第六十五話 罪を背負う王
「実はまだ私は、正式な国王ではないのです」
ケツァル国王の口から話された真実、それ自体はよくあることだった。
「国王に継承される王統魔法だろう? 王位だけ先に譲渡して、王統魔法は前国王が亡くなるまで保持する事は少なくない」
「コルヴァン、王統魔法って何?」
羽澄がこっそりと尋ねる。
王統魔法……この世界では常識だが、異世界で働いて間もない羽澄は、初めて聞いた言葉だ。
「国を統一するための魔法……この魔法を継いでいる者がいないと、国と認められないんだ」
「そんな魔法があるんだ」
「ああ、貴族や騎士に称号授与や任命をする際に使用したり、部下を従わせるための覇気を出したり」
「覇気……」
「国王がカルロやその部下を問い詰めたとき、かなり迫力が無かったか?」
「あった、しゃべれなくなっていたり、命令通り吐露したり……」
「それも王統魔法の一つだ」
「なるほど」
羽澄が納得している間、ケツァル国王の話はガシラの目的について移った。
「王統魔法は基本王族の「血縁」でないと継承できません、しかし特例で前国王が望めば、「王族」に継承することが可能です」
「……? それはちょっと、意味がわからないのですが」
今度はコルヴァンが不思議そうな声で質問する。
「王族の「血縁」と「王族」であること……どう違うのでしょうか?」
「「血縁」とは王家の血筋、「王族」は婚姻などで属した者です。
つまりガシラは婿養子なので「王族」として、王統魔法を継承できる……というわけです」
「……なるほど」
「つまり私も、利用されたのです」
エルシア王妹は忌々しく呟く、そしてケツァル国王は「これは部下が必死に集めた情報なのですが」と、続けた。
「ガシラは、珍しい魔法をダイールに命令して奪ってきました……その中に、契約魔法というものがあります」
「契約魔法……約束を強制的に守らせる魔法か。
あまりにも強力で一年に一度のみ使用可能、一年以上経つと約束が無効になる魔法だったな」
「はい、その通りです」
「前から思っていたのですが……アルバス様は、魔法に詳しいのですね」
フィリネが話の途中でぽそりと呟くと、全員が彼女に注目した。
「あっ、ご、ごめんなさいっ、ちょっと不思議だなと……」
「確かにしっかりしてそうで、ちょっと抜けているのに、物知りですよね、アルバス様って」
「リュミエ、私はそこまで言っていないわよっ」
「……言ってないってことは、思っているということか」
軽くショックを受けつつアルバスはうっすらと笑いながら回答した。
「俺は魔法に関する書物を、全て覚えているんです……まあいわゆる、天才?」
「……最後の一言が、余計なのです」
レンカクが呆れたようにそう言うと、アルバスはばつが悪そうに、こほんと咳払いをし「続けてください」とケツァル国王を促した。
「えー、それで……契約魔法を使って、前国王と約束をしたのです。
――ローラが聖権魔法を継承し、ダイールの代わりに監禁すること」
「……つまり、過去の過ちと同じ未来をたどること」
エルシアが付け加えた言葉に、静まりかえる室内。
ミロルはショックを受けたように震えていた。
「おとう、さまは……やはり、私を、道具として……」
ミロルの声はか細く手も震えており、その姿は普段からは想像できないほど頼りない。
「ミロルさん、俺たちは聖骨院の仲間だろ」
「そうだよ、私の大事なママ……ローラじゃない、道具じゃない。
――鷹野ミロル……大事な家族だよ」
「……ありがとう、ありが、ぐずっ」
羽澄とミロルが抱き合い、優しくコルヴァンが見守る。
仲間と家族の強い絆が見てとれた。
「これがローラ……いえ、ミロルが築いた家族の形なのね」
「少しうらやましいな……」
王族としてつとめを果たしてきたケツァル国王とエルシア王妹……特にケツァル国王は、幼少期から王位継承を意識していたため、家族の形がミロルと全く違う。
「お母様には私が付いております」
「僕もお父上の力になります!」
そんな二人にも大事な家族がいる。
「ありがとう、フィリネ」
「お母様」
「頼りにしている、リュミエ」
「はい、お任せください」
「国と、この家族を守ってくれ」
ケツァル国王はリュミエの成長に目を細め、これから訪れるファルケ国の未来を案じた。
「契約魔法からまもなく一年が経ちますが、ケツァルと前国王は何度でも契約をするでしょう。
……そしてやっかいなのが、国王が今どこにいるかわからないことです」
「居場所が、わからない?」
アルバスが不思議そうに聞くと、ケツァル国王は深く頷く。
「はい、今城は慌ただしいので、元凶である国王は、城が落ち着くまで隠れるつもりでしょう」
「なるほど、どこまでも卑怯な……まあ、明日我が父、ガルーダ国王が到着するだろう。
交渉の場に前国王を立ち会わせるよう、父上に相談してみる」
こうして夜も更け、ガルーダ国王の到着を待つばかりとなった。
皆寝静まり、明かりも消され静まりかえる城内。
暗い廊下に揺れる小さな光。
それはケツァル国王が持つろうそくの灯りだった。
「……」
息を殺し、なるべく足音を立てないようゆっくり歩く。
到着したのは一つの部屋、取り出した鍵でゆっくり開け、部屋の中へ入っていく。
「ケツァル国王」
「っ」
そこにはコルヴァンとアルバスの姿、透明化魔法で後をつけていた二人。
「何をなさるつもりですかっ」
コルヴァンがケツァル国王の手を掴むと、鞘に収まった短剣が滑り落ちた。
――カツーン
響く音、ケツァル国王は観念したように口を開く。
「よく、わかりましたね……」
「我が一行のレンカクが、言動に含まれる「嘘」が分かる魔法を持っているのでね。
……前国王の場所がわからない、というのは嘘だ……と」
「そう、ですか……」
「殺すつもりだったのか、自分の父を」
アルバスの問いかけに、もう諦めたのかケツァル国王は力なく答えた。
「はい、王統魔法を継承される前に殺害すれば、王族の「血統」を持つ王位継承者、または継承に一番近い者に継承されます」
「加害者を除外して、な」
「……全てを、捨てるおつもりで……」
コルヴァンが呟くと、ケツァルは目を細めて答えた。
「この国の財政は、エルシアがちゃんと考えてくれている。
リュミエも十八歳とはいえ、立派な継承者としてやっていけるだろう。
誰か一人に頼らず、協力して国を切り開く未来を、作ってくれるはずです」
「その未来に、国王陛下もいるだろ」
「……私のような者が、いていいんでしょうか。
それよりこの身に代えても、未来を閉ざす父上の排除を……」
「そんなこと、する必要ないだろ」
「……そうですね、今は、そう思います」
ケツァル国王は視線を移動させ、それにアルバスもコルヴァンも続いた。
全員の目に映ったのは――
ウツイ前国王が、魔法石でできたベッドの上で眠っている姿だった。
初登場
前国王:セレーヌ・ウツイ
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
神選会の教祖:チャルボ・レンカク
王息子:セレーヌ・リュミエ
王妹娘セレーヌ・フィリネ
ファルケ国王:セレーヌ・ケツァル




