第九十五話 作戦実行! それぞれの約束
――パアァ
「……焼却部隊、この森を燃やせ!」
「火炎魔法っ」
――ボウッ
「余計な木は燃やすな、鎮圧部隊っ」
「水流魔法!」
――ジュゥ
アルバスの魔法で遊毒茸の胞子飛散を防ぎ、火炎魔法で遊毒茸が生えていた木を焼き尽くす。
「アルバス王子、全ての遊毒茸処分を確認。
また、今は何もありませんが、おそらくコンカ家の元別荘を確認しました」
「アクロの言った通りだったな……」
テリクスの報告を聞き、アルバスは馬車に向かいながら指示をする。
「テリクス以外は予定通り、後処理を頼む……俺はこのままモズ国へ向かう」
「ここはこのシュバに任せて、アルバス様お気をつけて……テリクス班長、アルバス様を頼む」
「まかせろ、シュバ。
この剣士テリクス、アルバス様を必ず守ります」
場所は変わり、アルバスたちはコルヴァンの教会へと辿り着く。
そして待っていたのは書類を持ったストリ。
「お兄様お待ちしておりました、これが新しい遊毒茸栽培場の地図です。
ミロルさんにお願いしてファルケ国経由で、モズ国に馬車を手配してもらいました」
「それは助かる、リューゲル国が関わっているとなると警戒される可能性がある」
「しかし馬車で数日かかる場所です、時間はあまりありません」
「わかった……急いで向かうことにしよう」
話をしていると、目隠しをされたテリクスとバッセルが、それぞれの車椅子に乗せられ、教会の中に運ばれる。
「二人とも、こんな姿にしてすまない……これからとある極秘ルートでファルケ国に向かう。
二人のことは信頼しているが、詳細を見せることができないのだ」
すでに出発しているガルーダ国王とコンカ家に、先回りしてモズ国へ入国するには、ミロルの別世界移転魔法でファルケ国に入る必要がある。
「大丈夫です、その事情はよくわかっております」
テリクスは真剣な表情でそう答えるが。
「僕も大丈夫です、車椅子は初体験で少しワクワクしています」
「バッセル……そんなこと言っていると、ヒルンダに報告するぞ」
「怒られちゃうからそれは困るなぁ」
そう楽しそうに答えるバッセル……その様子に、無理して明るくしていることはアルバスも理解している。
「……すまない」
「アルバス様?」
小さな謝罪に、バッセルは気づかないふりをして聞き返す。
「……いや、なんでもない――さあ、作戦を続行するぞ」
こうしてアルバスたちは先回りのため、羽澄とコルヴァン、ミロルを連れてファルケ国へ向かうのだった。
「……すごい、高速艇でも丸一日半かかるのに」
ファルケ国の城門前で目隠しを外されたテリクスは、驚いたように呟く。
バッセルも目隠しを外し、そのまま港へと移動する。
「高速艇まで貸していただき、ありがとうございます」
「いえ、我々も戦争は避けたいですから……往復の食料と日用品、世話係も準備してあります」
アルバスとケツァル国王が話している間、港の端で、羽澄はコルヴァンの袖を掴みながらわがままを言っていた。
「私も一緒に、連れて行ってっ」
「ダメだ、さすがに危険すぎる」
「でも、私、心配でっ」
モズ国へ向かう理由は新しい栽培場の遊毒茸を処分することだ。
そして処分するにはアルバスの魔法が必要となる。
彼を守るためにテリクスとバッセル……そして透明化魔法含め、さまざまな魔法を使えるコルヴァンが護衛として同行する。
「いくら羽澄が強いと言っても、それは一般人としてだ。
モズ国なんて危険なところで、羽澄の護衛に回す人員はいない」
「っ」
遠回しにだが、羽澄の同行は邪魔だとはっきり言うコルヴァン。
羽澄自身も分かってはいるが、心配な気持ちはどうしようもない。
「必ず、戻ってくるから……」
コルヴァンが力強く宣言すれば、羽澄に「耳貸して」とお願いされ、言われた通り顔を近づけると。
――チュッ
「っ」
頬にキスされて、思わず羽澄の顔を見る。
すると羽澄は顔を真っ赤にして、そっと目を瞑る。
さすがに鈍感なコルヴァンでもその意味は分かり、ゆっくりと自分の唇を羽澄の唇に重ねた。
――……チュ
音を立ててゆっくり離れる唇、そして羽澄はコルヴァンを抱きしめた。
――ムギュッ
「待ってるから、必ず戻ってきて」
「ああ……約束する」
コルヴァンも羽澄の背中に手を回し、しばらくの間きつく抱きしめ合った。
「遊毒茸の研究から船の手配まで……必ず俺たちの手で全て終わらせます」
「はい……逆に私たちは準備までしかできません、処分はアルバス王子殿下に任せっきりだ」
「では、適材適所……と言ったところですね」
船の説明も終わり、アルバスの言葉に少し気が楽になるケツァル国王。
(若いのにしっかりされている……気配りもしていただけるとは)
ケツァル国王が感動している中、アルバスは周りを見渡す。
すると抱き合う羽澄とコルヴァンの姿が、目の端に映る。
(またあいつらは……まあ、しょうがないか)
少し呆れつつも、もう少しそっとしておこうと思った時。
「アルバス、様」
か細い声が耳に入る。
「フィリネ王女殿下、送りに来ていただいたのですか?」
少し顔を顰めながら話しかけてきたのは、フィリネだった。
以前羽澄のことで慰めてもらってから、アルバスの中では【多分嫌われていない】と、認識を改めていた。
「どうかお気をつけて……あと、お呪いを」
「お呪い、ですか……呪いではなく?」
「いえ、ちゃんとお呪いです」
アルバスが首を傾げていると、フィリネが突然手を取り――
――むにゅっ
「っ」
アルバスの手を自分の胸に押し付けた。
「えっ、あの、フィ、リネじょう……」
「そ、そのっ、アルバス、様は、大きな胸が好きと、聞きましたのでっ」
「は、あ、まあ、確かに……いや、でもっ」
さすがのアルバスでもこの状況は理解できなかった、しかしフィリネはいたって真面目で。
「その、ご無事に戻ってきてください……そうしたら、また、こうして触っていただいていいので」
「え、あ、はい?」
「ご褒美があったら帰りたくなりませんか?」
フィリネはいたって真面目にお呪いをしているようだった、なんとか冷静に……しかし、手を自分から外すこともせずに彼女を諭す。
「お気遣いありがとうございます、しかしこういうことは好きな相手になさった方がよろしいかと」
「はい、それはそうですね」
「でしょう? なので手を離していただけますか?」
「何故でしょう?」
「え? ですから……」
「好きな相手、にしか、こんなこと、していませんが」
思わぬ言葉にフリーズしてしまうアルバス、数多くの女性を相手にしてきたが、この状況に困惑するしかない。
「言ったでしょう、利用してください……と」
「え?」
「こんなことしかできませんが、少しはアルバス様の心が癒せたでしょうか?」
言われて気付く、少なくとも別れを惜しむ羽澄とコルヴァンに、複雑な気持ちを持ったのは確かだ。
「ありがとうございます、おかげで頭からすっぽ抜けていました」
「よかったです」
ふわりと笑ったアルバスの表情に、フィリネは顔を赤らめながらもホッとする。
フィリネが掴んでいた手を緩め、アルバスの手が胸から離れる。
「無理に気を遣わせてしまって申し訳ない」
「いえ……大丈夫です」
フィリネも照れながらにっこり笑う姿に、アルバスの中からモヤモヤはすっかり消えていた。
その代わりに。
『好きな相手、にしか、こんなこと、していませんが』
その言葉が、ずっと頭に残っていた。
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
第三王子:ヴァルディア・ストリ
ファルケ国 王妹娘セレーヌ・フィリネ
剣士:サーン・テリクス
新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル
女宰相:ホウヅキ・ヒルンダ




