206.アケルナルの戦い4
スターキッドがシュー・ウォッシュナビのテストを行い、アケルナルへ現出した途端いきなりカシオペア戦艦より攻撃を受けたのでアイリーンが返り討ちにしていた。
状況確認と疲労で倒れたアイリーンが回復するまでの時間稼ぎをするため小隕石群に隠れて過ごす。
その時スターキッドAIは敵の追跡隊は巡洋艦とその護衛艦合計2隻による高速機動艦隊で編成されてくると予測していた。
敵にとってこちらの戦力と戦術が全く不明だから迂闊には動けないだろうと踏んでいたから。
だけど現実には自分達の兵力を半分に分けて小隕石群へ向かわせている。
「あれだけの火力を持ち合わせているのですからチマチマと調査したりせず遠距離攻撃で小隕石群毎一掃するのではないでしょうか」
昴くんは石橋艦長が危惧している事柄について具体例を示す。
これも現場教育の一環なのだろうか。
(結果が出た後で『僕もそうじゃないかと思ってましたよ』なんてスターキッドAIみたいなことは言いたくないから先に言っておかないとね)
そういう訳でもなかったみたい。
「昴くん、いま僕の悪口を言いませんでしたか?」
スターキッドAIがボソリと言う。
「イヤ何も言ってないし思ってもしなかったよ」
しらっと無難な返事を返す。
「ならいいんですけどね」
(鋭い勘だよ、本当にコンピューター離れしたAIになってしまったんだね)
昴くんはこのまま成長すればそのうち人知を越えた恐ろしいモンスターAIになるんじゃないかなとちょっと心配したけど現実離れした夢想だと判断する。
「あ、あの艦隊速度なら小隕石群到着は12日後になると訂正します。いいですか」
「……了解よ」
(今、スターキッドAIとアイリーンの会話が下手な芝居みたいにギクシャクして聞こえたのは気のせいだろうか)
昴くんが何かしらの違和感を感じたのだけど、それには理由があって昏睡状態で寝ていたアイリーンが目覚めて2日目の未明一人コクピットで当直当番している時にスターキッドAIが懺悔してきた。
『アイリーンがアポーツを使って昏睡状態になっていた時にですね敵は18隻と石橋艦長に断言してしまったんですよ~、でも後で思い出すと最低18隻と言わなくてはいけなかったことに気付いてしまったんですね、あの短時間では限られた範囲しかサーチできなかったので星の裏側で着陸していた艦船があったとしたらカウントされていないんです。あとあの惑星は人工ではないのですけど色々と改造されて地球に似た環境になっていました。そしてサーチできた範囲での熱源反応を分析するとかなりの人数が生活していると思われたのですよ、何しろ情報を得るための時間がなかったのと得られた少ない情報を分析するのに時間がかかってしまったんです、石橋艦長にこんなことが知れたらどんな仕打ちを受けるか気が気でなくて夜も眠れないんですよ~、助けてもらえませんか』
アイリーンはスターキッドAIが過去にも我儘を言いながら泣きついてきて手を焼いたことがあったように思う。
『わかったわよ、だったら様子をもう一度見に行くわよ、その時に改めて報告し直せば間違いが帳消しになるのではないかしら、何だったら敵がここへ辿り着く前に何往復でもできるでしょう、その間に上手く誤魔化すのよ』
『アイリーンと僕だけの秘密にしておいて下さいよ、よろしくお願いしますね』
『わかってるわよスターキッドAIが天気予報並みにポンコツになったってのはバラさないでおいてあげるわ』
という経緯があった。
「小隕石群へ向かっているのが9隻ならばアケルナルに残っているのは8隻か……アイリーン先に言っておくのだが決して戦おうと考えてはいけないからなスターキッドに追いつけるものはないのだから回避を優先させるのだぞ」
「わかってるわ」
素直な返事を返す。
(こっちから戦いを挑んだりしないわよ)
アイリーンは応戦なら仕方がないことなので反撃ならやっても大丈夫と思うことにした。
スターキッドはシークレットモードに移行して更に動力を切り慣性飛行で敵地へ侵入していく。
「こっちのことをアケルナルを周回する彗星とでも思ってくれると嬉しいのだけど」
「敵のサーチに掛からないのが一番の理想だと思うよ」
(あっそうか、でも今更だよな)
昴くんは今になって光妖精のコウちゃんにカムフラージュをお願いすればよかったんじゃないかと後悔する。
「こちらの索敵範囲に入りましたですわよ」
レヴィが報告してきた。
「探索を慎重に続けてね、気付いたことがあったら直ぐに報告よ」
隠密行動をしているのだからとアイリーンが小声で言う。
「愛鈴、ここでの声は外に漏れないからひそひそ声で喋らなくてもいいんだよ」
「あら、気持ちの持ち方かしら見つからないようにって願いが込められているのよ」
「わかるけどさ、命令する時には大きな声にしてよね」
「わかってるわよ、それで敵の様子は分かったのかしら8隻で間違いないのよね星の裏側で着陸している船とかないかしら……」
「あわわわわ、アイリーンもう少し近づくとか星の裏側へ回り込むとかしないとまだ具体的な数は分かりませんよ~」
スターキッドAIが焦ったように制している。
もし顔色が表現されていたなら青ざめていたことだろう。
「あの惑星に着陸できる施設があるとでも言うのかな」
石橋艦長がいつの間にかアイリーンと昴くんの間に入ってきている。
以前ロボくんがお気に入りの定位置にしていた場所だ。
「あの惑星はかなり改造され……ているみたいかしら見てわかるでしょう」
アイリーンがどぎまぎしながら言う。
「え~っ、わからないよ~レヴィさん拡大してもらえるかなあ」
前方スクリーンの中で惑星だけが拡大されていく。
「本当ですわ、惑星自体が半透明の膜みたいなもので覆われていますわ、赤道まわりは液体が帯状になって流れていますわねあれは海と呼んでもいいのでしょうか、その両側で広がっている緑色した場所は草原でしょうか森みたいなのもありますよ、あっ、あの建物から細長い棒みたいなのが突き出てるのは一体何かしらね」
レヴィが目新しい物を見つけるたびに感嘆の声を上げている。
「あれは軌道エレベーターじゃないでしょうか」
通信傍受に集中しないといけないアシュラだけどいつものように暇をもて余しているみたい。
「そうだな軌道エレベーターで間違いないだろう、そうすると地上へ着陸する必要がなくなるので宇宙港がいらなくなる、地表の有効活用に便利な代物だ。それであれは人工惑星で間違いないのだな」
石橋艦長は何もすることがなく手持ち無沙汰の様子で狭いコクピットの中を行ったり来たりしながら喋っている。
「自然の惑星を大幅に改造していると言ってたわよ」
「誰がだね」
「Aちゃんに決まってるじゃないかしら、あっ、言っちゃったよ~」
「『言っちゃった~』って何か隠し事をしてたのかなあ、ねえ愛鈴そこのところを詳しく教えて欲しいのだけど」
昴くんは挙動不審なアイリーンの首根っこを押さえた気分になった。
「敵の索敵範囲に入りました。距離を開けて下さい」
通信席で監視をしていたアシュラの報告。
(ちっ、運のいい奴め)
昴くんは追求を諦めるしかない。
「シークレットモードだから直ぐにはバレないかしら、だから距離を開けてそのまま星の裏側へ回り込むわよ」
「愛鈴、後できっちり説明してもらうからね」
「う~っ」
アイリーンは擬音で返事をした。
「星の裏側は恒星の光を利用したエネルギー転換膜で覆われています。これでは目視による確認はできませんよ」
「サーチが通りませんわ、あの膜はシールドの役目も兼ね備えているのでしょうかね」
「潜り込める隙間はないかしら」
「こちら側からでは無理ですね」
「突っ込まないのかい」
「地表に人が居るかも知れないのよ、もしあの天幕がバラバラになって地上に落ちたりしたら大変だわよ」
「何だって! そんな話聞いてないよ」
(愛鈴は一体どこまでの情報を隠し持っているのかなあ)
「スターキッド外表面温度が急上昇してます。このままではシークレットが溶けてしまいそうです」
「一旦退却するぞアイリーン命令を出せ」
「わかった、Aちゃん逃げるわよ」
「アイリーン手を離して!」
スターキッドAIが切羽詰まった声を出す。
「Aちゃん急いで」
「愛鈴、操縦桿から手を離さないと手動モードが切れないよ」
昴くんも焦ったように言う。
「えっ、あっ、そうだったわねごめんなさいね」
「13時方向急速旋回、俯角15度全速離脱!」
スターキッドAIが半ベソ声で叫びながら行動を起こす。
「惑星上空に居た敵艦3隻が22時方向よりこちらに向かってきてます」
「推進エネルギーに反応したわね」
「シュー・ウォッシュするか」
コクピット出入口に精霊獣を伴ったロースが現れた。
「テレポートするわよ」
「ダメだよ愛鈴とスーちゃんは回復したばかりなんだからさまだ養生が必要だよ二人とも瞬間移動は最後の手段だからね」
「そうだわ、うちもレヴィが飲んだっていうお酒……いえ栄養剤を飲んでくるわね」
アイリーンが立ち上がろうとする。
(軽口が言えるのならまだ大丈夫みたいかな……じゃあないだろう)
昴くんは同じ間違いを2度繰り返さない。
「ダメ、じゃなくてわかったそのまま座って待っててよ僕が持ってくるからね」
「私が探して持ってこよう暇だしな」
石橋艦長はここにいると口出ししたくて仕方がなかったので良い口実ができたとばかりにコクピットから出て行く。
そのタイミングでレヴィが立ち上がった。
「レヴィさんもダメだからね」
昴くんはレヴィの行動を先読みして気勢を制する。
「訓練の成果を試したかったのにですわ」
ポロン
既に竪琴を手にしていた。
(レヴィさん一体どこに隠し持っていたんだい)
昴くんはアシュラへ視線を向ける。
(次は君の番だね)
昴くんの視線に気付いたアシュラは通信席でイノマンのポーズを決めた。




