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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で聖骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第三章 ギルド開設編 〜治療の光と、つきまとう影〜

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第七十二話 独占欲の正体は、君の笑顔

「ここからは、申し訳ございませんが、エルシアご婦人とフィリネ嬢は控えていただけますでしょうか」

「その代わり、このロウフがこの国をご案内しましょう。

 案内が終わりましたら、連合ギルド会館まで迎えをお願いします」

「わかりました、お姉様……リューゲル国をお楽しみください」

「地下も気になりますが……ここは抑えておきましょう」

「そうですねお母様……ロウフ殿、よろしくお願いいたします」


 エルシア王妹とフィリネは、羽澄たちに手を振りながら、ロウフと共に出る。


「じゃあ、俺は城に帰るよ」

「はい、国王陛下に感謝の意をお伝えください」

「コルヴァンが新しい聖骨院を見て、泣いて喜んでいたと伝えておくよ」

「嘘はダメですよ」


 いつもの軽口をたたきつつ、アルバスは城へと帰っていった。

 そしてヴェルの案内が再開し、地下へ降りると重々しい扉に辿り着く。


「この施設は、国の機密事項に指定されたのさ。

 聖癒布製作所として、入れる人間は制限するから」

「国の機密事項……ですか? なんか大事になっていません?」

「それはあとで説明する……まあ、中を見ればある程度は察すると思うが。

 後日、鍵の魔道具を設置して入れる人間を登録するから、よろしく頼む」


 羽澄の質問に対して勿体ぶるヴェルに、三人とも顔を見合わせる。


――ギィー


 ヴェルは気にすることなく扉を開けると、そこは広い空間に、いくつかの装置が設置されていた。

 そして制作従業員が三人とは思えないほどの材料が、すでに運び込まれている。


「……なんか規模がおかしくありません?」

「いや、おかしくないね……なんてったって、国外販売も開始するんだから」

「えっ!」

「確かにゆくゆくはと、ロウフ殿が話していましたが……本当に国外へ?」


 羽澄の驚きの声を代弁するようにコルヴァンが質問すると、ヴェルはさも当然といったように大きく頷いた。


「そうさ、これが国の機密事項に指定された理由だ。

 ファルケ国から依頼が入ってね、国民の医療費を節約できるよう販売したいそうだ」

「なるほど、そういうことでしたか」

「お兄様ったら、何もおっしゃってなかったのに……でもそういうことなら、逆に人手や材料が足りませんか?」


 設備に納得したミロルだが、新たな質問をヴェルに問いかける。


「その辺は大丈夫」


 そう言いながら織機のような装置に手を置く。


「まず人手に関して。

たとえばこれは五枚の布にジェルを均等に塗り、そのまま流れてシートを貼り付ける装置さ」


 今まで一枚ずつ手作業だったため、装置を使えばかなり短縮になる。


「もしかして、以前から従業員たちに聞いていたのって」

「そう、装置を作るためだ……聖骨院とかで三人とも忙しそうだからって、代わりに協力してくれたんだよ」


 聖癒布の作業工程に関しては、リーノ、アイル、レイルの方が効率いい方法を知っている。


「あと、リーノちゃんに炉の位置とかも指定して貰って、使い勝手はよくなっているはずだよ」

「これなら増産ができそうですね……間に合わない場合に人を増やしても、この広さなら問題ないでしょうし」


 感心しながら羽澄が呟くが、ヴェルはにんまりと笑いながら言葉を続けた。


「まだ終わりじゃないよ」


 そう言って取り出したのは、特殊な石で作られた、大きめのブレスレット三つ。


「これは法力増幅の魔道具だ、宝晶生成術士のヴォルクスに腕輪形で作って貰った。

 聖癒布作成用として、国王の許可済みで、この部屋から持ち出せないようになっている」

「三個も許可が出たのですかっ」


 思わずコルヴァンが声を上げる、法力増幅の魔道具は悪用を避けるため厳重な取り扱いルールが決まっている。

 滅多に許可される代物ではない。


「それほど期待されている、ということだな。

 あと材料の調達だが、ロウフがファルケ国に交易を提案してくれているはずだ」


 薬草や農業が盛んなファルケ国、財政のことも考えると悪くない話だろう。


「確かにこれなら増産することはできますが……こんなに融通してもらっていいのでしょうか」

「それだけ聖癒布が期待されているとも言える」

「期待ですか……大変ありがたいのですが、一つ気がかりが」

「何? プレッシャーでも感じたか?」


 羽澄に意地悪な笑顔を向けるヴェル。


「従業員たちに残業はさせていないので、そこは期待しないでいただきたいのです」


 しかし羽澄の口から出てきた質問は、従業員を心配するものだった。

 ヴェルの意地悪な笑顔が驚きに変わり、すぐ優しい笑顔に変わる。


「ああ、勤務時間に関しては強要しない……そのための効率化だからな」

「よかった……ありがとうございます」


 自分の事のように嬉しそうに笑う羽澄に、ヴェルは聖癒布を任せ大丈夫だと、改めて確信する。



「それでは先に製作所の引っ越しと稼働、次に聖骨院の移転。

これを二週間から一ヶ月で終わらせるって事でいいかな、羽澄」

「はい、それでお願いします」


 新聖骨院の細かい案内や、移転日程の話し合いをした後、ヴェルと別れたのはもう夕方になっていた。

 ヴェルの満足そうな後ろ姿を見送り、コルヴァンが口を開く。


「やっと終わったな……」

「そうだね意外と大変だった……さて、エルシア叔母様を迎えに行かないと」

「その前に……三人で、行きたいところがあるんだ」

「行きたいところ?」

「それ、二人で行ってきたら? 私は……」

「いや、ミロルさんも行こう」


 気を利かせたミロルを遮り、コルヴァンは主張した。


「三人で見に行きたいところがあるんだ」



 たどり着いたのは酒場……聖骨院を開業する前に来た場所だ。


「……前より、落ち着いた場所になったわね」


 以前のような賑やかさはなく、以前に比べて静かな場所になっている。

 しかし、あの頃のどこか投げやり感があった笑顔の代わりに、今は幸せそうな人々の笑顔があった。


「ここには、もう元騎士はいないんだ。

 騎士に戻っていないものもいるが、それぞれ自分の道を進んでいる」


 あの日、三人で誓った目標……それは、元騎士たちの治療。


「全員、助けることができたんですね」

「……そうね」


 羽澄とミロルの優しい声に、コルヴァンは二人の正面に立ち、頭を下げた。


「ありがとう、本当に……ありがとうっ」

「そんな、頭を上げてください……コルヴァンさんの、優しさのたまものでもあるよ」

「そうね、皆で成し遂げたのよ……できないと思っていた、全員治療が」


 まだ救う人々はいる、新たな怪我だってあるだろう。

 それでもこの三人なら、救うことができると確信していた。



「私は連合ギルド会館へ、お姉様を迎えに行ってくるわ。

 二人はこのまま食べてきて」


 にんまりと笑いながらミロルは、連合ギルド会館へ向かう。


「それじゃあ、お言葉に甘えて中に入ろうか」

「……そうだな」


(二人きりになると、夢の事を思い出すな……)


 そう考えて嫌な気分になるコルヴァンだが、彼の様子に気づくことなく羽澄は酒場へと入っていく。

 案内されたのは窓際の席、店主はコルヴァンと顔見知りで、この店で一番いい席を案内してくれたらしい。


「騎士に戻った皆が、たまにここに来て楽しそうに話してくれるんだ。

 おかげでこの店も繁盛してありがたいぜ」

「それはよかった」


 以前は人が多かったものの、仕事ができず貧しい客が多かった。

 嬉しそうに話す店主の表情は、売り上げが上がっただけではない喜びの表情だった。


「皆、笑顔でうれしいね」


 純粋な羽澄の言葉に頷く。

 料理を注文したあと、コルヴァンは少し緊張した面持ちで羽澄を見た。


「羽澄、これ……」


 取り出した小さい袋。


「ん、なぁに?」


 ご機嫌なのか、嬉しそうな顔で袋を受け取る。


「開けていい?」

「ああ」


 コルヴァンの短い返事の後、羽澄は袋の中身を出すと、ころんと出てきたのは。


「……直してくれたんだ、ありがとう」


 初デートでコルヴァンが買ってくれたペンダント。

 カルロに誘拐された時に、証拠として自らチェーンを切って落とした。


「ミロルさんが、直してくれたんだ」

「そっか、ママにもお礼言わないと」


 と、嬉しそうにペンダントを握りしめる。


「あれ? まだ入ってる?」


 そして袋の中身はもう一つあった。


「あれ、これは……ヘアピン?」


 それは銀の縁に、赤い蝶々型の宝石がついたヘアピンだった。


「治療中、前髪邪魔そうにしてたから」


 そう言うコルヴァンの顔は真っ赤だ。


「ありがとう、これ……」


――ママが作ったの?


 と尋ねようとした羽澄だが、コルヴァンの様子からしてどうも違うらしい。

 何よりヘアピンを見てみると、宝石がわずかにガタついている。


「もしかして、コルヴァンが作ったの?」

「……下手で申し訳ない」


 ミロルが二人っきりにしたかった理由は、ミロルに習って作ったヘアピンを、早くプレゼントして欲しかったからだ。


「下手じゃないよ、ありがとう、嬉しい」


 羽澄はふわりと笑った。

 その笑顔にコルヴァンはホッとしたと同時に、鼓動が跳ねる。


「よかった、よ」


 そう言いながらつい顔を背ける。

 と、窓ガラスに映った自分の表情が見える。


(っ!)


 その顔は、夢で見たニタニタした顔だった。

 とても気持ち悪く、羽澄を穢らわしい目で見ていたあの顔。


「そんなに不安だった?」


 そう聞かれて羽澄の顔を見ると、その表情はやはり夢の中で見ていた怯えた顔と重なる。


――しかし


「すっごいニコニコしているから、安心したのかなって」

「……ニコニコ?」

「うん!」


 言われて思い返してみれば、確かに気持ち悪い笑顔が、嬉しそうに笑っている笑顔だったと気づく。


 そして夢で怯えていたと思っていた羽澄の表情は、恥ずかしそうに照れている顔だったと思い直す。


「そうか……」

「ん?」


 コルヴァンの呟きに、羽澄は不思議そうに首を傾げた。

 とても可愛らしく、愛すべき存在。


(俺は怯えていただけなんだな……)


 羽澄を思う気持ちが、自分が穢らわしい禁忌な感情だと思い込んでいた。


(俺は羽澄が欲しいんじゃない……羽澄のこの笑顔を守りたいんだ)


 そう気づくと、心が熱くなった気がした。


「コルヴァン、ありがとう」


 ヘアピンを前髪につけて、嬉しそうに礼を言う羽澄。


「よかった……とっても似合っている」


 コルヴァンがそう言うと、羽澄の顔はますます真っ赤になって笑った。

登場人物


第二王子:ヴァルディア・アルバス

ファルケ国王妹:セレーヌ・エルシア(ミロルの姉)

ファルケ国王妹娘:セレーヌ・フィリネ

商人ギルドマスター:ロウフ

職人ギルドマスター:ヴェル

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