197.プロキシマ・ケンタウリ
今スターキッドには海王星旗艦シードラゴンからシャトルに乗ってやって来たレヴィがご馳走をみんなに振る舞っていた。
「レヴィ、それであなた端的に言ってしまえば王家の家出人ってことでいいのかしらねえ」
アイリーンが冷やかすようにレヴィの頬をつつく。
「いいえ違います。私は父に『旅行へ行く』と明言してきましてよ、だから今は外出中となりますわ」
レヴィがアイリーンの指を取って言う。
(『ダメだ』って言われて許可されていないのを無理やり出てきたんだよね、そういうのを家出って言うんじゃないかと思うんだけどなあ)
昴くんは心の中だけで反論する。
ピエロとアシュラは顔を見合せイノマンのポーズをした。
「さっきの護衛艦からシャトルが出てきて近付きつつあります。通信遮断してますからね直接交渉に来たのでしょう」
「通信傍受はしてたのよね」
「してましたよ。散々『止まれ』だの『返信願う』だの言ってきましたけど言われた通り『電波障害発生中』のメッセージしか流してません」
「何で報告しなかったのよ」
「だってキャプテンは『傍受だけは抜かりなくやってよね』としか命令されてませんでしたからね」
(うちはAちゃんに何か悪いことをしたかしらね、思い当たる節がないのだけど)
「レヴィが乗ってくれていて良かったね、そうでなくては威嚇射撃のいい的になっていたと思うよ」
「まあ乗っていなければ何事もなく事が進んでいた筈だけどな」
「あちらが色々言われてますけどスピーカーに出しましょうか」
通信席に座ったアシュラが聞いてくる。
「それは止めて頂きたいとお願いいたしますわ、それより速度をあげて引き離して頂けませんでしょうか」
「ラジャー」
返事をしたのは待ってましたとばかりのスターキッドAI。
「Aちゃんどうしたの加速が鈍いわよ」
アシュラが通信席に着いたので皆が各々の指定席に座った。
まあしかしアイリーンが操縦席昴くんが副操縦席に座ったのだから残りは1つ環境管理席しか空いていないのだけどそれをピエロが貴族みたいな仕草をしてレヴィに譲っている。
「何だか重くなった様に思うのですけど気のせいでしょうか」
「AIのクセに気のせいとか言うんじゃないかしら」
「なんせファジィー機能付きですからね」
「茶化さないのよ」
アイリーン、昴くん、アシュラの視線がレヴィに集中した。
「私が乗ったせいだとか言って笑いを取ろうとしてもあり得ませんですわよ、現実的には既にグラビティーションワイヤーを引っ掛けられてましてよ」
「いつの間にそんなものを付けられたのかしら、それにコウちゃんが阻止した筈じゃなかったのかしら」
「過去の記録を解析してみますわ、始めに護衛艦のシャトルが来てますでしょう」
「光精霊の圧が強くて近寄れないって言っていたよねそれで僕たちが護衛艦にドッキングしたんだよね、あっ!」
「そうかしらね、その時ならいくらでも細工できたかしら」
「迂闊だったな、もっと警戒しとくべきだったと言いたいのだが後悔先に立たずこれから先の打開策を考えてみるに何があるかな」
ピエロが自分の考えを言わずに投げ掛ける。
「フル加速しましょう」
スターキッドAIの発言。
「それじゃあダメだよ護衛艦が引っ張られて付いてくるだけじゃないかなあ」
「あのグラビティーションワイヤーって切れないのかしら」
「僕か護衛艦のどちらかの質量がゼロになれば自然消滅します。攻撃しますか」
「絶対にダメだからね、そんなことをしたら僕たちはレヴィを誘拐した極悪非道な海賊になってしまうよ」
「あなたの攻撃ではかすり傷程度も付かないのではないかしら」
「ごめんなさい私のせいでこんなことになってしまって、これ以上ご迷惑をお掛けできませんから帰りますわ」
「政略結婚させられるのよ、他に方法がないか皆で考えましょう」
「大丈夫ですわよ、直ぐに結婚ということにはならないでしょうし父を説得してもう少し頑張ってもらいますわ、それに……消えることだけなら何処に居たってできますでしょう」
「ダメだからね絶対に少しでもそんな考え方をしたらダメだからね、わかった君を絶対に帰さないから僕たちと一緒に未来の彼方まで行こう!」
昴くんが珍しく熱くなって中二を語った。
「そうね、いいことを聞いたかしら」
アイリーンが微笑んでいる。
「愛鈴もダメだからね」
(愛鈴に悪魔が囁いてるよ~)
「まだ何も言ってないでしょう」
「大丈夫なのか」
ピエロはアイリーンがしようとしていることを悟った。
「ちょこっと跳ねるだけでもいいのではないかしらね」
「は、跳ねるってもしかしてスターキッド毎テレポートしようっての?!」
今は昴くんの心臓が跳ね上がったみたい。
「もしかしなくてもそうかしら、大丈夫よ過去にも何回か遣ったことがあったかしらね?」
「かしらね? じゃないよスターキッドAIも黙ってないで何とか言ってよ」
昴くんは焦っている。
「僕もそれしかないと思いますし過去にアポーツで引き寄せられた経験はあります。大人数乗せたままでのテレポートは初めてですけどそれでいちいち尻込みしていては前に進むことができませんからね」
「Aちゃんにしては前向きな発言かしら」
「早くしないとどんどん引き寄せられてこのままでは後75秒で捕まってしまいますよ、分かってますか捕まったら犯罪者のレッテルを貼られて僕はバラバラにされてしまうかもしれないんですよだから早く、早く逃げましょうよ~」
「何だ、ビビリのAちゃん健在だったわね安心したかしら」
「わかったよ、だったらチャチャってやって終わらせようよ」
(愛鈴がプレッシャーを感じる前に終わらせなきゃね、何事もなく無事に跳べます様に)
昴くんは無意識のうちにお祈りのポーズをしている。
「そうね奴らが追い掛けても無駄だと諦めてくれる位は跳びたいかしら」
「無理だと思っているのなら他の方法も考えてみないかな」
「無理はしてないわ最小限の力を使って跳べる最大距離を測っているの……集中するから黙ってるかしらね」
「解除の呪文は唱えたのかい」
昴くんが恐る恐る聞く。
(愛鈴に睨まれるけど仕方ないな)
「まだかしら、あれ? なんだったかしらね」
アイリーンが首をひねる。
「忘れたんじゃないだろうね、確かこの前はうどんの国の歌だったと思うよ同じものじゃないのかい」
「パスワードは毎回変えなさいってあなたが言わなかったかしら」
「えっ? 毎回なんて言った覚えはないよ『何回か使ったら変えた方が良いと思うよ』とは言ったけどね、ほら君が先に言ったんだよ『同じ言葉を繰り返し使うと寝言で言ってしまうかも知れないかしら』って」
「そうかしらまあ思い出さないことには仕方ないかしらね」
「ねえ、さっきから悠長なことを言ってるみたいですけどもう後ろの護衛艦が大きく口を開けて迫って来ているのですよ、早くして~」
「わかってるからそう急かさないで欲しいかしら……昴くんがシュー・ウォッシュって言ってるのがカッコ良かったのよね、だからうちはコウちゃんと一緒に『レインボー・フラッシュ』って……」
その時スターキッドが跳ねた感じがした。
(完全重力制御装置により室内にGは殆んど加わらない筈だけど今のは一体何だったんだろう)
昴くんは緊急時に驚いても慌てたりはしない。
「うわー、捕まってしまったあー」
スターキッドAIが悲鳴を上げる。
「攻撃されたんじゃないか」
ピエロがレヴィの傍でモニターを覗きこむ。
「愛鈴大丈夫! 目を開けてよ」
昴くんが操縦席でぐったりしているアイリーンの頬に手を当てて励ます。
「全てのビーコン及び通信信号消失しました」
アシュラが戸惑いの声を上げながら別の機器を調整していく。
「現在地点概算でました……でもこれは信じられません」
「おそらくあの暗赤色の恒星はプロキシマケンタウリだな」
戸惑っているレヴィの横でモニターを覗き込んだピエロが言う。
「プロキシマケンタウリってB99で今から行こうとしていたケンタウルス座アルファ星域の目的地ですよね到着は5年後って言ってなかったですか」
昴くんはリクライニングさせた操縦席で目を覚まさないアイリーンを心配そうに見ている。
(後で仮眠室のベッドに移動しよう)
「目的地はそこに作られた人工惑星C2、目の前に見えているな」
ピエロが環境監視モニターを指差している。
「愛鈴がテレポートしてしまったみたいですね以前単独でバーナード星まで跳んだって自慢してた時は丸1日半寝ていたそうです。今回はスターキッド毎なのでかなり負担が掛かったんじゃないかと思います」
「外で回っている光精霊がかなりの力をアイリーンに貸したみたいでしたよ」
「レヴィがそう感じるのなら正しいことだと思いますわ私もそんな気がするのですよ」
「私も光精霊の気配を感じ取れたかな、あれがそうならかなりの力だったな」
ピエロも光精霊の支援があったと思っている。
「それなら少し安心ですね愛鈴の目覚めはかなり早いと思います。でも僕がもう少し気を付けてサポートしなければいけなかったんだと反省してます」
「これは彼女自信の問題だからな第三者があまり介入しない方が良いだろう、今回の件に関しても複数の問題点が発覚しているこれからは反省よりも改善に力を注ぐことだな」
「わかりました、愛鈴が目覚めて落ち着いたら一つ一つ確かめてみます」
(封印解除のパスワードにしたって一緒に考えるべきだったんだよな愛鈴が遊び気分でやってるのはわかってたんだからな)
それでも昴くんは反省した。
「静かね」
アシュラが寂しそうに独り言を言う。
皆の視線がアイリーンからアシュラそして昴くんに向く。
「どうしようか?」
昴くんが怯んだ様子を見せる。
「僕を拘束していた枷が外れて加速中ですので一旦停止しますよいいですね」
スターキッドAIは恒星プロキシマケンタウリへ突っ込むのを恐れて早々に減速を始めていたのだった。




