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210.アケルナルの戦い8

 アイリーンが『うずしお』と呼んだ人工的に作られたコスモトンネルから出てきた艦船はBちゃんこと戦艦バトルシップナインティナインとレヴィ姫探索中の海王星を支配する海王族戦艦3巡洋艦8の合計12隻。

 アイリーン達が鹵獲した瀕死の戦艦を入れても13隻。

 これに対する敵は18隻。

 不利な戦いが始まろうとしているのだけど今終わったばかりの戦闘内容をあっちは知らないはず。

 それに対してこっちはだいたい把握しているつもり。

 カシオペア艦隊は戦艦3巡洋艦6護衛艦9のくさび形密集隊形で突撃してくるだろうと思われる。

 複数の艦船をシュー・ウォッシュナビさせる時は先頭の艦だけ妖精達を乗せると聞いているので戦闘が激しくなる前に妖精と地球人を前回と同じ要領で救出予定。

 ただ今回は追加があってスターキッドに残っているありったけの弾薬を置き土産にしていた。

 当然それはタイマー仕掛で爆発させている。

 妖精達を救出したスターキッドは迫り来る爆風を引き離しながらB99の小型艇溜まりに無事着艦した。

「それじゃあ打ち合わせ通り行動開始よ」

 コクピットでアイリーンが指示を出す。

 フレアホースを左肩に乗せたロースがスターキッド倉庫内でひしめき合っている30人の地球人と6人の妖精それに2体の精霊獣を引率してB99のナチュラルエリアへ移動させていく。

 昴くんはスターキッドに弾薬とか消耗品の補充を指示している。

 B99で艦長代理をしているのがゴートだと聞いたアイリーンは突然の腹痛に襲われたけど決死の思いでこれまでの経緯とこれからの計画を報告した。

 ゴートが余計なことを一切言わなかったのでかなりの短時間で事務的に報連相は終了する。

 実は腹痛を堪えて青い顔をしたアイリーンを見たゴートは一騎当千の期待を課せられ辛い思いをしているのではないかと心配したのだった。

 無事に報告を済ませたアイリーンは腹痛も治まって艦長代理に手配してもらった乗組員をスターキッドに乗せて鹵獲した戦艦へ行き石橋艦長に引き渡す。

 石橋艦長は新任乗組員に配属命令と指示を出してからB99へ帰還した。

 石橋艦長を補佐していたアシュラとレヴィはスターキッドに帰ってくるといつもの持ち場に着きB99よりこっちの方が居心地が良いと言ってやって来たピエロがコクピット後ろの定位置に立つ。

 戦闘はまだ続いていたけど海王族艦隊の攻撃はえげつない程強力で既に敵は戦艦2巡洋艦3の5隻しか残っていない。

 スターキッドも戦闘に参加する。

 今回の戦い方はアイリーンが唐突に言い出したもので敵戦艦を追い越し掠める時にスターキッドの倉庫からボーリングの球をバラバラと艦橋目掛けて落とす。

 まあ実際にはボーリングの球みたいな鉄の塊なんだけど戦闘宙域にゴロゴロと漂っている破壊された敵艦の破片を適当に回収したもの。

 だけどその効果はバツグンでレールガン程の威力があった。

 スターキッドが戦艦1隻を屠っている間にB99がもう1隻の戦艦を主砲による一斉射撃で撃沈している。

 敵艦も攻撃してきているのだけどそれは副砲とかの弾幕と防御バリアで防ぐことができていた。

 B99と海王族艦隊にとって短期決戦は絶対条件になっている。

 何故なら140光年の距離を時空間ショートカットでやって来ている彼らにとって、ちょっと補給に戻りますなんてことは絶対に言えることではないのだから。

 だから必然的に戦い方も横陣体形になり弾幕の圧力で一方的に押し切っていた。

 本当に助かったのは敵が人質を盾にしなかったことにもあるのだけど、そんな暇を与えなかったのも事実。

「思ってたよりは簡単に終わったのかしらね」

 アイリーンが操縦席から立ち上がりスクリーンを見上げながら言う。

「敵がこれ以上現れなければだよね」

 アイリーンが離席したから副操縦席の端末へスターキッドのチェックリストが自動的に移行した。

 それを昴くんが確認する羽目になったのもあって少し機嫌が悪い。

「敵がいきなり現れたと言っていた宙域にこの辺の残骸を散りばめて置くといいのじゃないかな」

 後ろからピエロが1つの提案を出す。

「それはいい考えだと思います。シュー・ウォッシュナビとかテレポートですと現出地点に異物があれば全く違うポイントへ転移されるのでしたね」

 アシュラが賛同して説明を付け加えた。

「わかったわ、じゃあこの辺のゴミをあの辺にぶちまければ良いのかしらね」

「愛鈴言い方をもう少し柔らかくしようね」

「またゴミで倉庫が一杯になるのは嫌だなー」

 スターキッドAIが愚痴を溢す。

「終わったらきれいに掃除してあげるから我慢しなさいよねー」

(昴くんがね)

 アイリーンはチラッと横目で昴くんを見るけど既にデブリの回収作業に没頭しているみたい。

 彼女がまだ席に戻らないから基本作業は副操縦席の業務になったまま。

 アシュラとレヴィは周辺警戒に全力を注いで欲しいから声を掛けない。

 昴くんは仲間の艦船が走査し終わった宙域を移動しながらデブリを回収し敵が空間移動を使って現出してくると思われる箇所にできるだけ均一になるように散布する。

「今度こそ終わったのよね」

 アイリーンは昴くんが倉庫の掃除に行ったので操縦席に座った。

 まあ以前からスターキッドの操作について訓練という名目で昴くんにお任せしていたのはいつもの事だけど。

「これだけ撒いてれば敵に囲まれることはないと思うけどさ、愛鈴は僕たちがここへ来た理由ってのをまだ覚えてるよね」

 倉庫の掃除を終え戻ってきた昴くんはまだ不機嫌。

「この子ったらいきなり何を言い出すのかしらね戦いは終わった、のよ……じゃなくて、よ、妖精さんかしら、お兄ちゃんに昴くんの魂を入れて蘇らせるのが目的だったかしら」

「わあ言ってることが滅茶苦茶になっているよ僕の中で眠っている石井光一さんの魂をクローンに入れて蘇らせる事ができる妖精さんを探し出してお願いするために来てるんだからね、これからが始まりなんだよ」

「そうだったわね、でも今はなんかもの凄く眠いのよね疲れちゃったのかしら、もう何も考えられないのよ」

(倉庫を一人で掃除してきた僕も疲れてるんだけどなあ)

「だったら無理をせず休むと良いよ、まだ十分回復していないかもしれないからね、それに地上へ下りられるのはまだ先になると思うよ」

「それもそうね、それじゃ後はお願いするわア~フおやすみ」

「愛鈴仮眠室には誰も居ないんだからさベッドで寝なよ」

「ムニャムニャ……お腹が空いたわ」

「何も食べずに眠ってしまわれるなんてやはり相当疲れてらっしゃったのですわ」

 レヴィが心配そうに寝顔を覗いている。

「レヴィさんは大丈夫ですか」

「何もしていませんでしたから大丈夫ですよ、本当は歌いたかったのですけど良いタイミングがありませんでしたわ」

「そう、それは良かった……じゃなくて残念だったですね」

 昴くんはレヴィが放つキツイ眼差しに気付き言い換える。

(誰もまだ指摘していないけどあの海王族艦隊はレヴィ姫を追い掛けて来てるんだよなあ)

 昴くんは敵との艦隊戦には勝利したけどこれから始まるだろう身内との舌戦のことを想像してブルっと身震いを起こす。

「B99へ帰還連絡しますか」

 アシュラが指示を求めている。

「あっちはまだ忙しそうだよな、もう少し待とうか」

「了解です」

 戦闘が終わったばかりの戦場でB99と海王族艦隊は横一列に体形を整えゆっくりと行進している。

 別に凱旋気取りでいるわけではなく燃え残った希少部品や脱出ポットの回収とか希に居る宇宙服の中で生きている人を救助するために。

「あっ、そうだ地上の様子がどうなっているのか確認しとかなきゃあ愛鈴が起きた時に怒るかもしれないな」

 仲間が一生懸命働いている姿を正面スクリーン越しにボーッと見ていた昴くんが口走る。

「地上にはまだ敵兵が残っているかも知れませんわね」

 レヴィが新たな心配事を発見した。

「もし居たとすれば住人を人質に取ったとかひと言ぐらいは脅してきたはず、だがそれはなかっただろう」

 ピエロがやんわりとそれを否定する。

「私も同感です。でも立派な建物が幾つもありますからそこを管理する人は居ますよね」

 アシュラの考え。

「そうだな気になるところではあるかな」

「その人達が友好的だったら良いですね」

「最初から馴れ馴れしい様子だったらスパイの可能性を疑わないといけないな」

「そうかー、危うく見逃すところでしたよ」

「十分気を付けないと私たち全員が人質になってしまう可能性だってあるのだからな」

「もしそんなことにでもなりましたら全てがひっくり返ってしまいますわ」

「まあ全員で降りるなんて迂闊なことはしませんけどね」

「迂闊なことをしなくてもだなアイリーンは誰が人質になろうと屁とも思わないだろうが、もし君が人質に取られたら宇宙全部を敵に回してでも助けようとするだろう」

「そんなことにはならないように努力しますよ」

 さしあたっては惑星bを上空からくまなく見て回ることにした。

「地上に下りるには軌道エレベーターを使うしかなさそうですね」

 惑星bの赤道上に4本の軌道エレベーターが等間隔に立っている。

「まあ無理矢理になら下りられそうだがどこに降りてもパニックは起きるだろうな」

「僕もそんな気がします、空から宇宙船が下りてくるなんか見たこともないでしょうからね」

「じゃあもう少しだけ見たらB99へ戻るけど目的の妖精さんがどの辺に居るのか分かりそうかなあ」

「ここからでは無理がありますでしょう、地上の管理者にお尋ねした方が確実で早いと思いますわ」

「見えている所、居ないとと思う」

「それじゃあひとまずB99へ戻ろうか」

 スターキッドが惑星上空から遠ざかって行く姿を地上の管制官が訝しげに見送っていた。

挿絵(By みてみん)

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