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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第二章 聖癒布躍進編 〜消えた王女の行く末〜

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第六十二話 王族殺し――その罪は知らなかったでは済まされない

「……それは、本当か?」

「はい、ダイール様が、聞かれた声が……私の頭の中で再生されました」

「過去視魔法か……確かにダイール殿は、カルロの名を聞いたとたん、おびえていたな」

「はい……聞こえてきた会話からは、ガシラが魔法を奪い、そして内震魔法という魔法を使って……心臓発作に見せかけると」

「内震魔法……それ、は、お父様の……」


 羽澄の話の途中、フィリネがショックを受けた声を出す。


「そういえば、叔父上の死因って……」

「ガシラと、行動中に、心臓発作で……」


 アルバスへの報告で、思わぬ可能性が浮かび上がる。


「王女フィリネ、辛いだろうが色々聞かせて欲しい……大丈夫か?」

「っ、はい……だい、じょうぶです」

「そういえば、ガシラは魔法を奪う趣味があって、ダクラスの内震魔法……とも、言っていました」

「っ、ダクラスは、お父様の、名前ですっ」

「そういうことか……悪趣味にもほどがある……」


 そう呟くアルバスの手は、小刻みに震えていることに、フィリネは気づき……リュミエは思い出したように言った。


「カルロ……って、確か……リューゲル国の、第一王子……」

「ああ、俺の兄上……だった人だ」

「っ」


 リュミエは国同士の交流の際に会ったことがあったが、フィリネはカルロの正体を知らなかった。

 そして酷な報告をした羽澄は、アルバスの様子に悲しそうな顔になる。


「アルバス様……その、申し訳ありません」

「羽澄先生が謝ることじゃない……それに遅かれ早かれ、カルロは処刑、される予定で……」


 それ以上声が出なかった。


 いくら罪人でも、いくら処刑される予定の人間だったとしても……血のつながった兄弟。

 しかも別れを告げることもできず、全く関係ない人間により殺害された……。


「もっ、申し訳ありませんっ……我が父がっ」

「フィリネさんは、悪くない……ましてや継父のことで、謝る必要は、ないでしょう」


 アルバスはそう返事を返すものの、顔を上げられず、肩をふるわせていた。


「……羽澄先生、カルロの、死体はどこに行ったか……わかりますか?」

「おそらく、洗脳された牢屋番が、対応を指示されていました」

「では、牢屋番に関してはこちらで調査します」

「洗脳されているなら、我々に任せて欲しい」

「……アルバス様無理なされず」


 レンカクが心配そうに言うと、アルバスは悲しそうな笑顔を見せた。


「俺は……おとなしく、牢屋に入っているよ」


 アルバスはそう言うと、一人になる口実を口にするのだった。



 リュミエとフィリネが去った後、ミロルは持ってきていたメイク落としで素顔に戻った。


「ぷはぁ、これだけ化粧すると、お肌に悪いわぁ」

「練習していただけあって、ママじゃなくて知らない男性に見えたよ」

「私は知らない僧侶の方かと思っていました」

「これだけ顔が変わるとは、純太殿は素晴らしい技術を持たれていたのだな」


 鑑定士の部屋で、持っていた化粧落としを使うミロル、性別も間違うほどの変わりように、レイルとレンカクは驚きの声を上げる。

 ふとレイルは思い詰めた表情をして口を開く。


「……あの、本当に、ご迷惑をおかけしてごめんなさいっ」

「レイルちゃんが、悪いわけじゃないよ」

「誰も悪くないから……それに、ここに連れてきて貰って、私は良かったと思っているのよ」

「ミロル、さん……」

「魔法のこともそうだけど、兄姉に会えたこと……甥姪に会えたこと。

 離れていても、会えれば嬉しいものね」


 言葉とは裏腹に、ミロルの表情は少し複雑そうだった。


「それに、巻き込んでしまったのはこちらの方よ……レンカク様も、ごめんなさい」

「いやいや、わしは楽しませて貰っているよ……牢屋に入れられたのはこれが初めてじゃないからのぉ」

「そうなんですか?」

「まあ、わしくらい長く世の中を生きていると、色々あるんじゃよ」


 レンカクの話に興味津々なレイル、レンカクも幼い孫を思い出しているのか嬉しそうだ。

 羽澄はふと出口を見る。

 こっそり部屋を出て行ったコルヴァン……アルバスの様子を見に行ったのだろう。


(元主従関係……の前に、幼なじみのような関係だものね)


 出会ったばかりの羽澄が行くより、長くをともにしたコルヴァンが、アルバスの側にいるのに適任だろうと、羽澄は思った。



「コルヴァンか……羽澄の豊満な胸で慰められたかった」

「そう言うと思いましたよ……」


 コルヴァンは呆れた声でアルバスに返事をする。

 しかし隣に座ってもいやがられないところを見ると、おそらく側にいて欲しいのだろう。


「……」

「……まさか、人間の最後がこんなにあっさりだとは思わなかった」


 少しの沈黙の後、アルバスは徐に口を開いた。


「――カルロへの尊敬が洗脳だったとしても……俺にとって大切な兄ではあったんだ」

「はい」

「あいつがやったことは大罪だ、許されるものじゃない」

「おっしゃるとおりです」

「……でも――こんな終わり方は、あんまりだろっ」

「……」

「なんで、俺の知らないところで……っ」


 アルバスの本音……いくら裏切られても、酷い人でも、紛れもない兄弟。


「父上に……ストリに、なんて言えば……」

「……お察しします」

「この国とは信頼関係を築きたいと思っている」

「そこまで考えられておられるのは、立派です」

「でも……正直ガシラは許せない」

「……」

「……はぁ、ダメだ、頭の整理がつかん」

「ゆっくり、考えましょう……頼れるところは頼ってください。

俺はもちろん、羽澄も、ミロルさんも……力になってくれるでしょう」

「じゃあ羽澄の胸で……」

「それは却下です」

「なんでコルヴァンが却下するんだ」

「……俺が却下しないと、アルバス様投げ飛ばされますよ」

「確かに」


 多少冗談を言い合える精神状態になり、アルバスは話を変えた。


「これは関係ない話だが」

「はい」

「もう、羽澄を手放すなよ」

「……何で、羽澄の話になるんですか……羽澄はただの仲間です」

「大切じゃないのか?」


 アルバスにとって、気を紛らわせるにはいい話題なのだろう。

 さっきより表情が良くなっている。

 コルヴァンは複雑な顔をした後、覚悟を決めたように口を開く。


「……すごく、大切な人です……ただの仲間、というのは、嘘ですね」

「だろうな」

「誘拐されて、あんなに自分がおかしくなるとは思ってもみませんでした」

「確かに……笑えるくらい顔色が悪かったぞ」

「なんで笑おうとするんですか」


 アルバスの言いぐさに拗ねた声を出すが、コルヴァンの表情は柔らかい。

 心配する気持ちが伝わるのは、優しい言葉だけではない。


「もう、二度と手放しません、その前に手に入れたい……彼女は物じゃないけど」

「いいんじゃないか、俺がかっさらってもいいけど」

「ダメです……といっても、アルバス様はへたれなので、心配しておりませんが」

「……優しい、の言い間違いだと思っておこう」


 心許せるコルヴァンとの会話は、アルバスの心を温かくした。



「はぁー、牢屋番なんて楽だと思っていたのに……忙し過ぎるだろ」


 時が流れ、肩を回しながら牢屋番が見張りに戻る。

 牢屋にはローラ王女の手がかりと、アルバス王子一行が、別の牢屋に閉じ込められている。

 牢屋番は見張りをしながら、突然指示されたカルロの処理について思い出していた。


(ガシラ様のご命令されたのは光栄だが、書類作成は苦手なんだよな)


 罪人が心臓発作で死亡、というだけならそう大変ではない……が、他国から来た場合は話が違った。


(まー……ばれないだろ)


 まずいことをした自覚はあるが、ガシラの命令に従わないわけにもいかない。


「あんまり考えないでおこう」

「大変そうじゃのぉ、見張りだけかと思っておったが、書類とかも書くのか?」


 牢屋番が呟くと、レンカクの労うように、鉄格子越しに話しかける。


「あ? あー、本当は俺の仕事じゃないんだけど、今日はガシラ様に言われて特別になー」

「お疲れなら回復魔法かけてやろうか? 最近の回復は高いと聞くからのぉ」

「お、もしかして治療師? いやぁ、助かるわ……じゃあお言葉に甘えて」


 牢屋番は嬉しそうにレンカクに近づくが、ふと気づく。


「あれ、そういえば、あんたら魔法封印されていたんじゃ……?」


 牢屋番がそう言った瞬間。


――パアァー


「っ」


レンカクの背後からアルバスの指が光り、魔法を使う。


「あ、あぅ……あれ、俺……」


 牢屋番は呆然と立ち尽くしてから……。


「やばっ、俺なんてことを……」


 と、呆然としていた。


「おぬしどうした? やばっ、とは?」

「いや、え、そのぉ……あのぉ……」

「単刀直入に聞こう、カルロの死体をどうした」


 レンカクの後からアルバスが迫力ある声で尋ねる、その言葉に牢屋番は焦りながら答えた。


「うぅ、多分、もう火葬場に……」

「火葬場!? 他国の人間が亡くなった場合、身元確認と、その国へ送ることが義務づけられているはずだろ」

「いや、あの……身寄りのない罪人だからと、ガシラ様がすぐに燃やせと……」

「大至急止めさせろ、勝手な対応は国同士の火種になるぞ」

「え、え? な、なんで……」


 まだ混乱している牢屋番、そして感情が抑えられないアルバス。

レンカクは二人の間で諭すように口を開いた。


「アルバス様、ちゃんと説明せねば……洗脳が解けたばかりで、こやつも混乱しておりますゆえ」

「っ……すまん、レンカク」

「そして牢屋番、おぬしに説明するとな……カルロはリューゲル国の元王族だったんじゃ」

「えっ」

「罪人とは言え、元王族が他国で火葬される……その意味が、ここまで言えばわかるじゃろ」

「!! はいぃ、すぐ止めてきますっ」


 牢屋番は大慌てで部屋を飛び出し、間一髪――カルロの死体を火葬させずにすんだのだった。



 アルバスは泣きそうになっている牢屋番に指示をした。


「お前がやったのは証拠隠滅に荷担する犯罪行為だ。

 訴えられたくなかったら、これから言うことに従え」


 そう言って、牢屋を開けさせ、カルロが保管されている安置場へ案内させた。

 実際はリュミエから鍵を受け取っているため出入り自由だが、牢屋番には隠し通す。


「こ、このまま、逃がすのは……さすがに」

「安心しろ、一つ確認したら牢屋に戻る……あと、ガシラには火葬したと伝えておけ……わかったな」

「わっ、わかった、わかったからそんな怖い顔しないでくれ」


 牢屋番に圧をかけつつ、カルロの死体が横たわっている部屋へ入った。

 近づくとその顔には生気がなく、眉間に皺が寄り、訴えるように口が開き……死ぬ間際の苦しみが伝わってくるようだった。


「……カルロっ、お前本当に……」


 アルバスの言葉に、返事する者は誰もいない。

 後から部屋に入ったコルヴァンは、悲しそうな後ろ姿を見守っていた。

 鼻をすすっている音に気づかないふりをして、アルバスの指示を待つ。


「……はぁ……よし、それじゃあ確認するぞ」


 アルバスは落ち着いてから、コルヴァンに指示する。

 指示通り着ている服を脱がせ、胸のあたりを確認した。


「やっぱり、あった」


 カルロの心臓があるあたりに、十字のマークをアルバスは見つける。


「これは……罪の魔刻印?」

「そう、魔法で罪を犯した時につくマークだ。

 今回の場合は人に使ってはいけない魔法で殺害した罪だな」


 感情のない言葉で、アルバスは呟く。

 いや、怒気を隠した、冷たい声。


「内震魔法が人に使ってはいけない魔法、ですか?」

「ああ、本来は木材に使用すれば内部をもろくして伐採しやすくしたり、果物の皮を剥かずにジュースやジャムなど加工にしたりできる魔法なんだ」

「では、ガシラは間違った使い方をしている……と」

「そうだ、本来は人を傷つける魔法ではなく、暮らしを豊かにするための魔法……悪用すれば大量の法力が必要になり、その上このように罪の魔刻印が体に表れ……」

「罪を犯した証拠になる、と」

「その通りだ……つまり、ガシラは証拠隠滅のために、カルロの死体を火葬させようとしたわけだ」


 アルバスは、内なる怒りを落ち着かせようと深呼吸をする。


「……ダメだな、どうも情緒が不安定になる」

「それはしょうがないことかと……俺で良ければ胸貸しますよ」

「やだ、羽澄の巨乳がいい」

「それはダメです、わがまま言わないでください」


 いつものようなやりとりをしたあと、アルバスとコルヴァンはカルロに手を合わせてから、牢屋へと戻っていった。


「このことを、国王とストリに報告する」


 そう宣言したアルバスは、しっかりと前を見て覚悟を決めた表情をしていた。



登場人物

第二王子:ヴァルディア・アルバス

魔法鑑定士:ダイール

神選会の教祖:チャルボ・レンカク

王妹前配偶者:セレーヌ・ダクラス

王息子:セレーヌ・リュミエ

王妹娘セレーヌ・フィリネ

王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ

罪人:カルロ

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