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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で聖骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第三章 ギルド開設編 〜治療の光と、つきまとう影〜

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第八十七話 差し込んだ光を遮る、新たな問題

【遊毒茸の処分方法】


 通常の遊毒茸は胞子を持たないので処分可能。

 親個体については、処分時に生命共振魔法をかけ、胞子の放出を止める必要がある。

 処分方法は生えている木ごと燃やすのが好ましい。



「レポートが完成しました!」


 職務室にて、エルシア王妹を見守っていたフィリネとアルバスは、その声にほっと表情をほころばせる。

 羽澄たちはミロルの部屋で待機中だ。


「お母様、お疲れ様です」

「ありがとうフィリネ。

はあ、素晴らしい……これで遊毒茸という脅威から、世界を守ることができるでしょう」


完成した研究結果レポートを、うっとりとした表情で見つめるエルシア王妹。


「俺も父上にいい報告が出来てうれしい限りです」


 複製されたレポートを受け取り、頭を下げるアルバス。

 そんな彼にエルシア王妹は、にこりと笑いかけ言葉を発した。


「だいぶお疲れのようですね、フィリネが心配しておりました」

「え、ちょっ、お母様!」


 慌てているフィリネと笑顔を崩さないエルシア王妹。

 その笑顔がアルバスには、何か含みを持っているように見える。


「まあ、大丈夫です……王族たるもの、弱音を吐くわけにはいきませんから」

「でしたら、フィリネがお話し相手になりましょう……この子も立派な王族ですから」

「いえ、そんなご迷惑を……」

「迷惑ではありませんっ……あっ」


 一際大きな声でフィリネが叫び、そして恥ずかしそうに顔を赤くした。


「ご、ごめんなさい……でも、その、心配とは、思っていますので……」


 フィリネが必死に声を絞り出す。

 その様子を見たエルシア王妹は、いつの間にか部屋を抜け出していた。


(驚いている間に、二人きりにされてしまった……エルシア王妹の笑顔は、これのことだったのか)


 含みのある笑顔を忌々しく思いつつ、真っ赤になっているフィリネと向かい合うことにした。


(こんなに顔を真っ赤にして……体調でも悪いのか?)


 逆にアルバスが心配してしまう。


「気分が悪いなら回復魔法を……」

「ちっ、違います! 私は元気ですからっ」


 フィリネが大慌てで否定するが、普段は女性の好意に敏感なアルバスも察することができない。


 なにせ、こんな態度の女性にアルバスは出会ったことがなかった。

 今まで出会った女性はほとんどアルバスに媚びてくる、それ以外で言うと羽澄やヒルンダのように冷静に受け流される。


 露骨に突っぱねてくる……実際は照れているのだが――そんな女性に出会ったことがなかった。


 困惑しているアルバスに、フィリネは息を整えながら口を開いた。


「あの、辛く、ないですか?」

「え?」


 まさか自分が心配されるとは思っておらず、きょとんとした顔でフィリネをまじまじと見つめる。

 そんな視線に、彼女はますます顔を赤くして視線を外す。


「羽澄先生とコルヴァンさんの、距離が近かったので……アルバス様は、しつれ……その、寂しいのかと」


 フィリネに言われてアルバスは目を見開く、彼女は一目で羽澄とコルヴァンの関係を見抜き、アルバスの恋心もわかっていた。


「よく分かりましたね……洞察力に長けていらっしゃる……素晴らしい能力です」

「そうでしょうか、分かりやすいと思いますが……」


 言葉では謙遜しているが、フィリネの表情は嬉しそうに綻ぶ。


「いえいえ、俺のことが苦手なのにここまで気づくとは、すごいですよ」


 アルバスの言葉に、フィリネの笑みは消える……彼女の態度も原因ではあるが、それにしても察しが悪い。


「まあ確かに失恋はしましたが大丈夫です、コルヴァンは俺が最も信頼している人間ですし、彼なら羽澄を任せられます。

 ……それに俺は後継者として、別世界で生まれた羽澄と結婚するわけにはいかないのです」


 いくら羽澄が優秀だからといって、別の世界の人間を妃にするわけにはいかない、と言うのがアルバスの考えだ。


「そうですか……」

「そうです、だから心配なさらず……」

「そ、それでは、私を利用されてはどうでしょうかっ」

「はい?」


 フィリネから出た提案に、アルバスは思わず聞き返してしまう。


「利用……ですか? あまりよくない言葉ですね」

「いえ、あの、お話しを聞くことや、励ますことくらいはできますので……いつでも会いに来て、大丈夫、かと……」

「さすがに、自分が落ち込んでいるからといってミロルさんに毎回頼むのは気が引けます」

「……あ、た、確かに」


 冷静に指摘され、フィリネは素直に納得をする姿に、アルバスは思わず吹き出した。


「あはっ、そこは忘れちゃ、ダメなところですよ、くくっ」

「……そんなに、笑わなくても」

「ははっ、失礼しまし……」

「あ、いえ、笑ってください、やっぱり」

「え?」

「私はアルバス王子殿下のこと、嫌ってはいないです……。

その、だから……笑っていてください」

「……ありがとうございます、フィリネ王女殿下」


 フィリネの気遣いに、アルバスの心が温かくなる。

 そして自然と優しい笑顔になるアルバスに、フィリネは――


「……やっぱり、その笑顔は心臓に悪いので、あっち向いてください」

「えっ」


 その笑顔が直視できずに、なかなか好意を表すことができないでいた。



 アルバスとフィリネは、エルシア王妹と何故かミロルの視線も感じつつ、全員が集まるミロルの部屋に入る。


「アルバス王子殿下、フィリネは良い子でしょう?」


 エルシア王妹ににこにこしながら話しかけられたアルバスは、なんとも言えない表情をしながら。


「女心がよくわかりません」


 と答えるしかなく、フィリネも気まずそうにエルシア王妹から視線を逸らす。


「……またこの子は、不器用なんだから」

「まあまあお姉様、ここはこっそり見守っておきましょう」

「ママ……こっそりじゃあ、のぞき見しているみたいに聞こえるよ」

「まあ、それは良いとして、これからのことを話しましょう」


 羽澄が軽く突っ込んだところで、エルシア王妹が切り替えるように手を叩く。

 その様子に苦笑しながら、アルバスは口を開いた。


「研究のおかげで、遊毒茸の処分はとりあえず、なんとかなりそうです」

「ええ……ただ、今のところ生命共振魔法でしか胞子の放出を止める方法がありませんが……」

「つまりアルバス様がいないと、処分できない……ということですね」


 コルヴァンが確認すると、エルシア王妹は深く頷いた。


「もちろんこれからも研究を続け、対応できる薬や魔道具が作れないか模索していきます」

「それまでは処分の方法がバレないよう……アルバス王子殿下が狙われる可能性もあるので、様子を見ながら進めた方がよろしいかと」


 フィリネも注意するよう説明すると、アルバスは少し考えてから口を開いた。


「……まず親個体以外を処分するよう手配しましょう、この情報は調べればわかった情報なのだから自然でしょう」


 アルバスの決断に全員が頷いた時だった。


[お兄様]


 アルバスの頭に、突然ストリの焦り声が流れ込む。


[どうした、ストリ……俺は今ファルケ国にいるぞ?]

[聖骨院の皆様と一緒ですか? 遊毒茸のことですか?]

[そうだ、処分方法がわかったからな]

[では、これから僕が言うことを共有してください]


 続くストリの言葉に、アルバスは呆然とした。


[偽物の聖癒布……鎮痛布に、遊毒茸の成分が検出されました]


登場人物

リューゲル国第二王子:ヴァルディア・アルバス

ファルケ国王妹:セレーヌ・エルシア

ファルケ国 王妹娘:セレーヌ・フィリネ

リューゲル国第三王子:ヴァルディア・ストリ

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