第五十九話 王国を支える、たった一人の犠牲者
「こちらへどうぞ」
男の騎士が、丁寧な言葉でアルバスたちを案内する。
案内されたのは牢屋の中ではなく、通路の奥にある壁。
「そこ、壁じゃなくて扉なんですよね……ガシラさんが先ほど入っていきました」
「……彼は今、国王の側を離れられないので、ここに来ることはないでしょう」
「何故離れられないとわかる?」
「表向きは護衛……実際は国王と王妹の見張り……ですね」
「見張り……どうも穏やかじゃないね」
アルバスの返しに先ほどの騎士は苦笑すしかなかった。
その騎士が壁を触ると羽澄の言うとおり扉が開き、牢屋とは違う真っ白な廊下が現れた。
しばらく進むと扉が現れ、それを開けると、中央にベッドがあり、他は生活感がなかった。
アルバスたちがその部屋を見回していると、騎士二人が素早い動きで地面にひれ伏した。
「無礼を働き……殿下の背中を小突き、申し訳ございませんっ」
「いかなる処罰も受けます、失礼も承知の上です……ですが、どうかお力を貸して頂けませんでしょうかっ」
必死な男女の声に顔を見合わせる羽澄たち、しかしアルバスとレンカクは驚く様子もなく、二人に優しく声をかけた。
「やはり……俺の目に狂いはなかったな」
「格好付けて言うほどでもないでしょう、お二人の演技はわかりやすいのですから……もう少し身分を隠す動きをするといいでしょう」
「ケツァル国王の一人息子、リュミエ王子殿下ですね? 一度お会いしたことがあったはず。
そしてこの麗しいお嬢さんは……多分、王妹陛下の娘さんかな?」
「……どうして、そこまで分かるのですか」
「生まれついた仕草だね、王族のマナー講師は厳しい人がそろっているから……」
アルバスも自分の講師を思い出して身震いする。
「さて、おぬしらを信頼する、しないの前に、封印を解いて欲しいのだが……できるかな?」
「はい、私が解除できますので」
そういうと騎士の格好をした女性が淡い光を放ち、全員を包み込む。
「……解除、できていますか?」
「コルヴァン」
「はっ」
名前を呼ばれたコルヴァンは、真っ先に羽澄の腕に回復魔法をかけた。
――パアァ……
「あっ――コル、ヴァン……」
「良かった、治った……」
「ありがとう……でも多分、アルバス様は結界を期待されたんだと思うよ」
「……あ」
羽澄の言葉に、コルヴァンがアルバスを見ると、にやにやしたいやらしい笑顔がそこにはあった。
「まあ、封印が解かれたのがわかったから……よしとしよう」
ミロルが声を出さずに、コルヴァンの脇腹を肘で突く。
「失礼、しました……結界を張ります」
真っ赤になりながら結界を張り、盗聴等の魔法がかけられていないことを確認する。
「レンカク殿、二人の様子はどうだ」
「問題ないですね、洗脳も、嘘もついていないです」
「よし……それでは、二人のことを信頼しよう。
先に伝えなければならないことがある」
レンカクの確認が終われば、アルバスは早口に説明する。
「ぶしつけで申し訳ないが、血統共鳴魔法で連絡取れるなら、ガシラ殿に触れられると、洗脳される可能性がある……と伝えてくれ」
「「!!」」
二人は驚き、男がアルバスに問いかける。
「それは、本当、ですか?」
震える声に、アルバスは深く頷いた。
「罪人カルロは、強制崇拝魔法で人を洗脳し、悪事を働いていたんだ」
「先ほどガシラさんが、騎士を洗脳している姿を見ましたので……おそらくカルロから奪ったのではないかと」
「この国は魔法鑑定者を独占している……確か魔法を移すこともできたはずだ」
アルバスと羽澄の話に、騎士二人はゴクリとつばを飲み込む。
「……今、父上に報告しました」
「私も、お母様にお伝えしました……正直、まだ信じられませんが」
「洗脳されたものは、俺が解除する事ができる……もちろん洗脳されないことが大事だがな」
「アルバス様の観察眼とお気遣い、そして優秀な人材たち……どうやら我々は本当に、とんでもない方々に無礼を働いていたようですね」
男の騎士がそういいながらフルフェイスを外す、現れたのは国王に似た、少し幼くもたくましい少年の姿。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、僕はアルバス様のおっしゃるとおり、第一王子のリュミエと申します」
「わたくしは王妹の娘、フィリネです。よくわかりましたね」
そう言って深々と頭を下げるフィリネだが、いっこうにフルフェイスを外す様子が見られない。
「フィリネ姉様もフルフェイスを脱がれては?」
リュミエは国王の息子でフィリネは王妹の娘だが、年齢はフィリネの方が上らしく、姉のように慕っているようだ。
「いえ、アルバス殿下がおっしゃるような、麗しくもかわいらしくもないので……取りたくないです」
「アルバス様……ちょっとデリカシーないですよ」
フィリネは引き気味なうえ、羽澄の言葉がアルバスに刺さる。
「申し訳ありませんでした、王女フィリネ……」
「僕は麗しいと思うので、気にすることはないと思うのですが……」
謝るアルバスに、リュミエがフォローともいえない微妙な言葉を投げかけ、フィリネは渋々フルフェイスを取る。
現れたのは王妹似であり、どこか羽澄にも似ている美少女、フィリネが顔を真っ赤にしてアルバスを睨んでいる。
「あまり、からかわないでください」
どうやら言われ慣れていないだけらしい。
(本当にかわいらしいのに……とは、言わない方がいいんだな、うん)
と、一つ学んだアルバスだった。
「今、我が国は財政の危機に瀕しています」
そういいながらリュミエは中央にあるベッドに近づく。
「その原因は彼女に頼りすぎたことです」
そのベッドは大きな魔法石でできており、一人の老婆が眠っていた。
「彼女はダイール……この世界で唯一、聖権魔法が使える人間です」
決して寝心地が良くないベッドに眠っている……その姿に思わずアルバスは口を開いた。
「この者は、その……生きているのか?」
ぴくりとも動かず、石の上に寝ているその姿は異常だった。
「……生きているというよりは、生かされていると言った方が正しいでしょう」
リュミエは悲痛な表情で「本来なら、とっくに引退されている年齢ですので」と、言葉を続ける。
「少しでも長く生きられるよう、動きを最小限にして、魔法石の力で命を繋いでいる状態です」
「今のダイール様は、魔法を管理するだけの存在……先ほどの強制崇拝魔法を移すのも、指示すれば魔法石が反応して自動的に行ってくれます」
リュミエとフィリネの説明は、到底理解できるものではない……人間扱いをされず、道具のように扱っていた。
「……こんなことが、許されているのか」
アルバスから出た言葉は、自然と怒りが含まれている。
「こんなこと、許されてはいけないと、僕も思います……だけど、これはダイール様が望んだ罪の償い方なんです」
辛そうな表情でリュミエが語ったのは、ダイールが犯した罪の話。
初登場
(前回の騎士二人)
王息子:セレーヌ・リュミエ
王妹娘セレーヌ・フィリネ
魔法鑑定士:ダイール
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
神選会の教祖:チャルボ・レンカク




