第八十五話 戦争の影と、禁断の生成所
バッセルとヒルンダが書庫から出ていき、アルバス、聖骨院の四人、そしてトキアスが残った。
「これから情報共有をし、今後の対策を考えたいと思う。
協力してくれるか?」
「もちろんです、アルバス様」
コルヴァンの返答に羽澄たちも頷く、トキアスも深く頷き口を開いた。
「私も商人の仕事をしている中で、色々と気になる話を聞いております……どうか協力させてください」
「ありがとう……では早速だが、その気になる話を聞かせてくれるか」
「はい」
返事に続けて、トキアスは聞いた話を報告する。
「先ほど話に出た、ギブスを名乗る商人のことですが……複数の国で兵士増強剤の売り込みをしていると聞きました」
トキアスはリューゲル国だけでなく、他の国でも名の知られている敏腕な商人だ。
情報は自然と集まってくる。
「そしてあくまでも噂ですが……とある国が増強剤に興味を示しているそうで……」
「なんと……そこはどこだ?」
アルバスの質問にトキアスは少し眉を顰め、そしてゆっくりと口を開いた。
「――武力国家、モズ国です」
「っ、よりにもよって……」
名前を聞いた瞬間、アルバスは頭を抱えた。
「確か魔法より武術が栄えていて、国外へ傭兵や助っ人として人材を派遣している国でしたよね?」
コルヴァンが聞くと、アルバスはゆっくりと頷いた。
「そうだ、兵士の派遣で財政を確保している……ただ、それは制限があるからだ」
「制限?」
「もともと武力で周辺の村を取り込み、領土を広げた国だ。
モズ国は荒野が広がり鉱山が無く、武器や鎧を作るための鉱石がない」
「それが制限……ですか」
「そうだ……武器や鎧の代わりに増強剤で恐怖も痛みも感じない、強い兵士を抱えられるとなれば……元の武力を振りかざす国になるだろう」
「……つまり戦争を起こす国になる、と言うことですな」
コルヴァンとアルバスの会話を、トキアスが一番恐ろしいことを呟いた。
それは平和なこの世界を揺るがす、最悪の可能性。
「その通り……そして一番に狙われるのは、地下労働場も復旧し鉱石が潤沢にある我が国だろう」
「っ……しかも、増強剤の原料である遊毒茸の生息地がわが国の領土内にあれば」
「どんな犠牲を払っても、手に入れたいと思うだろうな」
アルバスとコルヴァンの言葉に、書庫はシン――と静まり返った。
(そんな……戦争、なんて)
羽澄は突然現れた脅威に、立ち尽くすしかなかった。
「しかし、コンカ家もモズ国がリューゲル国に戦争を仕掛けるかもしれないと、想像できるのでは?」
コルヴァンの言葉に、首を振ったのはトキアスだった。
「いや、コンカ家はそこまで考えていないだろうと、私は思う。
私をやたらライバル視しているからな、おいしい話があれば飛びつく男だ……あいつは」
苦々しい表情のトキアスに、コンカ家に迷惑を被っている様子が想像できる。
「俺はこの話を父上に報告する……ミロルさんはファルケ国に増強剤についての報告と、遊毒茸についての進捗を確認して貰えるか」
「お任せください」
「ストリは治療師ギルド開設と並行に、ギブスの動向に目を光らせてくれ。
コンカ家の調査自体は……バッセルが独自にやるだろう」
「わかりました、お兄様」
「トキアス殿は商人のついででもいいので、増強剤の売り込みについて引き続き情報収集を頼む」
「承知しました」
「羽澄先生とコルヴァン、フォルンは自分の仕事を全うしてくれ……先生に関しては、過去視魔法の依頼をするかもしれないが」
「大丈夫です、その場合はいつでも聖骨院に来てください」
そう優しく微笑む羽澄に、アルバスはいつものようにチャチャを入れようとしたが……。
羽澄とコルヴァンの距離の近さに、口を噤むアルバスだった。
それから各自慌ただしく過ごした数日後のある日、聖骨院の事務所にてフォルンが不思議そうに報告をしていた。
「これは報告なんだけど、鎮痛布の売れ行きが悪くなったの」
「鎮痛布だけ? フォルンが気になるってことは、たまたまっていうわけじゃなさそう?」
商品によって売り上げに差が出ることはよくあることだが、羽澄の問いかけにフォルンは真剣な顔で頷く。
「そうなの、石工職人たちが一斉に購入しなくなったの」
「一斉に?」
「そう、それで職人ギルドマスターのヴェルさんに相談したら、調査してくれることになったわ」
「石工か……」
コルヴァンが呟き、聖骨院の患者台帳を確認する。
「……確かに、ここ数週間石工職人が治療に来ていないな」
「石工職人は慢性的な筋肉疲労や骨のズレがあるから、定期的な治療が必要なはずなのに……」
「ここはヴェルさんの調査を待ちましょう」
ミロルの言葉に頷き、その日は通常通り営業を始めた。
――パァー
その頃、城ではアルバスがとある男に生命共振魔法をかけ、状態異常を解いていた。
「どうだアクロ、何か思い出したか」
「……は、い……俺は、なんてことを」
前冒険者ギルドマスターのアクロ、彼は今でも償いとして処罰を献身的にこなしていた。そして遊毒茸の生息地を発見したのも彼だった。
「重ね重ね、アルバス様にはご迷惑を……」
「謝罪の言葉は、思い出した内容を聞いたあとに受けよう……いったい何があった」
「はっ、ご報告します」
アルバスの言葉に顔を真っ青にしていたアクロは、姿勢を正し思い出した記憶をアルバスに報告した。
「薬草クエスト中に遊毒茸の生息地を発見、ここまでは記憶があり報告も致しました」
「なるほど、続けろ」
「はい、後日その生息地を確認したところ……コンカ家の別荘がありました」
「別荘?」
「実際は製薬所……コンカ家は遊毒茸の栽培をし、違法薬物を作成していたのです」
初登場の国
モズ国 武力国家
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
第三王子:ヴァルディア・ストリ
大富豪:ハルビア・トキアス
前冒険者ギルドマスター:アクロ




