第六十六話 偽りの果てに立つ国王
ケツァルは王位を継承した時、やっと報われたと思っていた。
不本意な政策に従い、もともと盛んだった薬草の開発や農業よりも魔法鑑定の売り込みを強めた。
(だけど、私が国王になったからには、この国を変えるっ)
そう意気込んでいたのだが。
「蓋を開ければ、前国王が信頼していたのは自分と同じ考えを持つガシラ。
私は有能な農家出身で妹の婿を亡くし、魔力さえ奪われ……結局はお飾りの国王に過ぎませんでした」
ウツイ前国王の現状を目の前に、ケツァルは秘めていた自分の思いを吐露していく。
コルヴァンとアルバスは周りを気にしながらも、国王の声を聞く。
「彼らにとってローラはなくてはならない聖権魔法の継承者……。
彼女の自由を願う一方、帰ってこられたら、本格的に私の存在意義が無くなってしまう……」
「恐ろしくなったのか」
「……あんなに可愛い妹を、恐ろしく思うなんて、おかしいですよね」
アルバスの言葉に、自嘲気味に答えるケツァル国王。
「ずっと探していたウツイ前国王の居場所を、撒かれることなく突き止めることができたのです。
アルバス王子殿下の取り調べの後、珍しく荒れていたので、わかりやすかったのもありますが」
「また何かやらかしたんですか」
「いや、何もやらかしていないが……何で荒れていたんだろうなー」
すっとぼけるアルバスに、コルヴァンは顔を顰めた。
その様子を見て、ケツァル国王はするりと言葉を吐き出した。
「あとは城のマスターキーを使って侵入し、元凶である国王を殺す……これが息子でもある私の唯一の存在意義だと思っていました」
そして……覚悟を決めたように顔を上げて、二人に伝えた。
「一旦ここを離れましょう、もう父上に何の価値もありません」
ガシラは自分に王統魔法を継承させるためだけにウツイ前国王を生かしている。
前国王はただそれだけの存在と成り下がっていた。
「そうだな……コルヴァン、護衛を頼む」
「もちろんです」
こうして三人は気づかれないうちに、自分たちの部屋へと戻るのだった。
そして夜が開け、アルバス一行がくつろぐ部屋にノックの音が響く。
――ドンドンドン
「ガシラだ、開けろ」
「朝から野蛮だな」
アルバスはのんきにそう言うが、勝手に開けないところを見ると少しの冷静さは残っているらしい。
「コルヴァン、ミロルさんを頼む」
「もちろんです、あとでお会いしましょう」
「羽澄ちゃん、しっかり……でもガシラには気をつけて」
「ママも、気をつけてね」
ミロルと共に透明化する。
「リュミエ王子殿下も、フィリネ王女殿下も世話になった」
「いえ、こちらこそ……ご武運をお祈りいたします」
「次は公式の場で、鎧を着ていない姿でお目に掛かりましょう」
――ドンドンドン
「返事がなければ、開けさせて貰うぞ」
「そんなにせかすなっ、今開けるっ」
しびれを切らしたガシラの声に、アルバスが外に聞こえる声で圧をかける。
静まりかえったドアの外に、アルバスは改めて仲間を見た。
「これがガシラとの最終決戦となるはずだ……それでは、行こう!」
「はい」
「承知いたしました」
アルバスに続き、羽澄とレンカクも真剣な表情でドアに向かって歩き出した。
アルバスは案内された謁見室に入るなり、羽澄とレンカクと共にガルーダ国王に頭を下げる。
「国王、ご足労をおかけして申し訳ございません」
「いや……難しい役目を、一人でやらせてすまなかった」
「お兄様、報告いただき、ありがとうございます」
港で待っていたシュバと共に、ガルーダ国王とストリ、そして国王の護衛騎士が謁見室に案内されていた。
国王の護衛騎士は部屋の外で待機している。
そしてガシラも部下を引き連れてガルーダ国王に深々と頭を下げる。
「申し訳ございません、ケツァル国王もまもなく参りますので……」
少し顔色が悪いガシラが慌てて説明をする。
王統魔法を持つガルーダ国王の威圧感を目の前に、ことの重大さを感じているのかもしれない。
「いや、今回国王ではなく、ガシラ殿に用があり尋ねた。
国王の同席は、今は必要ない」
「は? しかし、私は国王の指示に従いアルバス王子殿下を捕らえ……」
「責任転嫁か、王の器ではないな」
ガルーダ国王のその言葉に、ガシラは顔を顰めた。
「……なんの、ことか……」
「国王はとても好意的でしたよ? 封印魔法も解いてくださいましたし」
「は?」
未だ魔法が使えない状態だと思っていたガシラは、指を魔法で光らせている姿に驚きを隠せない。
「……いつのまにっ」
「ケツァル国王は我々の無罪にすぐ気づいてくださいました」
「そうか……ガシラよ、おぬしがやっていることは、アルバスより報告を貰っている……私の質問に、正直に答えろっ」
「っ、は、はい、仰せのままに」
(これが、王統魔法……欲しい――この力が、欲しいっ)
真正面から受けた、ガルーダ国王の王統魔法、その圧倒的な力にガシラの野望はより強くなる。
しかしアルバスの報告というのが、不気味でならない。
「我が国から罪人カルロが、治療師の羽澄を連れてこの国へ逃げた……対応されたのがガシラ殿だと聞いている」
「はい、間違いありません。
当時罪人とは知らず、連れていた女性が、我々が探しているローラ王女の血を引く可能性があるとわかったため、城に招きました」
「そうか、そのカルロは今どこにいる」
「はい……申し上げにくいのですが、牢屋番のミスで脱獄されてしまい……今は行方不明で」
「おや、私は心臓発作として焼却処理されたと聞いているが……」
「っ、それは……」
まさかバレているとは思わず、焦るガシラ。
(いや、もう焼却処分がすんでいるのだから、ごまかしさえすれば……)
「違いますよ、ガシラ殿がカルロの強制崇拝魔法を奪ったあと殺したのです」
「なっ……それは、言いがかりもいいところです」
穏便に済ませようとしたガシラだったが、アルバスの思わぬ言葉に反論を返す。
しかしアルバスの口は止まらなかった。
「その魔法で牢屋番を洗脳し、死亡理由を心臓発作とし身元不明で遺体を焼却処分、カルロは行方不明に仕立てるよう指示したと、証言が取れています」
「そん、な……でたらめを」
発した声が弱々しくなるのをガシラ自身が感じる、それはアルバスの発言が全て事実だからだ。
どうしてそこまで言い当てるのか、同時にどこまで知られているのか恐ろしくなる。
「もっといえば、死体は焼却処分されていませんがね」
「はあ?」
「牢屋番の洗脳を解き、焼却を阻止させましたから……だから心臓発作ではない、という証拠もあります」
「あっ、がっ……」
聞いていない話と、知られるはずがない事実が明るみに出て、ガシラはまともな発言ができずにいた。
そんな彼を気にせず、アルバスは一つのブローチを取り出した。
「この幻灯機に証拠が入っております……父上、ストリ、覚悟して、見てください」
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
神選会の教祖:チャルボ・レンカク
前国王:セレーヌ・ウツイ
王妹:セレーヌ・エルシア
王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ
王息子:セレーヌ・リュミエ
王妹娘セレーヌ・フィリネ
ファルケ国王:セレーヌ・ケツァル
第三王子:ヴァルディア・ストリ
リューゲル国王:ヴァルディ・ガルーダ




