212.アケルナルの妖精2
惑星b軌道エレベーターに連絡シャトルが無事ドッキングして六人の訪問客を下方へ移動している。
この連絡シャトルはオートパイロットになっていてコクピットと呼ばれるスペースはなくゲストルームと呼ばれる部屋で皆は寛いでいた。
シャトルが軌道エレベーターにドッキング後はゲストルームがそのまま昇降機の役目も果たしている。
また緊急時にはゲストルームごと宇宙へ放り出す脱出ポットにもなっていた。
別の星で起きた過去の話しになるのだけどゲストルームで騒いでいたらいきなり救急隊員が入ってきてその時初めて自分達が乗っていたシャトルが事故で爆発したことを知った人達がいたらしい。
ゲストルームの作りがそれほどまでに強固で快適な居心地になっている証として語られている。
悪い見方をすればゲストルームの中の人は閉じ込められているのと同じで外で何が起きていようと知ることができなく対応のしようもないということ。
だからアイリーン達六人はエレベーターが止まって扉が開くまでは緊張を解ける訳がない。
「大丈夫かしらねぇ~」
アイリーンが危惧しているのは身の危険を案じているのではなく扉が開いた先に武器を持った人達が居たら全滅させてしまうのではないかと心配していることにあった。
「みんな落ち着いて行動しようね、ピエロさんがサイコキネスバリア張ってくれているから先手必勝じゃなくて反撃ありきだからね」
昴くんがリラックスさせようと言う。
「十分わかっていますわ」
1番前に立つピエロの橫で竪琴を手にしたレヴィが微笑んでいる。
(レヴィさんは本当に好戦的種族なんだなあ)
昴くんは不安しかない。
「愛鈴はまだ引き金に指を掛けたらダメだからね」
昴くんはアイリーンが自慢のマシンガンを持ち出して来ているのを見落としていた。
「ふん、後の祭りじゃ遅いかしら」
(まあ発射されるのはゴム弾だからいいとして)
「ルビーさんがその手に持つ包丁は見るからに危ないから少しの間だけでも仕舞えませんか」
「毎日かかさず手にしている愛用品ですので既に体の一部みたいに馴染んでますわ、だから心配するには及びませんですわよ」
(一番後ろで包丁を構えている人が居るってのが一番怖いんだけど)
ルビーは昴くんの不安な表情に気付いて和ませようと言ったのだけど逆効果になったみたい。
ルビーの前に立っているのが昴くんなのでそれはそれで仕方がないことだろう。
降下が始まって3分程が経過した。
目的階に到着したらしくゆっくりと扉が開き始める。
前方の空間が広がっていくのにつられるように皆の表情にも緊張した様子が増していく。
「誰も居ないじゃあないか」
ピエロが拍子抜けした声で言う。
エレベーターホール全体が白い発光色に包まれて一見するとそこに床があるのかさえ分からず不安にさせる。
そして誰も居なくて何も無い。
「この部屋全体が検疫室になっているのではないのか」
ピエロが安心させるように続けて言い最初の一歩を踏み出す。
そして全員が部屋に入るとエレベーターの扉が閉まり反対側に奥へと伸びる通路が現れた。
通路の左右に二人づつ手前に男性、奥に女性が立っている。
奥側の二人は胸がふくよかに出っ張っているので女性と判断した。
通路に人が現れた時点でピエロと昴くんは自分達の女性を守る様に前へ出る。
この男性二人より後ろで構える女性の方がはるかに強かったとしてもそれは本能による行動なので抗いようがなかった。
少しの間を置いてアイリーンが昴くんの足を踏んで前に出る。
胸を大きく反らしてるのは明らかに対抗意識によるものだろう。
何に対抗しているのかは本人に聞くしかない。
(情けないなあ~)
昴くんが吐息して肩の力を抜く。
「何か言いましたか」
橫のピエロが怪訝そうに聞いてくる。
「うち……私はキャプテンアイリーン、ここの駐留艦隊を蹴散ら、いいえ、親善目的でお伺いしたにも拘わらずここの駐留艦隊から予告なしに攻撃されたので反撃して全滅させた」
(愛鈴がここまで成長したのはゴートさんによる教育の賜物なのだろうなあ~)
昴くんは感心したけどもう少し胸も成長して欲しかったなあと心の奥底で思った。
「僕はサブキャプテンスバル、先の発言を1部訂正する全滅ではなく戦艦1隻を鹵獲し乗組員全員を無傷で捕虜にしている。最初に伝えたようにここへ来た目的が親善であることは今でも変わらない」
(無傷とは言い難いけど嘘も方便で許してもらえないかなあ)
昴くんがアイリーンの橫に並んで言う。
「親善目的で来られたのは今でも間違いないのかな、どちらにせよここでの立ち話は無用、ついて来られたし」
先に歩く四人はただの案内人みたい。
何で四人なのだろうと皆は思ったけど私語は慎み黙って後ろを付いていく。
たいして歩くことなく次のホールへ入りエレベーターに乗る。
下ったのか上ったのか分からないまま扉が開くと目の前には楕円形の大きな会議用テーブルがあり右側中央席に二人が座っていた。
案内されるままに左側席に着く。
でもアイリーンを挟んだ両隣は昴くんとアシュラが座りピエロを挟んだ両隣にレヴィとルビーが座る。
身に危険が及びそうになった時は一瞬でテレポートして逃げ切れるように。
案内人だった四人も前に座っていた二人の両隣に座った。
そして6対6の会議が始まる。
さてはてこの会議を経て親善関係を築くことができるのだろうか、敵対することだけは避けたい12人だった。
「お腹が空いたわー」
アイリーンの常套句が出た。
六人は全員欠けることなくシャトルに乗って帰途に着いている。
軽口が出る程には会議は上手く終わったのかもしれない。
「もう少しでカシオペア戦艦に着くから、そしたらスターキッドで食事ができるよ」
「イヤよカシオペア戦艦とはその内お別れしなくっちゃいけなくなるじゃない、最後にあそこのメニューを食べ尽くさないといけないかしら」
「わかったよ、でもお腹を壊さないようにしないといけないから僕が注文するからねそれで良いよね」
(あそこのメニューには僕たちが食べられないではなくて食べてはいけない原材料があるみたいだからね吟味が必要だよ)
「それにしてもアイリーンはよくあそこで我慢したな見直したぞ」
ピエロが頭を撫でようとして止めた。
昴くんに気を遣ったみたい。
「そうですわ、オードブルだけではなくて目の前に出されたお水にさえ手を伸ばされなかったですものね」
レヴィも思い返しながら感心している。
そう、会議が始まり自己紹介が終わると案内人だった女性二人が立ち上がり隣の部屋から水が入ったコップを各人の前に置いた。
それを目の前の四人はゴクゴクと飲んで見せるけどアイリーン達六人は手にしてさえいない。
これもゴートさんの教育にあった『敵の恵みは受けぬ』を貫き馴れ合わないことを示す。
会議が終わった後の雑談時になって見たこともない美味しそうな料理がテーブルに並んだ時はさすがに我慢できないだろうと見て取った昴くんがアイリーンの手を引いてお暇の言葉を述べ部屋から出ていく。
「今日はダメだけど次に来た時はこっちから催促してもっと良い料理を出して貰うからね」
「何でダメだったのよ」
「今日は相手が用意した接待料理だからね次回では愛鈴が希望する料理を出させるんだよ」
(何を原材料に使っているのか分からないからね、僕が合成されてない料理を注文するよ)
「わかったわ、接待は受け入れないってことなのね」
アイリーンが泣きそうな声で言った。
自己紹介の後で説明があったのだけどこの惑星は北方星人達の合同出資で営まれる『妖精牧場』だと言う。
地球人に祈らせ妖精を生み出し育った所で必要とする艦隊へ引き渡す。
先の戦闘で戦った艦隊はここの守備艦隊ではなくて妖精と地球人を引取に来た艦隊だったとのこと。
地球人は放っておいても増えていくので良いけれど妖精はそうはいかない臆病な種族なので管理が相当難しいらしく短気で横暴で大声と怒気を撒き散らす北方星域星人はこの地上には居られないと言っていた。
だから今の案内人とかここの管理者はここで生まれた人の中から優秀な人材を選び出し教育を受けた者達だそう。
その翌日、手料理を持って再び管制塔を訪れると昨日以上に親睦を深めることができ、惑星内での自由行動許可をもらった。
3日目に管制塔と反対側にある軌道エレベーターで地上に下り南の極地を目指す。
新種の妖精が居そうな場所はその辺りだろうという曖昧な情報を元にローラー作戦を行う予定。
上空からでは探索できなかった場所でもあったから。
4日目になるとさすがにこのままここへ留まり続けるのは危険が迫るのではないかとなり石橋艦長指揮の元で帰還の準備を始める。
ロース、フレアホースとアルファ星から連れてきた妖精さん達が先導して今いる艦隊毎惑星bをケンタウルス座アルファ星域までシュー・ウォッシュさせることにした。
追跡艦隊が開いたコスモトンネルはそれを維持するエネルギーが足りないので閉じていたから。
準備に取り掛かった頃、ここの妖精を連れ出したのが知れると戦争の火種になるのではないかと惑星bで案内人をしていた一人でミコトと名乗る女性が言い出す。
それならばと破壊した艦船の欠片とか小隕石郡を集めて何らかの事故で惑星が爆発したように偽装するようにした。
「アイリーンさん達は今日も惑星で野宿されるのでしょうかね」
スターキッドに一人留守番で残ったアシュラがモニター画面を見ながら気にしている。
アシュラは地上探索を始めたアイリーン達が緊急救助信号を出した時にスターキッドで突入できるように待機しているのだった。
『スターキッド、スターキッド飛んで来い』と呼びつけても良かったのだけどスターキッドが途中で破壊した物の賠償はアイリーンがしなければいけないだろうということになったから。




