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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第二章 聖癒布躍進編 〜消えた王女の行く末〜

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第五十六話 届かぬ静止、動き出す陰謀

「申し訳ございませんっ、俺の力が足りないばっかりにっ」

『……いや、我々も出航停止指示に手間取ってしまった』


 連絡棟にて、コルヴァンはアルバスと謝り合う。

 アルバスは港に向かいながら話しているので、後ろから馬車の音と、ミロルが羽澄の無事を祈る声が聞こえてくる。


(ミロルさん……)


 その声にコルヴァンは胸が締め付けられ、自然と口が開いた。 


「ミロルさん……ごめん――」

『謝らないで、必ず羽澄ちゃんとレイルちゃんを助けるのよ』

「っ」


 コルヴァンの頼りない声に反し、ミロルの声はしっかりと前を向いていた。


「ああ、必ず、助ける」

『もちろん俺も手助けしよう。

 あと洗脳者を見破るためにレンカクも連れて来た。

 王家の高速船でファルケ国へ向かう』

「ありがとうございます、アルバス様」

『国民を助けるのは当然のこと、ましてや羽澄はこの国の恩人とも言えるからな』


 心強いアルバスに感謝の念が絶えない。


(……俺、こんなに震えていたのか)


 ホッとしたら、自分の体の震えに気づく。

 思い出させるのは、昨日のデートで楽しそうに微笑む羽澄。


 そしてその笑顔が、もう、二度と見られないかもしれない……そんな最悪な想像をしてしまう。


(っ、馬鹿なことを考えるな! 必ず、羽澄を助けるっ)


『コルヴァン、聞こえているか?』

「あっ、し、失礼しました」

『そちらの状況を確認したいが……話せるか?』


 コルヴァンの不安そうな声色に気がついたのか、気を使うようなアルバスに気をしっかり持つ。


「大丈夫です、失礼いたしました」

『なら、いい……では操られていた受付は今どうなっている?』

「拘束魔法で捕らえておりますが、おそらく洗脳は解けており……ずっと謝罪の言葉を述べております」

『まあ、カルロの洗脳人数は三人だからな。

用済みになれば、洗脳を解くだろう。

 この件に関しては、洗脳されたものは無罪とするよう国王から命じられている。

 その者に伝え、安心させてやれ』


 冷静な分析と優しい配慮だが、その声色は怒気を含んでいる。


(関係ない人間を巻き込んで……罪を負わせるなんて)


 本当にただの罪人へと成り下がった元第一王子に、コルヴァンも嫌悪感を感じる。


「あと船に連絡をしても繋がらないらしく……おそらく船長が洗脳されている可能性があります」

『そうか……この件はカルロが勘違いに気づく前に、二人を保護しなければならない。

 ……王女じゃないと気付けば、彼女たちの身が保証されないだろう』

「っ、おっしゃる通りです」

『ミロルさんの許可の元、国王には事情を説明した……そして、ファルケ国へ罪人が向かっていることだけ伝えてもらった』

「ご配慮、ありがとうございます」

『……お前の、そんな不安そうな声、初めて聞いたよ』

「……それは、不安ですよ……」

『羽澄先生は大丈夫だ――ミロルさんがいるからな』

「……? それって、どう言う……」

『親子の絆は素晴らしいってことだ』

「は?」


 図星を突かれた後、不思議なアルバスの言葉に疑問を抱いたが、その後の説明で納得する。


「……なるほど、それは知りませんでした」

『ああ……だから、大丈夫だ』


 アルバスの言葉に安堵し、通話を終える。


(羽澄、必ず助けるから……)


 そう心に誓い、アルバスたちが到着するまで出航の準備をした。



 ファルケ国に向かって出航した船、操舵室中央に運転する航海士の姿。

 その後ろでは船長が両手両足を縛られ、必死に航海士に訴えている。


「カルロ様、万歳……」

「目を覚ませっ、今すぐ港に引き返せ!」


 航海士は明らかにおかしな状況にも、カルロを称えながら虚な目で船を運転し続ける。

 船長の声は届いていない。


 操舵室には大人しく座るレイルと、両手を後ろで縛られ、口は布で塞がれ座る羽澄の姿があった。


「黙っていろ、あんまり騒ぐと、乗客の安全は保証されないぞ」


 カルロはそう言いながら船長を睨むと、彼は口を閉ざし忌々しく航海士を睨む。


(なんとか、逃げたい……けど)


 やはり問題なのはレイルが洗脳されていること。

 羽澄は逃げることも話すことも諦めている、逆に今偽物だと知られるわけにはいかない。


(と言うか、三十年前に消えた王女……私そんな歳に見えるのかな)


 こんな時にそんなことを思うのは、多少余裕が出て来たからかもしれない。

 気持ちを切り替え改めて思う。


(必ず、二人で、聖骨院に……)


 そう願い目を瞑ると、瞼の裏にコルヴァンの優しい笑顔が見えた気がした。



 王家私用の高速船、コルヴァンはアルバス・ミロル・レンカクと、護衛のテリクスとシュバが乗り込み出発した。

 風の魔法を使い早く走るよう作られているが、さすがに羽澄たちが乗っているであろう船には追いつかなさそうだった。


「まもなくファルケ国に到着する……ミロルさん、一人で行動はしないように」

「わかっています……羽澄ちゃんを助けても、私自身も無事じゃないと……家族が悲しみますから」


 アルバスの言葉に答えるミロルの表情は、顔色が戻りまっすぐ前を向いている。

 羽澄・ミロル・翔……お互いを思いやる素敵な家族。


(本当に心から繋がっている、理想の家族だ……)


「必ず、みんなで聖骨院に帰りましょう」


 コルヴァンも決心を新たに、ミロルに声をかけた。

 ミロルは優しく微笑みながら――羽澄を産んだ日のことを思い出した。



――私、必ずこの子を守り抜く。


 立ち会った翔に誓った言葉を思い出す。



(もしもの時は……私が羽澄ちゃんの代わりに……)


 本物の王女……ローラとして、そして母として、ミロルは覚悟を決めていた。



 コルヴァンたちは、無事ファルケ国に到着する。

 ミロルは男性用僧侶服で変装し、アルバス以外フードを被り、船を降りた。

 船着場にリューゲル国を出発した船が停まっていた。


「テリクス、シュバ、お前たちはこの船の調査をしろ……洗脳されていたものもいるだろう」

「わかりました」


 テリクスと別れ、入国審査へと向かう……が。


「リューゲル国の王子がくるとは聞いていません、貴方たち偽物でしょう!」


 入国審査官の女性により止められ、眉を顰めるコルヴァン。

 しかしアルバスは冷静にレンカクに視線を送ると、彼は即座に魂視魔法を使う。

 状態異常や洗脳、嘘の有無がわかるこの魔法は、一人を指定して見ることも可能だ。


「……洗脳されております」

「そうか……」


 アルバスは呟くと人差し指を光らせて、その光を入国審査官に見せる。

 魔法による状態異常を解除できる生命共振魔法の、効果と範囲を絞った新たな使い方だ。


――パアァ


「……あ、あれ?」


 入国審査官が不思議そうな声を上げる、そんな彼女にアルバスはにこりと微笑み。


「リューゲル国の第二王子、アルバスと言います、お話は通っていますか?」


 そう尋ねると、入国審査官は頬を赤らめて。


「はっ、はい! どうぞ、お通りくださいっ」

「ありがとう。可愛い子に意地悪されると、どきどきしちゃうから、もう通せんぼは止めてね」

「はい、もうしわけ、ございません」


[可愛い子]やキザな言い回しに、彼女はうっとりとアルバスを見つめている。


「それじゃあ、急いでいるから……またね」

「はいっ、また!」


 ひらひらと女性に手を振るアルバスを、コルヴァンは首根っこ捕まえて引きずっていく。


「アルバス様って、目を離すとすぐ女性を口説くんですね……うちの従業員の子たちに、近寄らないよう注意しておきます」

「いくら王子だからといって、いつか女性にさされそうで怖いですよ、俺は」


 ミロルとコルヴァンの呆れた声に、ついつい出てしまった自分の悪い癖にアルバス自身も苦笑してしまった。


「悪い……ここからが本番だったな」


 そう呟き別人のように真剣な表情になるアルバス。


 その後連絡棟に移動し、現在の状況を確認することにした。

 レンカクが事務員の男性を確認したが、洗脳されている様子はなかった。


「ああ、男性と大人の女性一人と若い女性が一人……男性は警備服ではなく、良質なコートを着ていました」

「……やはり服を変えたか」

「大人の女性はフードをかぶっており、あまり顔は見えず、若い女性は平民の服を着ていましたね」


 アルバスが分析をしている中、事務員は話を続ける。


「国の御触れが出てから、偽物のローラ様が多くて、港で一次チェックをしているんです」

「一次チェック?」


 アルバスの質問に事務員が取り出したのは、楕円形のくぼみがある石が、中央にはめ込まれている印字機。


「はい……この魔道具には王家の血筋に反応するよう作られています。

 フードをかぶった女性の指を、石のくぼみに押し当ててもらい、王家の血が入っているか確認しました」

「……その、女性は……」

「王家の血が薄かったため、ローラ王女ではないものの、手がかりとしてお城へ迎えることとなりました」

「なるほど……」


(少しまずいかもな……)


 ローラ王女じゃないことがばれた、が、重要参考人として城へ招かれたようだった。


(少し大きな話になりそうだ……ここは国王に連絡しないと)


 アルバスがそう思った瞬間。


「貴方たちは、このまま城へ来ていただきます」


 突然入ってきた騎士たちに取り囲まれ、どうやら事務員は時間稼ぎのために説明していたらしい。


「わざわざ王子がいらっしゃるとは……」


 そう言いながら近づいてきたのは、騎士礼装をまとった男性。

 同時に囲んだ騎士たちがアルバスに武器を構える。


「私は、当国第一王女殿下の王配にして、近衛総監を務めております、セレーヌ・ガシラにございます。

 お目にかかれて光栄に存じます、アルバス殿下。」


 名乗ったのはファルケ国王の妹婿、ガシラ……つまりミロルの義兄に当たる。

 トキアスより年上に見えるが、近衛総監という名に恥じないがっしりとした体格をしていた。


「そういう割には、まるで我々が罪人と言わんばかりに囲んで……どういうつもりだ」

「無礼を申し訳ございません……しかし、我が国も必死なのです」


 近づく足を止め、何かを探すようにアルバスご一行を一人一人見る。


「全員フードを外されよ、身分の証明のため協力をお願いしたい」


 指示を受け、全員ゆっくりフードを外す。

 ミロルの鼓動が早くなるものの、務めて冷静にフードをとった。

 

「たかが罪人を追って王子、しかも王位継承者が、わざわざ追って来ますか?

 ……もしかして、本物のローラ王女を、ご存じなのでは?」


初登場

ファルケ国王妹配偶者:セレーヌ・ガシラ


登場人物

第二王子:ヴァルディア・アルバス

神選会の教祖:チャルボ・レンカク

剣士:サーン・テリクス

魔法剣士:カグー・シュバ

姉回復魔法:レイル


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