208.アケルナルの戦い6
小隕石群に留まるようにして15日が経過していた。
その間は破壊された敵艦の希少部品を回収したり敵がバラ撒いている超小型検知センサーを改造自分達のものにして再設置したりしている。
敵がどう出て来るのかを見定めるのも理由のひとつになっていた。
捕虜にした敵兵幹部を暗示にかけ聞き出した情報によると惑星bに残された戦力は戦艦1巡洋艦3護衛艦4の合計8隻で間違いない。
それが惑星で生活する地球人を人質の盾として守りに徹している。
これから先、敵が仲間の増援を呼ぶかどうかは司令官の考えひとつらしい。
スターキッドに戦闘を挑んできた彼らは消極的な司令官に業を煮やした有志軍だと言う。
彼らは時空間移動をするためのシュー・ウォッシュナビを消耗が激しい使い捨て道具みたいに扱っている。
そんな彼らはシュー・ウォッシュナビの存在やアケルナルで行われていることを極秘扱いにしていたのだけど11年前太陽系への侵攻が失敗に終わった時、捕虜の口からシュー・ウォッシュナビの事だけが漏れてしまっていた。
だからアケルナルのことは今でも一握りの幹部しか知らないのが事実。
当時侵略を阻止した東域宇宙和平維持連盟で幹部を務めていた北方星域星人は全てスパイ容疑で捕らえられたのだけどその対応は極めて難しかったらしい。
何故なら侵攻してきたのは北方星域で活動しているテロリストでその首謀者が当時の地球防衛基地副司令官ヘンナただ一人だけだと言い訳されたから。
加えて厄介この上ない事に連盟を立ち上げた有志の一人がヘンナの母国カシオペア座カフ星人で初代司令官になっていたのもあった。
まだ表に出ていないアケルナルに関してもし追求されるようなことがあっても連盟を立ち上げる遥か以前に地球人を自然へ還すため実行したものだから違法ではないし時効が成立していると弁明するつもりでいたとのこと。
ただ強制的に一つの集落毎地球人を連れ去っている上、自然に祈りを捧げ妖精を生み出す道具として扱っているので箝口令を敷いて露見するのを防いでいた。
最後まで侵攻には関わっていないと主張する彼らは『これ以上我々と対峙するのであれば武力による会話に踏み切らなくてはいけなくなるのだが君たちにその覚悟はあるのかな』と脅し文句で終わらせている。
それからも粘り強く穏便な話し合いを続けた結果スパイ容疑は解消されるけど同族が犯した罪の連帯責任として一般職へ降格することで落着させていた。
まあ、その甘い罰のせいで後に反乱を起こされているのだけど。
シュー・ウォッシュナビは非人道的なものだから禁止すると言いたいけど言えなかった理由に北方星域連盟は全く別の勢力であり迂闊な事を言えばこれまた争いの火種になりそうなのと、あわよくば東域宇宙和平維持連盟もシュー・ウォッシュナビにあやかりたいと考えていたのもあった。
アイリーンはそんな事が過去に起きていたとは知る由もない。
ただアケルナルへ行けば昴くんの中で眠るお兄ちゃん石井光一の魂を一人の人間として蘇らせることができるとイノマンが告た時、それ以上は何も聞かず考えずに飛び出していた。
後日それがウッディ族妖精エントリーの助言であったこととそこに住む妖精ができるであろうということを知る。
アイリーンは人の魂を扱える妖精を探しにB99でアケルナルへ向かっていたのだけど予期せぬ出来事によりスターキッドだけで到着してしまっていた。
アケルナルで展開していたカシオペア艦隊から逃れるために身を潜めていた小隕石群の戦いで敵戦艦から救出した妖精と地球人の証言によってアケルナル第2惑星bが古代文明時代に連れてこられた地球人によるコロニーであることが知れそこでは多種族の妖精も一緒に生活しているとのこと。
乗っ取ったカシオペア戦艦乗員の北方星域星人は宇宙人の中でも特に耐寒能力に長けている種族だとレヴィが保証したので捕虜全員を1室へ押し込み冷凍保存して生かしている。
まあレヴィの父親リバイアサンがそうであった様に。
アケルナルへ来て15日目の夕食前、スターキッドの面々が鹵獲した戦艦の艦橋に集まって情報共有をしている。
「今日も収穫なしだわね、もうそろそろ出ても良いんじゃないかしら」
アイリーンが腰に手を当てて言う。
じっとしているのはもう限界みたい。
「そうだな敵はなぜ増援を呼ばないのかが気になるところではあるのだけどな」
石橋艦長がお気に入りにしている指揮棒代わりのサイバシで手のひらをピシッピシッと打っている。
当然のように指揮卓を占拠しているのだけど結構様になっていた。
まあ手にしているのがサイバシでなければもっと格好良かったはず。
「既に到着している可能性はないのですか」
昴くんが一段高い場所を見上げて言う。
「そうだな敵は十分な戦力を得た、だがそうなれば攻撃してこない理由がわからないとは思わないかな」
「こっちが出てくるのを待っているのではないでしょうか、戦場を自分達の有利な場所に設定したいと考えているのかも知れませんね」
アシュラが答えた。
「生け捕りにしたいと考えていらっしゃるのかも知れませんわね、あちらにしても情報不足だと思いますわ」
「レヴィにとってはそれが一番嫌かしらね人魚姫の活き造りって……」
「愛鈴それ以上言ったらダメだよ、親しき仲にも礼儀ありだからね」
「悪かったわレヴィごめんなさい、つい調子に乗ってしまってタブーを犯してしまったわ、この罪の罰としてうちを罵ってくださいませ」
深々と頭を下げる。
「ボケ、カス、マヌケ……」
スターキッドAIがレヴィの声まねをしてアイリーンが持つ通信機より言ってきた。
「あ~っ、Aちゃん何であんたが言うのよー、このスットコドッコイ!」
アイリーンが右手を振り上げたけどどこに振り下ろしたら良いのか迷い……隣の昴くんの頭をはたこうとする。
「愛鈴、親しき仲にもだからね」
昴くんが苦笑いしながらその手を掴む。
「わかってるわよ、この罪の罰としてうちをギューっと抱き締めなさいよね」
自分が何を言っているのかわかっていないみたいで平然としている。
昴くんは赤くなっていく自分の顔を気にしながら皆の視線を確認してアイリーンの頭を優しくポンポンと叩く。
(愛鈴がおかしくなってしまう前にここから出てストレスを解消させないとこれから先が思いやられる気がするよ)
「まだ他にも選択肢があるのだけど君たちは気付いてないのかな」
「更なる戦術的退却はどうでしょうか」
アシュラが新手の提案をする。
(選択肢の1つで間違いないですものね)
「ちょこっとづつ後退して敵の戦線を伸ばす作戦よね」
アイリーンが少し覚醒した。
「それよりはさあ、今ならB99までシュー・ウォッシュナビができると思うよ」
「そうだったわ、この戦艦には妖精さん達の仲間と生気を与えられる地球人が15人も乗っているんだからスターキッドを格納庫へ押し込んで跳ぶのは余裕じゃないかしら」
アイリーンがなんでもっと早く言わなかったのよって顔をした。
「でも、それをやって戻って来た時、ここには誰もいなくなってるハズ」
ロースもこの話し合いには参加している。
「どういうことかしら」
「シュー・ウォッシュナビで跳べるのはフネだけではない」
「惑星ごと瞬間移動ができるとでも言うのか」
さすがの石橋艦長も自分の発想に驚く。
「あの星には仲間が大勢居た、他にも沢山、その人達全員の意志が一つになった時、願いは叶うハズ」
「なぜ今しないのよ」
「全員の意識を、一つに集中させるのに時間がかかる、その間に攻撃されたら、水の泡になってしまう」
「水の泡って意味がわからないけど良いことを聞いたんじゃないかしら、居なくなったフリをしてバーンってやっつけちゃえばいいのよね」
「そんなに上手くいくとは思いませんわ、私なりの考えですけどこの戦艦に乗っている妖精と惑星の妖精は希薄ではありますけど繋がっていらっしゃるのではないでしょうか、ほらロースさんも近くであれば仲間の悲鳴が聞こえるとおっしゃっていたでしょう」
「妖精を介せばやっている事が筒抜けになるのは厄介だな」
「あちらとは結構な距離がありますでしょう、だから感情が高まった時の波動を感じるくらい例えばシュー・ウォッシュナビの前兆はわかると思いますの」
「それならばやりようは何かありそうだな」
石橋艦長が椅子に座り天井を仰ぐ。
しばらくする間もなく鼾が聞こえてきた。
「あの艦長クラスになると作戦は寝ながら考えるのかしらね」
アイリーンが小声で昴くんに耳打ちする。
(愛鈴こそばゆいよ)
滅多に聞けないアイリーンのこそこそ話しに昴くんはゾクッとしたものを感じた。
「それじゃあ皆さん今日はお開きにしましょう、明日は各自の考えを発表しませんか」
(いつまでも『作戦が~』とか言わずに進むか留まるか戻るかこの3つのうちの1つに決めればいいんじゃないかと思うんだけどなあ)
「ねえ、ねえ聞こえてるのかしら、さっきから呼んでいるのだけど」
「あっ、悪かったよちょっと考え事をしてたんだ」
「晩ご飯はこっちで食べて戻りましょうよ」
「別に良いけど何かこだわりでもあるのかい」
「味付けがちょっとだけ違うのかしら、こういうことは思う存分堪能しなくっちゃ後で後悔するんじゃないかと思うのよね」
アイリーンが腕を引っ張ろうとする。
(その理由を考えようとしないところがいいのか悪いのかはわからないけど今回は知らないほうが良いんじゃないかなあ)
「わかったよ付き合うからそんなに強く引っ張らないでくれるかなあ」
(よし、明日はここから出ていく方向で話を進めよう)
『早く帰って来ないかなあ~』
誰もいないコクピットでスターキッドAIが寂しそうに呟いた。




