第八十三話 出来損ないと呼ばれた男の、まっすぐな使命
発言に注目が集まる中、ギブスは堂々と口を開く。
「元ギルドマスター、アクロが遊毒茸の生息地を発見したという報告がありました」
「僕もその話は伺っています、ヒルンダ宰相を中心に処分方法を検討中……ですよね?」
発言したストリが確かめるようにアルバスに確認する。
「その通りだ、その件に何かあったのか」
「はい、遊毒茸は外敵要因があれば、見えない胞子を飛ばし生息範囲を広げる。
うかつに手を出すことができません」
「採取も燃やすこともできない状態で、城の騎士が交代で見張りをしている」
アルバスが確認するように言いギブスを見ると、誇らしげな表情で口を開いた。
「コンカ家当主の息子として申し上げます、見張りと処分の研究を当家にお任せください」
ギブスの宣言に、ヒルンダへの仕打ちを知っている人間は眉をひそめる。
「……当主から直々に、申し出たと言うことか」
「はい、お父上が是非協力したいと……とても危険なキノコにもかかわらず、申し出てくださったのです」
アルバスたちが怪訝な表情になっていることにも気づかず、ギブスは自分の父親の申し出を誇りに思っているようだった。
「なるほど……しかし、こちらでもとある機関に処分方法の研究を依頼しているのだが……」
「さようでしたか……でしたらお父上に報告しましょう、協力すればより早く処分が出来るかもしれません」
その機関がファルケ国ということは伏せて説明すれば、食いついてくる。
ただギブスの言葉は、遊毒茸の処分に対して裏があるようには聞こえなかった。
「いや……あまり公にできない機関だからな、一旦ふせておいてくれないか。
コンカ家から見張りの申し出や、研究のことも一度国王に相談したい」
「承知しました、どうぞご検討ください……私も少し前のめり過ぎましたね」
「まあギブスがコンカ家を大好きなのは周知の事実ですから」
「バッセル、余計なことを言うな」
二人のやりとりに目を細めつつ、アルバスの頭の中では今までのことを整理していた。
顔合わせが終わり、城の書庫に羽澄たちとトキアスとストリ、そしてバッセルとヒルンダがアルバスに呼ばれて集まっていた。
「顔合わせが終わったばかりで呼び出してすまない……遊毒茸について、どうしても確認したいことがある」
アルバスがそう言った後、事情を知らないトキアスに説明をする。
するとトキアスは納得したように大きく頷いた。
「なるほど……遊毒茸の生息地についてはお達しがあってから、私の方でも気になる噂を耳にしたので、共有させて頂きたいと思っておりました」
「気になる噂か……もしかして商人ギブスの噂か?」
「……さすがです、ご存じでしたか」
「ファルケ国から情報提供して頂いた」
「ファルケ国にも、ですか。
どうやらかなりの国へ、兵士増強剤の売り込んでいるようですね」
トキアスの情報に、アルバスは眉をひそめた。
「これはすぐ対応を取らないとやばいな」
「わたくしはすぐギブスを捕らえるべきだと思います」
アルバスの言葉にヒルンダは提案するが、アルバスは首を横に振る。
「いや、まだ証拠は不十分だ……それに――羽澄先生」
「はい」
「あなたの魔法のことを、ヒルンダとバッセルにも伝えて良いか?」
アルバスの言葉とまっすぐな視線に、羽澄は何かを悟り頷いた。
「魔法のことは、伝えて大丈夫です……私も、ギブスさんを拘束するべきではないと思います」
「羽澄先生も、気づいていたか」
感心するアルバスと、羽澄の言動に何故かどや顔をするコルヴァン。
「さすが羽澄だ」
「……なんかコルヴァンのその顔むかつくな」
「酷い言いぐさです、アルバス様」
この場にそぐわないやりとりに、アルバスは気を取り直して表情を引き締める。
「羽澄先生は過去視魔法の持ち主だ……責任感の強いヒルンダの本質が、記憶を思い出したいと訴え羽澄先生の魔法が反応したのだろう」
「そうだったんですね……記憶に気づいていただきありがとうございます、羽澄先生」
「い、いえ……私の方こそ、勝手にみてしまってごめんなさい」
「そのおかげで今の状況がわかったのだ、何も悪いことはない。
それに、その記憶を魔道具に保存することもできる」
「それは……有力な証拠になりますね」
ヒルンダの呟きに、アルバスはにやりと笑い、羽澄は安堵の表情になる。
「それではヒルンダさん、もう一度記憶を見せていただいていいですか」
「はい、よろしくお願いします」
こうして羽澄は、記憶を保存する魔道具を握りしめながら、ヒルンダに触れた。
一方、顔合わせを終えたギブスは、冒険者ギルドの職務室でホッとした表情を見せていた。
(最低限、自分の使命は果たせた)
そう思うと同時に、ギブスの頭の中によぎる罵倒。
『出来損ない、ギルドマスターにすらなれない役立たず』
(子供の頃から浴びせられた言葉だ、もう慣れている)
自分に言い聞かせるが、傷ついている事実には変わりない。
ギブスは三兄弟の長男、下には弟と妹がいる。
祖父の代で商人から貴族となり、現当主である父親は商売人としても大きくコンカ家に貢献している。
ギブスは長男として、父親の背中に憧れて勉強にいそしんでいた。
しかし致命的なことに、商人としての素質より剣術に長けていた。
ギブスは体を動かすことが好きな、まっすぐな子供だった。
『こんなこともできないのか』
『剣術など商人に必要ない』
『コンカ家の出来損ない』
ギブスが唯一わがままを言った、城で行われている騎士養成所への参加。
『出来損ないには、騎士がお似合いだ』
そんな馬鹿にすることを言われても、彼にとって父親は絶対だった。
そして弟、妹が生まれ――
『兄上には、こんな商売とうていできないでしょう』
『お兄様は甘すぎます、出来損ないと言われてもしょうがないわ』
二人には商人の才能があり、あっという間に追い越されてしまった。
時期当主は、この二人……どちらかが継ぐのだろう。
(せめて、遊毒茸だけは……ちゃんとやりとげないと)
これが成功すれば、父も少しは自分を認めてくれるかもしれない。
ギブスは期待を胸に、職務室から出て行くのだった。
登場人物
第三王子:ヴァルディア・ストリ
大富豪:ハルビア・トキアス
女宰相:ホウヅキ・ヒルンダ
新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル
貴族でギルド幹部:コンカ・ギブス




