第六十一話 その罪は、今も生きている
「まず、この国の状況を説明します」
リュミエが話し始めたのは前国王のこと。
「ウツイ前国王が高齢のため、自ら退きました」
「たしか、国王はまだご健在だったはず」
「その通りです」
王位をケツァルに譲位し、新国王はダイールに頼りっぱなしの財政の立て直しに取り組もうとしたのだが。
「父上の取り組みは、ウツイ前国王にとって好ましくないものでした……」
リュミエは一旦区切り、フィリネをチラリと見る。
その視線に応えるようにフィリネが頷いたので、リュミエは続ける。
「父上の見張りとして一人の男が送り込まれました……それがエルシア叔母上の現夫であるガシラ」
「元々は騎士団長で前国王から信頼されている人物……血のつながりはありませんが、私の父です……一応」
「ずいぶん嫌そうだな」
眉間に皺を寄せたフィリネは、アルバスの言葉にますます顔を顰める。
「……えっと、話しかけない方が、良かったかな?
そんなに俺のこと、嫌いになった?」
「あ、いえ、そういうわけでは、なくてですね」
「アルバス様は大丈夫かと思われます、まだ」
「まだ……」
「こらリュミエ、余計なこと言わないの……大丈夫です、アルバス様はましですので」
「まし……」
「あ、いえ、その……」
「俺、女性にこんなに邪険に扱われたことない……いや、あるな」
「そこで私を見ないでください」
「羽澄に関してはアルバス様の自業自得です」
コルヴァンに突っ込まれて口をもごもごさせるアルバスに、フィリネは自分の表情が和らいだのに気づく。
「ガシラは……私の体型で、出来損ない扱いしてくるのですが、その割に目がやらしいというか……」
「もしかして、私と同じ……」
羽澄は尋ねると、フィリネはチラリと胸を見て。
「はい、ちょっと、胸が邪魔で……」
「なるほど、よくわかります」
フィリネの言葉に羽澄は大きく頷く、やはりこの国でも巨乳アンチは同じらしい。
「俺は女性の体型を悪くいうことはしないよ」
「やらしい目はするんですね」
「そこは否定しない」
「……情けないです、アルバス様」
羽澄のツッコミにはっきりと答えるアルバスに、コルヴァンは頭を抱える。
そのやりとりを、フィリネは楽しそうに笑う。
(さっきよりも、気はほぐれたか……)
その様子にアルバスはホッとする。
フィリネは笑った後、話を続けた。
「実のお父様は十年ほど前に心臓発作で亡くなり、その時に支えてくれたのがガシラでした。
……というのは形だけで、ウツイ前国王の圧による政略結婚に近いのですが」
「その後、謎の病により、魔力をなくすものが多くなっていました」
「謎の病……?」
リュミエの言葉にアルバスが返すと、頷きながらフィリネが続ける。
「突然足や腕が不調になり、魔力の流れが弱まるという病気です」
「っ」
「ケツァル叔父様は足が、お母様は腕が不調になってしまいました」
病気の症状に、アルバスたちは息を飲む。
「その、症状……似ていますね」
「ああ、そっくりだ」
アルバスの弟、ストリが歩けなくなった原因によく似ていた。
足を鈍器で殴り、皮膚だけ回復魔法で治し骨は傷を負ったまま。
それは病気ではなく、悪意ある攻撃だ。
コルヴァンの「似ている」という呟きに、リュミエはパッと目を輝かせる。
「ご存じなのですか? この症状……アルバス王子殿下の国では、治療できたのですか!?」
「お、落ち着いてくれ……同じ症状かはわからないが、とても似ているのは確かだ。
実は我が弟が、突然足を負傷し、魔力を失った」
アルバスはリュミエを宥めながら、ストリの話を説明する。
実は睡眠魔法で夜中に足をつぶされたこと、偽りの神官により立てなくなるほど怪我が悪化したこと。
「故意に足を……そんな酷いことがあったんですか」
「その後回復魔法もかけてもらえず、ストリ様は歩けなくなってしまいました」
羽澄の言葉に、リュミエは顔を顰めながらも口を開く。
「回復魔法に関しては、我々も含め、治療師は交代で回復をかけております。
が、治らず――今一番魔力が強いガシラが発言権を持っている状態なんです」
「なるほど……だからガシラが国王の前でも偉そうだったのか」
「偉そう……そうですね、おっしゃるとおりです」
リュミエは悔しそうに拳を握り、フィリネも悲しそうに俯く。
そんな二人を励ますように、羽澄は口を開く。
「良ければ診察させてください……ストリ様と同じ怪我であれば、私が治療できるかもしれません」
「羽澄の治療で、ストリ様は歩けるようになったからな」
「本当ですかっ?」
「是非、お願いします」
羽澄とコルヴァンの言葉に、リュミエとフィリネは一つの希望が見えた気がした。
一通り話を終えた後、この後のことについてリュミエが口を開く。
「大変申し訳ないのですが、一晩牢屋で過ごしていただけますか?」
「まあ、この状況はしょうがない……ただ、こちらの希望も聞いてもらえるか」
「と、いいますと?」
「人質をリューゲル国へ返すこと……といっても、羽澄という手がかりを手放すことはしないだろうから、レイルだけでも帰したい」
「この子はカルロに利用された被害者なんです」
羽澄もリュミエに訴えると、彼は優しく微笑んだ。
「わかりました、手配しましょう」
「助かる……あと罪人の受け渡しもお願いしたいのだが……カルロはどこに捕えている?」
そう質問すると。
「あっ、あ……」
アルバスの言葉にダイールが突然声を上げる、その声は何か怯えているように聞こえる。
「うぅ、た、す……て」
「何?」
「やく、たたず……こ、ろ……ないで」
「どうされました? 大丈夫ですか?」
元看護師の羽澄が、咄嗟にダイールの方に触れる。
すると。
(……あれ?)
それは身に覚えのある違和感だった。
――ぐにゃぁ
(っ……これ、は)
それは羽澄の唯一使える――過去視魔法。
念じれば、触った相手の見たい過去を見ることができる能力。
逆に触った相手に強い思いがあると勝手に過去の映像だけが流れてくる魔法でもある……しかし。
(まっくらだ……ダイール様の視界がないんだ……)
広がるのはただの闇、いつもなら音は聞こえないのだが……。
『よくぞ捕えていただきました、カルロ殿……このままローラ王女が見つかれば、お約束通り報酬はお支払いしましょう』
(!? 声が、聞こえる……)
いつもと逆の、映像は見えないが声が聞こえる……新たに発見した魔法の力だった。
『ああ助かった、ローラ王女本人じゃなかった時は流石に焦ったな』
『カルロ殿のいう通り、別世界から来ていて王家の血を持っているとなると……娘の可能性が高いでしょう』
この部屋で過去に行われた会話……カルロとガシラの声のようだ。
『よかったら俺にも、ローラ王女を見つける手助けをさせてくれ』
『……と、いいますと?』
『見つけられたら俺が優秀だということがわかるだろう。
名前を変え、リューゲル国を捨てるから、あんたの部下にしてくれないか……処刑が決まっている俺には、この国しかないんだ』
(国を捨てる……そんな簡単に――)
元第一王子なのに、自分が生き延びるための判断に憤りを感じてしまう。
『ほほう、ずいぶん自信がおありで……何か策でもあるんですか』
何か含みのあるガシラの言葉に、カルロは自信たっぷりに話す。
『俺には強制崇拝魔法がある、自分より魔力が低い人間のみだが、三人まで洗脳できる魔法だ』
『なるほど……それは興味深い魔法だ、部下の件は前向きに検討しましょう』
『ああ、よろしく頼む』
とんとん拍子に話が進んでいるようだが、羽澄には違和感があった。
(カルロは元王族だから横柄なしゃべり方だけど、ガシラはそれに対してやけに丁寧……カルロをおだてているように見える……)
カルロは気をよくしているのか、魔法のことを聞かれるまま喋っている。
そしてあらかた聞いた後。
『……なるほど』
『どうだ、凄いだろう』
『……使い方次第では素晴らしい魔法だ……ありがたく、譲渡させて貰う。
ダイール、カルロの魔法を我が体に宿せ』
『……何?』
カルロの不審な声が聞こえたと同時に
――ボワン
と音が聞こえる、何も見えないが、命令に従いダイールの力が発生したのは理解できた。
『お、まえ……俺に何をした!』
『あんたの魔法を奪っただけ……これが俺の趣味、なんでね』
明らかに口調が変わったガシラ、一人称も『俺』になっている。
『悪いがあんたはもう、用無しだ』
――ドスッ
(っ、な、何?)
突然変わった雰囲気、何も見えないことでより恐怖を感じる。
『お前……俺に、な、に……』
『ずいぶん偉そうだったが、お前は処刑が決まっているただの罪人……処刑の手間を省いた分、感謝されるかもしれないなぁ』
カルロが元第一王子だと言うことを、ガシラは知らないようで、罪人の苦しそうな声が一瞬だけ聞こえ、ガシラの楽しそうな声が途切れた後。
――ドサリ
と、倒れたような音が聞こえた。
『ダクラスの内震魔法は優秀だな……せっかくだから、試しに魔法を使い、牢屋番に心臓発作で処理させるか』
ガシラの声が聞こえ……何かを運び出す音とともに、目の前が明るくなった。
「羽澄……大丈夫か?」
コルヴァンが心配そうに声をかけてくる、ミロルも不安そうだ。
「羽澄ちゃん、何か見たの?」
ミロルの問いかけに、羽澄は口を開き――すぐ閉じた。
目にとまったのはアルバス。
(今聞いたのは……多分、カルロの――)
「羽澄、気分が優れないのか?」
心配そうな声と視線、それはコルヴァンだけでない全員……アルバスも羽澄に視線を送っている。
いくら罪人でも実の兄、アルバスはショックを受けるだろう。
(だけど言わないといけない……)
カルロの行方はいつかわかる、しかし今言わなければ、原因はガシラによってごまかされるだろう。
「アルバス様、報告します」
アルバスに向けて、わざと重々しい口調で告げる。
瞬時にアルバスは真剣な表情で、羽澄を見た。
「わかった、申してみろ」
「はい……多分……カルロは――ガシラに、殺されました」
初登場
王妹前配偶者:セレーヌ・ダクラス
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
魔法鑑定士:ダイール
ファルケ国王:セレーヌ・ケツァル
王妹:セレーヌ・エルシア
王息子:セレーヌ・リュミエ
王妹娘セレーヌ・フィリネ
王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ
罪人:カルロ




