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201.交渉

 新造戦艦B99の石橋艦長はキャプテンアイリーンに再度代わることなく通信を終わらせている。

「久しぶりのBちゃんかしらまずは妖精さん達をナチュラルエリアへ案内しなくっちゃだわね」

 アイリーンはキャプテンである自分を蔑ろにされたことなど微塵にも感じていなかった。

「B99に戻るのも石橋艦長に会うのも3年振りなんだからね言葉には気を付けるんだよゴートさんも首を長くして待ってたんじゃないかと思うよ」

 昴くんは『うちがキャプテンなんだからね』と常々主張しているアイリーンが怒りだすのではないかと不安になっていたけど杞憂に終わったので次の心配事を回避するために考えを巡らす。

「光速時差って煩わしい限りよね、もう少し何とかならないかしらいっそ超光速で飛んで時間を巻き戻しちゃいましょうか」

「ダメだからねレヴィも言ってたよね時間遡行はパラレルワールドを発生させる要因になって時間軸が脆くなってタイムスリップ事故が起き易くなるって」

「わかってるわ言ってみたかっただけだからそんなに怒らないでよ」

「君にはこのくらい言って釘を刺しておかないと直ぐに忘れてしまうからね」

「まあ失礼な言われ方かしらうちはそんなにお馬鹿じゃなくてよ」

「だったらスターキッドAIにもスピード違反はダメだからねってしっかり言い聞かせておいてくれないかなあ」

「わかってるわ、でも最近のAちゃんは過去に干渉しなくて短時間であればパラレルワールドの発生は一瞬で直ぐに元の時間軸に融合するとか何とか言ってたわ」

「だからといってわざわざ危険な事をする必要はないって命令しておいてよ」

「わかったわ、それより検疫が済んだら妖精さん達をどうやって移動させるのか考えてよね、幼稚園児の引率みたいにぞろぞろ歩かせて行くのは良くないんじゃないかと思うのよね」

「そうだね、ロースさんに相談するけど僕がナチュラルエリアにフレアホースさんを連れて行ってロースさんと一緒に妖精さん達が瞬間移動して来てもらうってのはどうだろう」

「その手があったわねそれで決まりよ」

「それが終わったらあいさつ回りをして僕たちの部屋へ戻ろうか」

「ゴートさんにも会わないといけないわよね、テレポートの事できっと怒られるに決まってるわ何とかならないかしら」

「僕も一緒に怒られるから逃げないようにしようね」

 昴くんは予定どおり妖精さん達をナチュラルエリアに集合させそこで安心して生活できるために地球人が祈りを捧げ生気を分け与えることを説明する。

 その時スターキッドの中に残っているはずのアイリーンがテレポートで横に跳んできたのには驚かされた。

『うちはね失敗を恐れて何もできなくなるのが一番怖いのよ、だから練習はこれからも続けていくわ』というのがアイリーンの弁明。

 それからゴートさんの所へ行き1時間の教育的説教を受けたのだけど『1時間で済んで助かったわ、あなたが昼食前に行こうと言った意味がよく分かったわそれにうちはゴートさんからお昼ごはんを奢ってもらうなんて発想とてもできやしないかしら』と昴くんを褒め称えている。

 食堂でゴートさんと別れた二人は艦長へ帰還報告をして豪華な自室へと戻った。

 後から聞いた話では最初に豪華な客室と思っていた部屋はアイリーンと昴くんのために用意されたマイホームになっていてこれが後々二人はカップルと誤解されることになった一因にもなっているらしい。

 そういうこともあって本来ならピエロ達五人は別の客室へ入ってもらう予定だったそう。

 でもアイリーンは『今さらそんなことを言われても面倒だしうちは皆で賑やかにしてた方が楽しいかしら』と言ってそのまま共同生活を送るようにしている。

 しかし流石に海王族のお姫様まで一緒に住まわせようとは思わなかったらしくお隣に入居することを勧めたけど丁寧に断られアイリーン達三人が寝ている部屋へ自分用として昴くんの部屋からソファーベッドを移動してきていた。

 そんなわけでアイリーン達のベッドルームは文字通りベッドしかない部屋になってしまう。

 それからのアイリーンと昴くんは最後部のナチュラルエリアで妖精さん達に生気を与えるために往復する道すがら艦内探検をしたりスターキッドに乗って索敵飛行中にレヴィさんロースさんコウちゃん達による攻撃技の訓練をして月に1度と約束をしたゴートさんによる一般常識教育を受ける日々を送っている。

 まあゴートさんの一般常識教育は集団生活に馴染みがなかったダイム、セント、ルビーにレヴィも一緒に受けるようにした。

『うちはね常識ってもんを知ってるつもりよ、でもあなた達はそもそも知らないんじゃなくてだから一緒に学んだ方が宜しいんじゃないかしら』とアイリーンが言ったのは室内では普通に半裸状態で歩き回るレヴィと研究に没頭すると食事を取らなくなるダイムとセントに業を煮やしていたしルビーに一般常識を学ばせることで彼女とリンクしているスターキッドAIの非常識が直らないかと考えたから。

 そんなこんな特筆すべき出来事もない平凡な日々が2年ほど続いてゆく。

「そろそろシュー・ウォッシュナビを使っても宜しいんじゃないかしら」

「そうだね妖精さん達もここの人達とだいぶ仲良くなれたみたいだし生気も十分だと思うよ、だから今日の予定は変更してロースさんとフレアホースさんに会って相談しようか」

「あらあなた今日の予定って何かあったかしら、うちは全く記憶にないのだけどどうなのよ」

「悪かったよ今週の予定は何もなかったんだよね、だから何もない予定を変更してって言うべきだったよ」

 最近というかかなり前から昴くんはスターキッドで集めた星間物質をダイムとセントが解析するのを手伝ったり何かに理由を付けて艦橋内へ立ち入ったりしている。

 アイリーンはそんな昴くんにベッタリでいつも一緒に行動して離れない。

 ピエロは最初から留守がちでたまに帰ってきているかと思えば1日中ベッドで寝ていたりしている。

 アシュラとルビーはキッチンで料理を作っているかリビングの端末でスターキッドAIを交えて情報の収集分析共有を行っているみたい。

 最後に加わったレヴィ姫は何回かナチュラルエリアに通ったらそこがお気に入りになったみたいで弁当持って朝に出掛け晩ごはん前に帰ってくるようになっていた。

 B99が基地を出発して5年が経過している。

「ナチュラルエリアでのレヴィさんはいつも裸なんだよな、だから僕はここで待ってるから君が服を着せたら呼んでよね」

「レヴィ姫はここに居る間しか自由がないのだから少しは大目に見てあげるかしら」

「レヴィさんの前ではくれぐれも姫って敬称を付けて呼ばないでよね」

「わかってるわよ、以前敬意を込めて言ったら凄く落ち込んでしまったものねあの時は本当にこっちが泣きたくなってしまったかしら」

 まずレヴィさんに服を着せてからロースさんを呼んでフレアホースさんに来てもらう。

 五人が集まって相談した結果シュー・ウォッシュナビを使ってアケルナルまで小刻みに跳んで行くことで合意したのでレヴィさんにもお願いして三人で石橋艦長の元へ直談判しに行く。

 レヴィさんを連れていくのは仮にも姫なので石橋艦長も無下にはできないと考えたから。

 多分二人だけで行けばシュー・ウォッシュナビなんて胡散臭いものに頼らずコスモホールを探し出して堅実に行くべきと言われたはず。

 何はともあれ準妖精のレヴィ姫が強引に押してくれたお陰もあって石橋艦長は妖精が使う能力の悪口を最後まで言えず首を縦に振った。

 ただ石橋艦長も矜持を守りたかったみたいで『それを今すぐ実行するのではなくこのまま1年間進んでそれでもコスモホールが発見できなかった場合はそのシュー・ウォッシュナビを使うようにしないか』と提案される。

『実行するタイミングにつきましてはイノマン博士のお考えを参考にしたいと思いますので改めてお伺いしても宜しいでしょうか』

 レヴィが重鎮らしい一礼をしながら言う。

 これには石橋艦長も言い返さずに頷いた。

「それでどうしようってのかしら」

 自室に戻って八人がリビングに集まっている。

「今の石橋艦長はこの艦が安全に航行することを1番に考えているのだろうからな」

 今日は珍しくピエロが部屋に居た。

「自然現象のコスモホールは突発的に発生するものではありません。現在のところ発生の予兆すら検知されてません」

 ダイムとセントはイノマンブレインを持つクローン。

 ルビーも同じイノマンクローンではあるのだけどその殆んどをスターキッドAIとリンクするための機能に割り当てている。

 アシュラもクローンなのだけどオリジナルはアイリーンで中身は初代地球防衛基地メインコンピューターの残留思念。

 ピエロに至ってはイノマンクローンで間違いない筈なのだけどその頭脳を発揮させるようなことはしていない。

 もしかしたらテレポートとか他の特殊能力に特化させているのかも知れない。

「予兆があるとすればどんなものなのかなあ僕にも分かるように教えて欲しいなあ」

 昴くんが何時も聞いているように聞く。

(聞くタイミングを一度逃すとなかなか聞きづらくなるし時々誤魔化されるんだよなあ)

「この宇宙空間には何も無いとは思っていませんよね、今までも色々教えた通り温度、湿度、密度、濃度、色度、明度、光度そのほか様々な要素が均一でない状態で広がっているのです」

「分かりました」

 昴くんが手を上げて言う。

「えっ! 今ので何が分かったって言うのよこんなんで終わっちゃったらフラストレーションが溜まっちゃうわ」

「ダメだよ愛鈴、女の子がその言葉を軽々しく使ちゃダメだからね直訳したら欲求不満が溜まっちゃうって誤解されかねないんだからね、この場合は『知識欲が満たされない』って言うんだよカタカナ語を使えばお利口さんになれるわけじゃあないんだからね」

(まあ変に気を回さなければそのまま素直に意味は通じるんだけど言葉の意味も分からず使うとどこで誤解されるかわからないからな)

 昴くんが頬を赤らめ指摘しながら卓上端末を操作してリビングの壁面に宇宙空間を映し出す。

挿絵(By みてみん)

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