第六十八話 罪人は、死の重さを知る
――王族殺し
それは大罪とされ、その国で生きていくことはもちろん、被害者が王族の「血統」であれば、死刑が確定する。
「ああ、違う……ちがっ、俺、は、王に……」
知られてしまった罪、ガシラは迫り来る失敗の恐怖に、素がでてしまう。
「無理だな、死刑も免れない」
「っ、そんなわけ……たとえダクラス殺したとしても、やつは婿養子だ! 王族の「血統」では……」
「罪人カルロ……あれは俺の実の兄だ」
「……へ?」
「僕の兄でもあります」
「恥ずかしながら、あれでも我が息子だ」
何も知らなかったガシラ……三人の発言に口が半開きの間抜けな顔になる。
「確かに大罪人として死刑も決まっていた……それでも我が子の最後は、見届ける責任がある」
ガルーダ国王の言葉を聞きながら、ガシラの体がガタガタと震え出す。
(だから、さっきの映像で涙を流していたのか……)
全てを悟り、自分の中にある理想が全て音を立てて崩れていくのがわかった。
「何故勝手に殺した……最後くらい、素直に答えよ」
放心状態のガシラは、ガルーダの命令に魂が抜けたようにしゃべり出した。
「強制崇拝魔法……これを奪えば、この魔法の全てを知っているカルロは邪魔になる。
なら、殺すしか、ないと……」
「っ、ひどい……」
「……とんだ殺人鬼だな」
「魔法を奪ったから殺した……ただそれだけ」
ストリとアルバスは、軽蔑の眼差しでガシラを見つめる。
ガルーダ国王も憎しみしかない相手だが、この国では勝手な処分は下せない。
「この内容を全てケツァル国王に報告し、その後の処分は彼に任せる」
「はい」
「それがいいでしょう」
ガルーダ国王の判断に、息子二人が返事をすると、ガシラは不気味に笑った。
「それは、いい……あのお飾りが……俺を殺せる、訳がない」
この期に及んでガシラはなめきった態度を取っていたその時――謁見室の扉が開いた。
――キィー
「お前は自分の父親を殺した人間を、許すと思うか?」
そういいながら入ってきたのは、ケツァル国王……その手にはウツイ前国王を抱えていた。
「っ、まさか……何故、わかった…いや、それより魔法石から――下ろしたのか?」
「ああ、見ての通り……父上は息を引き取ったよ」
「そっ、それはお前が殺したんだろうがっ、俺は生きながらえるように魔法石にのせて……」
「よく見ろ……ガルーダ国王がいるにもかかわらず、わざわざ父上を連れてきた理由を」
「っ」
底知れぬ危機感に、ガシラは息を飲んだ……そして言われたとおりウツイ前国王を見ると……。
「両手足に、罪の魔刻印が刻まれているな」
指摘したのはガルーダ国王だった。
ウツイ前国王の死因が、魔法石から下ろしたことなら魔刻印は刻まれない。
「魔力を奪うために……四肢に内震魔法を使っただろう」
「…………」
「この年齢でそんな魔法を使われたら、無事じゃいられない……。
それで魔法石に寝かせていた――王統魔法が継承されるまで、命を長引かせるために」
「っ、そんなの、言いがかり――」
「黙れっ」
「っ」
ケツァル国王の命令に、ガシラは口をつぐむ……いや、まるで口を塞がれたような錯覚さえ覚える。
(こ、この圧は……まさか!)
それはまさに、ガルーダ国王に感じた王統魔法と同じ圧。
同時に気がついた、ケツァル国王の怪我が治っており、魔力が自分よりも高いことを。
愕然としたガシラを気にすることなく、ケツァル国王は高らかに宣言した。
「ウツイ前国王より継承した王統魔法に恥じぬ王として、この国を守り、その責務を全うする」
言い切ったケツァル国王は、呆然としているガシラに視線を向け。
「ガシラ、私が守る国に、お前はもう必要ない……罪人ガシラを捕らえよ!」
ケツァル国王の指示により、ガシラはアルバスたちが入れられた牢屋へと連れられるのであった。
ケツァル国王は、二人きりかつ自身が直接ガシラの尋問をしたいと願い出た。
危険で異例ではあるが、魔法封印の拘束具と、複数の騎士がガシラを取り囲むのを条件にケツァル国王の希望を叶えることとなった。
ガシラはケツァル国王に抗うことなく、すべての罪を認めた。
取り繕うこともなく、本来の口調で語り始める。
「騎士団長まで上り詰め、ウツイ前国王に気に入られた俺は、様々な仕事を任されるようになった」
ガシラは語りながら思い出す、野心を持ちつつもまじめでがむしゃらに仕事を全うした日々を。
「……仕事の一つが『罪人の魔法を削除する』任務だ。
そこで初めて、魔法石のベッドに眠るダイール様の存在を知った」
ダイールに命じれば魔法は削除でき、そして――譲渡することも。
「俺は信頼されているのをいいことに、使えそうな魔法を少しずつ奪っていった」
「……本来なら、許可なき魔法の譲渡は重罪だ」
「知っている……だが、国王は俺に甘かった。
仮に知られても、お咎めはなかっただろうさ」
ガシラは口元を歪めた。笑みの形をしていたが、そこに力はない。
「……契約魔法を手に入れた時だ。俺は、自分が王になれると確信し、この計画を立てた」
「その一歩としてダクラスを殺し、エルシア殿下の婿となった」
「ああ。
そして内震魔法で城内に病が蔓延したように見せかけ、お前らの魔力を弱くさせた」
「内震魔法を選び、王族だけで無く家臣たちに使用した理由は?」
「俺より強い魔力を持つ者は邪魔だった。それに回復魔法では治せない、あの魔法ほど都合のいいものはなかった」
「そして……父上にも、その魔法を使ったのだな」
「そう……ローラ王女を見つけ魔法鑑定士として拘束することを約束し、契約魔法を交わしてからな」
「だから各国に賞金の御触れを出したのか。
財政も含め、ローラを見つける必要があったから」
「そうだ……一年で見つけられなくても、何度も契約を更新すればいい」
「それで父上を生かし続けた……」
「あの歳だ。内震魔法を四肢に使えば、寿命が縮むことくらい分かっていた。
動けなくなれば、それで十分だった」
ケツァル国王は静かに目を閉じる。
「……父上は、お前を信じていた」
「信じられたから利用した。それだけだ」
その言葉に短い沈黙が落ちたあと、苦しそうにケツァル国王が口を開いた。
「……あれほど目をかけてもらいながら、恩を仇で返すとはな」
「お前だって分かっているだろ、魔力と利用価値でしか人を見ない王だ。
見限られても仕方ない」
ガシラの発言に、ケツァルはゆっくりと首を横に振った。
「……それでも、私の父だ……私はお前が羨ましかった――」
ガシラはしばらくケツァルを見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「……そうか」
その一言には、反論も嘲りもなかった。
第二王子:ヴァルディア・アルバス
神選会の教祖:チャルボ・レンカク
前国王:セレーヌ・ウツイ
王妹:セレーヌ・エルシア
王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ
ファルケ国王:セレーヌ・ケツァル
王妹前配偶者:セレーヌ・ダクラス
リューゲル国王:ヴァルディ・ガルーダ
第三王子:ヴァルディア・ストリ
罪人:カルロ




