第九十七話 捻じ曲げた罪は、罪
「……これは交渉ではなく脅しでは?」
「そう思えるならそれでもいい、こちらの誘いにのる必要もない。
その場合は、我が国との戦争が待っていると思え」
かみ合わない会話に、ガルーダ国王は懐から懐中時計を取り出した。
「この国に来るにあたって、子供たちから懐中時計を送られたのだ」
「……は?」
ガルーダ国王の突然の話に、今度はカモイ国王が訳がわからないという表情をする。
それでもかまわずガルーダ国王は言葉を続けた。
「この外交がうまくいくようにと、術具師に依頼してくれてね」
「その守護具は、身体検査でも確認したが……なんだというのだ」
「私の息子、アルバス第二王子は魔法による状態異常を治す魔法を持っている」
「何?」
「身体に作用する魔法なら、拘束魔法も遊毒茸による幻覚も解除できる魔法だ」
意味不明な発言に、ガルーダ国王とトキアス以外混乱しているが、構わずガルーダ国王は、自分の手をギブスに押し当てた。
――パアァ
「っ、カハッ……こく、おう、ありがとうございますっ」
「!?」
「拘束がっ、外れた?」
まさかの出来事に、カモイ国王もコンカ家の二人も驚き身構える。
「悪いが、カルガノとサイシンの話は全て偽造だとわかっている」
ガルーダ国王が宣言すると同時に、トキアスがギブスを支え、ブローチ型の幻灯機を彼の襟元から外した。
「これは私がギブスに持たせていた幻灯機……彼を侮って身体検査をしなかったのは、ミスでしたね」
「っ、こざかしい真似をっ」
カルガノの怒気を含んだ声を聞きながら、幻灯機を再生させるトキアス。
そして映し出されたのは、手を拘束されているギブスの周りに、嫌な笑みを浮かべて見下ろすカルガノとサイシン。
『これからお前には、コンカ家のために遊毒茸と禁制治癒布の犯人として、リューゲル国へ引き渡す』
『安心してくれ兄上、モズ国はコンカ家を受け入れてくれた……あとはリューゲル国内での罪を、兄上が引き受けてくれればいい』
『最後くらい役にたて』
理不尽な説得に、ギブスは抵抗することなく口も拘束され……そして、違法薬物を無理やり注射されたのだった。
トキアスはニヤリと笑って幻灯機を仕舞う。
「ギブスには追跡機能付き通信機も持たせていたのだが、まさか気づかないとは……我が子は平等に扱うべきだ。
この城に来る前にこの通信機で、薬物を注射されていたことは聞いている。
先ほど身支度を整えた時に、遊毒茸による依存性の治療薬も投与済みだ」
「っ、どうりで遅かったわけだ……見張りはどうした――まさか騎士を買収……」
「そんな無駄金は使いません、私にも心配してお守りをプレゼントしてくれる仲間たちがいます。
その中に透明化魔法が使える、元聖拳士がいるのですよ」
そう言ってブレスレットを見せるトキアス。
実はガルーダ国王とトキアスが持つ術石は、とある人物により特別な施しをされ、術石の持ち主が魔法を使うことができる代物だった。
当然その詳細をを敵に教えることはしないが。
「なっ、そんな……無茶苦茶なっ」
「これは魔法の知識と、試行錯誤の上できた代物だ……決して『豊か』という言葉だけで片付けられるものではない」
「っ」
「そして遊毒茸は万能薬ではない……痛みや苦しみ、負担を先送りにするだけの毒だ」
「……何?」
「ギブスに投与した薬も、とある研究所の努力により完成した代物だ。
モズ国が違法薬物を使おうとするならば、我らはその薬で対抗するまで」
「まあ……違法薬物を作れるほどの、遊毒茸はもうなくなっているでしょうが」
ガルーダ国王の宣言に、補足を付け加えるトキアス。
混乱している連中に、にやりと笑いながらかみ砕いて説明する。
「遊毒茸の栽培場は解体した、もちろん親個体も全て処分済みだ」
「トキアス、何を言っている……遊毒茸は無くならない、処分しても胞子を飛ばして増殖するキノコだっ」
「残念だったな、カルガノ……もう処分方法は見つかっているんだ……研究所の努力によってね」
「そ、そんな……嘘だ!」
その時、部屋のドアが勢いよく開く。
「だ、誰だ、今、取り込み中……」
――ドサドサッ
カモイ国王が叫ぶ途中で、二人の騎士がカモイ国王の前に投げ出される。
「っ、これは……我が国が誇る騎士!」
「とある場所で見つけたので、拘束させていただきました。」
怒気を含んだカモイ国王の言葉は、冷静なテリクスの発言に何も続けることができない。
その場所に心当たりがあったからだ。
「っ……お前ら何者だっ、この城にどうやって……」
絞り出した言葉は、何故侵入を許しているのかという疑問。
それもすぐ回答される。
「自己紹介したら入れてくれましたよ、ガルーダ国王の息子、第二王子アルバスだ、とな」
アルバスがにこやかに言いながら、テリクスとバッセル……そしてコルヴァンが彼を守るように並んでいる。
「何故……リューゲル国の王子が、ここにいるんだっ」
「二日前に、たまたま! 遊毒茸の栽培場を見つけてね。
何故か! モズ国の騎士が見張りをしていたので、これは危険だと……」
「アルバス様、さすがに白々しすぎます」
「……良いところなのに、正論を言うなコルヴァン」
不満そうな顔をしつつ、気を取り直して真剣な表情になったアルバスが口を開いた。
「はっきり言うと、我が国から遊毒茸を持ち出し、新たな栽培場が作られたと密告があった。
この交渉が始まる前に、害悪になる物を処分した……というわけだ」
「もっと言えば、処分対象の遊毒茸栽培場に、モズ国の騎士がいたことが大問題なのです……これはモズ国公認だということで、間違いないですか?」
最初はへらへらと笑いながら喋っていたバッセルだったが、最後の方は国王といえど罪を咎めるような剣幕で質問する。
「っ、我が国の騎士が……たった二人とはいえ、三人程度の相手に倒されるはずがないっ」
「どれだけ力に自信があるか知りませんが、魔法と接近戦で、この聖拳士に敵う物はいません」
アルバスにちらりと見られて苦笑するコルヴァン、城に仕えていた頃から、建物に侵入して罪人を拘束する仕事を任せられていた。
しかも透明化魔法が使えるとわかったため、監視役の交代時に開いた扉から侵入、制圧は簡単だった。
(とはいえ単独行動で敵陣に突っ込むから、かなり無謀であり、羽澄を心配させるだろうな。
……絶対にこんなこといえないな)
鬼の形相で心配するであろう羽澄を思うと、さすがの聖拳士も身震いしてしまう。
「騎士の心配は結構ですが、遊毒茸栽培についてはごまかし切れていませんよ」
「くっ」
テリクスの指摘に口を噤むカモイ国王をよそに、アルバスはガルーダ国王へ跪く。
「ガルーダ国王、栽培場にて捕まえたコンカ家の家臣、ならびにコンカ家が移住予定だった別宅にいた奥方と共に拘束済みです」
アルバスが冷静に報告すると、ガルーダ国王は満足そうに「うむ、ご苦労」と、ねぎらった。
「なっ、勝手なことを!」
「勝手なことではない、遊毒茸や禁制治癒布でさんざん罪を犯し、息子に全ての責任を押しつけ戦争を起こそうとする一家など、野放しにできるかっ」
カルガノの訴えに、ガルーダ国王一喝し……それに続くように口を開いたのはギブスだった。
「俺は息子じゃありません、この人たちと血は繋がっていないので」
「っ、何故それをっ……」
「今は感謝します……罪人の息子じゃないことに」
ギブスは晴々したような、それでいて今にも泣きそうな表情をしていた。
登場人物
リューゲル第二王子:ヴァルディア・アルバス
リューゲル国王:ヴァルディ・ガルーダ
大富豪:ハルビア・トキアス
アルバスの護衛剣士:サーン・テリクス
新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル
貴族でギルド運営:コンカ・ギブス
ギブスの弟:コンカ・サイシン
ギブスの父:コンカ・カルガノ
モズ国 国王:アウトリ・カモイ




