193.誰の披露宴?
新造戦艦B99のナチュラルエリアで地球防衛基地オビス元司令官と地球防衛基地所属艦隊旗艦戦艦マリンアリオン元艦長の結婚パーティーが石橋艦長による乾杯によって始まった。
昴くんが石橋艦長へ今にも詰め寄りそうになったのをアイリーンが引き止め主賓席に引っ張っていく。
「落ち着くのよ石橋艦長が口に出してしまったからにはもう祭りの後なのよね」
「そ、そうだねごめんよ愛鈴、冷静になれたよいま訂正しようとしても逆効果になるだけだよね」
「火にダイナマイトだったかしら」
「火に油だよ、それとこの前もそうだったけど祭りの後ではなくて後の祭りって言うんだよ」
「わかった、それよりこんな機会は2度とないかもしれないからさっさと食べるわよ」
「オートレンジで調理されてない料理があるって始めて知ったよ」
テーブルにはドラム缶コンロの直火で焼いた串肉数種類とカラフルな色をしたジュースが3つのピッチャーに入って置いてある。
「もぐっ、自然に囲まれて食べるってのがこんなに美味しいことだったのを久しぶりに思い出したわー」
アイリーンが両方の手に持つ串肉を交互に口に入れ頬張っていく。
昴くんはきれいに透き通ったレモンイエローのジュースに手を伸ばす。
「すっぱ!」
(想像はしていたけどそれ以上だよ、これは無理だな)
最近は多少の冒険心を持つようにしようと心掛けている。
次はワインレッドのジュース、最後のはミルクホワイト1色。
(これって色の種類で味が変わっていて面白いな、ミルク色はスッキリした味わいで先の味を消してくれている)
昴くんは好奇心に勝てず1つのコップに白、赤、黄色のジュースを継ぎ足していく。
「面白いことをしてるわね」
アイリーンが声を掛けてきた。
「これってさ牛乳みたいなジュースが口の中をクリアにしてくれるみたいでさ次の味が鮮明になるんだよ」
「へえ~、何かすごいね」
アイリーンは興味がないみたいで黙々と食べ続けている。
「だいたい食べ尽くしたかしら」
「僕はもうお腹一杯で動けないかも知れないや~」
「それじゃあそろそろ始めましょうか」
「えっ、一体何を始める気なの」
(歌でも歌おうってんじゃないだろうな)
「石橋艦長ちょーっといいかしら、うちと昴くんのご成婚っていつ誰が決めたのかしら」
(ああ、そう言うことかぁー)
昴くんも臨戦態勢に入った。
「オビス君とアリオン君からなんだけど何故そんなことを聞くのかい」
「事実無根だからですよ、間違った情報の拡散は良くないと思います」
「君たち二人は夫婦同様に生活していると聞いたぞ」
「そんな事実はないです」
「二人だけで何年も一緒に生活しているそうじゃないか」
「ず~っと一緒だからって結婚するんじゃあないんだからね」
(愛鈴の語気が弱い気がするのだけど大丈夫かなあ)
「そうなのか」
「地球人……いや僕たち日本人にとって結婚とは愛し合った二人が身も心も1つにして遠い将来に死別するまでお互いが支え合って生き続けることだと聞いてます。君もそうだよね」
昴くんは言い終わると隣のアイリーンに同意を求めた。
アイリーンは顔を赤らめて下を向いている。
(やっぱり調子が悪いのかなあ、どうしたんだろう)
「私に言わせると君たちは二人で一人の様に見えるのだけどなそれで充分だろう『愛し合う』という感情は地球人しか持ってないことが我々宇宙人の長年にわたる研究によって解明されている」
石橋艦長が講義をする口調で言う。
「オビスのおっ……オビスさんはアリオン姉さんを愛しているから結婚したのよね」
「すまないな私たちには君たちが言う愛という概念がわからないのだよ、まあ愛は人それぞれの感情で定義はないと言ってしまえば愛しているでも良いだろう」
(何かはっきりしないわね)
「どのくらい愛してるのかしら」
「だから何が愛なのかは分からないのだが、どちらか死ぬまで一緒に生活したい感じだな」
「それが愛だと思いますよ、死が二人を分かつまで離れないのであれば深い絆で結ばれた愛だと言っても過言ではないと思います」
「別れが訪れた時に悲しみを伴わないとしてもかい」
「えっ? 愛する人が死んじゃったら悲しくなるわ、もっと一緒に居たいって思うでしょう、生き返らせたいって思わないかしら、心が苦しくて涙が溢れだして止まらなくなるじゃない」
「そんなことはないな、特に死別の場合は宇宙エネルギー全ての和はゼロであって無にはならないという考え方が一般論で未来で再会する可能性を含んでいる。その時が直ぐ来るように『また会おう』と笑って別れるな」
(それも究極の愛だと思いますよ)
昴くんはこの問題は根本的に噛み合わない話しなんじゃないだろうかとの考えに至った。
「まあそうですね愛が何なのかは実のところ僕には分かりません。だからこの話は終わりにしましょう」
「え~っ、うち達は愛し合ってるのよね」
アイリーンが唐突に言う。
(愛鈴は愛って言葉に洗脳されちゃったんじゃないかなあ)
「そうだね何時も一緒に居たいって思う程には愛しているよ」
昴くんは誤魔化したつもり。
「今はそれでもいいわ、でもあとでゆっくり話しをするかしらね」
アイリーンは納得してないって表情をして睨む。
「まあそういう訳で僕たちはまだ付き合うとか婚約ましては結婚なんて考えたこともありません。だけど一緒に居るだけでそういう風に見られているのならあえて否定しない方が良いのかも知れませんね」
「そうだな君たちは形式にこだわらずそのまま過ごしてもいいのだろう、ただ立場上オビス君とアリオン君は形式が必要だったのではないかな」
最後は石橋艦長が得意顔で締めくくった。
オビス元司令官とアリオン元艦長は主賓席に座ったままイノマンのポーズを決めてこちらを見ている。
(二人は行雲流水の生き方をしてるよなあ)
「ねえ愛鈴僕たちもあの二人を見習おうか」
「わかったわもうまな板の鯉かしら」
そしてアイリーンは大人しくなった。
主賓席に座っていると色々な人が挨拶してくる。
適当に返事をしていたらゴートさんが目の前に立っていた。
「あんた達は私が順番待ちをしているのに気付かなかったろう、挨拶もいい加減だったんじゃないか」
「ごめんなさい疲れがピークに向かってるみたいかしら」
アイリーンがどうやって誤魔化そうかと思考を巡らす。
「別に咎めようってんじゃないんだ、ただこんなところでボーッとしていたんじゃあ危ないよって注意しに来てやったんだよ」
「何が危ないのかわからないわ教えて下さるかしら」
「ああもちろんさ、こういう席を利用して言質を取ろうとする輩がいる、だから知らない人に迂闊な返事をしないように気を付けるんだよ」
「げんちってそんな高価そうな物うちは持ってないかしら」
ポケットを探る素振りを見せて言う。
「愛鈴それは持ち物じゃなくてね約束をさせられるってことなんだよ」
「昴くんの言う通りだよ、あんたはまだまだ勉強が必要みたいだね」
「大丈夫よ、うちの横にはずうっーと昴くんがいて教えてくれるわ、だからこれ以上ゴートさんの手を煩わせなくてもいいかしら」
「いいや、私も乗り掛かった船だからね途中で降りるわけにはいかないさね」
「じゃあ、30日毎に1回試験を受けて合格したらゴートさんの教育を受けなくても良いというのはどんなでしょうか」
昴くんが提案するとゴートさんは即答せずに考え込む。
「中々に良いやり方かも知れないね合格するもしないも私の判断でいいんだね」
「それでいいですけどお願いがあります。最初の1時間で講義をして次の30分でその内容についての試験を行う様にしてもらえますか」
「抜け目のない男は嫌いじゃないよ、1時間じゃなくて4時間にするからねあんたもそれでいいんだよね」
ゴートさんがきつい目付きで言う。
「嫌よ……って言ったらもっと酷い事になりそうだからわかったわ了解します」
アイリーンも妥協した。
それからゴートさんの教育を二人で受けつつB99の艦内をくまなく探索する日々が続いている。
「やっぱりスターキッドに乗っている時が一番落ち着くかしら」
そして今はスターキッドのメンテナンス飛行中。
「四人が揃うって久しぶりな感じだよね」
副操縦席に座っている昴くんがイスを回転させた。
通信席はアシュラの定位置になっている。
そして環境管理席にピエロが座っていた。
(あれ、ピエロさんが一瞬レヴィに見えちゃったデジャブーだよなぁ)
「その席はレヴィのだからね、あまり汚しちゃ嫌よ」
「わかってます、少し座ってみたくなっただけですよ」
そう言うと立ち上がって後ろの壁にもたれ掛かりポケットに手を突っ込む。
そこがピエロの定位置というわけではないのだけどいつもの場所だ。
新しくなって物腰が柔らかくなった気がする彼がポケットから手を抜くと茶色の小瓶が握られている。
「あなたまだ延命剤を飲んでるのかしら」
アイリーンが心配そうな表情になった。
「いえいえいつものお酒ですよ」
しらっとして言う。
「いつもの場所に立つのは良いけどお酒はダメかしらね」
(愛鈴は自分のことを棚に上げてよくいえるよなぁ~)
昴くんが首を振る。
「ピエロさんは新しい体を貰ったのだから大事にしないとイノマン博士に悪いですよ」
(アシュラさんは冥王星でイノマンに救われているんだよな)
「イノマンには感謝しているよこの命を繋いでくれたのだからねでもそれとこれは別さ、私は今ままで通りの私で過ごしたいし過去の行いを否定したくないからそうするのさ」
ピエロがイノマンのポーズをした。
「そんなことを言うのならいっそ魂だけ繋いで記憶は新しくしてもらえば良かったのかしらね」
「そんなことをしたら全くの別人になってしまうんじゃないのかなぁ」
「あら魂さえ繋いでいれば同一人物なんじゃないかしら、あなたの中のお兄ちゃんはその筈よ」
(そうなんだけど僕が時々感じるデジャブーは石井光一さんの記憶によるものだと思うんだけどな)
昴くんは石井光一の過去に想いを馳せらす。




