第六十七話 その罪は主に返り、子へ希望を託す
アルバスが謁見室にて、ガシラの追求をしていた頃……コルヴァンとミロルは、ケツァル国王とエルシア王妹と共に、ウツイ前国王が眠る部屋の前に来ていた。
「エルシア、ローラ……ショックかもしれないが、大丈夫か」
「大丈夫です、覚悟の上です」
「久々の再会に思うところはありますが、大丈夫です」
二人の瞳はしっかりと前を見据えていた。
「では、入るぞ」
――キィー……
ゆっくり開けると、広がっていた光景に、エルシア王妹もミロルも既視感を感じる。
「お、とうさ、ま……」
「……」
ミロルはショックで声をかけるが、エルシアはなんともいえない表情で、魔法石に眠る父親を見つめていた。
「四肢を内震魔法で壊されているな……おそらくダイールとは違い、ここから下ろせば父上の命はないだろう」
「そんな……」
「……皮肉なものですね、お兄様」
「そうだな……ダイールにしてきたことが、自分の身にはね返ってきている」
「自業自得としか思えません」
ミロルと違い、ケツァル国王とエルシア王妹は冷静だった。
それは長年父親の暴君を、目の前で見ていたからだ。
「父上、私の声が聞こえますか?」
ケツァル国王は両膝を突き、ウツイ前国王の耳元で声をかける。
「どんなお気持ちですか? 動くことも死ぬこともできず、生き続けている気持ちは」
「あ、ああ……ううぅ」
ケツァル国王の嫌みにも答えられず、ただうなり声を上げているだけの存在。
「じ、にだい……ころじて、くれぇ」
「これはあなたがしてきたことだ……実の娘を同じ目に遭わせようとしたくせに、自分は助かりたいなんて……」
「お兄様っ、私は、大丈夫ですから……」
「ローラ……」
「もうこの悪い連鎖を止めましょう……私は恨んでいませんから」
「……聞いたか? ローラの声だ」
「ぐぅ、あっ、あうぅ……」
一際反応を見せ、手を伸ばそうとするウツイ前国王だが、その手をケツァル国王が払いのけ阻止する。
「勘違いするなよ、恨んでいないが許してもいない……お前は謝ることも、許されることも無く、死んでいくんだ」
「うぅ、っ、はっ」
地の底を這うようなうめき声……それは自分の道を生きた国王が絞り出す後悔の声。
「さようなら、私はあなたのような国王にはならないから」
そういいながらウツイ前国王の体を抱き上げ……ベッドから下ろした。
「がぁっ、はー、はぁ……」
苦しそうな荒い息を二、三度した後、ゆっくりと目を開けたウツイ前国王は、ケツァル国王を見つめて。
「ロー、ラは……」
と、小さな声でつぶやく。
ケツァル国王はウツイ前国王にだけ聞こえる声で答えた。
「会わせるわけないだろう」
「――そうか……ケツァ……」
「なんだ」
「魔法っ、けいしょ、う」
――ドンッ
「っ」
ケツァル国王の中に、力が湧き出るようだった。
――ガクッ……
その後すぐに、ウツイ前国王の体から力が抜けた。
「……」
「っ」
その様子を、ミロルとともにエルシア王妹も涙を溜めて見つめていた。
「こんな、最後……」
「もっと、文句でも言って、やればよかっ……」
エルシアは悪態をつきながら、涙が溢れるのを抑えられなかった。
ウツイ前国王は、ケツァル国王の腕の中で、息を引き取った頃。
謁見室ではアルバスの幻灯機から放たれる映像に、ガルーダ国王とストリは視線を集中させた。
「……ぐずっ」
「ストリ……ここは裁きの場だぞ」
「うぅ、もうしわけありませんっ、だいじょう、ぶ、ですっ」
涙を流すストリを気にかけるガルーダ国王も、目に涙を溜めながら映像を見つめている。
そしてガシラには、罪人の死に涙を流す意味がわからなかった。
「いったい……どういうつもりだっ、映像なんか……」
「黙れっ」
「っ」
ガルーダ国王の声に、ガシラの言葉は途切れる。
その圧は口を塞がれているような錯覚さえする。
そして進んでいく映像、服をめくり上げ、ガシラが隠したかった罪の魔刻印が映し出される。
「アルバス、このマークはどういうことか」
「お答えします」
アルバスはガシラにしゃべる隙を与えず説明する。
「罪の魔刻印は人間に使用してはいけない魔法で殺害した場合に現れる刻印です。
ガシラ殿が使われたのは内震魔法……通常なら木の伐採や、野菜や薬草などの品種改良のために使われる魔法です」
「それを心臓に使って、心臓発作に見せかけた……と」
ガルーダ国王の呟きに、黙っていたガシラは勢いよく反論した。
「――そのマークを私が付けたものだと、どこに証拠がありますか?」
「ほう……証拠か」
「はい、この映像は人間に使ってはいけない魔法が使われている……それしかわかりませんよね?」
「まあ、そうですね」
アルバスが肯定したことにより、鬼の首を取ったようにガシラは自信満々に宣言する。
「これはアルバス王子殿下のでっち上げだ! 私は内震魔法なんて、聞いたことも無いですね」
ガシラが堂々と宣言した時だった。
「ありますよ、証拠」
「……は?」
「内震魔法をガシラが持っている、証拠があります」
アルバスが取り出したのは緑色の宝石、ガルーダ国王もストリもそれがなんなのかすぐ理解する。
「我が国には優秀な魔法を持っている人材が多いんです。
過去視魔法とかね」
「過去……視?」
「触れた人間の過去に起きた真実を見ることができ、この宝石は思考に浮かび上がる映像を録画できる魔法。
……誰かに触れた記憶、ありませんかー?」
「っ」
少し馬鹿にしたようなアルバスの発言に、ガシラはとっさに羽澄を見る。
軽蔑の眼差しを向ける羽澄に、ガシラは確信した。
「この女っ」
羽澄に手を伸ばし、掴みかかろうとするガシラだったが。
「羽澄に触るな!!」
アルバスが聞いたことの無い怒りの声でガシラの腕を掴み、後に回しながら壁に押しつける。
普段は冷静なアルバスだが、羽澄の危機に体と口が勝手に動く。
「その汚れた手で羽澄に触るなっ、彼女は俺の……俺の国の大事な治療師だ」
「ひっ、わっ、わかった、悪かった!」
その迫力は王統魔法を受け継いでいないのに、元騎士団長が恐れるほどだ。
「だがっ、その女が! 母親を助けて欲しいと縋ってきたんだっ」
「私は幸せな生活に戻りたいと相談しただけで、手を握ってきたのはそちらです。
『俺が国王になったら、私の側室として幸せになれる』なんて言ってきて……何故か扉の鍵が壊れて怖かったので、その場をあとにしましたけど……」
(鍵はコルヴァンの仕業か……破壊はダメだが、バレなきゃいいだろ)
怒りにまかせて鍵を壊した姿が目に浮かぶ。
そんなことを思いながら、アルバスは冷静さを取り戻し、ガシラから離れ宝石の動画を再生させた。
「ごらんください、羽澄先生が偶然、手に入れた映像。
ガシラが内震魔法を手に入れた瞬間と、その使い道を」
――パアァ
宝石が光り映像が映し出される、そこには鑑定士の部屋にガシラとダクラスがいるシーンだった。
『話を聞いてくれてありがとう、ガシラ……君は国王と同じ、ダイール様だよりの財政を指示していると思っていたから』
「やっ、やめろ……!」
今度はアルバスの宝石を目がけてガシラが手を伸ばす……がっ。
「おとなしくしろっ」
ガルーダ国王の護衛たちがガシラを取り押さえた。
「ぐえっ、ぶ、無礼だぞ!」
ガシラはそう叫ぶが、拘束が解かれる様子は無い。
映像はそのまま流れていく。
『私も国の行く末を心配していたのだ、魔法鑑定の銀貨十枚から徐々に上がっていき、今は金貨五枚。
段々と依頼数も減っている。
そんな状態でローラ様が見つかったとしても、この国の財政が保てるとは思えない』
『よかった、同じ志で……それではダイール様を解放しよう』
ダクラスがそう言いながら、ダイールをベッドから下ろそうとしたとき。
『ダイール、ダクラスの内震魔法を、俺に譲渡しろ』
『え?』
ガシラの命令に、ダイールを介し自動的に内震魔法が譲渡された。
「やめろっ、誰か、俺を助けろ!」
ガシラが叫ぶが、一緒にいた部下も映像に見入り助けようとしない。
『何……を、しているんだい?』
『楽して稼げる方がいいに決まっているだろ、今から農業? 薬草? くだらない』
『……僕を、騙したのか?』
『騙したっていうか、考えれば簡単だろう……楽して稼いで何が悪い』
映像が進むにつれて、ガシラはより抵抗する。
「なんでっ……助けろ、俺の言うことをきけ!」
「無駄だよ、もう洗脳は解いちゃったから」
「はあ?」
にやりと笑いながらアルバスは指を光らせる、それは最初に見せた魔法だった。
ガシラが連れてきた洗脳された部下たちは、とっくの昔に正気に戻っていた。
『品種改良より、こっちの方が有効活用できる』
『がっ!』
――ドンッ
ガシラはダクラスの心臓を掴むように胸に手を当て、魔法を使う。
――ブゥン
『あっ、あぅ……』
衝撃を受けたようにはねるダクラスの体、ガシラはゆっくりと手を胸から離した。
『っ、確かに……法力が全部持って行かれるな……』
『こん、な……』
『だが、一瞬で殺すには十分な力だ』
『や、め……ろ』
――ドサリ
ダクラスが床に倒れたところで、映像が途切れた。
「これが……ガシラが内震魔法を奪い、王族を殺した証拠です」
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
神選会の教祖:チャルボ・レンカク
前国王:セレーヌ・ウツイ
王妹:セレーヌ・エルシア
王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ
ファルケ国王:セレーヌ・ケツァル
王妹前配偶者:セレーヌ・ダクラス
リューゲル国王:ヴァルディ・ガルーダ
第三王子:ヴァルディア・ストリ




