205.アケルナルの戦い3
アイリーンが希望した宴会はレヴィの体調が戻ってからにしようと昴くんが言い聞かせた。
「それもそうねレヴィが怒ったところなんか想像したくないわね、それで今はどの辺りに居るのかしら」
アイリーンがとりあえず現在置かれている状況を昴くんに聞く。
「最初の敵と遭遇したところから8億6千4百万Km離れた所だよ、あっちの速力が分からないけどB99と同じ秒速1000Kmで進んだとしても10日は掛かるだろうから色々準備をしてここで待ち伏せしようと考えているんだ、ここは隕石群の中だからねこっちの方が有利だと思うんだよ」
「レヴィがね敵はカシオペア艦なのでシュー・ウォッシュナビができるんじゃないかって言ったのよね10日なんて悠長なことを言ってられないかも知れないですね」
過去カシオペア艦を含む北方星域の艦隊が覇権を求めて太陽系へ侵略してきた時はいづれも時空間移動によって突然現れていた。
アシュラがその事を再認識させようと仮眠室の扉を開閉させながら言う。
「あら、それは多分大丈夫な筈かしら」
「そうだよまずシュー・ウォッシュナビをするには妖精さんと地球人が必用だから……」
「それにここはアケルナルで間違いないってスターキッドAIが言っていました」
「あらそうなのね、昴くんには思い当たる節があるのではないかしら」
(そうなんだよなあ、最初にアルファ星へ向かってる時とアルファ星へ下りる時と今回も跳ぶ瞬間に頭の中を一瞬掠めた思考の通りになったんだよなあ)
「まあそうだね、ごめんなさい。先に謝っておくよ」
「やっぱりね、今度シュー・ウォッシュナビする時はうちがドライバーをしてみるわ良いでしょう」
「そうだね3回目はお願いしようかな」
(B99に帰る時はシュー・ウォッシュナビを使うだろうしな)
「それとあいつらはシュー・ウォッシュナビが使えたとしてもここには来れないわよ、昴くんにはわかるわよね」
「目的地が分からないと跳べないんじゃなかったかな」
「そうよ、もしうち達が逃げた方向が分かったとしてもよどれだけ跳べばいいかってのはわからない筈かしら、だから使えないの」
「ねえ愛鈴さっきからここのカシオペア艦もシュー・ウォッシュナビが使えるって前提で話をしているけどさ、そしたら妖精さんと地球人が乗っているってことだよね」
昴くんの表情に不安の影が広がっていく。
「ロースさんが言っていたのにどうしてもっと早く気付かなかったんだろう、妖精さんを産み出し生気を与えられるのは一部の地球人に限られているって、そしてシュー・ウォッシュナビみたいな時空間移動ができるのは妖精さんとスーちゃん……精霊獣の力によるものだって、敵の艦には地球人と妖精さんと精霊獣が乗っていたんじゃあないのかなあ」
コクピットに戻ってきて昴くんは今にも泣き出しそうな表情をしている。
「まあ割り切るしかないな、人質を取ってからの戦いを仕掛けてくる戦術はよくあることだし効果は絶大だ、だから敢えてそういう戦いでは相手を完膚なきまでに壊滅させなくてはいけないのだよ、こんな作戦は無意味だと分からせるためにもな」
半泣きになった昴くんから事情を聞き出した石橋艦長が慰めようとしているみたい。
「でもそれは最低最悪の戦法だと思いませんか、地球人以外の宇宙人は愛という感情を持っていないか薄いのだよとアイン星人のオビスさんから教えて頂いたことがありました。もしかしたらプライドとか誇りも持っていないのでしょうか」
「いやそれは持っていると思う、ただ戦う時には足枷にしかならないからな置いてくるのだろうよ」
「あなたもサブキャプテンならわかりなさいよね悔しいけどうち達の命が1番、敵の捕虜になってる人達の命が2番ってね、うちはねより多くの命を助けられるのだったら目の前の一人くらいなら平気で見捨てられるかしら……でもその一人がもしあなただったら、わかるでしょう、うちは悪魔でも鬼になってでもあなたを助けるわ、だからあなたはうちがそうならないように十分気を付けるのね」
(仲間を助けるためなら知らない人が何人犠牲になろうと構わないってことだよな、これも後から改心させないといけないのかなあ、まあ今回はっと)
「絶体約束するよ」
(とりあえず納得させとかないと可愛い愛鈴なら夫婦鬼になろうって言いかねないからね)
「地球人と妖精さん達をいつもいつも戦艦に乗せているとストレスが溜まってしまいいざという時に使い物にならなかったりしたら困るでしょう、だからシュー・ウォッシュナビを使うとわかっている時だけ彼等を乗せるのではないかと私は考えているのですけど」
アシュラが言う
「ワタシもそう思う、ある日目覚めたら知らない場所に大勢の仲間と居た。そしてこのまま真っ直ぐ次の星の手前までシュー・ウォッシュしろと命令された。それにワタシの仲間が近くで死ぬ時は心の悲鳴が聞こえる、だけどここではまだ聞いていない」
昴くんの腕にしがみついたままのロースが伝えた。
「そうあなたが気に掛けている人達はまだ生きているってことで良かったじゃないかしら、じゃあこれから仲間の命を失わないための作戦会議を始めましょうか」
「それについては幾つかシミュレーションしているので説明をさせてもらえるかな」
「その中に『退避』を目的としたものがあればそれが一番良いです。それにしましょう」
スターキッドAIが唐突に口を挟む。
「それはないな」
「あんたは今までおとなしくしてたんだからもうしばらく口を閉じてなさいな」
アイリーンがお冠になったみたいにして言う。
「そうね生き残るための作戦なのだから『退避』の選択もあって然るべきだと思います。でもね皆の頭にその2文字が入っていないのも確かな事実でしょう、スターキッドAIも男の子なら戦わずして逃げるような思考は持たない方が立派ですよ」
アシュラの指摘。
「ああ、今ここに僕のルビーが居たら僕は彼女の中に退避できたのに残念だあー」
その吐き出すような言葉にコクピットに居た全員が顔を見合せ笑いを吹き出してしまう。
(ハムレットでも表現しようとしたかったのかなあ)
昴くんは心の中でそう思った。
それから3日が過ぎスターキッドはカシオペア艦の到着を待つことなく小隕石群を飛び出している。
それが綿密な計画に沿った石橋艦長の指揮によるものであれば良かったのだろうけどアイリーンがキャプテンの名を翳して短気な我が儘を押し通した結果そうなっていた。
その時の石橋艦長は『理屈も屁理屈も通らないのだな』と嘆き諦め仮眠室へ行って寝込んでいる。
それを見たアイリーンは『石橋艦長は臨機応変とか現場の判断って言葉を知らないのかしら』と言って自己弁護していた。
それ以前に仮眠室で回復の(酔いを覚ます)ため寝ていたレヴィは皆の祈りやアイリーンと昴くんが生気を与えたことで翌日にはベッドから出ることが叶い(二日酔いにもならず)今度は本物の栄養剤を飲んで元気になっている。
アイリーンはまあ唐突に出発したのだけど全く何も考えなしに行動したのではない。
『敵の偵察隊が来るのに10日もあるってんならスターキッドでアケルナルとこっちを何往復もできるでしょう。じっと待たずに撹乱戦法を使うべきじゃないかしら』と言えば良いのに『出て行くわよ』としか言わなかった。
皆は『成り行き任せのアイリーン』と思いながらもキャプテンの指示には従っている。
「Aちゃんの予想では敵とどの辺りですれ違うのかしら」
「あれから直ぐに追跡を開始してると仮定して3日が過ぎていますよね、でしたら秒速1000Kmで飛んだとしてアケルナル惑星bからおおよそ2億4千万Km地点を進んでいる筈です。そうするとあと1時間以内にはすれ違うと思われます」
スターキッドAIが珍しく至って真面目に返事した。
「スピードダウンして索敵検索に注視しましょう」
「ラジャー」
「了解」
アイリーンが言うとスターキッドAIの返事に続き副操縦席から昴くん、通信席のアシュラ、環境管理席に座っているレヴィと後方出入口横で仁王立ちしている石橋艦長が順番に連呼していく。
環境管理補助席を勧められた石橋艦長だったけどどちらかといえば正面を向いていたかったのでこの場所を希望した。
普通の戦艦クラスであれば指揮卓がある場所になっている。
「いま交差しましたわ」
みんなが神経を研ぎ澄ませ2時間が経過した頃になって環境管理席でレヴィが静かに言う。
「相対距離1AU、下方5時1億5千万Kmの彼方ですから相手には気付かれないと思われます」
通信席からアシュラが石橋艦長を安心させようと補足した。
「索敵範囲1AUというのも凄いな」
石橋艦長が右手を振りながら言う。
どうも指揮棒が欲しいみたい。
スターキッドはアケルナルから進行してきている敵艦と今すれ違った訳だから敵の情報も初めて知ることができた。
「スターキッドAIの予想が外れましたね」
アシュラが冷やかすように言う。
「まあ、たまには外れることもありますよでも自信を持って天気予報よりは正確だと言い切れます」
その言葉に比較対象が違いすぎるだろうとコクピットの面々は思った。
「戦艦1巡洋艦3護衛艦5の合計9隻で小隕石群へ向かっていましたわ。あの航行速度のままでは到着が予想よりかなり遅れてしまいますわね」
レヴィが残念そうな表情をしている。
「これでは小隕石群に仕掛けた罠が無駄になってしまいそうだな」
「どういうことかしら」
アイリーンが説明を求めた。




