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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で聖骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第三章 ギルド開設編 〜治療の光と、つきまとう影〜

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第八十一話 甦った記憶、闇に紛れる全貌

 今日は定休日、そしてヒルンダが経過観察に来る日だった。

 城の馬車が止まり、護衛騎士のテリクス先導でバッセル、ヒルンダが降りてきた。

 最後にアルバスが馬車からおり、羽澄とコルヴァンが出迎える。


「アルバス様、お待ちしておりました」


 そんな二人の距離が近いことにアルバスは気づく。


「やっと付き合いだしたか」

「へっ?」

「……よくわかりましたね」


 驚く羽澄と驚きながらも冷静なコルヴァンに、アルバスは盛大なため息をついた。


「わからないのは鈍感でまぬけな羽澄先生とコルヴァンくらいだろう」

「え、さらっと悪口言われた?」

「言われたな……」


 ちょっと不満げな二人だが、それでも幸せそうにしか見えず。


(――ちょっとくらい、悪態付いてもいいだろ)


 アルバスはそんな思いを隠しつつ、聖骨院に入った。



「はい、骨は完全に元通りですね。

 もう痛みも違和感もないですよね?」

「ありません、羽澄先生のおかげです」

「ほら、ヒルンダちゃんの笑顔、かわいいでしょ」

「え、あ、まあ」


(ごめんなさいバッセル様、あまり違いがわかりません……)


 訪問前にコルヴァンから聞いていたが、表情が乏しいヒルンダの変化はバッセルしかわからなかった。

 そんなやりとりに苦笑しつつ、アルバスが本題に入る。


「さて、俺がヒルンダの経過観察に付いてきた理由だけど」

「はい……教えてください」

「ヒルンダは、突然顎がおかしくなったと言っていたよね……それは本当か?」

「本当です、嘘をついてもしょうがないですよ、そんなこと」


 眉間に皺を寄せてヒルンダは答える、その態度に嘘は感じ取れなかった。


「実はね……ヒルンダの記憶が、消されている可能性があるんだ」

「え……記憶が?」


 驚きと戸惑いが混じる声に、アルバスは落ち着かせるように説明した。


「とある方法で、ヒルンダの顎が負傷した原因がわかった。

その方法についてはふせるが、負傷した状況を考えて忘れるのは難しい状況だ」

「……考えられるのは、記憶が消されている……と」

「ああ、そして魔法で消したなら……俺が解除する事ができる」

「生命共振魔法ですね」


 コルヴァンの言葉にアルバスは深く頷く、魔法による状態異常ならなんでも治せる魔法だ。


「ヒルンダ、この魔法を君に使ってもいいか」

「もちろんです、わたくしも記憶を消されたなんて、腹立たしいことです」

「では、遠慮なく」


――パアァ


 アルバスの手が光り、ヒルンダに降り注ぐ……彼女はゆっくり目を開けると、珍しく驚いた表情になっていた。


「……まさか、本当に記憶を消されていたなんて」

「思い出したか」

「はい……とても不愉快で、忘れてはいけないことを思い出しました」


 そう呟くと、ヒルンダは頭を抱えて思いっきりため息をついた。


「はあー、思い出して本当によかった……これは早急に取りかからないといけない問題です。

 魔法を使っていただきありがとうございます」


 ヒルンダはアルバスに頭を下げた。


「いったい、何があったのだ……そして何が起きようとしている」

「はい、私が知っている限りのことを、お教えします」



 それは一ヶ月ほど前の話、ギルド連合会館に呼ばれたヒルンダは、無表情の中に不機嫌さを隠しもせず、呼び出した男と対峙していた。


『ギブス殿、わざわざ呼び出されて何の用ですか』


 目の前には不敵に笑うギブスの姿、バッセルとのギルドマスター争いを抜きにしても、ヒルンダはこの男が苦手だった。


『実はとっておきの話があって……ガルーダ国王もお喜びになるんじゃないかな』

『いったい何の話でしょう』

『実は兵士増強剤という薬を作ったんだ』

『兵士増強剤……?』

『これを使えば痛みを抑え意図的に極限状態へ追い込み、通常では出せない力を引き出すことができる。

 ……夢のような薬だろ?』


 その内容にヒルンダが思い浮かべたのはただ一つ。


『それは兵士増強剤ではなく、違法薬物ですよね』

『さすが、詳しいな』

『そんな危険なもの、使うわけ無いでしょう……ガルーダ国王が許すわけがない』

『それはヒルンダ宰相の手腕でなんとかしてくれ――強い魔物や他国からの攻撃があれば、かなり役に立つ』

『魔物に関しては普段の見回りで十分、他国との親交は国王が尽力してくださっています』


 決して頷くことの無いヒルンダにかまわず、ギブスは話を進める。


『それと遊毒茸の生息地担当を私にしろ』

『違法薬物の話をした後に、そんな要求飲めるわけありません』

『ならば横流ししろ』

『同じことでしょ、何を言われても従いません!』

『はっ……いうことを聞かないと、お前の婚約者がギルドから追放されることになるぞ』

『あなた、なんてことを……』


――そこからは羽澄が以前見た内容だった。



「私はバッセルを守る決意をし、私は全て断りました。

 そうしたら頭を掴まれ……この出来事を今の今まで忘れていたんです」

「錯憶魔法(さくおくまほう)だな、この世で唯一の記憶操作ができる魔法だ」


 ヒルンダの言葉にアルバスは冷静に分析する、そしてヒルンダの隣でワナワナと震える男が一人。


「……ヒルンダちゃんに、なんてこと――いや、気が付かなかった僕もバカだ」

「バッセルは何も悪くないでしょう」

「ああ、バッセルもヒルンダも何も悪くない……それで魔法を使った相手はギブスで間違いないのだな?」

「はい、私はギブスとあまり話したことはないのですが、さすがに間近で見ればわかります」

「なるほど……これから調査を始めるため、ヒルンダは記憶が戻ったことは隠しておけ」

「はい、承知しました」

「そしてバッセル……お前はギブスに会っても知らないふりをしておけ、決して暴走するな」


 ヒルンダへの仕打ちに怒りをあらわにしたバッセルに釘を刺す、しかしバッセルは意外と冷静だった。


「わかっております、この件に関してギブスを問い詰めるつもりはありません」

「そうか……あと、聖骨院の方々にも協力をお願いするかもしれないが、いいだろうか」

「私はただの治療師ですが、ご協力できることがあればおっしゃってください」

「ありがとう……しかし、ただの治療師――というのは無理があるな」


 アルバスにつっこまれて、不思議そうに首をかしげる羽澄たちだった。


登場人物

女宰相:ホウヅキ・ヒルンダ

新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル

貴族でギルド幹部:コンカ・ギブス

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