を持ってきたほうが良いかも知れないよ」
「いいえ武器を持っていると敏感な妖精さんはその気配で逃げてしまいますわ」
「ここに人が襲われるような危険はない、それに足手まといにはなりたくない、昴くんお願い出きるか」
「わかった、無事に着いたか連絡欲しいけど無理だよね」
「ワタシの体に触れて跳ぶ場所を頭の中に描いて手を離す。その時見えた場所がワタシが居る所」
「わかった、やってみる」
昴くんが左肩にフレアホースを乗せたロースさんの背中に手を当てナチュラルエリアを思い描き鮮明になったところで起動する。
「シュー・ウォッシュ!」
二人が消えたその瞬間に昴くんはナチュラルエリアに立っている感覚がした。
少しの間だけロースさんと視覚が共有されたみたい。
「無事に着いたみたいだよ」
アイリーンとレヴィを安心させるように言う。
「それは良かったわ、キッド聞こえてるかしら」
アイリーンか首に着けているスターキッドAIの外部端末通信機に話しかける。
「スターキッドAIに連絡を取るのかい」
「そうよ、返事がないんだけどAちゃんからBちゃんで留守番してるルビーに連絡取ってもらってロースさんの様子を見てもらいたいのよ、具合が悪そうだったらメディカルルームに引っ張って行かないとあの人達は自力で治そうとするでしょう」
「そうだね上のシールドには通信妨害機能が備わっていてもおかしくないと思うからラウンジに入ってもう一度通信してみたらどうかなあ」
「そうよねあそこからだったら通信できるはずよね、ちょっと待っててくれるかしら」
アイリーンはそう言うと小走りに戻っていく。
「急がなくていいからね」
その背中に昴くんが注意を促す。
(転んで怪我でもしたら僕たちも戻らなくてはいけなくなるからね)
「レヴィは相変わらずの薄着だけどこの暑さは大丈夫なの、僕たちは宇宙服が体温調整してくれているから体は何ともないんだけど首から上が暑くて堪らないんだ、僕たちだけフルジャケットにしてもいいかなあ」
「昴くんたち地球人の生活環境快適温度は18℃から28℃という極めて狭い範囲なのですわ、この間のカフ星人なんかはマイナス100℃の氷漬けにしても生きてましてよ、上は80℃までなら普通に生活してましたわね、私は気温より湿度が低くなるほうが辛いですわ、だからここは丁度良いと言ってもいいですわよ」
「昴くん、昴くん、昴くん」
アイリーンが小走りに駆け寄ってきた。
「ラウンジで通信終わった後にね何か役に立つ物がないかと探してたらこれがあったのよ」
アイリーンが手にしていたのは白っぽい布で出来た大きな袋で穴が3つ空いている。
「ま、まさかとは思うけどそれを着ようってんじゃないだろうね」
昴くんはこの星域に来て今ほどたじろいだことはなかったように思う。
「あなたもアルファ星で地球人がどんな格好で生活していたか思い出してみたら良いかしら」
(封印された記憶の1つだからね、思い出したくないよ)
最初にケンタウルス座アルファ星の地球人保護惑星へテレポートして下りた時そこでは人工的に作られた自然の中で全員が素っ裸で生活しているのを同じ様に裸になった二人は見ていた。
「どうしても宇宙服を脱がないとダメかなあ」
昴くんが珍しく泣きそうな表情になる。
「そちらのほうが自然ですしここに居る妖精から警戒もされないと思いますわ」
いつも裸に近い格好をしていることに昴くんから注意を受けていたレヴィがここぞとばかりにニコニコして言う。
「うだうだ言って辛い思いを長引かせるよりはさっさとやって楽になるほうが賢いかしらね」
アイリーンと昴くんの立場がいつもと逆転している。
そういうアイリーンはもう既に寸胴布を被って宇宙服を収納したベルトで締めていた。
「見た感じが弥生人みたいだね」
昴くんがしぶしぶといった感じで着替えだす。
「汗が凄く流れ出ているのだけど愛鈴は気持ち悪くならないのかい」
「そうねたまには汗を流さないと汗の掻きかたを忘れてしまうんじゃないかしら」
ブルッと顔を振って浮かび上がった汗を飛び散らかしながら言う。
(いつもながら器用な事をするなあ、まるで犬、いやネコかな)
「さあ、早く見つけに行きませんと終わりませんよ」
「そうだよねミコトさんの説明では南へ向かうためのウォータージェットが大きな木の下にあるらしいんだけど、どれも大きいからわからないよ~」
「そんな泣き言を言う暇があったら手当たり次第探すかしら」
「そうですわ、この広場に接している手前の大木だけを調べればいいのですからそんなに手間ではありませんことよ」
レヴィは既に3本目を調べようとしている。
「それで南ってどっちなのかなあ」
昴くんは理に適う調べ方をしようと考えた。
「こちらだと思いますわ」
レヴィが指差している方向は二人ともまだ探していない。
だから昴くんが一発で探し当てることになった。
「そうね南に向かうんだってのをすっかり忘れてたかしらね、テヘッ」
アイリーンが舌を出している。
シャフトから真南の延長線上にある巨木だけが精巧に出来た人工物で見た目では判別が難しいのだけど触ると仄かに発光した。
そこを押して右にスライドさせるとそのまま幹がスライド扉の様に開き円筒形のスペースが現れる。
三人が中へ入るけど扉がいつまで経っても閉まらないので手動で閉めたら動き始めた。
自由落下の加速度を感じて不安になり始めたころ減速が始まりゆっくり止まると扉が自動で開く。
そこはエッグ乗り場の様になっていたけど少しばかり、いやかなり空間が狭い。
「これに乗るのかしらね」
それでもいつも乗っているエッグに似た乗り物を見たアイリーンが安心したように言う。
「三人乗りだね、良かったよ僕らも丁度三人だ早く乗ろうよ」
昴くんは本能があまり考えたくないと言っている気がした。
座席の向きを見て先頭に昴くん中央がアイリーン後ろにレヴィが座る。
(上半分が透明になっているけど景色が見えるってことなのかなあ)
「目的地はどこにしようか」
「どこって言われて分かるわけがないじゃない、ちょっと見せなさいよ」
アイリーンが後ろから身を乗り出してきた。
「南へ行くには間違いないかしらね」
「南極までだったら最短5時間コースがあるよ」
「5時間は長いわねトイレ休憩室とかしたいしね」
「緊急停止ボタンを押すと最寄りの停車場で止まるってなってるけど」
「それなら最短コースで行きましょう、時は金なりって言うしね」
「じゃあ、スタートっと」
昴くんがエンターキーを押すと後ろから凄い勢いで水が流れてきてエッグを押し流す。
「これがウォータージェットなのイメージと全然違うかしら、うちは水中をジェットの勢いで進むと思っていたのよこれはトイレの排水みたいに激流に流されているだけじゃないかしら)
「愛鈴喩えを変えようよ~ウググッ、それにしても加速がきつくないかい」
昴くんはものの数十秒で弱音を吐く。




