209.アケルナルの戦い7
スターキッドは8隻の敵艦から発射される攻撃を躱しながら大胆不敵に飛び回っている。
小隕石群からアケルナル惑星bまでスターキッドなら数時間もかからないので単騎でやって来ていた。
巡航速度は秒速24万Km最高速度は光速を超えることも可能なスターキッドの機敏性能はリバイアサン救出のために地球へ向かう途中で現れたカシオペア残敵との戦いで十分証明されているところ。
だからまずは撹乱戦法。
そういうことで敵の射程範囲内を五月蝿い蝿みたいに飛び回る。
そもそも秒速1万Kmのスピードで目の前を通過されても認識なんてされるわけがない。
だから敵艦の前ではスピードを落としお尻ペンペンみたいなことをして挑発している。
それをそれぞれの敵艦前で繰り返し行った甲斐あって今では艦隊と呼べないほどバラバラに引き離された状態になっていた。
すなわち各個撃破の好機が訪れたのだけど悲しいかなスターキッドの火力では致命傷を与えることはできない。
そこがこの作戦のポイントとなるところで敵の戦艦は攻撃されてもハエにたかられている程度とナメてかかり猪突猛進の如く向かって来ては重火器で攻撃してくる。
それを軽く躱して敵将のイライラを募らせ正常な判断を狂わせていく。
「もうそろそろ行くわAちゃん任せたからね」
「早く戻ってきて下さいよ」
「愛鈴ダメだと思ったら躊躇わずに直ぐ戻るんだからね、チャンスは1度きりなんて思わないことだよ」
「わかってるわよ!」
「着艦!」
着艦とは言うものの実際はスターキッドが敵戦艦の脇腹にへばり付く。
「GO!」
その合図より先に操縦席からアイリーンの姿が掻き消える。
この宙域にいるカシオペア戦艦の内部構造は全て一緒だとは既に調査済み。
攻撃破壊する前に妖精さん達と地球人を救出するんだと駄々をこねるアイリーンに石橋艦長を含めたクルー全員が屈した。
敵戦艦内で閉じ込められている妖精さん達へ着艦と同時にロースさんが『いま目の前に現れた人は味方だから一緒にこっちへ来て』とテレパシーで伝える。
「戻ったわ石橋艦長を呼んで!」
スターキッドの倉庫でアイリーンが叫びそれをそのままコクピットで流す。
急速離脱するスターキッドの後方で今までへばり付いていた敵戦艦が舳先から閃光に包まれていく。
その原因を作った光の軌跡は鹵獲した戦艦から放たれたもの。
そして敵戦艦が完全に光の塊となる前に新たな光が矢となってその後方に居た敵巡洋艦に突き刺さる。
石橋艦長指揮によりカシオペア戦艦自慢の三連装砲塔から三門同時速射が始まっていた。
スターキッドは敵を撹乱させながらその配置をボーリングのピンみたいに並ばせている。
当然ヘッドピンにあたる位置に居るのは敵戦艦。
アイリーンが操縦席から消えて40秒も経っていない。
「ストライク! とはいかなかったわね」
コクピットへ小走りで戻ってきたアイリーンが開けた扉の所で残念そうに言うとボウリングのボールを投げる様な仕草をして操縦席に滑り込む。
「巡洋艦が2隻と護衛艦が2隻スプリットみたいに残ってしまったよ」
「まあまあじゃないかしら護衛艦はうちらの獲物だからって石橋艦長に伝えて」
「了解」
アシュラが返事する。
「ストライクとかスプリットって二人だけの暗号なのかしらね」
環境管理席で聞いていたレヴィは気になってボソリと言ってしまったのだけど今はそんな余裕がないことも十分承知していた。
アシュラはそんなレヴィに後で説明しようと思いながら礼儀正しい言葉に変換して連絡している。
石橋艦長が指揮を務める鹵獲したカシオペア戦艦は惑星bでスターキッドを追いかけ回している敵艦の索敵範囲外までシュー・ウォッシュナビを使って来て待機していた。
最初から姿を見せていたらこんなには油断してくれなかっただろうから。
だから最高のタイミングになった時、敵鼻先へ2度目のシュー・ウォッシュナビで現れたわけ。
それを見た敵巡洋艦が反撃の狼煙を上げたのだけど初弾は防御バリアで阻む。
「目標右舷敵巡洋艦一斉射撃開始!」
石橋艦長が指揮棒宜しくサイバシで前方大型スクリーンに映し出されている敵巡洋艦を射す。
「了解」
これもアシュラの返事。
「左側敵艦より攻撃、着弾まで5秒!」
レヴィが叫ぶ。
「俯角15度右5分旋回急速前進」
石橋艦長も叫ぶが一段高い指揮卓からではなくその下の操舵席から。
そして自ら舵を切っている。
「推進装置左1基被弾……出力30%ダウン」
「被弾部パージ! 左90度回頭」
自分の艦ではないので心を痛めることなく簡単に切り捨てられるのは良いことだと思った。
氷漬けにしたままの捕虜は宇宙へ放り出されてもバラバラにならない限り暫くは持つだろう。
「左第2射来ます!」
「構わず撃て! 撃てるものは全て打ち出せ」
(こいつを沈めれば残りは護衛艦2隻だけになる、その内1隻はスターキッドが何とかするだろうから……)
「敵巡洋艦2隻目撃破当方被害なし」
「アイリーンの応援に向かう座標確認」
「左斜め上距離15万Km」
「結構離れたな到着まで25分ってところか」
「あっ、護衛艦2隻が同時に爆発しました同士討ちみたいですね、スターキッドは無事です」
「何と言う幕切れだ」
「こちらスターキッドキャプテンアイリーン石橋艦長応答願います」
「こちら石橋そちらは無事かな」
「こっちはスターキッドを含め全員傷1つ無いわ、そっちは大変みたいだけど大丈夫かしら脱出するなら救助に向かうけど」
「いや大丈夫、少し遅れるが予定通り惑星bで合流しよう」
「了解、じゃあちょっとアケルナルの裏を見てくるわ、あっ、物見櫓じゃないからね索敵なんだからね」
「愛鈴それは物見遊山って言うんだけど遊びに行くって意味だからあまり言わないほうが」
昴くんがいつものように訂正を入れようとしている時スターキッドAIの緊張した声で中断する。
「敵影確認、前方距離60万Km突然出現したのでシュー・ウォッシュナビだと思います」
「それで何隻なのかしら」
「現時点で戦艦3巡洋艦6護衛艦9の合計18隻です」
「3艦隊かしらね1番最初に戻ったんじゃないかしら」
「逃げ、戦術的撤退しましょう」
「最近のAちゃんは逃げる事だけを一番に考える様になったわね、それを誤魔化すように何でもかんでも戦術的を付ければ良いってもんじゃないわよ、ここは単純に逃げの一手しかないかしら」
「石橋艦長へ緊急連絡、こっちに来ないで戻って」
「こちら石橋、前方に現れた艦隊を確認した敵で間違いないのだな」
「そうよ、直ぐに戻るからシュー・ウォッシュナビの準備をして……下さるかしら」
アイリーンはスターキッドの中だったらキャプテンである自分が上官なんだけど今の石橋艦長は鹵獲した敵戦艦の仮とはいえ艦長なんだからあっちが上官なんだろうかと思い言葉遣いを変えた。
「了解」
石橋艦長はあまり気にしていないので淡白な返事で返す。
「それにしてもだよ、やっとの思いでクリアしたと思ったのに後になって全回復するのってすごく卑怯な手口だとは思わないかい」
昴くんはこんなに心が折れそうになる戦いは真っ平ゴメンだと思った。
「うちも同意見かしらそんな奴らにはミジンコの欠片も構ってあげる必要はないかしらね」
「愛鈴はいつも微塵をミジンコって言うのはもう癖になってるみたいだから早く直そうね」
「わかっ、てるわよそうよちょっと場を和ませようとしただけかしら、それよりほら石橋艦長も遠距離威嚇射撃を始めたみたいだわよ」
「僕たちの退却を援護してくれてるみたいだね」
「石橋戦艦へ急ぐわよ」
スターキッドが味方戦艦が発射している弾幕の中を突き進む。
もしも当たったりすれば木っ端微塵になるのだけどそこは敵味方信号のお陰で弾は全てスターキッドを避けていくみたいに見える。
「Aちゃん外板にへばり付いたら直ぐにシュー・ウォッシュナビするように連絡しているから置いていかれないようにするのよ」
「ラジャー? 戦艦後方宙域に高重力場確認、空間が歪曲していますよー」
スターキッドAIがすっとんきょうな声を出した。
「石橋艦長後ろに敵艦隊出現かもよ、うちらが間に合わない時には先にシュー・ウォッシュナビで逃げて」
「今確認中だが、あれは高重力場による瞬間移動航法の様だ人工的にコスモトンネルを作ったみたいだな、君が以前言っていたケンタウルス族の『うずしお』かも知れないぞ」
「あれは『うずしお』なの、じゃあ天王星のレッド隊長が140光年も長いトンネルを掘って来てくれたのかしら」
アイリーンの表情が嬉々としている。
「まだわからんな、だが先頭はB99で間違いなさそうだ」
「Bちゃんが来たって言うの、それこそ鬼に金棒だわ」
「この場合の鬼は愛鈴かな」
昴くんが茶化してアイリーンを落ち着かせようとした。
「バカなことを言わないでよね、でもそうね鬼になってあげても良いかしら、さあ蹴散らしに行くわよ」
結果は見ての通り落ち着くどころか更にエスカレートしていく。
「アイリーンやめようよ~手を離してー」
スターキッドAIが手動操縦に切り換えられたことに抗議をしている。




