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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で聖骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第三章 ギルド開設編 〜治療の光と、つきまとう影〜

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第九十二話 不穏な外交と、切なる願い

 次の日、職務室にて眉をひそめる国王を、アルバスとストリが真剣な表情で見つめている。


「ストリ、禁制治療布の入手方法について、報告ご苦労だった」

「いえ、僕は何も……聖骨院の協力があってこそです」

「聖骨院の皆は、情報収集と証拠集め能力が高すぎる……隠密隊として雇った方がいいのでは?」

「羽澄先生の治療がないと困る人が多いので、それはやめておいた方がいいと思います」


 国王の前とはいえ、三人しか部屋にいないため、雑談が混じる。

 極端に脱線しなければ怒られることもないが、当の国王は眉間のしわがとれない。

 その様子に、アルバスは心配しながら声をかける。


「国王、何か気になることでもおありですか?」

「……実は、モズ国から招待を受けているのだ――同盟交渉のな」

「っ」

「!! それは……確かに、悩ましいですね」


 ガルーダ国王からの思わぬ発言に、ストリも驚き、アルバスは一言返すのが精いっぱいだった。


「このタイミングでの同盟交渉、しかも商人を同行希望だ」

「ということは、鉱石の貿易についても交渉が入るでしょうね」

「も、もしかして、それって……戦争、のためですか」

「おそらく、ストリの考えで間違いないだろう……そしてコンカ家もかかわっている」

「……でしょうね」


 部屋に緊張が走り、アルバスとストリはガルーダ国王の言葉を待つ。


「商人の同行についてはトキアスとカルガノに声をかけたが……同行を承諾したのはトキアスだけだった」

「えっ、国王からの申し出を!? こんなチャンスを断るなんて……信じられません」


 驚くストリに対して、アルバスは一瞬だけ少し悲しそうな表情をした。


「それで、国王はどうするおつもりで?」

「戦争はもちろん反対だが、この招待自体は受けようと思う。

 まあ、話を聞くまでは戦争のための同盟とは限らないからな」

「そうですね……」

「そこで、アルバスとストリにやってほしいことがある」


 ガルーダ国王の力強い声色に、思わず背筋を伸ばす二人に……国王は命令を下した。


「コンカ家の内部事情を調べられる人間を、こちら側に引き込め。

 その者は遊毒茸や薬の罪には問わないことを約束しよう」


 その命令に、アルバスもストリも、適任者は一人しか思い浮かばなかった。


「承知しました、つきましてはバッセルから得た情報を使っても?」


 冷静に、しかし曇った顔でアルバスが確認すれば、フォローするようにストリも言葉を続ける。


「バッセルは僕に『真実を話すなら、僕に任せて欲しい』と、自ら辛い役を……」

「そうか……」

「ストリにそう願い出たということは……バッセルは、この真実をその者とともに向き合う覚悟があるのでしょう」


 バッセルの覚悟と、それを信じるアルバスとストリの真剣な表情。

 ガルーダ国王は頼もしいと思うと同時に、辛い選択を任せることに罪悪感を感じながら……低い声で言葉を発した。


「わかった……バッセルに、全て任せよう」



 その数日後、トキアスに国王から正式に、モズ国への同行が依頼された。


(これはただの外交じゃ、ないだろうな)


 当然思い浮かぶのは、遊毒茸とコンカ家との繋がり。


(戦争の火種に、ならなければいいが)


 嫌な予感を抱えつつ、トキアスは準備のため城下町に来ていた。

 実は最初に同行の打診があったときから、必要な物の発注は済ませてあった。


(準備しておいて正解だったな……備えるには時間も必要だからな)


 日程は決まっているものの、遅れたり逆に早まることもあり得る。

 なによりこのスピード感が、トキアスを大富豪へと導いたと言っても過言ではない。

 何事も一手、二手先を読むのがトキアスの強みだ。


 発注していた店を回っていると、露店を出している青年の姿が目に入る。


(珍しいな、術具師(じゅつぐし)か……守護具(しゅごぐ)でも作って貰うか)


 宝石に魔法を封じることのできる術具師は珍しい職業で、リューゲル国で見かけたのは初めてだった。

 宝石に魔法を封じた術石は、その魔法の恩恵を受けることができる。

 例えば回復魔法を封じ込めれば、体力が下がりにくい……など、お守りのような役割を果たす。


(旅の守護具を依頼して、その力量を計ってみるか)


 腕の良い職人なら、今のうちに目をつけておきたいところだ。

 そう思い近づこうとすると、一人の女性に気がつく。


(フォルン……)


 それは裏切られてもなお、恋い焦がれる女性の姿だった。

 もう一緒にはなれないとわかっていても、目で追い気にかけてしまう。


――そんな女性が、術具師の青年と仲むつまじく手を取り合っている。


 フォルンの両手を青年が包み込み、その手を優しい笑顔で彼女が見つめている。


(ああ……やはり、若い男が好きなんだな)


 そう思った瞬間、トキアスは――傷ついていた自分に気づく。


(裏切られた時、いや……浮気を知った時に、わかっていたはずなのに、な)


 そして同時に突きつけられる、本当に諦めなければ前に進めない現実。


 その現実に、トキアスは勝手に体と口が動いていた。


「相変わらず、若い男が好きなんだな」


 その言葉にハッとするフォルン、青年も驚いたようにトキアスを見て、そっとフォルンから手を離す。


「私に気を遣うことはない、もう離婚しているのだからな。

 まあ、お前はもう結婚しない方がいいだろう、どんなに繕っていても中身はかわ……」


「あのぉ、何か誤解されているようですが」


 聞こえてきたのはコルヴァンの声、しかし、声の方向的にはフォルンしか見えない。


「我々も、いますよ」


 そう言われてフォルンの後を見ると、羽澄とコルヴァン……そしてミロルと、聖骨院の全員が揃っていた。

 様々なものに目を光らせている商人でも、愛する人を目の前にすれば周りは霞んでしまうらしい。


「あ、あの、俺……何かしました?」

「大丈夫よー、あなたは仕事を全うしただけだから……まさかトキアス様がこんなに嫉妬深いとは。

 良い物見たわー」

「ママ、不謹慎だよ……あ、フォルンの番は終わったので、どうぞ二人でごゆっくり」


 怯えている術具師の青年に、にやにやしながら掛け合うミロルと、必死ににやけるのを我慢している羽澄とのやりとり。


「サプライズにはならないが、ちゃんと説明しておいた方がいいぞ」


 コルヴァンの言葉に、真っ赤になったフォルンが頷く。


(……確かに、あれは術石を作るため、魔法をかけていたのか)


 手を握り合っていた理由がわかり、状況を素早く判断してしまう自分に、この時ばかりは後悔した。


「トキアス様、少しここを離れますか」

「……そうだな」


 気まずい二人は顔を伏せながら、露店を離れたのだった。



――コツン、コツン


 フォルンが持つ杖の音が響く、その音に合わせてトキアスもゆっくりと歩いていた。

 小広場のベンチにフォルンを座らせると、トキアスは跪き、ぽつりと呟いた。


「――すまない」

「いえ、そんな……立ってください、トキアス様」


 慌ててフォルンが声をかけるが、トキアスは立つことなく言葉を続けた。


「とても酷い言葉を吐いた、自分がこんなに嫉妬深いとは……思いもしなかったよ」

「嫉妬、ですか?」

「ああ」

「……」


 黙るフォルンに、トキアスはいたたまれなくなる。

 しかし次の言葉は、思っていたのと違った。


「嬉しいです……トキアス様が、嫉妬してくださるなんて」


 その言葉を嬉しそうな笑顔で呟くフォルンに、トキアスは思わず見とれてしまい、一言発するのが精一杯だった。


「……怒った方がいい、そんなかわいく喜ばないでくれ」

「っ」


 その言葉にフォルンは耳まで真っ赤になり顔を伏せる。


(フォルンと、こんなふうに話すことも、こんな表情を見ることもないと思っていたが……)


 一瞬だけ、結婚したばかりのことを思い出す。

 それはトキアスにとって、いちばん幸せな時だったと、自信を持って言える。


(やはり……諦めるなんて、できるわけがない)


 トキアスはそう悟った。


「あの一瞬で気が狂いそうだった、以前は結婚していたというつながりがあったが、今は何もない……何もつながりがないのに、誰にも取られたくない、そう思ってしまった」

「……そんな、価値、ありません……私なんて」


 自虐のような呟きの後、フォルンは少しためらったように口をぱくぱくさせてから……意を決したように、顔を上げた。


「私はトキアス様のいう通り、結婚するべきではない人間です」

「いや、それは……」


――誤解だ。


 と、言う前にフォルンの言葉が遮る。


「それでも……嬉しかった、もし、叶うなら……もう一度トキアス様と、夫婦になりたいと思うほどには、嬉しかった」

「フォルンっ」


 跪いたまま嬉しそうなトキアスに、フォルンは恥ずかしそうにしながら、せめて隣に座って欲しいと促す。

 トキアスが隣に座り、微妙な距離があったが、二人にはその距離で十分だった。


「先ほどは、守りの腕輪を作っていたんです」

「守護具か」

「いえ、守護具とは少し違う……お守りです」

「同じ意味ではないか?」


 首をかしげるトキアスに、詳しく説明をするとトキアスは目を見開き驚いた。


「それは……ずいぶん豪華な、確かに守護具とは別物だ」

「トキアス様はなんでもお持ちですから、せめて唯一無二な物を送りたいと思いまして」

「――私への、プレゼントか?」

「はい、バングルタイプの腕輪を作ろうかと……お恥ずかしながら、枠は素人の私がお作りしますが」


 フォルンの説明に、トキアスは感動のあまり言葉が詰まる。

 彼女は「本当は内緒にしておくつもりでしたが」といたずらっ子っぽく呟く。


「アルバス様から、トキアス様がモズ国へ旅立つと聞きまして……それまでにお作りしようと思っていたのです」

「そうだったのか……」


 そしてフォルンはトキアスの袖をきゅっと握り、懇願するように訴えた。


「どうかご無事で、お帰りください……」

「フォルン……」

「私、いつまでも……いつまでも帰りを、お待ちしておりますっ」

「ああ、必ず帰ってくる……その時はまた、こうして話をしてくれるか」

「はいっ、わたくしでよければ、いくらでも」


 お互いの手を取り合い、必ず無事で戻ることを誓うトキアス。

 二人の微妙な距離は、いつの間にか寄り添いあっていた。



 トキアスとフォルンが戻ると、そこには術具師がコルヴァンの手を包み込んで祈っていた。


「術石の量が多い、ですね」

「これで最後です、本当にごめんなさい」

「あ、いえ……ミロル様にはこの力を見つけていただいたので、僕は全然大丈夫です!」


 そう言う割には疲れた表情を見せるが、表情を引き締め術石を作るべく、再びコルヴァンの手を青年が包み込む。


「羽澄ちゃん、嫉妬する?」

「するわけないよね」

「それはそうかも」


 なんて声が聞こえて、トキアスは取り乱した自分を、少し恥ずかしく思うのだった。


「ふふっ」

「笑うでない、フォルン」

「申し訳ありません、トキアス様」


 それは少し前に戻ったような、二人の空気感だった。


「出発される前にお時間をください、お守りをお渡しします」

「ああ、わかった……また、その時会えるのを楽しみにしている」


登場人物

第二王子:ヴァルディア・アルバス

第三王子:ヴァルディア・ストリ

国王:ヴァルディ・ガルーダ

大富豪:ハルビア・トキアス

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