第九十六話 遊毒茸が招く、冤罪と戦争の影
ファルケ国を出てから丸二日、アルバスたちは無事モズ国の港へと到着した。
ファルケ国が用意してくれた馬車へと乗り込む。
「この港から栽培場まで、馬車で一日半かかります……そして近くにコンカ家の別荘、という名の監視小屋があるそうです」
目的地に向かう道中、ストリとレンカクがコンカ本宅から押収した資料について、テリクスが説明する。
「詳しい位置関係はわかるか」
「はい、こちらの地図に」
アルバスは地図を見て眉をひそめる。
そしてギブスと通信機で、連絡を取り合っているバッセルに質問をする。
「監視小屋の奥に栽培場か……監視は何人かわかるか?」
「ギブスからの報告だと、長方形の塀が建てられており正面入り口にモズ国の騎士が二人。
その周辺を四人のコンカ家の家臣が、栽培作業をしながら、交代で巡回もしているそうです」
「できればモズ国の騎士を避けたいところだが、入り口は他にないのか?」
「残念ながら発見できなかったそうです」
地図を見ながらしばらく考え、アルバスはコルヴァンに視線を送りながら口を開いた。
「どう思う?」
その一言で全てを悟ったようにコルヴァンも答える。
「まあ、やるしかないでしょう」
「さすがコルヴァンだな……羽澄は連れてこなくて正解だった、絶対反対しただろうし」
にこやかなアルバスの様子に、小さくため息をついて。
(確かに一番心配するのは、羽澄だろうな)
と、母国で待つ愛おしい人を思い出していた。
それから三日後、モズ国にリューゲル国の船が到着する。
ガルーダ国王を迎えたのはモズ国の国王、そして五十人ほどの騎士たちだった。
「ずいぶん警戒しているようだが、いささか失礼ではないか?」
ガルーダ国王が、騎士の多さを不満げに指摘する。
しかし国王は、悪びれる様子もなくニヤけながら答えた。
「軍事国家として、迎える国よりは騎士を多く準備することにしている。
我が国なりのプライドだと思ってくれ」
「……まあ、いいだろう。
しかし、日数をかけて来たのだから、それなりの対応を期待している」
「ああ、もちろんだ……我が国の訪問を歓迎する」
国王同士のお互いを探るような会話に、周囲の緊張感は計り知れない。
普段冷静なヒルンダも、表には出さないが内心、気が気ではない。
カモイ国王が先導し、お世話係と十人の騎士を船に残し、ガルーダ国王とトキアス……そしてヒルンダを始めとした幹部たちを連れて、モズ国の城へ案内されるのだった。
――パタン
モズ国の護衛に先導されながら、話し合いの場である謁見室のドアを閉めたトキアス。
「ずいぶん時間が掛かったようだが……世界を股にかける商人のトキアス殿が、まさか緊張されているのか?」
「当然リューゲル国とモズ国の国王に挟まれれば、誰でも緊張はするでしょう」
モズ国の城に着くと、交渉前の身支度として厠を案内される。
それも一人ずつ、必ず二人以上モズ国の見張りが付く徹底ぶりだ。
「見張りも身体検査もしたというのに、時間制限もされるとは……なかなか手厳しいですな」
トキアスは少し不機嫌をアピールするようにため息をつくと、カモイ国王はじっとその顔を見つめ――そして頭を下げた。
「気分を害したようで申し訳なかった、心から謝罪しよう」
――この男に交渉の主導権を握らせるわけにはいかない。
となれば不本意であっても、機嫌を損なわないよう頭を下げるのが一番の得策と言える。
「まさかカモイ国王が頭を下げてくださるとは、私の方こそ少し感情的になりました」
そう言いながら軽く頭を下げるトキアス、だがその表情に反省の色は見えない。
食えないトキアスの立ち回りに、カモイ国王はこっそり舌打ちをした。
そして話し合いはカモイ国王から始まった。
「この度はわざわざお呼びだてして申し訳ない、リューゲル国とは以前から同盟を組みたいと思っていたのだ。
何せ鉱山はこの世界で一番大きく、資材が豊富……そして宝石の名産地でもあり、優秀な魔法使いも多いと聞く」
「褒めていただき光栄だ」
「そしてもったいないとも思う……それだけの資材や優秀な人材があれば、領土を広げるなど容易いだろうと」
「……そのようなこと、思ったこともないな」
「なら、これから考えれば良い……戦闘において、優秀な人材が多い我が国と、資材が豊富なリューゲル国が組めば、全ての国を統一できる」
「……」
予想していたとはいえ、ストレートな話にガルーダ国王は眉をひそめた。
「悪いが我が国は戦争をする気はない、たとえ勝利に自信があったとしても、無駄な血を流すことはしない」
「やはり、国が豊かだと平和ぼけになるのだな」
ガルーダ国王の考えに、不満そうに呟くカモイ国王は自国の考え方を語り出した。
「我が国は土地柄作物も一部の地域しか育たず、採掘場となる山もない。
自らの力を他国に売り、その金銭で国民の生活を守ってきた。
しかし、この軍事力を活かせる場は少なく、他の国に比べ貧しい生活を強いてきた。
だが今……目の前に戦争という名のチャンスが転がっている。
しかもリューゲル国にな」
「我が国に、チャンスとは……何のことだ」
「遊毒茸だ」
その言葉に緊張が走る。
(確かに増強剤として違法薬物を使うなら、遊毒茸はチャンス……だろうな)
納得しながらも口を噤み、カモイ国王の言葉を待つ。
「リューゲル国で遊毒茸に関わる問題が、いくつも発生しているらしいな」
「詳しいな」
「彼らに助けを求められたのだ」
そう言って部屋に入ってきたのは、神妙な面持ちのコンカ・カルガノとサイシン。
「ガルーダ国王、申し訳ございません……親としてこんな恥ずかしいことはありません」
「……どういうことだ、何があった」
ガルーダ国王の言葉にもう一人部屋に入れられたのは、魔法で腕と口を拘束されたギブスの姿。
ガルーダ国王の前に座らされ、生気がなく呆然と空中を見ている。
「実は我が息子、ギブスが遊毒茸の栽培と違法薬物に手を出しておりまして。
……各国に増強剤と偽り、売り込みをしていたのです」
「リューゲル国内でも、禁制治療布の販売をしており……弟としてとても情けないです」
カルガノとサイシンが悲しそうに訴えてくる様子を、冷静に見つめる。
「息子は今、違法薬物で幻覚を見ている状態です。
コンカ家として責任を感じ、リューゲル国を離れようとしていたときに、モズ国からお声をかけていただいたのです」
「その増強剤が、戦争のチャンスだと思ってな」
「何を、言っている……増強剤ではない、違法薬物だぞっ」
「そっちこそ何を言っている、そちらの国では違法薬物なんだろうが……我が国では増強剤として使用可能とする法が改正された」
「なっ」
「だから特に問題はないのだよ……ただギブスはそちらの国では法を犯している……だから我が国に迎えようと思う。
そしてコンカ家も、ギブスの責任を取る形で我が国に移住する」
息を飲むガルーダ国王たちに告げられたのは、アクロが見つけた遊毒茸の生息地は、ギブスが作っていた栽培場だったこと。
そしてギブスが作った増強剤を、全てモズ国が買い取ること。
そして。
「これが最後の交渉だ、我が国と同盟を組み、安くで鉱石を卸せ。
そして生息地……ではなく、栽培所から遊毒茸を提供し戦争に協力しろ。
さもないと、最初の戦争はリューゲル国で行うことになるぞ」
一番恐れていた交渉が始まった。
初登場
モズ国 国王:アウトリ・カモイ
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
護衛騎士剣士:サーン・テリクス
新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル
国王:ヴァルディ・ガルーダ
女宰相:ホウヅキ・ヒルンダ
ギブスの弟:コンカ・サイシン
ギブスの父:コンカ・カルガノ
貴族でギルド運営:コンカ・ギブス




