第九十三話 明かされた家族の真実と、真っ直ぐな友の思い
それはモズ国への出発日が決まる数日前のこと。
住居街のハズレにある平屋へ、フードを被った体格が良い二人の男が入っていく。
普通の家に見えたが、中はカウンターしかなく、そこにはベルがあるだけだった。
――チリリーン
一人の男がベルを鳴らすと、奥からひょろっとした怪しい男が出てくる。
「今日はなんの用で?」
そうたずねられ、片方のフードの男が口を開いた。
「――ギブス様から依頼を受けた」
「くくっ、ちょっと待ってな」
男はそう言うと、奥からメニュー表を出してきた。
それを受け取る前に、もう一人のフードを被った男が、怪しい男の胸ぐらを掴み壁に押しつける。
――ドンッ
「俺は、何も依頼していないっ」
「ぐうぅ、あうっ」
「何で、なんで!!」
叫びながら訴える男のフードが外れ……ギブスが苦しそうな表情で、怪しい男を押さえつけていた。
「落ち着けギブス、こいつは下っ端だ……何も知らないよ」
「っ……くそっ」
ギブスが手を離すと、男はそのまま地べたに座り込む。
もう一人フードを外し現れたのはバッセル、地べたで安堵している男を難なく縄で締め上げる。
「え、え?」
「何も知らないけど、知っていることは全部話して貰うよ」
目が笑っていない笑顔のバッセルに、縛られた男は震え上がり、何度も頷いた。
受付の男は、禁制治癒布と増強剤の販売を依頼され、詳しいことは知らされていなかった。
「俺は無実だ、これが何かだってしらな……」
「それは嘘でしょう」
「嘘じゃ……」
「だって使っているでしょう? 違法薬物」
禁制治癒布と増強剤の値段が書かれたメニューを、受付の男の頬にペチペチと叩きながら尋問する。
一方ギブスはその様子を見ながら受付の男を睨み付けていた。
微笑みながら優しい声で尋問するバッセルと、ただひたすら鋭い眼光で見つめ続けるギブス。
この状況に、ただの雇われが耐えられるわけが無かった。
「ごっ、ごめんなさっ……使っていました、報酬が、薬物でしたー」
「はい、よくできましたねー……じゃあどうやって薬物を手に入れたのか、受付を依頼してきたのは誰なのか――ぜーんぶ吐け」
「ひいぃ」
バッセルの迫力に、男は洗いざらい話したのだった。
「薬の販売は俺を名乗る者、受付の依頼主は俺の側近から、そして国外で増強剤を販売しているのも俺……。
合言葉は『ギブス様に頼まれた』……」
尋問が終わり、受付の男は騎士に捕らえられ牢獄行きとなった。
残ったバッセルは、ギブスが発する冷静な言葉を聞いていた。
「俺は……何も知らないっていうのに」
ただバッセルには、ギブスの声色は冷静でも『苦しい、悲しいっ』と、叫んでいるようにしか聞こえなかった。
「わかっているよ、全部ギブスは関係ない」
「ああ、俺は関係ない……つまり、コンカ家も……ってことか?」
「……」
「昨日言っていたことは……本当なんだな?」
冷静な声、でも今まで以上に泣きそうな声でもある。
そして『違う』と言って欲しいと、願う声にも聞こえた。
「昨日言ったことは……」
それでもバッセルは言わなければならない。
「本当だ――ギブスは、コンカ家の……子供じゃない」
バッセルの言葉に、ギブスの頬を一筋の涙が伝った。
バッセルはギブスの無実を晴らすために、独自の調査を開始していた。
そしてたどり着いたのは……聖骨院で聖癒布を作成している三人が、お世話になった孤児院だった。
「そこの院長とあってね、ギブスと仲良しだと言ったら、嬉しそうにしていたよ。
まだ自分に親がいないことすら分からない赤ん坊だったギブスを、子供を望んでいたコンカ一家に紹介したって」
「……」
「子供が生まれない可能性も考えて、早めに子供が欲しかったらしい」
「なるほど……その後子供が生まれたから、俺は用済み、なのか」
「そんな、ことな」
「あるだろ! 俺を利用するだけ利用して、罪をかぶせておしまいだろっ」
バッセルに怒鳴りつけてギブスは天井を見る。
少しでも涙が流れないようにと、上を向いたが溢れる涙は止められなかった。
「だからか……サイシンが生まれてから、大人たちが冷たくなったような気がした。
――皆知っていたんだな、俺が、本当の子供じゃないって」
「……」
怒鳴られても問いかけられても、バッセルはなんの言葉も発せなかった。
ただ泣いている友人を、見守ることしかできなかった。
それからどれくらいの時が流れたのだろう。
「……ありがとう」
ギブスがぽつりと呟いた。
「俺に濡れ衣がいかないように……調べてくれたんだろう?」
「……まあ、僕はギブスが意外と良いやつっていうのを、知っているからね」
「意外と、は余計だな」
ギブスは薄く笑うと涙を拭って立ち上がった。
「バッセル」
「ん?」
「お前は関係ないのに、怒鳴ってすまなかった」
「……いいよ、いつものことだから」
「また余計なこと言うなよ」
ギブスは表情を引き締めて、覚悟を決めた。
「俺はガルーダ国王の命を受け、コンカ家の情報を探る間者となろう」
登場人物
新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル
貴族でギルド運営:コンカ・ギブス




