表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
看護師の私、セクハラに疲れて異世界へ ~巨乳アンチの世界で夢の聖骨院開業、骨も人生も整えます~  作者: 橋守 六花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第九話 若手弓兵の葛藤

 翌日――聖骨院にて。

 開店前に昨日の二人が来店する。

 テリクスは現役時代に使っていた大剣を肩にかけ、妻と子供も一緒に来ていた。


「初めまして、妻のアルケです。

 この子は息子のオプと言います……ほら、お姉さんに挨拶して」

「…………ども、れす」


 恥ずかしそうに母親の後ろに隠れて、小さな挨拶をする。

 羽澄は屈んで、同じ目線であいさつをした。


「よろしく、羽澄です。オプ君は何歳」

「……ん」


 手を大きく広げて羽澄の目の前に差し出してくる。


「あ、五才?」

「あの、違うんです、まだ指がうまく曲げられなくて…三才なんです」

「あ、なるほど」


 なんともかわいい間違いだ。

 確かに五才にしては幼く見えたが、三才なら納得できる。


「羽澄ちゃんにもこんなかわいい時代があったのよ」

「……だろうね」

「まあ、ママにとってはいつまでたってもかわいいけど」

「……はぁ」


 いつもと同じ調子のミロルにあきれていると、アルケが口を開いた


「先生」


 呼ばれて彼女のほうを向くと、真剣な面持ちで頭を下げてきた。


「主人のけがを、どうか治してください」

「はい、全力を尽くします!」


 羽澄は心の底から、アルケの気持ちに答えた。



 最初の患者、シコウは施術の準備が終わり、簡素なベッドに横たわり、どこか緊張した面持ちで天井を見つめていた。


「そんなに固くならなくて大丈夫ですよ」


 羽澄が優しく声をかける、すでに電気治療はすんでおり、施術を開始するだけだ。


「い、いえ……その、正直に言うと……少し怖くて」 

「怖い?」

「はい。今まで何度も回復魔法を受けましたけど……結局、良くならなかったので」


 シコウは苦笑する。


「……また同じだったら、どうしようって」


 その言葉に、羽澄は一瞬だけ手を止めた。


(怖い……確かに、期待させて――また諦めることになったら……)


 もし治らなかったら、期待させた分、失敗すれば失望をさせる。

今まで怪我をした生活に慣れていたのに、余計な傷をつけてしまうかもしれない。


(シコウ君は、この生活、相当無理していたんだろうな……責任ある仕事って、わかって、いたつもりだったけど……)


 のしかかるプレッシャーに視界が曇るような感覚に見舞われる。

しかし、聞こえてきたのは、この空気に似合わない、明るい声。


「大丈夫よ~、私の娘はいろんな人を助ける魔法を使いたくて、この技術を学んだんだから。

 羽澄ちゃんだけじゃなく、私やコルヴァンもついているから」

「……確かに、その通りですね」


 ミロルの言葉にシコウの力が抜けるのが分かった。

羽澄も柔らかく微笑みむ。

次に治療をするテリクスの準備をしているコルヴァンも、優しく頷いていた。


「大丈夫、ちゃんとよくするから」


 そう言って、背中にそっと手を当てる。

 羽澄から笑顔が消えて、真剣な表情で怪我に向き合う。


「それでは始めます、一瞬痛くなりますので、我慢してください」

「……はいっ」


 覚悟を決めた返事に、肩甲骨に手を添え、指に力を入れていく。


「……っ!!」

「もう少し、我慢してね」


 優しい声に反して、力強く添えられる指。

 シコウの体がびくりと跳ねた。


 ――コキ


「……え?」


 シコウと羽澄にしか聞こえていない小さな音……しかし何かが確実に変わった音だった。


「ママ、回復魔法」

「はいっ」


 次に優しいぬくもりが肩甲骨を包み込む。


「大丈夫、とてもいい音ですよ、次は肋骨を治します」


 今度は胸のあたりに触れる。


「ここが呼吸が苦しくなっている原因……少しだけ違和感あるかも」

「はい……」


 ぐ、と軽く押し込む。

 同時にミロルが回復魔法を唱える。


「……っ!!」


 一瞬だけ痛みが走る――

 だが次の瞬間。


「あれ……?」

「呼吸、してみてください」


 言われるままに、ゆっくり息を吸う。


――すぅっ


 そして吐く。


――はぁー


「どう、でしょう?」

「……痛く、ない……です」


 もう一度、吸う。

 深く、ゆっくり。


「息が……できるっ」


 何度も繰り返す。

 その度に、シコウの瞳に涙が溜まる。


「……痛く、ない……痛くないです、先生っ」

「うん」


 優しい羽澄の頷きに、とうとうシコウの涙が零れた。


「……本当に、痛くない……グズッ」


 その声は、どこか信じきれていない響きと、今までの苦しみが含まれていた。


「では次に、右手、動かしてみてください」

「ずずっ、はい……」


 涙をすすりながら恐る恐る、腕を持ち上げる。

 だけどいつまで身構えても感じられない、ずっと感じていた重さも、痺れも――感じられない。


「……ぐずっ、うぅ、ぐふぅ」

「では、弓を弾く動作をしてみましょう」

「あいっ、ぜんぜいっ」

「シコウ、何言っているかわかんないよ」


 そう苦笑するコルヴァンの瞳にも、涙がにじんでいる。

 渡された弓を震えた手で受け取り構える、そしてぐっと、ゆっくり手を引いた。


「びげまずー」

「引けます、で合ってるかな」


 羽澄が聞くと、涙を流しながらこくこくと頷いた。


「よかった、それじゃあ、今度は負担がかかってた足やるよ」

「おっ、おねがい、じまずっ」

「これで顔押さえとけ」


 コルヴァンがもって来たタオルを顔に当てて、大泣きをするシコウ。

 その姿に優しく微笑み、羽澄がシコウの足に触れた。


(あれ?)


 何か違和感を感じた瞬間。


――ぐにゃっ


(え?)


 視界が歪む、その感覚には覚えがあった。


 目の前には弓を持ったシコウの後ろ姿とその隣に大剣を背中の鞘に納めているテリクスがいる。

 二人は大きな岩の後ろにいた。

 テリクスは必死にシコウを止めているように叫んでいる、しかしシコウはそのまま岩から飛び出て、その先にある崖上に弓を構える。

 がっ、どうやら読まれていたらしく、シコウに黒い魔法が襲いかかる。


 もろに当たり、高く放り出されたシコウは、背中から地面に叩きつけられる。

 わずかに微かに目を開けている状態で、次の魔法が来るのが見えたシコウは、覚悟を決めたように目を閉じる。


(これは、また――怪我の記憶?)


 しかし次の魔法はシコウには当たらなかった……なぜなら、テリクスが剣で魔法を受け止めていた。

 しかし避けきれなかった魔法が、雷のようにテリクスの足に刺さる。


 痛みで叫ぶテリクスの背後から、ロガモとシュバが援軍を引き連れて助けに来ているのが見えた。


(あれでシコウ君の肩甲骨が……テリクスさんは刺さった雷より、魔法が強くぶつかった衝撃が原因か……)


「ぜんぜいっ」

「っ、え?」


 頭に流れる映像を分析していたら、シコウの涙声で呼ばれて意識が引き戻される。


「な、何?」


 咄嗟に聞き返すと。


「テリクス、班長のっ、ゲガ、よろしくお願い、します」


 とお願いされた。


「大丈夫、任せて……テリクスさんのためにも」


(二人が無くしかけたもの、全部取り戻しますから)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ