↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で聖骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第三章 ギルド開設編 〜治療の光と、つきまとう影〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/102

第七十六話 移転後の患者は、黒い野望と共に

 会議の日から一週間後、聖骨院に看板をかけた。


【移転しました】


「だいぶお世話になったわねー」


 看板を掲げたあと、しんみりと羽澄・コルヴァン・ミロル・フォルンが家を見つめる。


「私は仕事がなくなって、こっちの世界に通うようになったけど……まさか聖骨院がこんなに成功するとは思っていなかったなぁ」

「俺も……こんなに歩けるようになるとは思わなかった……羽澄とミロルさんのおかげだ」


 コルヴァンの言葉にしんみりしていると、フォルンが三人に向かって頭を下げてきた。


「謝りたいことがたくさんあるけど、それ以上にありがとう……私を見捨てないでくれて、ありがとう」


 杖をつきながら礼を言うフォルン……今までの大富豪の妻から、生活がガラリと変わったのは自業自得だ。


「本来なら、私も死罪……最悪トキアス様を亡き者にしていたっ」

「フォルン……」


 呟いたミロルの言葉に顔を上げ、にこりと笑った。


「それなのに、仲間として受け入れてくれたことを……心から感謝します」


 そんなフォルンに、羽澄とミロルは優しく抱きしめる。


「大丈夫、フォルンは仲間思いの素敵なひとだってわかっているから」


 羽澄の言葉に嬉し涙を流すフォルン。


「ありがとう、ありがとう」

「さあ……もうそろそろ行きましょう」

「そうだね、新しい聖骨院へ……四人で」

「あの子たちが、聖癒布を作って待っているわ」


 こうして先に従業員三人が待つ新聖骨院へ、四人馬車で向かうのだった。



「移転後初の患者は、ヒルンダ様ね」

「ママ、椅子で遊ばないで」


 引っ越した当日、定休日ではあったが特別に会議で依頼された、ヒルンダの顎を治療することになっていた。

 ミロルは診察室で特別に作ってもらった処置椅子に座り、くるくる回って遊んでいる。

 唯一部屋にいた羽澄が咎めるが、気にしない様子で言葉をつづけた。


「この間。ヒルンダ様に嫉妬していたでしょ」

「しっと? ……湿布?」

「話の流れで湿布はおかしいでしょ、嫉妬よ、嫉妬」

「叱咤激励?」

「……ごまかすにしても雑すぎるわよ、嫉妬! ジェラシーっ」

「……していませんけど?」

「だから無理あるって、羽澄ちゃん」


 羽澄がいくらごまかそうとしても、恋バナ大好きなミロルは見逃さない。


「そんなに不安なら付き合っちゃいなさいよ」

「つ、付き合う? 私が? それは相手に失礼では……」

「……」

「私って恋愛対象に、ならないでしょう?」


 羽澄の発言ははぐらかしているわけでも、ごまかしているわけでもない。

 ましてや謙遜でもない。


(今まで、セクハラしか受けてこなかったものね……)


 夢に向かって恋愛なんてしてこなかった……ともいえるが、羽澄の周りには体目的の男しか寄ってこなかったともいえる。


(こう見えても、人と付き合ったことないのよね……そういえば)


 しょっちゅう彼氏ができたか聞いても『私はこんな体だから……』とあきらめたような発言が多かった。


 しかし羽澄とコルヴァンはどう見ても両想い、プレゼント一つであれだけ喜べば、誰もが脈ありと思うだろう。


(問題はコルヴァンも奥手なのよね……)


 そう思いながら立ち上がり、おもむろに診察室のドアを開けた。


――ガチャッ


「フォルン、作戦変更で」

「ラジャー」


 ドアの前にいたフォルンに驚くことなく、ミロルがそう口にした。

フォルンの手にあった幻灯機、羽澄は顔を引きつらせて。


「え、盗撮? 何しようとしていたの……」

「いえいえ、フォルンは新しい聖骨院の内装を撮影していただけよ」

「そう、たまたまこの部屋の前にいただけで」

「……」


 諫める羽澄に、ミロルとフォルンはあらかじめ考えていた言い訳をしてごまかしていた。



「お休みの日に申し訳ありません、今日はよろしくお願いします」


 無表情なヒルンダは丁寧に頭を下げる、しかしその瞳は期待に満ちていた。

 付き添いでバッセルも傍にいる。


「いえいえ、お忙しい中来ていただいてありがとうございます。

 それでは診察を始めます、問診を行いますので答えてください」

「はい」


 それからいくつかヒルンダに質問をする、普段違和感はあるか?

 熱を帯びているか? 痛みは感じるのか? 硬いものは食べられるか?


「食べられなくはないですが、柔らかいほうが楽ですね」

「なるほど。

 その症状が出たのはいつ頃で、きっかけなどはありますか?」

「表情が動かなくなったのは、ここ一か月です。

 回復魔法はかけてもらっているのですが、違和感が楽になるだけで……。

 気づいたらこうなっていました」


 質問をしながらノートにまとめていく。


「見た感じでいうと、何かしらの衝撃が加わりズレた可能性が高いと思うのですが……」

「覚えがありませんね」


 本当に心当たりがないのか、首を傾げるヒルンダ。


「では次に触診させてもらいますね」

「お願いします」

「お顔、触りますよー」


 そう声をかけて羽澄がヒルンダの頬に触ると。


「っ」


(あれ、この違和感……)


 それは久々の光景だった。

 触れている人間の強い思いにより、羽澄の魔法が自動で過去を見せる瞬間。


――ぐにゃぁ


 視界が歪み羽澄が見ていた景色が変わる……目の前にはギルド連合会館の一室が広がっていた。


『あなた、なんてことを……』


 ヒルンダが誰かに向けて糾弾しているようだた……目線の先には体が大きく、プライドが高そうな笑顔の男が一人。

 だが目は笑っていなかった。


(声も聞こえているし、映像も見えている……勝手に見えるときは必ずどちらか片方なのに……)


 不思議に思う羽澄にかまわず、映像は続く。


『協力するのか? しないのか?』

『するわけがない、遊毒茸の横流しなど……薬のことも、併せて王に報告させてもらう』


(遊毒茸……確か、会議で国王が言っていた……それに薬?)


 深まる謎に悩む暇も無く、映像の話は進んでいく。


『残念だ……あれで幸せになっている人もいるのに』

『幻想に逃げているだけでしょう――』


――バギィ


『っ、かはっ』


(イヤッ……)


 突然男がヒルンダを殴る、顎に入った拳に彼女はその場に崩れ落ちた。


『安心しろ、怪我は治る……そして、この記憶は歪む』


 男がそう言いながら、ヒルンダの顔を片手で掴み……手のひらが魔法の光を放っていた。



「あの、何か……頬に何かありました?」


 おずおずと質問される声、それは頬を触られたヒルンダが、全く動かない羽澄を心配そうに呼ぶ声。


「あっ……」

「大丈夫ですヒルンダ様、おそらく絹のような触り心地に驚いていたのだと思います」

「ヒルンダの触り心地に初めてで気づくとは……噂通り、聖骨院治療師の技術は確かなのですね」

「バッセル、それは技術と関係ないと思うぞ」


 ヒルンダにフォローを入れるミロルと、バッセルにツッコミを入れるコルヴァン。

 そんな二人に羽澄は引き攣った笑顔を浮かべることしかできなかった。


登場人物


女宰相:ホウヅキ・ヒルンダ

新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。