192.ナチュラルエリア
スターキッドはB99に無事ドッキングしている。
色々と問題ある発言や行動についてとやかく言われることなく四人でエッグに乗り込みナチュラルエリアへ向かう。
オビスさんが乗って来た宇宙艇は自動操縦で追尾するようにしたのでB99は減速することなく進む。
「おっちゃ……オビスさんはうち達に内緒にしてたって言ってたけどこれから何が起きるのかも教えてくれないのよね」
「先ずは呼び方を変えよう今は普通の人になったのだから『おっちゃん』と呼んでも良いぞ何も問題はないからな、そしてそうだなこんなことになるのなら最初から伝えておけば良かったと反省しているよ悪かったと思っている、だけどこれからの事は知らないのだよ私はこのアイリーンが所有する戦艦に乗せて欲しいと頼んだだけだからな」
「僕たちが基地にいる間に乗艦することはできなかったんですか」
「君たちがアケルナルへ行くと聞いてから退職手続きを始めたからね出航には間に合わなかったんだ」
「じゃぁうち達がアケルナルに行くなんて言わなければオビスのおっちゃんは司令官を辞めたりしなかったんじゃないかしら」
「どのみちあと1年以内には退官するつもりではいたのだからそれが早まっただけだと考えている、そう言うわけでB99に便乗をお願いしたのだよ」
「そうだったのですね、そういえばオビスさんは牡牛座アルデバラン出身でしたねエリダヌスとは同じ方向ですね」
「昴くんだったかな、よく知っているな勉強家で良いことだ、その通り恒星間宇宙域まで行った所でコスモトンネルなりのショートカット航路がタイミング良く発生していればそこでお別れして里帰りしたいと考えているんだ、こんな機会は2度とないだろうからな」
話しの途中で室内照明が暗くなり目的地に到着したことを示す。
「着いちゃったみたいじゃない、昴くんばかりお話ししてうちはちっともお相手できなかったかしら」
アイリーンが少しお冠になっている。
「ごめんよ愛鈴、次は君が話すと良いよ」
「まあいいわあなたがオビスさんと話してる間うちはアリオン姉さんとお話ししてたからね」
「どんな話をしたのかなあ」
「内緒の話じゃないかしら、乙女の話を詮索するものじゃなくてよ」
「わかったよ」
アイリーンはどちらからプロポーズしたのがが気になって聞かずにはいられなかったのだった。
(昴くんもいつかはうちに結婚してくれとか言い出すのかしらね、でもそうなるのはずいぶんと先のことかしら)
エッグからはオビスさんが先に出てアリオンさんに手を差し伸べてエスコートしている。
「うおおっと!」
昴くんも真似をしたくなり出口側に座っているアイリーンより先に出ようとしてつまずきそのまま彼女の太ももに座ってしまう。
「あなたね~、何をそんなに急いでいるのかしら、うちをまたいでまで出なければいけない程にトイレを我慢してたのとか言わないで欲しいものだけど」
「いや違うよ、ちょっと格好着けたくなって失敗して凄く格好悪い姿になっちゃったみたいだね慣れないことはするもんじゃないって教訓かも知れないね」
「よく意味がわからないわ、それより早くうちの上からどいてくれないかしら」
四人がエッグから降りてナチュラルエリアまで歩く。
二重の自動扉が開くとまず濃厚な若草の香りに包まれた。
「凄いね艦内マップに載ってるから知っていたけど思っていた以上に広いや」
「うちはここに住むわ、なんだか懐かしい」
アイリーンが草の上に座り込み寝そべっていく。
(ああそうか既視感があると思っていたんだよな)
「ここはこれから行くC2に似てると思わないかい、ほら君と最初にテレポートで降り立った場所だよ」
「しまった! 早く息を止めないと眠ってしまうわ」
「大丈夫だと思うから安心しようよ、それに息を止めたら死んでしまうからね、普通に息をして眠ってしまうほうがましだと思うよ、オビスさんたちも居ることだしさ」
「そうねおっちゃんが介抱してくれるならうちは眠るわおやすみなさいかしら」
「ダメだよ愛鈴! そんな話じゃなくて石橋艦長を探さなくてはいけないよ」
「あ~」
アイリーンがうっとりとした目を開ける。
「今度は何」
「美味しい匂いが漂ってくるわ」
「変だね僕には匂わないよ」
(野生に戻って感覚が鋭くなっているんじゃないだろうな)
「ほら向こうで手を振ってるじゃないかしら、うち達を呼んでるのよこんな所でのんびりしてる暇はないわ早く行かないとご馳走が無くなってしまうかも知れないわ急ぐわよ」
アイリーンが昴くんの手を持って起き上がると手を引いて歩き出そうとした。
遥かな草原の後ろに森林が見える。
その手前だろうか多くの人が煙を棚引かせている焚き火の回りに集まっているみたい。
(あの手を振っているのはゴートさんに見えるのだけど愛鈴は気づいているんだろうか、まあ今は言わないけどね)
アイリーンは美味しい匂いを漂わせている物が何なのかが重要であり手を振っているのが誰なのかまでは思考が回っていなかった。
「あなたはいつもこんな素敵な会話に参加していたのかい、ボクは羨ましいよ」
アリオンが微笑みながらオビスを見ている。
昴くんとアイリーンにとってはいつもと変わらないお喋りなので意味が分からずキョトンとした。
「ほら、おっちゃんとアリオン姉さんも急ぎましょうよ」
アイリーンが二人の存在を忘れていたのを誤魔化す様に言う。
「君はアリオンのことを姉さんと呼ぶのに私をおっちゃんと呼ぶんだね何だか不公平極まりない気分になるのだけどな」
「わかったわ、これからはおっちゃんのことをおっちゃんって呼んであげるわね」
三人は笑えないジョークなんだろうかと顔を見合わせた。
「ほら急ぐのよ」
アイリーンが昴くんの手を離し一人走り出す。
近づくと焚き火の煙と思っていたのはバーベキューコンロから出ているものだとわかる。
(しまった、さっき手を振り招いていたのはゴートさんだったんじゃぁないかしら)
そう思い至ると足が止まり動かなくなった。
充分すぎるほど恐怖を味わった頃になって昴くんたちが追いついてくる。
「愛鈴なんでそんなに固まっているんだい」
昴くんが笑いを堪えながら聞く。
(理由はわかっているんだけどね)
「ゴートさんが居るわやっぱりうちのことを見張ってたんだわもうお仕舞いようちはあの網の上できっと焼かれるのよ」
「大丈夫だよ冗談でもそんなことにはならないから心配しないで、ほらゴートさんは笑顔じゃないか」
「笑いながら人を頭から丸かじりするんじゃないかしら」
「そんなブラックジョークばかり言ってると夜に眠れなくなっても知らないからね」
「わかったわじゃあ手を繋いで一緒に行きましょう、あっ、オビスさんとアリオンさんが先に歩いて下さいますか」
アイリーンがさっきまでとは打って変わってキリッと真面目人間の表情をした。
そして二人の後から隠れるようにして付いていく。
「この度はおめでとうございます」
前方から挨拶文を投げ掛けられたのでアイリーンが首を延ばして確認した。
いつの間にか石橋艦長が最前線に現れて挨拶をしている。
その後ろに20人程が集まっていた。
彼らと彼女らはバーベキューコンロを囲ってなにやら焼いている。
その匂いが芳しくて堪らない。
「石橋艦長こんにちわ、それで何がおめでとうなのかしら」
アイリーンが姿を現す。
『虎穴に入らずんば食物を得ず』って面持ちをしている。
美味しいものを食するためなら危険を冒しても顧みないのだろう。
キリッと口元を結んで凛々しい表情をしているのだけど昴くんはよだれが垂れるのを我慢しているんじゃないかなあくらいにしか思っていない。
「やあアイリーン元気そうで何よりだ、私たちは君のお陰で段取りが狂って昨日からバタバタになったよ」
アイリーンは段取りが狂って何がおめでたいのかなあと思う。
(ねえ愛鈴、君と僕とで艦長たちが計画していた何かをダメにしてしまったみたいだよ)
昴くんが小声で耳打ちする。
そして艦長の後方にゴートさんが控えていることを目で教えるとブルッと身震いをした。
「石橋艦長それは大変悪いことをしてしまいました。ごめんなさい」
とりあえずは詫びる。
(謝っておけばこれ以上悪いことは起きないはずよね)
アイリーンは美味しそうなバーベキューを目の前にして最後の審判が下されるのを待つ。
「ここでオビスさんとアリオンさんの結婚披露宴を催すのですよね、こんな暗黒宇宙の真っ只中で光輝く大自然を舞台にして皆さんから祝福されるのはこれ以上ない演出だと思います」
昴くんが今まで得た情報から導きだされる自分なりの答えに従い言う。
(たぶん艦長は最初から全てを知っていた筈だからねアイリーンを艦橋から遠ざけていたのだって情報が漏れるのを恐れていたからなんだよな、オビスさん達があと3日で到着するところから準備を始める手筈を整えていたら愛鈴のせいで1日になってしまって人員も会場も手配できないからこういう形式になってしまったんじゃないかなあ)
「昴くんだったかな、中々鋭い洞察力をしているじゃあないか艦橋主任補佐をしてもらいたいくらいだよ」
「いえ僕は愛鈴の補佐をしなければいけませんので辞退させて頂きます」
「そうかそうだったなそれは仕方ない、軽はずみなことを言って済まなかった、それではお詫びも兼ねて始めようか四人共もう少しこちらへ来てくれないかな」
「えっ、僕たちはそちら側へ行った方がいいのではないですか」
「ハッハッハッ、何を言う君達も主賓なんだからな」
「なんだかイヤな予感しかしないかしら」
アイリーンが昴くんの腕にしがみつく。
オビスさんとアリオンさんは手を繋いで仲睦まじい様子。
「それではオビス、アリオン両名のご結婚と昴くんアイリーンのご成婚に乾杯!!!」
昴くんとアイリーンは夢の中?




