211.アケルナルの妖精1
エリダヌス座アルファ星主星アケルナルAの伴星アケルナルB星域にスターキッドとその仲間の艦船が集結している。
スターキッドは母船となっているB99の格納庫へ潜り込んでいるのだけど果たして同行してきた海王族艦隊が友好的にやって来たのかどうかは定かではなかった。
「おはよう昴くん、何か変わったことはなかったかしら」
アイリーンが目を開けると昴くんの姿が見えたので挨拶をする。
(うちはキッドの操縦席で寝てたはずよね)
ふかふかのベッドと毛布の感触を確かめながら怪訝に思う。
「おはよう愛鈴、特に変わったことはないけど目覚めの気分はどうかなあ、まだ疲れが残っているようならもう少し休むといいよ」
「もう大丈夫かしら、それより寝すぎた感じがするわ……ねえ、うちをベッドへ運んだのは昴くんよね着替えさせたのもあなたかしら」
「わあ、誤解しないで欲しいな運んだのは僕だけど着替えとかはアシュラとレヴィがしたんだからね僕は扉の外に出ててちらっとも見てないんだからね」
「あらそうなのねそれはさぞかし残念だったんじゃあないかしらね、そうね少しだけなら見てもいいわよ」
弁明するために近寄ってきた昴くんを上目遣いに見ながら静かに言う。
(うわっ、愛鈴が色っぽ過ぎるんだけどサキュバスにでも憑依されたんじゃあないだろうな)
「頼むからそういうことはこんな時にこういった場所でこういう状況では言わないで欲しいな、誤解されるよ」
「あら何を誤解するのかしらね、本当にいやらしい昴くんだこと」
「いや君がいやらしいことを先に言ったんじゃないか」
他愛ないことなんだから軽く流せばいいとわかっているのにムキになっていく。
「あらうちはベッドの模様が可愛いから少し見てみるって言ったのにあなたは何をどう誤解したのかしらね」
(や、殺られた、こういう性格だとわかっていたのについ油断しちまった)
「悪かったよ謝る。ごめんなさい、でも僕は男なんだからさそこのところは理解してて欲しいよ」
「昴くんがスケベな男の子だってのは今に始まったことではないかしらね、それよりお腹が空いてるのよ何か食べ物は無いかしら」
「食堂に行くしかないね」
「大きい船は住み心地は良いけど不便なのよね」
「部屋の外で待っているからね」
「あら部屋の中で待ってても構わないかしら、スケベな昴くん」
昴くんは返事することなく両手を上げて部屋から出ていった。
食堂は四人掛けテーブルが25脚あって100人が同時に食事できるのだけどテーブルを片すと全乗組員300名を収容できるスペースがある。
個々のテーブルにはスパイ防止装置が設置されていて多種族の宇宙人が一度に食事をする場合等には作動させるのがマナーになっていた。
それは遥かな過去の話し、食事をしていたラビット族の隣にウサギの丸焼き肉を持ったライオン族が座って星間戦争の危機にまで発展したことがあったから。
それでもスパイ防止装置みたいな高額機器が個別に取り付けられるようになったのはごく最近で一部の艦船に限られていた。
アイリーンと昴くんが食堂に入った時間はガラガラ状態だったけど人見知りのアイリーンが素早くそれを作動させたのはタダで利用できるものは使用しないと勿体無いという行動理念によるもの。
アイリーンが何時も言っている『目が覚めた時に食べるのだからそれは朝食に決まってるかしら』の言葉に従えばたとえ昼寝から目覚めて取る食事さえも朝食扱いになってしまっている。
だから今は目玉焼きを乗せたトーストをひとくち噛ってはオレンジジュースで流し込んでいた。
「うちがまるっと1日半寝てたのはわかったわ、今までもだいたいそんな感じだったかしらねそれで、あなたしか居ない理由を教えてもらえるかしら」
「そうだね、まずアシュラさんは艦橋へ行って石橋艦長と今後の事を話し合っているよ具体的にはあの惑星にいつ誰がどうやって下りるのかを相談していると思うよ、ピエロさんはスターキッドに行って整備士さんたちからの報告を聞いて指示しているはずだしダイムさんとセントさんはクローンの最終調整をするんだと言って部屋に籠っているね、ルビーさんは部屋の片付けとかハウスキーパーみたいなことをしているよ」
「そうわかったわそれであなたがレヴィのことをわざと話さなかったのは下心あってのことかしらね」
「レヴィさんはね海王族旗艦になっている戦艦ファーストドラゴンに居るんだ、自分から迎えを呼び付けて堂々と行ったんだよ『少し姫を演じてきます』って言っていたよそれと君が目覚めて落ち着いたら一緒にお茶したいから連絡して欲しいって」
「そうなのねわかったわ、うち達に迷惑が掛からないようにしたのよね、うちとお茶をする約束をしたってのも艦隊が直ぐに引き返さないための策略かも知れないわね」
「策略とは言わないと思うけどさ辛い立場になっているんじゃないかとは思うよ」
「だったらさっさと食べて助けに行くかしら、ダメだとは言わせないわよ」
「いや、ダメだと言わせてもらうよ、だって世間はもうすぐ夜の時間帯に入るんだからね今から訪問すると非常識な人間だと思われてしまうよ」
「そこが良いのかしら、まずうち達には常識ってもんが通じないってのを最初にガツンとぶちかますのよ、それに相手は1日の終わりで疲れてるのに対してうちは十分寝たあとだから何を言われようと負ける気がしないわ向こうが折れるまで話し合おうじゃないかしら」
「わかった付き合うよ、でもそれじゃあ僕の心が先に折れそうだよ」
昴くんはすうっーと立ち上がりオートレンジでスーパーエナジードリンクを生成した。
今回エリダヌス座アルファ星アケルナル星域までレヴィを追って来た海王族艦隊司令官はレヴィ姫夫候補の一人プローン。
海王族長候補なのだから普段は人の姿をしていてもレヴィの父親リバイアサンが龍に変身するように彼も海老の姿になれるらしいのだけとレヴィはその姿を実際に見たことはなくまた想像したくもないとアイリーンに愚痴を溢したことがある。
『彼を怒らせて26本の腕で雁字搦めにされている自分の姿なんて想像したくはないでしょう』と最初から怒らせることを前提に話すレヴィにアイリーンは苦笑するしかなかったのだった。
その彼と対峙したアイリーンと昴くんはできるだけ静かに話す。
「レヴィはね、うち達の目の前でシャトルから宇宙へ飛び出したのかしら」
話し合いも大詰めに突入している。
(素っ裸でね)
昴くんは心の中で捕捉した。
自らは積極的に会話に参加せず要所要所で口を挟んだり相槌を打ったりしている。
「本当の事なんです。僕たちが彼女を回収した時に『逃げて』と言ったんですよ、シャトルは引き返すしシードラゴンは迫ってくるで考える時間もないのでその場は距離を取ろうとしたんです」
「そ、そうよ、うちはレヴィが宇宙へ放り出されて殺されそうになったと思ったかしら」
アイリーンが話を大きく膨らまそうとしている。
「今はまだレヴィ姫の身の安全が保証された状態に置かれているとは僕、いえ僕たちは考えていませんしこのまま何を言われようとそれは変わりません。それを証明するためには僕たちにレヴィ姫を預けた上で一緒に帰途に着く他に道はないと思います。どうか寛大なご対応を賜りますよう宜しくお願いいたします」
昴くんが畳み掛けるように話して深々と頭を下げ交渉をここで終わらせようと試みた。
時間も深夜に入りアイリーンの目論み通り相手は眠そうな表情をしている。
それに目の前に居るアイリーンと昴くんは海王族にとって英雄、リバイアサン王とレヴィ姫を助け出した命の恩人なのだから面と向かって敵対することはできない。
「そちらの言い分は良くわかったレヴィ姫と共にこれ以上逃走しないと約束してくれるのならば是非もない……事だと思うのだが毎日とは言わないから2日に1度はレヴィ姫と会う機会を作ってもらえることを条件に加えてもらえるか」
「その条件は僕たちだけでは返事ができませんレヴィ姫同席の元で返事をさせて頂きます」
「それでは明日もう一度来てもらおう、今日はこれで解散とする」
プローンはそう言うとこれ以上会話を続ける意思がないと言わんばかりに立ち上がり二人に背を向けて部屋から出ていく。
「レヴィに会わせてもらえなかったのはなぜかしらね」
艦船連絡シャトルの中でアイリーンが昴くんに聞いている。
シャトルはオートパイロットなので話しでもしていないと暇をもて余してしまう。
「僕たちが来ることを伝えてなかったと思うよ、レヴィさんが出て行こうとするのを力ずくで止められる人はそうそういないだろうからね」
「だから続きは明日になったのね」
「明日は一緒に連れて帰れるといいね」
「最初にプローンのことは嫌いよって言えば良かったのかしらねぇ~」
「人を見かけで判断してはいけませんって教わらなかったのかい」
「エビは嫌いよってハッキリ言ってあげても良かったのかしら」
「私の前では変身しないでの方が良いと思うよ、エビに変身したところで何の役にも立たないと思うしね」
「飛び跳ねるくらいかしら」
「いくらなんでもそこまで言っちゃったら悪いんじゃあないかなあ」
アイリーンと昴くんがお腹を抱えて笑いだす。
プローンのことを散々に言っている二人だけどエビに秘められた常識破りのパワーとプラズマ衝撃波をも発生させる超能力の持ち主であることはまだ知らなかった。
それから3日後の昼過ぎアイリーン、昴くん、ピエロ、ルビー、レヴィの六人がカシオペア戦艦の連絡シャトルに乗り目的の妖精さんを探すため惑星bから伸びる軌道エレベーターへ向かっていく。




