195.レヴィさんが来た
スターキッドは海王星宙域に無事入れてレヴィ達が生活している海王族旗艦シードラゴンに接近しようとしていた。
その航路上に護衛艦が割り込み行く手を遮る。
「スターキッドキャプテンアイリーンに告ぐ、今回はアポ無し訪問のため入国審査を受けてもらわなくてはならない」
「え~っ、そんな固いことは言わずにさうちの顔パスじゃダメかしら」
「規則なので諦めて欲しい、そちらの搭乗者全員と直接話をして艇内を見回るだけだからそんなに時間は取らせないレヴィ姫にも連絡済みなので直ぐに会える」
(いつもの事ながら姫様って呼ばれている人に会うのって恐れ多い気がするよ)
昴くんはここの検問所を通る度に緊張している。
「わかったわ、連絡しなかったのが悪いんだし手っ取り早くやって下さいな」
アイリーンも今回は神妙にした。
(ここまで来て門前払いにされたら敵わないかしら)
スターキッドを完全停止させて待つこと5分、通信をやり取りした護衛艦から検査官を乗せたシャトルが途中で止まる。
「どうしたのかしら倉庫側のハッチにドッキングして下さって宜しいのですよ」
アイリーンが姫様に相応しい友人を装う。
(最近の愛鈴は化けるのがめっぽう上手くなってきている気がするよ)
昴くんの感想だった。
「スターキッドを取り巻く光精霊から発せられる圧力が極めて強くバリアを張ったみたいになっているからこれ以上近付けない」
「わかったわ、こちらから護衛艦にドッキングしますわね場所をお教え……いえビーコン誘導してもらえるかしら」
「ハンガードックへは入らないのか」
「光精霊がもし暴走しても責任を取らなくていいのであれば喜んでドックに入るわよ」
「ワカッタ……艦首ハッチへ誘導する」
「艦橋から一番離れた場所になっちゃったね」
「うち達はじっと待っていれば済むことかしら、チャッチャと終わってくれないかしらね」
「少し時間が掛かりそうだから後ろの方を見てくる、二人も難癖つけられないよう少しでも整理しておいた方がいいと思うぞ」
ピエロがそう言いアシュラに目配せした。
「私は外部連絡ハッチで検査官を出迎えますわ」
イノマンのポーズを決めてから言う。
二人がコクピットから出ていくとアイリーンと昴くんが顔を見合わせた。
「検査官が来た時の案内人にアシュラを指名したとは思うんだけどさ何だかいわくありげな態度だとは思わなかったかい」
「事が上手く行かない時って些細なことでも気になるものよ、こういう時は何も考えずにぼーっとするに限るわ」
いつものように操縦席に座ったまま伸びをする。
「ピエロさんが整理しなさいって言ってたよね、あれは提出書類を直ぐに見せられるように準備しときなさいってことだと思うよ、航海日誌とか見直さなくて大丈夫かなあ」
「う~ん面倒だわAちゃん任せたから宜しくね」
アイリーンはスターキッドAIに丸投げした。
「任せられても僕は順番通りパッパッと表示できるようにするだけですよ航海日誌は問題ありませんけど売買リストは書換えて下さいね」
スターキッドAIがディスプレイに表示した画面を見た昴くんが目を丸くした。
「愛鈴この書き方はダメだって言ったよね」
「後で書き直す予定だったの」
「君の後でっていうのは何年後のことだろうね」
「だってAちゃんにお願いしてもキャプテンの仕事だからダメだってしか言わないのよ」
「わかった、今から僕が領収書読み上げるから愛鈴が入力し直すんだよ」
「わかったわ、でも全部は無理かしら」
「できる範囲でやるしかないよ」
「仕方ないわねー、でも何でこんな単純書類に記載されるリスト品目を細かく書かなければいけない訳なのよ食べ物、飲み物、備品の3種類もあれば通用しないかしら、何が悲しくてバナナの本数まで記載するのかしら」
アイリーンが悲しみに満ち満ちながらキーボードを叩いていく。
「バナナ1本に至るまで適正価格で取引しましたって証拠だよ汚職の原因になるからだと思うよ」
「もうこのくらいで勘弁願えないかしら」
昴くんに涙目で訴える。
「日頃あまりやらないことをしたから疲れ目になってしまったんだねごめんよ、でも検査官が到着したみたいだからひとまず終わらせて出迎えようか」
「指摘されたら上手いこと誤魔化してよね」
「正直に現在訂正中ですって言えば大丈夫だと思うよ」
入国審査は特に指摘されることなく1時間程度で終了した。
臨時入国の場合は密輸や密入国の犯罪が絡むケースが多いので今回はアイリーン達が脅されたり洗脳させられたりして犯罪に加担していないかを確認するだけが目的。
「スターキッド離艦完了」
検査官を送り出したスターキッドは護衛艦から離れレヴィが待つ旗艦シードラゴンへと向かう。
「お客さんですよ」
スターキッドAIが告げた。
「お客さん?」
ピエロとアシュラは不思議そうな顔をする。
「モニター表示できるかしら」
アイリーンと昴くんはスターキッドAIが突拍子もないことを突然言い出すのに馴れているので慌てたりしない。
「小型シャトルだよね、こっちに向かって来てるのかなあ」
「所属不明の小型シャトルに告ぐ、あなたはこちらの航路上を進んでいる。進路変更されたし応答願う」
通信席に座っているアシュラが呼び掛けた。
「・・・」
「応答ありませんね」
「避けます!」
(ビビリのAちゃん)
アイリーンと昴くんの二人がそう思った。
「あの小型シャトルはローリングしてるな」
正面モニターを見ていたピエロが指摘する。
「そうね機体を揺らしてるわね」
「ブロックサインだと思うよ」
「やり過ごしましょうか」
「Aちゃんにしては勇気ある発言かしら、いいわよ完全停止して様子見しましょうね」
「海王族の生活圏に入ってますからおとなしくした方がいいでしょうね」
アシュラが通信機に集中しながら言う。
「何も言ってこないのよね」
「こちらへの通信は入ってきませんけど奥のシードラゴンから小型シャトルへ帰還命令みたいな呼び掛けがされてますね」
「逃亡者かしら」
「それを言うなら亡命者だと思うよ」
「犯罪者でなければ宜しいのですけど」
「どうするもう目と鼻の先だぞ光精霊の影響でドッキングはできなかったんじゃなかったのか」
「こちらからワイヤーアンカーを出して引っ張ったらドッキングできるのではないでしょうか」
「そうねやってみる価値はあるわねAちゃんできるかな」
「ラジャー、でも犯罪者だった時はどうするんですか」
「その時はピエロにお願いするわ」
「お前がアポーツの応用で宇宙に放り出せば良かろう」
「まずは会ってみないことにはわかりませんから射出します」
昴くんが躊躇わずに発射させる。
「こちらの意図を察してくれると良いのだがな」
「こちらスターキッド、小型シャトルに告げるドッキング希望の場合はワイヤーに絡みなさいそのまま牽引する」
アシュラの通信。
「おい、シャトルから人が出てきたぞまさか人力で絡ませる気じゃないだろうな」
「まさかそんなこと……あれ、レヴィじゃないかしら」
「レヴィだってそれこそまさかだよ、あっ、宇宙服着てないよ! 裸だよ」
スパーン!!
乾いた音がコクピットに響く。
「ぼーっと見てるんじゃないわよ、早くワイヤー巻き戻しなさいよ」
「わかったよ」
「ピエロあなた後部ハッチでレヴィを回収してきなさいな」
「私でいいのかなアシュラの方が適任だろう」
「通信傍受中でしょうさっさと行くのよ」
「あっ、小型シャトルが戻っていくよレヴィはまだ宇宙だよね」
「あなた忘れたわけじゃないでしょう……う、うちが忘れろって言ったのかしらだったわね、レヴィは宇宙空間をたて琴持って裸で駈けるコマンドー姫だったかしらね」
「思い出したよ艦橋外壁に立って竪琴弾きながら歌で攻撃していたよね、は、は、」
昴くんは裸でと言おうとしてやめた。
「そうよ、お利口さんはそれ以上思い出さないことかしら」
「レヴィ回収完了これからどうします予定通りシードラゴンへ向かいますか」
「レヴィ本人に聞いてくれるかしら」
「そうだよね変だよね僕たちが行くって知らない筈だよね」
「レヴィさんは海王星圏内からできるだけ早く離れて遠くへ行きたいと言っています」
「わかったわBちゃんへ戻るわよ、アシュラ通信機が故障したようにカムフラージュしてね」
「オッケーです。いつものあれですね」
「わかってるじゃないかしら、でも傍受だけは抜かりなくやってよね」
アシュラは指で丸を作りブロックサインをする。
アイリーンはワクワクした様子でキビキビ動く。
「でもこれでご馳走を食べ損なったね」
(あーっスッキリした)
昴くんがずぅーっと気になっていたことを口に出す。
「ご馳走……ここにはレヴィを迎えに来たのが目的なんだからねそれにしても遅いわAちゃん二人が今どこで何をしているのか教えてくれないかしら」
アイリーンは一瞬たじろいだけど何とか踏みとどまった。
「レヴィさんはピエロさんが探してきたシーツをまとって休憩室に居ます。簡易メディカルチェックが終わりましたから間もなく……来ないですね」
「どういうことかしら」
「今からオートレンジで調理を始めるみたいです、あっ、ピエロさんが料理が出来たら呼ぶから来て欲しいと言ってます」
「ピエロさんが作れるわけがないからレヴィさんが作っているんだよね新しいレシピでも持ってきたのかも知れないね」
「そうかしらねそうだったら嬉しいわって言いながら喜ばないといけないのかしら、うちより他を優先させるって何だか悲しい」
さっきまでワクワクしながら喜んでいた表情が翳ってきていく。
「ねえ、来るなとは言われていないから休憩室へ行ってみようよ」
昴くんは元気がなくなる前に何とかしようとアイリーンの手を持って操縦席から引き起こす。




