190.不協和音
スターキッドの索敵範囲は1AUもあって自他共に宇宙一を自慢していた。
でもそれは実用性に欠けているので普及してない。
そのスターキッドAIがアイリーンに『誰がが追い掛けてくるよ』と告げている。
「どのくらいの距離があるのかしら」
「先ほど探知範囲に入りましたからですね1億5千万Kmですね、ただ距離は徐々に詰まってきてます」
「通信は入ってないんだよね」
「当たり前だのですけど情報漏洩できないので本艦に入電してないか石橋艦長に直接問い合せして下さいよー」
スターキッドAIが追及を逃れるために茶化して言う。
「わかったわ、その言い方だとBちゃんには通信が届いてるみたいね」
「電話を掛けてみるかい?」
「いいえ艦橋に行きたいわね、こういう時こそ大手を振って乗り込まなくっちゃ何時まで経っても立ち入り禁止が解除されないわよ」
「君があそこで操舵させろって駄々をこねたりしたからだよね、それに立入禁止じゃなくて用事がないのに立ち入らないで欲しいって石橋艦長が懇願してきたんだからね、行くのは良いけど皆の邪魔にならないようにしようね」
「うちがオーナーなのよ、ここで何をしようと勝手じゃないかしら」
「少し違うと思うよスターキッドなら僕と愛鈴だけだから君が何をしようと自由だけどね、この戦艦には3千人の乗組員が居るんだよ」
「わからないわねその理由は何よ」
「う~ん、例えるならお店のオーナーがさ『ここにある商品は全て私の物だから私が自由に使っても問題ないんだぞ』って言ってるのと同じなんじゃないかなあ」
「それはいけないことなのかしら?」
「従業員が居たとするでしょう、お店の売上げがその人達のお給料になるんだからもし愛鈴がそのお店で働いていたとしたらどんな気分になるのかなあ」
「オーナーが勝手に商品を持ち出してお給料が貰えないってのなら当然許せないわよ……でもそれがどうして艦橋に行けない理由になるのよ」
「ごめんよ例えが悪かったかも知れないみたいだったね、直球で言うとね愛鈴は所有者で艦長は指揮する人なんだよ、B99を効率良く使って目的地まで安全な航海をして少しでも早く到着できるよう全身全霊を尽くしてると思うよ、その艦長に愛鈴は『海王星へ行って』って簡単に命令できるんだよ、たとえそれが軽い冗談だったとしても艦長は考えなくてはいけなくなるんだ、わかるよね愛鈴」
「そうねうちが艦橋に居たんじゃ珍しい色したコバちゃんみたいな隕石や一段と暗くなった宙域を見つけて時空の裂け目から敵が現れるわって騒ぐかも知れないって自信があるわ、そんなことでいちいち寄り道していては何時まで経ってもアケルナルには着かなくなるってことなのよね、わかったわうちは艦橋に居る間だけミッ○ィーになるわ」
(ミッ○ィーって何だったっけ、あっ、そうだ隣の宣子さんが持っていたウサギのぬいぐるみが確かそうだったよな、あの口は喋らないことを意味していたのかあ、今初めて知ったよ)
「自覚してくれて良かったよ、いつもそうしてもらえると僕は安楽に過ごせるんだけどね」
「あら酷い言い方ねうちはいつも良識ある女を目指しているんだからね」
(どうだかね、まあ言いたいことは色々あるけど今は艦橋へ行こうかな)
前回の一件以来昴くんは客室備え付けのキックボードを封印している。
そもそもそれは緊急脱出時のみ使用を許されているものだったらしいから。
エッグ乗り場まで歩いてゆく。
『適度に運動をしないと太るよ』と言ってアイリーンを宥めている。
艦橋に入ると先ず艦長に挨拶をして後ろで控える。
辺りを見渡してもゴートさんの姿はない。
「ゴートさん居ないね」
アイリーンの気持ちを察して昴くんが言う。
「何だ君たちはゴート主任に用事があって来たのか」
石橋艦長が安堵の吐息を交えて聞いてきた。
「いいえ艦長、誰かがこの戦艦を追い掛けてきているのではないかという情報を得ましたので確認しに来ました」
アイリーンはミッ○ィーになると言っていたので手助けのつもりで昴くんが話す。
「その情報とやらは何処から仕入れたのかな差し支えがなければ教えてもらいたいのだが」
(差し支えがなければとか言いながら威圧が凄いや問答無用って感じかな)
昴くんは最初から誤魔化すつもりはなかったのだけど悪戯心が芽吹く。
「僕たちはスターキッドとキャプテンアイリーンの仲間ですからね情報網は何処にでもありますし何処へでも潜り込めますよ」
「わかったよ、君たちに隠し事をしようとするなら心の中に留めておくしかないということだな」
「フフ~んチョコレートケーキより甘いわよ、うちのピエロに掛かれば心の中だって丸見えなんだからね」
アイリーンの黙りは3分間も持たなかった。
「今の私にはそんな能力はありませんよ」
いつの間にか二人の後ろにピエロが立っている。
(能力がなくっても諜報部員であることには変わらないみたいだね)
昴くんは感心した。
「それでこのままだと何時間後にランデブーするのですか」
ピエロが単刀直入に聞く。
(ピエロさんは新しくなってもやっぱり大人だよな、あの聞き方だと艦長は全てを知っていたのに僕たちには伝えなかった事については不問にするって言っているのと同じだと思うよ)
「65時間後になりますかな、直前まで待って伝えようと考えていました。何よりアイリーンさんへ伝えた時点で『迎えに行くわよ』って言い出しかねません……とあなたも思うでしょう」
その話を聞いていたアイリーンは顔を赤らめて下を向く。
(そうよその通りよ悪かったわね、でもこのまま黙っていては敗けを認めるのと同じじゃないかしら)
「あなた達のうちに対する評価が低いことは分かってるわ確かに今までこんなに大きな戦艦を言葉ひとつで振り回せる立場に居たことなんかなかったんだからね」
(そりゃあスターキッドなら君の気分しだいで今まで散々自由に使ってきたけどね)
昴くんがアイリーンの横で珍しくイノマンのポーズを決めている。
「その通りです。あなたが取るに足らない独り言を発したとしてもここでの発言は意義を持つことになるのですよ」
「愛鈴はやっぱりミッ○ィーちゃんにならないといけないよね」
昴くんがそっと優しくアイリーンに耳打ちすると慈愛を込めた細い目をして睨み返された。
「その通りかしら自分でもうちは気が短い方だと思ってるわ、そして皆が同じようにうちのことをそんなに気にしてるのならその通りになってあげるかしら、だったら待ってあげて明日の朝……いいえお昼前にはうちが直接対峙できるようにしてくれるかしら」
言い終わると昴くんの手を取り踵を返す。
後ろにはピエロが控えていたのだけど何も言わずに通り過ぎようとする。
「ごめんピエロさん後は任せますから宜しく頼みます」
昴くんが小声で言う。
今度はピエロがイノマンのポーズで返事をした。
艦橋を出ると直ぐにエッグ乗り場があり1台が常に待機している。
「うちはもう艦橋へは行かないことにするわ」
エッグの中で二人っきりになるとアイリーンが昴くんに寄りかかり寂しそうに言う。
(もしかして泣いているんじゃないだろうな)
昴くんはあり得ないだろうと思って顔を覗き込もうとする。
(しまった。罵倒の言葉が飛んでくるよな)
そう思って身構えているとアイリーンが黙ったまま顔を押し付けてきた。
居住区近くのエッグ乗り場から無言のまま歩いて帰っている。
「ごめんよ愛鈴、僕の言い方が悪かったよ」
機嫌が悪いんじゃないかと思い何時ものように取りあえず謝ってみた。
「そうね援護射撃がなかったかしらそれどころか言葉の弾丸で背中を撃たれたような気がしたわ、まあそれは何時ものことだから良いとしてうちは大勢の人と共存するのは無理だと思うのよね」
「でも今までだって大勢の宇宙人達と対等に渡り合ってきたじゃないか今になってそんなことを言い出すってのはどうしちゃったのかなあ」
「今までは皆から小わっぱ扱いされてたわ、うちが何を言おうと軽く扱われていたから逆に言いたい放題できたのよ、このままの状態が続いたら窒息しそうよ待ってあなたが言いたいことはわかるわ、話し出す前に少し考えて言葉を選んでってのは無理だからね」
「わかったよ降参する、じゃあ僕たちはあの客室を拠点にこの戦艦を探索しつくそうよ、そうしようよ運用は艦長に任せてさ、何だったらスターキッドで並走して飛ぶってのもありだと思うよ」
昴くんは暗い表情をしたアイリーンにこれ以上辛い思いをさせたくないと考えた。
「スターキッドAI聞こえてますか」
アイリーンの首に掛けたチョーカーに向かって話す。
「メリットファイブ」
「今からメンテナンスフライトの許可を取るから準備お願いします」
「ラジャー」
スターキッドAIも良くしたものでこちらの状況をつぶさに把握しているみたい。
昴くんは自分達の客室へ戻ると直ぐに専用回線で艦長に連絡してアイリーンと代わる。
「僕がディスプレイに表示させるからさそれを読んで愛鈴が艦長に言うんだよ」
さすがに命令するんだよとは言いたくなかった。
「今からスターキッドのメンテナンスを行うので飛んできます。全てこちらで行うので何もしなくて結構です。係留場所を現在の艦橋下ハッチから客室区画入口ハッチへ変更しますので周知願います。これより先スターキッドAIとB99AIを常時リンクさせ私も情報共有します。AIより得た情報は一切口にせず干渉も致しません。以上ご承知願います」
「了解致しました」
石橋艦長の今までにない固い口調の返事をもって電話を終わらせた。
(これで暴君が誕生したと思われても仕方がないけどそっちの方向へレールを敷いたのは艦長なんだって理解してもらえると良いんだけどなぁ)
昴くんは少しだけ不安になる。
アイリーンと昴くん




