第八十六話 遊毒茸の謎に、一筋の光を
一ヶ月以上前、アクロが見つけた遊毒茸の生息地。
アクロが調査のため一人で足を踏み入れると、そこにはコンカ家当主、コンカ・カルガノとサイシンがいた。
「アクロ殿、調査お疲れ様です」
サイシンがねぎらいの言葉をかけながら近寄る、その違和感にアクロは一歩引いた。
「お二人は何故こんなところに?」
「はい、実はこの先にコンカ家の別荘がありまして……まさか遊毒茸の生息地があるとは、知りませんでした」
「そうでしたか……私は調査を続けますが、お二人も遊毒茸はもちろん、ここには近づかないようお願いします」
「はい、わかりました」
「ごくろうさま、元ギルドマスターのアクロ殿」
最後ににやりと笑って嫌みったらしく言うカルガノを無視し、アクロは調査を続けた。
そして調査の先にコンカ家の別荘にたどり着いたアクロは、中の研究施設に驚き、そして大事に箱に詰められた遊毒茸を発見する。
「コンカ家の者たちが、施設のものを撤収しているところでした。
そこにギブスはいませんでした。
彼らに遊毒茸の栽培と、違法薬物を製造……そこまで問い詰めたところで――」
「サイシンに記憶を消されたのか」
「そうです……サイシンは全てばらしてから記憶を消すのが趣味だと言っていましたね」
「はあ? なんじゃそりゃ」
「全部知っているのに記憶が消えていく光景に、興奮するそうです」
「……それも記憶を消す前に言っていたのか」
「俺を馬鹿にしたんです……カルガノには『ギルドマスターごときも維持できなかった男』と、暴言を吐かれましたから」
「とんだ変態と、無礼な親子だ」
自分のことのように怒るアルバスに、救われたような気分になるアクロは、サイシンが魔法をかけたときの詳細を伝える。
「サイシンは『この別荘で我らと接触した記憶を削除・もしくはこの別荘で見た人間全てをギブスに置き換えろ』と、唱えていました」
「なるほど……それで今回は記憶が消えたのか」
「そのようです……誓って言いますが、ギブスはあの場にいませんでした」
「わかった、その言葉を信じよう……そして、今回のことはアクロのお手柄だ。
記憶をなくしたことは不可抗力であるが、よく別荘まで見つけてくれた」
「アルバス、様……」
「今回の件は賞賛に値するとして、ギルドの幹部復活へと父上に提案するが受けてくれるか」
「っ!!」
アルバスの言葉にアクロは一筋の涙を流した、ずっと悔しい思いをしながらも処罰に耐えてきた日々を思い出し、自然と出てきた涙だ。
その努力を見ていたアルバスは、優しくアクロを見守っている。
「もし、許されるなら……幹部に、戻りたい、ですっ。
必ずバッセルの、力になります」
(ギルドマスターに戻りたいといわないあたり、これがアクロの覚悟……だな)
「良い報告ができるよう、俺も努力をしよう」
こうしてアクロの記憶を取り戻したアルバスは、事件の解決へ一歩進んだことを確信した。
そして翌日、聖骨院を早めに閉めてから、アルバスと羽澄たち四人はファルケ国へと向かう。
少し前にミロルへエルシア王妹から連絡があり、遊毒茸の研究について呼ばれていた。
研究室に通され、白衣姿のエルシア王妹と助手役のフィリネが出迎える。
そしてケツァル国王もリュミエも立ち会っていた。
「一家で栽培ですか……」
「はい、コンカ・カルガノが当主ですが、ご存じですか?」
「聞いたことはありますね。
我々はリューゲル国の交易に関して、信頼できるトキアス殿にしか依頼しませんが、カルガノ殿は比較的連絡が取りやすい商人だと聞いています」
「トキアス殿のおこぼれか」
「アルバス様、言葉が悪いですよ」
コルヴァンがぴしゃりと注意すると、アルバスは肩をすくめるが、ケツァル国王は同意するように頷いた。
「その認識であっていると思います……横暴で値段も勉強してくれないと、不満を漏らすものも多いですから」
「トキアス様って、本当に仕事ができる素晴らしい方ですね」
うっとりするような声でフォルンが呟く、その声に事情を知っている羽澄たちとアルバスは、にやにやしながら彼女を見ていた。
「……失礼しました、話を続けてください」
顔を真っ赤にしてフォルンは体を小さくする、アルバスはにやけ顔を抑えつつ、言葉を続けた。
「それでお呼びいただけたということは、遊毒茸について何かわかりましたか?」
「ええ、はい。
そのことで……アルバス王子殿下にご協力をお願いしたくお呼びしました」
「俺で何かできることがあれば」
「おそらく……アルバス様しかできないでしょう。
こちらへどうぞ」
ケツァル国王とリュミエは業務に戻り、エルシア王妹とフィリネに案内されたのは、遊毒茸の栽培所。
木に遊毒茸がいくつか生えている。
「まず遊毒茸の胞子についてご説明します。
一般的に知られているのは外敵要因で、障害物をすり抜ける透明な胞子を放出するということ」
「そうですね、だから遊毒茸をみつけたら、触らず適切な機関に報告する必要がある」
「その通りです……それでは胞子を出すのは親の個体のみというのはご存じですか」
「いや、それは知りません……個体差があるんですか?」
知らない情報に驚くアルバスに、エルシア王妹は深く頷いた。
「そうです、あまり知られていないのですが、大人になった遊毒茸が一年間生存すれば、胞子を出す親個体となります」
「なるほど――親以外を採取すれば、胞子が広がることはないと」
「おっしゃるとおりですが……親個体とそれ以外を、見た目で見分けることは不可能です」
「……なんとも、一筋縄ではいかないキノコだな」
愚痴るように呟くアルバスに苦笑しながら、エルシア王妹は話を続ける。
「栽培するなら親個体がどれか前もって知っていれば、胞子を出すことなく採取ができます。
「そして増やすこともできる……と」
エルシア王妹の言葉に、アクロの報告を思い出す。
「コンカ家は、遊毒茸を木に生えている状態で一つ採取していたらしい」
「おそらく……それが親個体でしょう」
「まさか、別の場所で栽培を……?」
「可能性は高いな」
コルヴァンの予想にアルバスも深く頷いた。
「ただ、栽培には一ヶ月ほど時間が掛かります。
生息地を監視されている今、現在できあがっている遊毒茸の横流しを模索するのも納得できます」
「国としては大迷惑な計画ですがね……つまり今は、栽培できている、ということか」
呆れるようなアルバスの声に、エルシア王妹は苦笑しつつ本題に入る。
「ここからは研究でわかったことなのですが……親個体に微量な魔力が感じ取れました」
「魔力、それはキノコが放っている……ということですか?」
「そうです、特に胞子を出す瞬間、魔力の数値が増えます……フィリネ、魔道具を」
「はい」
指示された通り、フィリネは魔力を測れる魔道具をエルシア王妹に渡す。
「今もわかる通り、こちらの遊毒茸から微量の魔力が検出されます。
しかし、もう一つの遊毒茸は……」
「魔力が検出されませんね」
コルヴァンが計測器を見ながら呟くと、アルバスはパッと表情を明るくさせて質問する。
「見た目でわからなかった親個体が、魔力でわかるのですね?」
「その通りです」
にこりと笑うエルシア王妹に、アルバスは一筋の光を見た気がした。
しかし彼女の口は、さらなる希望の言葉を発した。
「そして、親個体も処分するため……アルバス王子殿下の力をお借りしたいのです。
――生命共振魔法で、胞子の透明化が解除されるかもしれません」
「……なるほど、魔法で透明化されているなら可能性はありますね」
遊毒茸生息地の排除に、一筋の光が差した瞬間だった。
初登場
ギブスの父:コンカ・カルガノ
登場人物
前冒険者ギルドマスター:アクロ
ギブスの弟:コンカ・サイシン
王妹:セレーヌ・エルシア
王息子:セレーヌ・リュミエ
ファルケ国王:セレーヌ・ケツァル
ファルケ国 王妹娘セレーヌ・フィリネ




