199.目覚めのアイリーン
アイリーンはB99でエリダヌス座アケルナルへ向かうためシュー・ウォッシュナビが使える妖精さん達の協力を求め5年後ここへ到着する予定だった。
「お久しぶりです。訪問が予定より大幅に早くなったことをお詫び致します」
昴くん、アシュラ、レヴィが三人揃って深々と頭を下げてエントリーに挨拶する。
「あなた方のせいではなくアイリーンの無茶振りが招いた結果でしょう、いっそ能力が完全に目覚めてしまえば制御もできるのですよ」
「そうなんですね、制御ですかそこまで考えたことはありませんでした。今は気まぐれでテレポートしないよう封印してるのが関の山なんですよ」
「封印……それがマイナス面に働いたのかも知れませんよ、特殊能力は日頃から慣れ親しんでいた方が扱い易くなります」
目を見て話していた昴くんは鋭い眼光に少したじろぐ。
(エントリーさんを少し怖いと感じるのはあの眼光と迷彩服で威圧感を与えているんだよな)
「やあ昴くん久しぶり元気そうで何より、それに今日は両手に花だね」
管制塔のコントロールルームに入るとシュタイン統括支配人が挨拶してきたけどエントリーが睨んでいる。
「突然の訪問をお許し下さい」
ここでも三人揃って頭を下げると目の前に手が差し伸べられてきたので各人背筋を伸ばして握手に応じ短い挨拶を交わす。
「まあいいさ、それよりアイリーンは本当にこっちで休ませた方が良いのではないかな」
シュタインがエントリーを気にしながら言う。
「あまり動かさない方が良いのではないかと思います」
「そうかそれなら明日の朝食は豪華になるように今から準備を始めよう」
「お気遣い感謝します」
(愛鈴のことだから起きたら『ご馳走はどこ』って開口一番で言うに決まっているからね)
「それで具体的には何人くらいの妖精を連れていく考えなのか聞かせてくれないかな」
「その前に聞きたいのですけどアケルナル行きをイノマン博士に伝えたのはシュタイン支配人さんなのですか」
「まあエントリーから助言があっての事だったんだ」
「それで大型戦艦と一緒に行くことになったんです」
「知っているよB99だったよね君たち二人は歳を取らないらしいけど他の人達はコールドスリープするのかな」
「いいえ140光年先のアケルナルまで往復するとなると普通の航行では絶対無理です、だけどここの妖精さん達のシュー・ウォッシュナビを使って往復すれば30年も掛からないだろうとなったので妖精さんにお願いしたくて来ました」
「その件は既に了承済かな、それよりもだ君が覚えていてくれたら嬉しいのだけどアケルナルはエントリーの故郷でもあるのだよ」
シュタインはここで言葉を切った。
「まさかエントリーさんを連れていけなんてことは言わないですよね」
「いいや言うつもりだ君たちは直ぐに戻って来るのだろう、里帰りしてもらうには丁度良いタイミングだと思わないかな」
「戻ってくるったって何十年先になるか分からないのですよ、それにあなたの大切なパートナーなんじゃあないですか」
昴くんは重要なポジションに居るエントリーを連れていくことへの遠慮より人の思考を覗き見できるテレパシストと一緒には居たくないという思いの方が勝っている。
「たかが数十年のことだろう君達と違って私達にはほんのわずかな時間だよ、気にすることもないかな」
「そこは気にして頂きたいです、今の時代は数年もあればとんでもないことが起きるかも知れないのですよ、そういう可能性は考えないのですか」
昴くんはパラレルワールドの未来から来て世界の危機を知らせ戻っていったロースさんとフレアホースさんが発する悲鳴を聞いた気がした。
「君が言うことは十分理解できるよ、そういうことが実際に起きるかも知れない、だけどねそれを理由に先へ進めないのなら人類は今でも原始生活を送っているのではないかな」
(僕はその方が良かったんじゃないかと思っているよ)
「そうですね、宇宙連盟によってドライアイスメテオが投下された今の地球には文明なんて残っていない、そこに生き残った地球人は原始生活みたいなことをして生きていくしかない、僕は宇宙人がもっと早く大っぴらに介入すべきだったんじゃないかと思っているんですよ」
少し癇に障ったので言葉遣いが段々と乱雑になってしまっている。
「昴くん、その話は終わってしまったことを後から言い訳するに等しい愚かな発言だからな、これから先どう生きるのかを提案すべきじゃないのかな」
「君は知らないのかい過去に何回も宇宙人による介入はあったのだけどその度に抵抗されたり隠蔽されていたのだからね、もう何百年も過去の出来事なんだけど魔女狩りの名目で多くの同胞が殺されている、君もハントザETに追われる体験をしたよね昔から近年に至るまで宇宙人狩りは続いていたんだよ」
エントリーがシュタインに加勢するみたいに言う。
ここまで昴くんとエントリーだけで言葉のキャッチボールを繰り返しているので外野にボールが回って来なくレヴィとアシュラの存在感が薄くなっている。
(エントリーさんはもしかして地球上で魔女狩りに遭ったんじゃないだろうな)
昴くんはその可能性が否定されることを望んだ。
「それでも彼女を連れて行くことには同意できませんし僕はまだ本人から直接その話を聞いていません」
(愛鈴だったら喜んで連れて行くんだろうなあ)
昴くんはできるだけ毅然とした態度でエントリーに返事を促す。
「そうですね、私にとってアケルナルは生まれた場所であっても特別な思い出とかはありません、故郷と言うのであれば100年近く生活しているこのC2になるでしょう、だから里帰りすると言うのは正しくはないですね」
「ひゃ、百年!」
(しまった思わず口に出てしまったけど気にしていなければいいなあ)
「ゴ、ゴホン、うんわかりましたそれでエントリーさんは僕たちと一緒に来たいとお思いですか?」
「それには答えられなくて悪いと思う君たちは140光年という道のりが怖いとは思わないかい、だけどこちらから付いて行くと言わない限り君たちがそれを口にすることはないだろうとなったのだけど、逆に迷惑だったかな」
「迷惑だなんて……そんなことは微塵にも思ってもいません、でもそういうことでしたら僕たちに同行して頂く必要はありません、それよりむしろ先程も言いましたように残されたシュタインさんやここC2の事、更に付け加えるならエントリーさんがB99での生活を不満に思っているんじぁないかとか気にしてしまいますのでご辞退願いますと幸いに思います」
「そういう事なら分かった、その方が心置きなく旅立てるのであればもうこれ以上言うことはないかな」
シュタインが余計なことをしてしまったかなと顔をしかめながら言う。
「ご理解いただきありがとうございます」
「それでこれからどうするかな、夕食を君たちだけでも食べて帰る、かな」
「ご厚意だけ頂きまして今は戻ります。愛鈴が眠ったままですから……以前に香ばしい料理の匂いで目を覚ましたことがありましたからもう一度試してみようと思います」
「あなた方の知らない美味しい薬膳料理のレシピを教えよう、ハーモニックオーバートーンにはヒーリング効果があるから持ち帰って試すと良いと思うよ」
「ありがとうございます、帰ったら早速作ってみますね」
(失礼極まりないことを散々言った気がするけどわだかまりがなくて二人共大人だなあって感じだよ)
昴くんは深々と頭を下げて部屋を出て行く。
「140光年を我々のシュー・ウォッシュナビで跳ぶのか」
緊張から解放されたロースが問い掛けてきた。
「まあ小分けして跳ばないと無理だよね」
アシュラとレヴィも脱力感を隠せない顔色をしている。
「アケルナルまでは大型戦艦で行くんだよ、だから合流するため4光年を跳んでもらいたいのだけどお願いできるかなあ」
「それは大丈夫、でも人選は必要、何人連れて行くのか」
「大型戦艦を跳ばすのには何人くらい必要かなあ」
「少しづつ跳ぶのなら15人も居れば大丈夫、今すぐ跳ぶのか?」
「あ、明日のお昼過ぎにしようよ」
「わかった、そうする」
(倉庫を片づけないといけないからね)
スターキッド倉庫のドッキングハッチを通って中に入ると懐かしいカプセルベッドがあってアイリーンが眠っていた。
(こっちの方が回復させやすいのかなあ)
昴くんがボーっとそんなことを思う。
「∀↾↾⇄⇄♬フゥー」
「マクテ ウィルトゥーテ シーク イートゥル アド アストラ」
レヴィとアシュラが回復の呪文みたいなのを唱えていく。
「早く良くなりますように」
昴くんは性格も含めて良くなるようにと両手を合わせて願った。
(レヴィさんは妖精族のおまじないを言ったんだろうと思うけど意味不明なんだよなあー、アシュラさんが使った言葉は自動翻訳器でも訳せないなんて一体どこの言葉を使ったんだろう)
「昴くんはアイリーンを拝んでましたよね」
苦虫を噛み潰したような表情をしてアシュラが笑いを堪えながら言う。
「そうですわよ凄い量の生気が分け与えられてましたかしら」
レヴィも加担する。
「いけなかったかなあ」
(宗教じみたことを迂闊にやってしまったよ~)
「アイリーンが深く愛されているのを改めて思い知らされましたね」
「えーっ、そんなことはないよー」
「あらあらあなたのお顔が正直に言ってましてよ」
二人から揶揄られた昴くんは両手で顔を冷やしながらコクピットへ入っていく。
「ピエロさん今戻りました」
「お帰り、倉庫の中は光の精霊が飛び回っていただろう、回復の効果があると良いな」
「僕たちもできる限りの言葉を掛けて来ましたし顔色も良かったですよ」
「私たちはエントリーから頂いたレシピで夕食の支度をしますわね」
レヴィがそう言ってアシュラを引っ張っていく。
昴くんは出来上がった料理を持って倉庫へ行きカプセルベットを解放した。
「おはよう~」
美味しそうな匂いに誘われるようにしてアイリーンが目を覚ます。




