203.アケルナルの戦い1
石橋艦長にシュー・ウォッシュナビの安全性を実体験してもらい納得させるためにスターキッドでほんの少しだけ跳んでいる。
そして現出した場所は深淵の恒星間宇宙なのだからスクリーンには遠くの星星の輝きが点在していないといけない。
だけどそこにはベタ塗り黒の背景に青白い輝きを放つ恒星の姿があった。
「なんで恒星があるのよ、ここは一体どこなのよ」
アイリーンが操縦席から立ち上がり全面スクリーンを指差しながら震える声で言う。
「前方より多数の敵味方識別信号がでています。全てカシオペア艦です」
通信席よりアシュラが報告する。
「こっちの、いえスターキッドの識別ビーコンを直ぐに切って!」
カシオペア艦と何度も戦った事があるレヴィが叫ぶ。
シュー・ウォッシュナビで時空間を跳んだ先に現れたのは全てカシオペア艦で間違いなさそう。
例えるなら棒高跳びて塀を飛び越えたらそこは狼の群れの前だったみたいな話しになる。
いわゆる窮地に立たされたという状況になった。
別に虎子を求めている訳ではないので虎穴に入る必要もない。
「シークレットモード移行」
アイリーンが告げ昴くんの返答を待つ。
梨の礫。
「ちょっとあなたこんな時に寝てるんじゃないかしら!」
副操縦席を見るとそこには石橋艦長が座っていて目が合った。
(そうだったわ石橋艦長を乗せてたんだった)
「シークレットモードに移行すれば良いのかな」
目が合ったことで自分に言われたのだと気づく。
「シークレットモード移行完了」
スターキッドAIが言う。
スターキッドAIはアイリーンが『シ』と発音した時には既に実行していた。
ただ皆には気付かれないようにしていただけ。
「愛、きゃ、キャプテンアイリーン、動力も切った方が良いと思うけどもう遅いかも知れないから……どうしようか」
昴くんが石橋艦長を気にしてアイリーンの呼び方を変えた。
「了解よ、やれることは全てやりましょう後で後悔したくないものね、それよりフレアホース……いえスーちゃんはどうなのよ大丈夫なのよね」
「うん、大丈夫みたいなんだけど僕の生気だけでは目を覚ます気配はないよ体の色もくすんでいるし仮眠室のベットで寝かせてくるね後でコウちゃん……光の妖精さんを探して回復を手伝ってもらうよ」
「わかったわ」
そう言うと昴くんは心配そうに見守っているロースを伴いコクピットを出ていく。
「シュー・ウォッシュナビとやらで少しだけ跳ぶ計画だったはずだが一体どうなっているのかな」
副操縦席から石橋艦長が少し不機嫌そうに言う。
「艦長ごめんなさい説明は後からでも良いかしら」
「そうだな了解した、それとこの席は昴くんに戻した方が良いだろう」
(さて、これからどうしたものか)
石橋艦長が立ち上がって後方へ移動し腕組みして思案を始める。
そこは以前ピエロが定位置としていた場所。
「レヴィ、石橋艦長に補助席を使ってもらう、頂くので出して……下さるかしら」
アイリーンは石橋艦長に教育係ゴートの影がダブって見えた様な気がして言葉を選ぶ。
「皆に伝えておくが言葉遣いを気にする必要はない、普段通りでお願いする」
「お気遣いありがとうございます」
アイリーンが言う。
その言葉を聞いたアシュラとレヴィが思わず立ち上がりスクリーンの前に佇むアイリーンの顔を覗き込んで正気を確かめずにはいられなかった。
「石橋艦長こちらへお掛け下さい」
レヴィとアシュラが環境管理席の横に用意した補助席へ石橋艦長を案内する。
少し前の話しになるのだけど『それぞれがそれぞれの席に座った時点で役割分担の責任者となる訳なのだから役職名を付けて呼び合うようにしないか』とピエロが提案したことがあった。
その時は『ここのコクピットには4つの席しかないんだからわざわざそんなことをする必要はないかしら』と一蹴して終わっているのだけど、もしそんなことになっていたら同じ人が席を変わる度に違う役職名で呼ばれることになってややこしい話になっていたんじゃないかと今アイリーンは思い返している。
石橋艦長が補助席でレヴィから一通りの説明を受けている最中に昴くんが戻ってきて一目見て状況を判断し副操縦席に座った。
「このまま突っ込んで敵が撹乱している間に突破するわよ」
戻ってきたばかりの昴くんに言う。
「ダメだからね」
いつもの常套句を返す。
「なんでダメなのよ、スターキッドに追い付けるものなんていないんだから無敵よっていつも言っているじゃないかしら」
アイリーンは食い下がる。
「今の状況確認が先だからね、気付かれないようにして様子を見ようよもしかしたら……」
昴くんはいつものように優しく諭し始めた。
「カシオペア艦は全て敵よ!」
アイリーンが言い切るとアシュラとレヴィもそれに共感したようで昴くんの方を向いて頷く。
(仮にそうだとしたら尚更だよ敵の真っ只中へ無策で突っ込むのは本当に良くないと思うんだけどなあ、こういう時はいつもスターキッドAIが全力で反抗していたんだけど最近はあまり声すら掛けてこないんだよなぁー、もしかして人見知りAIなのかな)
昴くんがそんなことを思いながらどうやって説得しようかと考えていると突然耳に入ってきたレヴィの叫びで我に返った。
「前方敵艦が高密度エネルギー弾発射、ロックオンされています」
「着弾まで5秒!」
アシュラがレヴィの声に重なるように言う。
アシュラは通信モニターを傍受しながら予備のモニターで索敵もしていた。
彼女はアイリーンのクローンだけど中身は初代地球防衛基地メインコンピューターの残滓、頭の回転は早く要領もいい。
「アイリーン緊急避難テレポート!」
スターキッドAIが自分毎テレポートさせることを提案する。
ロックオンされているので逃げ回ってもキリがない、この場合は迎撃するかロックオンを解除させるかだ。
対象物が消えてしまえばロックオンは解除されるはず。
「ヤルわ!」
昴くんが聞き返す間もなくスクリーンに閃光が走る。
(着弾爆発したのならもう死んでしまうのかな、でも何か変)
昴くんはボーッとそんなことを思いながら走馬灯が流れるのを待つ。
「アイリーン……殺ってしまいましたわね」
環境管理席からレヴィの声が聞こえる。
「あいつ、結構小さかったわ、だから、アポーツで引寄せて、身代わりになってもらったの、これが本当の自滅ってものかしら……ね」
あいつとはスターキッド目掛けて攻撃してきた艦船のこと。
(何がどうなったのかまだよく分からないけど愛鈴が軽口を叩けるのなら大丈夫みたいかな)
昴くんが安心してほっと溜息をつく。
アイリーンがスクリーンから目を離し1歩下がったところでふらつきそのまま床に座り込んだ。
(あれ変だわそんなに力を使ったのかしら)
「愛鈴大丈夫? スクリーンでは小さく見えていたけどあれは結構大きかったよ本当に無茶するんだから」
慌てて席を立ちアイリーンを抱き抱えると既に寝息を立てていた。
「石橋艦長、愛鈴が眠ってしまったのでベットに寝かせてきます。申し訳ないのですがもう一度副操縦席へお戻り願いますでしょうか」
「ああ、わかったそうしよう」
石橋艦長もただ事ではない状況に陥ったことを理解している。
「それともう僕たちの存在がばれちゃってるみたいですから全速力で逃げましょう」
石橋艦長に言うとアイリーンをお姫様抱っこしてコクピットを出ていく。
その様子を見ていたレヴィがアシュラに目配せして付いていった。
(ベットにはフレアホースさんが寝てるけど一緒に寝かせて大丈夫だよな、愛鈴の寝相って……)
仮眠室に入った昴くんはアイリーンを寝かせ横にずらしたフレアホースへ再び生気を与える。
後から入ってきたレヴィが呼び出した光妖精と一緒になってアイリーンを回復させていく。
「逃げる」
コクピットではスターキッドAIがおうむ返しに復唱していた。
「敵は混乱しています、今のうちに早く離脱しましょう」
アシュラが通信傍受した内容を簡潔に伝えた。
「既に後方離脱始めているな」
命令以前にスターキッドは方向転換して猛スピードで発進していた。
『逃げることに関してはスターキッドAIの右に出るものはない』と言うのが自他共に認める事実。
「ここまで来ればもう大丈夫の筈です。敵が追って来ないことを皆で祈りましょう」
光速の80%で1時間飛んだ所でスターキッドAIが言う。
目の前に小隕石群が現れたので止まらなくてはいけなかったのも事実。
「中央に直径30Kmの隕石があります、そこに隠れましょうか」
アシュラが環境管理モニターを精査しながら提案する。
「隕石群の反対側でもう少し小振りな隕石がゴロゴロしている所が隠れるのには適しているのだがな」
副操縦席から石橋艦長がボソリと言う。
それでも助言には違いない。
「反対側の外縁部にはスターキッドを隠すのに適している隕石が沢山あります」
「よし、近くまで行って決めようか」
「ラジャー」
石橋艦長が言うとスターキッドAIが返事をして勝手に動き出す。
「これが良いです」
スターキッドが足を止めた所は直径3Km程の隕石が5Km~10Kmの間隔で点在している場所。
「隕石の裏側にスターキッドがちょうど隠れるのに適した窪みがありますね」
アシュラが正面モニターへ画像を転送した。
「よし、ではここを待機場所にするが異存はないな」
「ありません」
スターキッドAIとアシュラが言う。
「ではこれより2時間交代の当直に入る順番は私、アシュラ、レヴィ、昴くんだ異存はないな」
「スターキッドAIに全てを任せ生身の人間は全員同時に休憩に入ってはいけないのでしょうか」
アシュラが異を唱えた。




