194.レヴィを迎えに
スターキッドのメンテナンス飛行はB99の周囲を周回しその間は索敵警戒も行っている。
「もっとスピードアップしましょうよ」
いつものようにスターキッドAIが愚痴った。
「巡航速度で飛ぶのが石橋艦長との約束だったよね」
昴くんが確認するように言う。
「そういうAちゃん時々スピードオーバーしてるわよね、うち達にばれないとでも思っていたのかしら」
「巡航速度も準光速度も同じで良いのですよ発音が同じですからね」
スターキッドAIがイントネーションを付けずに喋った。
「ダメだからね巡航速度の秒速4万キロメートルまで加速して周回しますって言っているんだよ」
「そうですよ、だから加速中に準光速度になっても何も言わなかったのですよ」
アシュラがイントネーションを強調した。
「スターキッドが準光速度に近付くと外の光精霊が喜んでるみたいだぞ」
ピエロが明るい。
「あなた達は外のコウちゃんのことが気になって仕方ないのよね」
アイリーンが親指で外を指す。
「光精霊って見えないし良くわからないよね」
「そうかしらね、Aちゃんがスピードアップする時に尾翼でいいのかしらあの辺で虹色になって回り始めるのよね」
「スターキッドの動力炉辺りだよね何をしてるんだろうね」
「ほら気になるでしょう普段はどこで何をしてるのかわからないけどスターキッドが加速するとメリーゴーランドみたいに回り始めるの興味深いと思わない」
アシュラも明るい。
「コウちゃんは繊細なのよ、だからあまり詮索すると消えちゃうかも知れないでしょう」
「そうだよ、刺激しないようにドックには入らず外壁に小判鮫みたいにくっついているのもコウ、光精霊に気を遣ってのことだものね」
「こういう機会にスターキッドを準光速度で飛ばして光精霊のご機嫌取りをするのもいいとは思わないかい」
ピエロがニヤつく。
「わかったわ、でもあなたがチシャ猫みたいに消えないでよね」
アイリーンはピエロの表情に過去を重ねる。
ピエロはイノマンのポーズを決めた。
「それじゃあこの事を愛鈴から石橋艦長へ連絡しないといけないよ」
アシュラが告げる。
「Aちゃんあなたうちの声まね上手かったわよね、任せても良いかしら」
「嫌ですよ~、規則違反になって僕が罰せられるじゃないですか」
「誰があなたを罰するのかしらね、何だったらうちが今からあなたを罰してもよくてよ」
「い、今、通信文を送信しました」
「そう、それで良いのよね」
「まあ、問題があれば何かしらの返信が来る筈だから大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、加速するかしら」
「ちょっと待ったあー」
ストップを掛けたのは昴くん。
「なんであなたはいつもいつもそうやって水を差したがるのかしら」
「違うよ愛鈴、僕たちは母艦の回りを周回しているんだよねだけど準光速度まで加速するんだったらさ遠出しても良いんじゃないかと思うんだよなあ」
「あっ、そうね貴方にしては前向きなお言葉かしら」
「いつもが後ろ向きって言いたいのかなあ」
「それはあなた次第かしらそれでどこへ向かおうってのあの艦長さんは結構お堅いと思うのよね」
「レヴィを誘おうと思っているんだよ、アケルナルへ行くって伝えてないよね断られるにしても会って話をしたいんだよな」
「あの娘は可愛いものねあなたが何かに理由を付けて会いに行きたい気持ちはわかるかしら」
「そ、そういう意味はないよレヴィは海王族のお姫様だよ僕なんかとは不相応だしそんな風に思うこと自体が不謹慎だよ」
「それはうちとは釣り合っているし丁度良いと言ってるのと同じかしら」
(うわぁ~ドツボに嵌まってさあ大変になってしまうよ~)
「レヴィは精神感応が使える半妖精だからなもし同行してくれることになれば癒しの歌姫としてB99のスターになれると思うぞ」
「そ、そうだよピエロさんの言う通りレヴィさんが居れば光精霊ともっと仲良くなれるんじゃぁないかと思うよ」
「わかったわ石橋のおっちゃんがオッケーしてくれたら海王星まで行きましょう」
「海王星までは準光速度で8時間です。とんぼ返りする訳にはいかないでしょうし時差も発生しますので艦長には48時間前後で戻るとお伝え下さいな」
「アシュラが酷い! 僕が伝えようとしてたのに先に言っちゃったよー」
スターキッドAIが愚痴る。
「AちゃんはAちゃんのやらなくてはならないことが沢山あるでしょう、鼻先から尻尾の先までオールグリーンなのかしら」
「悪意のある例えにしか思えませんけどピート管からテイルランプに至るまで全て正常です」
「石橋艦長より許可を頂きました。いつでも行動開始できます」
「アシュラはいつもに増して素早いね」
(それになんだか礼儀正しくなっているよゴートさんの教育を一緒に受けたせいもあるのかな)
二人がゴートさんの授業を受ける日はアシュラも道連れにされていたのだから。
「レヴィが起きている間に着けるよう急ぎましょう」
「わかったわ、進路目標海王星、サーチ開始」
「航路上障害物なし」
「惑星内速度制限解除、準光速用光圧縮開始」
「ラジャー」
「加速開始!」
「巡航限界速度まで残り300秒、圧縮光加速パネル展開完了まで240秒」
「最終加速カウントダウン開始!」
「60……3、2、1」
「エネルギー噴射!」
(スピードを上げろって歌じゃないんだからね)
「準光速度移行完了スターキッドオールグリーン」
ピエロの報告。
さすがに小瓶は手にしてない。
「このまま8時間かしら」
アイリーンが操縦席でいつものように伸びる。
「宇宙風が真後ろから吹いてます。微々たるものですけど仮想壁になって空間滑りが減少した分だけ到着時間が早くなります」
「難しくて意味が良くわからないのだけどそれはうち達にとって嬉しいことでいいのよね、それでどのくらい早くなるのかしら」
「もう少し飛べば実績値より計算ができます」
「早くなる分には良いことだと思うからあまり気にしなくてもいいんじゃないかなあ」
「あら、昴くんはお昼ごはんを何時に取るつもりなのかしら」
「もうお昼ごはんの心配かい、さっき朝ごはんを食べたばかりだから4時間後だろう」
「あなた甘いわ、もし6時間で到着するのならお昼を食べた2時間後に晩ごはんをレヴィさんの所でご馳走になることになるわ、そんなことになったら半分も食べられないかしら」
(「だったらお昼ごはんを抜けばいいだろう」って言いたい、本当に言いたい!)
「そういうことでしたら3時間後におやつにしませんか消化がいいものにすれば晩ごはんがしっかり食べられますよ」
「わかったーそうする流石のアシュラは計算高いね」
(でも愛鈴、レヴィさんの所で晩ごはんが用意されてなかった時に君は一体どうするのかな……僕は想像したくもないんだけど)
「やっぱり思った通りだな、光精霊がスターキッドの回りで活性化しているみたいに光っている」
「精霊は祈りを捧げることで妖精に進化するってレヴィが言っていたんだったよね、ピエロさんは祈ったりしてましたか」
「いいや全然してない元々イノマンの血筋には祈りの概念が存在しないからな」
(イノマンの血筋ってイノマンクローンの人たちのことだよな誰か一人ぐらいは祈ってても良さそうに思うんだけどな)
「確かレヴィが祈り方が分からないなら想いを寄せるだけでもいいって言ってたかしら」
「それだったらピエロさんはちょくちょく光精霊のことを気にしてましたし今も観察してましたよね」
「ああそうだなそれくらいだったらしているかな、以前私の命を救ってくれたのは光精霊とコバルト妖精だったろう、コバルト妖精は基地に残してきてしまっているから今は光精霊しかいない、それにもうすぐ妖精へ進化するのではないかと気にはなっている」
「それなら私も一緒です。これから迎えに行く炎妖精のロースさんはシュー・ウォッシュナビで空間転移できますし、コバルト妖精は瀕死のピエロさんを回復させてますでしょう、準妖精のレヴィさんも精神感応以上の能力の持ち主でした。光精霊で攻撃してきたカシオペア戦艦はスリットとかいう空間転移で現れています。外で輝きながら回っている光精霊も妖精さんへと進化して意志疎通ができるようになったら空間転移してくれないかなと願っています」
(さすがに敵が現れた時に攻撃してもらおうとは考えてないみたいで良かったよ)
昴くんはアイリーンのクローン体に移された地球防衛基地初代メインコンピューターアシュラの残存意識がここにきて穏やかになってきているのではないかと安心した。
それから交代で仮眠を取ったり一緒におやつを食べたりしている間に目的地が近付く。
「まもなく海王族の勢力圏に入るので減速しますよ、それと通信でこちらの所在を明らかにして下さい外惑星の人達は威嚇射撃で挨拶してくるので困りますよ」
スターキッドAIの報告で皆が持ち場に着いて緊張する。
「その通りかしら、今回の訪問は事前連絡無しなのよね」
「愛鈴、まさか本当に何の連絡もしてないのかい」
(それでどうやってご馳走にありつけると思っているのさ)
「そうね直接会って話さなくてはという思いが強かったのかしらね、何しに行くとか一言での説明が難しかったじゃない」
「君はいつも『おやつを持って行くからね』って返事を聞く前から向かっていたよね」
「だって『ご馳走を食べに行ってもいいですか』って言えるわけないかしら」
昴くんの非難する様な眼差しに耐えかねて口にした。
「そこはほら暫く太陽系を離れるので挨拶に行きますとか言えば良かったんじゃないかい」
「うち達は太陽を挟んだ反対側を飛んでいたのよおまけに手ぶらだしさ……」
「お願いですからそういう話しは後回しにしてさっさと連絡して下さいよ~、威嚇射撃が始まっちゃうでしょう、間違ったら当たるんですからね」
スターキッドAIが切実に訴える。




