第五十七話 疑いの場、崩れぬ化粧
全員フードを外したアルバスご一行を、慎重に見回した。
もしかしたらこの場にローラがいるかもしれないからだ。
(カルロが連れて来た娘……ローラ王女の娘だと考えるのが一番自然か。
ならば母親が追ってくるのも不思議ではないが……)
そう思い、改めて観察するが。
(そもそも男しか来ていないか……)
舌打ちしそうになるのを軽く息を吐いてごまかす。
ローラ王女が家出して三十年。
帰省してきたあの日からでも、もう二十五年。
(まあ、初めて手掛かりが見つかったんだ、……この収穫を喜ぶべきか)
ガシラはそう考え方を切り替えた。
実際、ガシラの推理通り、娘を追ってローラ王女ことミロルはガシラの目の前にいた。
しかしミロルはガシラに見られても臆することなく前を見る。
(大丈夫、この化粧なら……絶対バレないっ)
きっかけは魂だけ呼ばれた海藤純太の化粧技術、別人になるほどのメイクにミロルは思いついた。
『私が男になれるメイク方法を教えてください!』
純太が成仏する少し前、事情を話し頭を下げた。
純太もまた記憶を取り戻せた恩返しとして、快く教えてくれた。
『現代から化粧道具を持ってこられるなら、何にでもなれます……特殊メイクも手掛けていたので……宇宙人とかになってみます?』
『……流石にこの短時間にそれは無理なのでは……』
純太は冗談を言いながらも、男性に見えるメイクを教えてくれた。
『眉は太く、眉山を消して平坦に。
フェイスラインにエラを強調するように影をつけ……鼻筋は太く見せます。
顔色は自然よりも焼けているように見せましょうか……最後は唇の色を消してください』
言われた通りにしてみると、確かに男性のようなミロルが鏡の中にいた。
『出来ましたけど……何が微妙に女っぽいというか、別人ではなく私が残っているというか』
どうも納得のいくメイクができない、どこがダメなのか自分ではわからない違和感。
その疑問にも純太は快く答えてくれる。
『それは考え方の問題です』
『え、メイクの仕方ではなく?』
『はい……メイクで綺麗になろう、という気持ちは消してください』
『!!』
『我々メイクアップアーティストは、他人からのご要望に、私情を挟まず答えることができます。
しかし自分にメイクを施すとなると……少しでも美しく綺麗にみられたいという欲が出てくるものです。
男性になりきるなら、それを全部捨ててください』
純太の指導と練習のおかげで、ガシラに女性と疑われない。
常に化粧品を持ち歩くよう心がけていたことも、功を奏した。
(備えておいて良かった……この姿は、翔さんには見られたくないわね)
ミロルがそう思っている間も、ガシラの観察は続いている。
「少し、ご協力いただきたいのですが」
そう言いながらカード型の魔道具を取り出してきた。
「……真実の札、か」
「さすがご存じですか……これから簡単な質問を行いますので、素直に答えてください」
穏やかな声色だが、他国の王子に対して命令とも取れる発言が、失礼極まりない。
「突然こんなことをされて不愉快だ……ずいぶんなめられたものだな」
「これは私独断で行動しています、が、この国にとっては最重要なこと」
「……いったい、ローラ王女とは何者だ? 何故そこまでして探す」
一切怯まないガシラに、アルバスも質問を受け入れず、質問し返す。
が、ガシラも全く答える気がないようだった。
「違いますよ、こちらが質問する側です……あなた方はローラ王女がどこにいるか知っていますか?」
「回答を拒否する」
アルバスがそう答えると一斉に騎士たちが攻撃態勢に入る。
「アルバス様に危害を加える気はありません、が、我々に従っていただきますがね……」
ガシラがにやりと笑い、アルバスに手を伸ばした瞬間。
「っ、ガシラ様っ!」
連絡棟の事務員が、大きな声を上げた。
「うるさい、今取り込み中……」
「国王から、アルバス第二王子を丁重に扱うよう、連絡が入っております!」
「……何?」
国王からの通信魔法が入り、ガシラの行動は全て止まる……偶然にしてはタイミングが良すぎるが、その真実はガシラを驚愕させた。
「はい、ガシラです……何故、それを……いえ、私は、国王の手を……はい、申し訳ありません……はい」
(上手くいったな)
この状況に安堵の表情を浮かべるアルバスだったが。
――クイッ
『アルバス様』
突然引っ張られそちらを見ると、男装したミロルが浮かない表情でアルバスを呼んだ。
(この顔にこの声……全然慣れない……純太殿の化粧って、すごいんだな……)
改めて技術の高さに驚くアルバスだが、耳打ちしたミロルの言葉に顔を顰める。
(……ミロルさんの言葉が真実なら……この男、かなりやばいぞ)
そんなガシラを見れば、通信魔法を切り苦々しい顔をしている。
「……どうやって、リューゲル国の国王と連絡を取った?」
「答える必要はない……それよりも、この無礼を詫びるべきでは?」
「くっ」
納得していない顔をしているものの、ガシラは跪き頭を下げる。
「……アルバス殿下、大変失礼な態度を取り、申し訳ありませんでした」
深く頭を下げるガシラに続き、騎士たちも構えていた武器を納め、跪いて頭を下げる。
「ガシラさん、あなたは俺が自国と連絡を取れないように、このような暴挙に出た……全て自分で片付けるためか……はたまた、手柄を独り占めするつもりだったのか」
アルバスは鋭い瞳で一呼吸置く……そしてゆっくりと言葉を再開する。
「まあ、そんなことは俺にとってはどうでもいいです。
だけどあなたの行動が、国の外交問題に発展する可能性もあることを……よく考えてください」
「……承知、いたしました」
納得いっていないような声だが、アルバスの言葉は真実だ。
(血統共鳴魔法で、ストリと連絡取れたが……この魔法が使えなかったら、考えるだけでも恐ろしい)
ガルーダ国王よりファルケ国に直接クレームを入れてもらい、アルバスはこの危機を脱した。
通信魔法が入らなければ、どうなっていたかわからない。
ミロルからの情報が、本当ならば……。
『この男、カルロから強制崇拝魔法を奪っています……』
アルバスを……洗脳しようとしていたと考えられる。
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ




