202.ジャンプテスト
アイリーンと昴くんそれにレヴィ姫の三人は妖精さん達によるシュー・ウォッシュナビの準備が整ったので石橋艦長に実践依頼をしたのだけど想像以上に頑なな態度を取られた。
このまま1年間航海してもコスモホールが見つからなければシュー・ウォッシュナビで跳んでもかまわないと確約を得られたのだけどその時間は無駄だと考えたアイリーンと昴くんは仲間に相談して攻略方法を求めている。
昴くんはイノマンブレインを引き継ぐダイムとセントから詳しい説明を聞くために壁面モニターのスイッチを入れた。
「この宇宙がベタ塗り黒の背景に星々の輝きを一様に散りばめた世界でないことは僕にも分かります。ほらこの辺は少し背景が薄くなってますよね、それに濃淡が波みたいに動いて見える所もあるでしょう。これがさっき言われた常に変化して均一でない状態で広がっているでいいのですよね」
「その通りです。コスモホールが発生する予兆を分かりやすく説明するとですね昴くんが言った『波みたいに動いている』の最初に『一定のリズムに従って』を付け加えるとどうなりますか」
「わかりました」
昴くんが眼を輝かせて言う。
「わからないわ」
アイリーンは対抗心を燃やす。
「一定のリズムが狂った時にコスモホールは発生すると考えて良いのですよね」
「良くできました」
セントが手を叩く。
「わからないわ!」
アイリーンが膨れっ面で昴くんを睨む。
「感覚的には分かるんだけど説明するのは難しいや」
昴くんは手を合わせて拝むようにダイムを見た。
「アイリーンはサーフィンって知ってますか?」
「波乗りのことよね小さい頃にビデオで見たことがあるわ」
(あれを真似しようとして川に落ちた事までは言わなくてもいいわよね)
4歳になったアイリーンがサーフィンの映像を見た足で近所の小川まで行き手頃な板を見つけて浮かべ上に乗った瞬間にひっくり返っている。
川底で頭をしたたかに打った痛みとずぶ濡れ状態の自分が情けなくなり泣きながらアパートへ帰ると母親に叱られて二重に大泣きした苦い経験を持つ。
その頃から(だいたい人間が水の上に立とうってのが間違っているのよ、あいつらはきっと魔法使いか何かだわ)とサーファーを含めたアスリート全般を特別な存在として扱うようになった。
「大きな波が押し寄せて来ている時にトンネルみたいになってる所があるだろう」
「知ってるわパイプラインって言うのよね」
アイリーンは得意げな顔になって腕を大きく回して円を描く。
「愛鈴違うよ波のトンネルはチューブって言うんだよサーフィンでその中を通り抜ける事をチューブライディングって言ってとても難しい技らしいんだよ」
昴くんが何時ものように修正を行う。
「でもサーフィンの代名詞ったらやっぱりパイプラインじゃないかしらチューブだと夏しか連想しないわよ」
「まあ確かにパイプラインはハワイにある観光地の名前でサーフィンの聖地とされているらしいけど愛鈴が思ってるそれは曲名だよねF1のトルゥースみたいにさ」
昴くんが止めを刺すとアイリーンの表情が陰ってゆく。
「あのー、続きを喋ってもいいですか」
コスモホールが発生する予兆を簡単に説明して欲しいとお願いされたので波に例えて始めたら二人のツボにハマったらしく主題から大きく逸れている。
(お兄ちゃんの話を聞くよりアイリーンと昴くんの夫婦漫才見てたほうが面白いんだけどな)
ダイムの横で黙って見ていたセントはそう思いながら兄を見ると笑いを我慢している様子。
(はは~ん吹き出す前に止めたってことね)
「うっ、ごほん、それでは続きは私から説明します。波によるチューブの事ですけどあれはランダムに発生するのではなくて一定の条件が整ったら発生するのです地形とうねりと風向きが影響しているのですよ」
(ダイム兄さんに話させたら笑いだしてしまうかもだからね)
「コスモホールもそういう条件が揃った時に起きるってのは分かったわ、じゃあついでにその条件ってのを教えてもらえないかしら」
「今の例えを宇宙に置き換えて考えてみるとベタ塗り黒の宇宙空間では発生しないだろうから波みたいに動いて見える場所で発生するのですよね」
「はい自然発生する場合においてはそれで正解です」
「えっ、自然じゃないってことは人為的に発生させるってこと……ああ」
「『うずしお』よね海王星のレッド隊長に何回か使わせてもらったわ」
「そうです惑星間同士には常に潮汐力が発生してますのでそれを利用することで高出力のグラビデ弾でもトンネルを作れるのです。太陽系内とかはベタ塗り黒の領域が多いですからそれが可能になりますね」
「やったー、答えを1つ教えてもらえましたね、地形は星星の位置でうねりに相当するのが今言われた潮汐力で風向きはそのまま潮汐力の方向ですよね、潮汐力ってのに考えが至らなかったので助かりましたよ」
昴くんがガッツポーズを決める。
「まあその通りかしら、よくは分からないのだけど昴くんが分かったのならうちも分かったと言っていいのかしらね」
「僕は愛鈴が言ってることの意味が分からないや」
昴くんがイノマンのポーズを決めた。
「ブッ、ほぉっ!」
ダイムは我慢の限界を超えて笑いを吹き出す。
「ハイハイはい、そこまでにしましょうね」
セントが手を打って話を中断させる。
「今までの話を現在の状況に当てはめて考えましょうか」
「最初の条件にある星星の位置を見ようとしてもサーチできる範囲には1つも無いですよね、だからこの段階でコスモホールができる可能性はゼロって事でいいんですね」
「大切なのは星星の位置関係なので距離は関係しないのです」
「そんなに遠い場所の事なんて僕たちには分からないから結局予測はできないってことですか」
「あなたは常日頃からアイリーンさんに『簡単に諦めたらダメだよ』って言ってますでしょう」
「そうですね失礼しました。じゃあ次を考えてみると、そうか潮汐力の働く向きと大きさが分かれば星星の位置関係が分かるってことですね」
「正解です。あと昴くんは天体運行表のことを忘れているでしょうあれは古代エジプト人にカシオペアカフ星人が教えたのが始まりでその後改良が加えられ今では極めて精巧になっているのですよ」
「天体運行表って星占いで使うものよね、うちは子供騙しじゃないかと思っているのよだってあれではうちと昴くんの相性はバッチシなんだけどさ何時もズレてるみたいかしら」
「愛鈴ダメだよまた話がズレてるからね早く先へ進めないと無駄な時間だけが過ぎてしまうよ」
「あらあなたはうちとの相性なんかどうでもいいと言うのかしらそれこそ最悪だわ」
アイリーンの表情が再び曇りはじめる。
「そんなことはないよ僕たちは最高のコンビだと思うよ今までだってそんなに喧嘩なんかしてないよね」
「そうだったかしらでも喧嘩するほど仲が良いとも言うわよね、ねえ……まあいいわそれで何の話をしてたのだったかしら」
(愛鈴頼むからしっかりしてよね)
昴くんは心の中で祈った。
「ゴホン、天体運行表によるとですねこの先1光年は波に影響するような動きは無い事が判明してます。だからコスモホールが自然発生することはありません」
ダイムが言葉のキャッチボールをしながら教えるのを諦め単刀直入に答えを出す。
「そういう事がはっきりしているのなら石橋艦長も無駄に待ったりしないと思うんじゃあないかな、ダイムさんとセントさんも僕たちと一緒に説得してもらえないかなあ」
ダイムとセントは見た目は年下だけどオリジナルイノマンのクローンだと自己紹介していたから昴くんは敬意を込めて普段から敬語を使っていた。
B99は地球防衛基地から950億Kmの恒星間宇宙を秒速1000Kmで進んでいる。
ここまで3年だけど目的地のアケルナルまでは140光年1325兆Kmあるのでまだ1万分の1にも達していない。
時空間移動とか何らかのショートサーキット航法を使わなくては辿り着くことは到底不可能。
それを実行するのに石橋艦長はコスモホールを探しアイリーン達はシュー・ウォッシュナビに頼ろうとしている。
『コスモホールも何も使わないでアケルナルまで飛んでいたら到着するのに何年かかると思っているのですか……4万2千年なんですよ、そんなのいくらなんでも高性能マシンの寿命だって尽きてしまいますからね、そうなったら本当に深宇宙を彷徨う何とかになってしまうじゃあないですか、僕はそんな終わり方なんて嫌ですから超光速で過去へ跳んで人生やり直しますよ』と最初に言ったのがスターキッドAI。
(ビビリのAちゃんはとうとう人格を持っちゃったのかしら)と思ったのはアイリーンだけではなかった筈。
結局のところ石橋艦長をスターキッドに乗せシュー・ウォッシュナビを実体験してもらうことになった。
この宙域において数年間はコスモホールが自然発生できる環境になっていない事は理解が得られたのだけどシュー・ウォッシュナビの安全性その他に不安を募らせていたので百聞は一見に如かずということ。
昴くんがロースさんの背中に手を当ててアケルナルをイメージした念を送りロースさんがそれを増幅させてフレアホースさんへ飛ばす。
フレアホースさんの体が輝き始めたら昴くんが『シュー・ウォッシュ!』と唱える。
するとフレアホースさんの輝きが増していき周囲を包み視界が光一色になってしばらくすると元に戻ってゆく。
昴くんは魔法の言葉を唱え終わると初めてアルファ星へ向かった時のことを思い出していた。
(あの時も確かに進行方向へちょこっと跳ぶだけって言ったんだけど気がついたら目的地のアルファ星だったんだよなあ)




